平和外交研究所

中国

2015.01.20

習近平総書記の独裁体制を認めた政治局常務委員会議

1月16日、中国共産党中央政治局常務委員会議が開催された。中国のトップ7が集まる会議であり、今回はとくに重要な決定が行われた。注目されるのは以下の4点であると多維新聞(米国に本拠がある中国語新。中国内政にはよく通じている)は解説している。

○今次会議は従来の政治局常務委員会議の方式を打破した。全国人民代表大会(注 日本の国会に当たる)、国務院(注 政府)、全国政治協商会議(注 共産党以外の党派、団体、各界を糾合する組織。「統一戦線」組織とも言われる)、最高法院および最高検察院の党組織は共産党中央の象徴である習近平に対して報告を行なった。これは、「集団指導体制」より個人に権力が集中していることを意味しており、習近平を最高権力者とする新しい集団体制である。
○今次会議は「集中統一指導」の考えを打ち出した。これは根本的な政治規範である。従来は鄧小平の指導下の「民主集中制」が根本的な指導原理・指導制度であった。民主集中制の下では権力のチェック・アンド・バランスが図られており、独裁者は出現しにくい。「集中統一制」の下では「民主集中制」を基礎として集中統一指導が行われる。
○今次会議では、軍事委員会から報告が行われなかったが、そうなったのは習近平がすでに中央軍事委員会のトップになっているからである。習近平は民主集中制の下で各領域に分散されていた権力を統一する。
○中共は全国人民代表大会、国務院、全国政治協商会議、最高法院、最高検察院を指導し、これら5つの組織は中共中央の指導を受ける。李国強ら5つの組織の責任者は習近平主席とは同僚でなく、上下関係になる。

中国共産党は従来から実質的には一党独裁であり、すべてを指導してきた。しかし、そのナンバーワンであってもなんでも思いのままになったわけではなく、一定程度は抑制する力が働いていた。中国共産党の歴史上もっとも独裁的な権力を握っていたのは毛沢東であるが、それでも権力を失いかけたことがあった。最高決定機関である政治局常務委員会議は合議制であり、総書記といえども反対意見が多ければ自分の考えを押し通すことはできなかった。もちろんそうならないよう、会議の前に根回しが行われるが、そのようなことが必要なのは合議制だからであった。要するに、総書記は「同輩の中の首席」的な性格が強かったのである。革命戦争の経験を持たない江沢民や胡錦濤はまさにそのような存在であった。
習近平も当然この2人のような総書記になるはずであるが、今次会議は習近平主席と他の政治局常務委員は「上下関係にある」としたので、今後は習近平の鶴の一声で物事を決めることが可能になる。習近平主席は就任以来2年余りの間に、権力を自らに集中させてきたが、今次会議ではそれが制度的に裏付けられたのであり、その独裁体制は一歩も二歩も進んだとみられる。
2015.01.11

やはり体制維持が心配か

昨年も何回か取り上げたが、中国にあって日本にないことの一つが、現体制を維持できるかという心配である。日本に何ら心配の種がないというのでは決してなく、将来の日本は今より状況が悪くなるのではないか、国の借金は返せなくなるのではないか、というような心配はあるが、日本の民主的な政治体制がなくなることを心配している人は、いてもまれであろう。しかし、中国では現体制が将来も続いていくか、国家の指導者も国民も心配している。国民の中には続かないことを期待している人もあるようである。
ともかく、中国ではこのような問題に関係する議論が時折表に出てきた。今年も間違いなく何回か出てくるであろう。その第1号というわけでもないが、今年初めて気づいた心配論を紹介しておく。中国軍の機関紙『解放軍報』の新年の辞である。

新年の辞は、軍に課せられた任務・責任は重く、思想工作をよく行いながら国防を強化し、 軍隊を改革しなければならないと、もっともではあるがありきたりのことから始めて、次のように述べている。
「我が国を取り巻く情勢は総じて穏やか(穏定)であるが、危険も積み重なり(風険呈累積態勢)、安全を左右する変数は増えている。いくつかの(一些)西側の国は我が国に対して「花革命」の策動を強めており(注 アラブの春として知られている民主化を求める革命を中国ではそのように呼んでいる。「顔色革命」あるいは「ジャスミン革命」とも言う)、インターネット上で「文化冷戦」と「政治変革の基因(政治転基因)」のプロセス(工程)を強化し、わが軍の兵士を腑抜けの人間にしようとしており(抜根去魂)、軍隊を党の指導の旗印の下から引きずり出そうとしている。意識形態(注 イデオロギーのこと)と政治的安全の領域に対する挑戦はかなり厳しい(注 要するにイデオロギーと政治が激しく攻撃されていると言っているのである)。全軍の兵士は危険意識、使命感をしっかりと高め、党中央、中央軍事委員会及び習近平主席の言うことによく従い、新しい世代の革命軍人としての歴史的使命を勇敢に担っていかなければならない。」

