平和外交研究所

中国

2015.04.15

(短文)アジアインフラ投資銀行(AIIB)「海上のシルクロード」との関係など

○大公報(4月13日付)はシンガポールの中国語紙『聯合早報』を引用して、習近平主席がボアオ・アジアフォーラムで、「中国と周辺の国家が運命共同体の意識を樹立することが重要であると強調した」「一帯一路(海上シルクロード)戦略はそのための重要なブースターとなる」と述べたことを報道している。
 AIIBと「一帯一路」「海上のシルクロード」との関係は重要な問題である。当HPでは4月6,10日に指摘している。

○オバマ大統領はジェイコブ・ルー財務長官を2週間以内に再び中国へ派遣することにした(『多維新聞』4月13日付)。同長官は3月末に訪中しており、このように短期間のうちに再度訪問するのはきわめて異例である。これもAIIBとの関連があるのではないか注意しておく必要がある。

○台湾はAIIBの創設準備に加わる申請を3月31日に行なった。それ以来、台湾の資格と呼称について中国側と交渉が続けられていたところ、4月13日、中国の台湾事務弁公室は、台湾は創設準備メンバーになれないと発表した。
 これに対し、馬英九政権は申請を撤回すると応じ、体面を保とうとしているが、台湾では議論が起こっている。同政権に批判的な立場からは、呼称が問題になることは初めからわかっていたことであり、それを軽視して申請をした馬英九は自ら問題を招いたと言われている。
 中国側の立場については、王毅外相が3月末のボアオ・アジアフォーラムで「国際慣例に従う」と説明した経緯がある。そうすると、アジア開発銀行での取り扱いが参考例となり、台湾は「Taipei, China」、中国語では「中国台北」と表示されることになる恐れがある。
 この呼称は、1986年に中国が同銀行に加盟して以来使われているものである(それまで台湾は「中華民国」の名称であった)が、台湾としては、これは中国の主張そのものであり、再度使うことは何としてでも避けたいという考えが強く、「中華台北」とする線で交渉していたと思われる。しかし中国としては、すでに前例があるのにそれより後退することはできないと考え、今回の発表になったのであろう。

2015.04.14

(短文)中ロ武器取引

 中国はロシアから2つのハイテク兵器を購入する交渉を行なっている。中国が獲得すればその航空戦闘・防御能力は一段と向上し、尖閣諸島に対する潜在的脅威は増大すると言われている。
 1つは、「スホイ35(Su-35)」戦闘機である。2012年から交渉しているが、価格が折り合わずまだ結論が出ていない。中国が、以前導入したスホイ27をコピーしたことがあったので交渉が複雑化しているとも言われている。
 もう1つは、S-400地対空ミサイルで、性能は米軍のパトリオットに匹敵するので各国から購入希望が寄せられているが、これまでどこへも輸出されていなかった。中国との交渉も難航していたが、最近プーチンの指示があって進み始め、中国がS-400を獲得する可能性が大きくなったと米国に本部がある『多維新聞』が報道している(4月13日付)。
2015.04.10

日本が「アジアインフラ投資銀行」参加に慎重であるべき理由

4月8日、THEPAGEに掲載された(4月6日当HPにアップしたものの改訂版)

「現在、中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立する方向に向かって、巨大な流れが起きています。日本と米国は流れの外にいますが、かなりの数の国はその中に巻き込まれており、メディアや評論家(国内と外国を含む)の多くもそのような流れを肯定的に見る見解を発表しています。しかし、以下に述べる理由により、この流れは混乱を惹起する危険があると考えます。

中国政府は、AIIBを国際開発金融機関(multilateral development bank=MDB)だと説明しています。AIIBのオームページ(以下単にHP)も同じ説明です。世界銀行、IMF、アジア開発銀行などと同種類の銀行とみなしているのですが、国際機関として見た場合次のような問題があります。
AIIBの資本金は、目標1000億米ドル、最初は500億ドルから出発すると、2014年10月24日、北京で署名された覚書に明記されています(同日の新華社電。しかし、その覚書は公表されていません)が、問題は、各国の出資比率がどうなるかです。各国は出資比率に応じて投票権が与えられるので、出資比率は国際開発銀行における各国の発言権の重さを決める根本問題です。AIIBの場合、HPに記載はありませんが、中国は半分を出資すると表明したと報道されています。これは異常に高い比率であり、中国がAIIBを思い通りに操作可能な比率です。ちなみに、世界銀行の場合、米国は15.85%、日本は次いで6.84%、以下、中国の4.42%となっています。

中国系新聞には、米国はAIIBの1番か2番目の出資国になることを中国に内々打診したが、中国は拒否したと報道しているものがあります。真偽のほどは定かでありませんが、将来かりに米国や日本が参加する場合に必ず出てくる問題であり、中国が出資比率50%にこだわれば、両国が参加することはありえないと思います。それを受け入れれば、出資比率が低い、したがって発言力の弱い日本や米国は中国の言いなりにならざるをえなくなるからです。

さらに、AIIBの本部をどこに置き、ナンバーワン、いわゆる総裁を誰が務めるかも極めて重要なことであり、本部についてはすでに北京に置くことが決定されています(HP)。
総裁についてはまだ決定はなさそうですが、中国は自国人を総裁にすることに固執するだろうという報道はあり、現に中国では総裁候補の名がすでに上がっています。この報道は間違っていないと思います。

このように重要な問題についての現状を見ていくと、一部は推測が混じっていますが、AIIBは国際機関と言えません。国際機関は平等な立場に立つ諸国が協力して設立運営するものであり、1か国が出資比率を50%持ち、その国に本部があり、その国の人が総裁を務めるというのでは国際協力とは到底言えません。

中国がAIIBを国際機関という形式に仕立て上げたのは次のようなプロセスを通じてでした。すなわち、中国は、2013年10月に習近平主席と李克強首相が東南アジアを訪問した際にAIIB創設構想を打ち出して以来一直線に設立準備を進め、1年後の2014年10月24日、北京で創設に関する覚書署名式を行ない、11月27~28日には中国の昆明で、2015年1月15~16日にはインドのムンバイで、3月31日には、カザフスタンのアルマティで準備会議を行ないました。今後、5月の最終協議を経て6月までに関係の協定に合意し、2015年末までにAIIBを正式に発足させるというスケジュールになっています(HP)。

北京で署名された覚書は中国の他20カ国が参加したという意味では国際的でした。そして創設準備のための会議を重ねることにより、中国はAIIBが国際機関であるという体裁を作り上げることに成功しました。しかし、国際機関とは言えないことは前述したとおりです。

では、AIIBの実態をどう見るべきか。中国が圧倒的な出資比率を持ち、本部は中国に置き、中国人が総裁となるAIIBは、実質的には中国の国内銀行に限りなく近いと思います。中国がそのような機関を持ちたいのはよく分かりますし、そのこと自体何ら批難されることでありません。たとえば日本で企業が設立される場合に、設立者がその企業の支配権を確保するために50%の株式を確保し、残りを他に開放することがあります。その範囲内であれば、数十の外国企業が資本参加してもかまいません。AIIBについて起こっていることはこれと同じことだと思います。

各国はどのように考えてAIIB創設準備に協力しているのでしょうか。推測にすぎませんが、いくつかの可能性が考えられます。

1つ目は、中国の国内銀行でも国際機関でも、どちらでもよい、中国が圧倒的な影響力を持ってもかまわないという考えです。

2つ目は、資本金の総額と本部を北京に置くことだけは合意したが、それ以外のことについてはまだ合意していない、今後協議して決定することであるとみなして参加した可能性です。しかし、形式的にはその通りですが、設立準備がほぼ完全に中国のペースで進められていることにかんがみれば、今後の協議においてこれらの国の懸念を払しょくできるか、中国が資本比率は50%、総裁も中国人とすることを正式に提案した場合に拒否できるかはなはだ疑問です。

3つ目は、AIIBが満足できるものとならなければ設立には参加しないという選択肢を残しつつ創設準備に参加した可能性です。

英独仏伊などの欧州諸国で創設準備に参加した国は1か3のケースだと思われます。とくに経済規模の小さい国にとっては、中国の銀行であろうと国際機関であろうと結局大差ないという考えもありえます(1のケース)が、常識的には、中国だけが圧倒的な影響力を持つ機関に出資してまで参加するということに、平等を重視する欧州諸国が甘んじることはないのではないかと思われます。

さらに、かりにAIIBが発足した場合、融資の政策がどうなるかについても注意が必要です。中国がAIIB設立に熱心なのは、「海上のシルクロード」とも、あるいは「一帯一路」とも呼ばれる戦略、したがってまた、中国の海洋大国化戦略を達成したいからでしょう。AIIBの融資ポリシーはこの戦略的考慮によって影響される恐れがあります。 
このことを断定するのは早すぎるとしても、「海上のシルクロード」や「一帯一路」構想は中国が公然と進めていることであり、各国は、すくなくともそのようなこととの関連の有無を明確にすべきです。そのため、今起こっている流れがどのような方向に行くか、見極めてから参加の有無を判断すべきです。中国の海洋大国化戦略の影響をもろに受ける日本として、その確認をしないでAIIBに参加することは、日本の国益に反することになる恐れがあります。

以上のような考えから、AIIBの流れに乗ることに慎重な姿勢を堅持している日米両政府に賛意を表します。今後、日米両国は、できれば共同で、AIIBの創設準備の現状についての見解を公に表明し、建設的な方向に導いていくのが望ましいのではないかと思います。中国と対立する必要はありません。国際機関でなく中国の銀行であることを前提にした上で、協力の可能性を検討する姿勢を示すことが望まれます。」

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