これは人民解放軍兵士に対する呼びかけであり、鼓舞するために大げさに誇張した表現が随所に使われているのはこの種の文章として何ら不思議でない。新年の辞を語る方も、それを聞く兵士の側もこのような議論は誇張だと知りながら語り、また、聞いている。しかし、このような議論は、中国では荒唐無稽でなく、一定程度現実味がある。まったく荒唐無稽であればどれほど叱咤激励しても逆効果になるだけである。つまり、西側諸国が中国に対して危険なことを試みているというのは、半ば本当に思っていることなのである。そのように考えるのは、現体制がいつまで続くか、心配しているからではないか。

なお蛇足になるが、この機会に中国軍兵士の紀律維持について一言言っておきたい。中国軍は外国に知られていないせいか、兵士は強者ぞろいで戦闘精神は旺盛だという印象が強いが、人民解放軍の中には演習の際にイヤホンで音楽を聴いている若い兵士がいるそうである。また、2012年、中国の誇る空母「遼寧」が就航した際に作られた内部規則には艦内で男女の兵士が同室することを厳しく制限する一文が入っていた。軍当局は、米国の空母にならって規則を作ったと説明したが、この一文は必要ないのにただお手本の米艦の規則にあったからそのまま残したのか。私はそう思わない。必要があったからであろう。
中国の兵士が演習中にDVDで西側の音楽を聞くようになったのは、外国が中国の兵士を腑抜けにしようと工作した結果でないことは明らかである。解放軍報がどのような主張を展開しようと、中国軍内でも兵士の紀律をいかに維持するか、必ずしも簡単でないようだ。
2015.01.08

青天白日旗の掲揚

台湾の在米国代表処(台北経済文化代表処)が元旦に、台湾の所有する雙橡園(Twin Oaks)で36年ぶりに青天白日旗(「中華民国」の国旗)を掲揚したため、米中間でちょっとした問題となった。
雙橡園(Twin Oaks)は、米国が中華民国と外交関係を維持していた時代の中華民国大使の公邸である。もちろんワシントン特別区内にある。
1979年1月に米国は中華人民共和国と国交を樹立することとなり、そのことを察知した中華民国大使館は、米国の親台湾議員の協力を得て、雙橡園(Twin Oaks)はじめ大使館事務所、武官駐在所など中華民国所有の財産をいったん民間に売却して中華人民共和国政府に強制的に引き渡されるのを防ぎ、その後台湾があらためて買い戻して米国の遺跡として国務省に登録した経緯がある。現在は台北経済文化代表処が台湾の国慶節祝賀会などに利用している。ちなみに、日本にあった「中華民国」の大使館などはすべて中華人民共和国に引き渡された。
元旦の祝賀会で台湾の沈呂巡代表は「中華民国は主権国家であり、外交官として何事をするにも米国にお伺いを立てるということはできない。米台関係は健康な、バランスの取れた関係である。今回の旗の掲揚は内部のことであり、米国政府には事前通報しなかった」などと発言したと台湾の新聞で報道されている。台湾の記者が青天白日旗の掲揚のことを総統府(台湾の内閣、つまり総統)は知っていたかと尋ねたのに対し、沈呂巡代表は「総統府と私の考えはちょっと違っている(隔了一個層級)」と答えたそうだ。
しかし、米中国交樹立に伴い、米国は中華人民共和国政府を承認し、またその旗、いわゆる五星紅旗を認め、青天白日旗は認めないこととした。その立場は今も変わっていない。雙橡園で元旦に青天白日旗を掲揚するのは政治問題になりうる。はたせるかな、中国は米国に対し抗議した。米国政府もこの旗の掲揚は認めないとし、国務省のサキ報道官は「米国政府は事前に知らされていなかった。このような儀式は米国の政策と一致しないし、その儀式に米国政府からは誰も出席していない」と説明した。
それで一件落着となりそうなものであるが、沈呂巡代表はその後も「米国の声明をよく読んでほしい。台湾を批判してはいない」などと強弁している。米国に派遣される台湾の代表はもっとも成功した外交官であるはずだが、それにしては、沈呂巡代表の言動は不可解なくらい思い込みが激しく、また米中台間の微妙な関係に対する配慮を欠くものである。
米台関係は民進党政権時代に落ち込み、馬英九総統になってから関係が改善され、台北経済文化代表処は活動を活発化させてきた。2011年にやはり雙橡園で双十節(台湾の国慶節)レセプションを再開したのは一つのステップであった。今回の青天白日旗掲揚については、総統府は違った考えであったが、沈呂巡代表はその延長線で見ており、大丈夫だと踏んでいたのかもしれない。しかし、それは明らかに判断ミスであったと思われる。

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