オピニオン
2017.03.06
3月6日、北朝鮮は4発のミサイルを日本海方向へ発射し、一部は日本の秋田沖の排他的経済水域内に落下した。今年に入ってから2月12日に続く第2回目のミサイル発射実験である。昨年は15回ミサイル実験を行ったはずだ。今年はもうこれでおしまいにしてほしいが、はたしてそうなるか、自信を持って言えることは何もないが、最近の北朝鮮の動向には硬軟両様の傾向があるように思われる。
2回のミサイル実験はもちろん「強」である。
金正男の殺害をどう扱うか。すこし問題がある。マレーシア政府は、殺害された人物は金正男だと発表している。旅券は別人の名前になっているし、親族とのDNA鑑定は行われていないが、金正男の指紋は入手できるだろうし、また、被害者の体にあった刺青も判定の根拠となった可能性がある。
一方、北朝鮮は3月1日に朝鮮中央通信を通じて、「米国と韓国は、キム・チョル(金哲)という北朝鮮国民がマレーシアで死亡した事件を利用して北朝鮮を悪者に仕立て、体制を転覆しようと企んでいる」などと批判した。
それから1週間もたたない2月18日、中国は北朝鮮からの石炭輸入を停止すると発表した。これに怒った北朝鮮は23日、やはり朝鮮中央通信を通じて、名指しはしなかったが、明確に中国とわかる形で、「卑しい方法で、対外貿易を完全に遮断するという非人道的な措置をためらいなく講じている」と批判した。
以上は「硬」のほうだが、「軟」としては、金正恩党委員長の「新年の辞」があった。金正恩は、まず、「歴史に類を見ない幾多の試練を笑顔で乗り越えてきたすべての朝鮮人民に最も厳かな心を込めて熱い挨拶を送るとともに、希望に満ちた新年の栄光と祝福を送る」と述べ、頭を下げた。さらに最後の部分では「いつも気持ちばかりが先走って能力が及ばないもどかしさと自責の念の中で昨年1年を送ったが、今年はますます奮起して身も心も捧げて人民のためにより多くの仕事をするつもりだ」と述べた。「能力が及ばない」「もどかしさと自責」などという自己批判の言葉やテレビ映像の中で人民に頭を下げるのは前代未聞であった。この新年の辞は主として国内向けだが、外国にも報道されることは承知の上だったはずである
また、北朝鮮は上記の中国批判後の3月1日に、外務省の李吉成次官を北京に派遣し、王毅中国外相と会談させた。この会談内容として報道されたことは、両者とも中朝関係の緊密さを述べたという模範発言だけであり、前記の朝鮮中央通信による中国批判とはまったくトーンが違っていた。李吉成次官が北京へ行ったのは中国に対し石炭輸入の停止を解除してもらうことが目的だと考えれば、王毅外相との間で友好的な雰囲気で会談したのは当然だが、では、わずか10日前になぜ激烈に中国批判をしたのか疑問がわいてくる。
このように趣が非常に違う二つの傾向がみられるのはこちらに伝わっていないことがあるためかもしれないが、昨年まではそのようなことは見かけなかったように記憶している。いずれにしても今後さらに観察していく必要がある。
(短評)北朝鮮のミサイル発射実験-二つの傾向?
3月6日、北朝鮮は4発のミサイルを日本海方向へ発射し、一部は日本の秋田沖の排他的経済水域内に落下した。今年に入ってから2月12日に続く第2回目のミサイル発射実験である。昨年は15回ミサイル実験を行ったはずだ。今年はもうこれでおしまいにしてほしいが、はたしてそうなるか、自信を持って言えることは何もないが、最近の北朝鮮の動向には硬軟両様の傾向があるように思われる。
2回のミサイル実験はもちろん「強」である。
金正男の殺害をどう扱うか。すこし問題がある。マレーシア政府は、殺害された人物は金正男だと発表している。旅券は別人の名前になっているし、親族とのDNA鑑定は行われていないが、金正男の指紋は入手できるだろうし、また、被害者の体にあった刺青も判定の根拠となった可能性がある。
一方、北朝鮮は3月1日に朝鮮中央通信を通じて、「米国と韓国は、キム・チョル(金哲)という北朝鮮国民がマレーシアで死亡した事件を利用して北朝鮮を悪者に仕立て、体制を転覆しようと企んでいる」などと批判した。
それから1週間もたたない2月18日、中国は北朝鮮からの石炭輸入を停止すると発表した。これに怒った北朝鮮は23日、やはり朝鮮中央通信を通じて、名指しはしなかったが、明確に中国とわかる形で、「卑しい方法で、対外貿易を完全に遮断するという非人道的な措置をためらいなく講じている」と批判した。
以上は「硬」のほうだが、「軟」としては、金正恩党委員長の「新年の辞」があった。金正恩は、まず、「歴史に類を見ない幾多の試練を笑顔で乗り越えてきたすべての朝鮮人民に最も厳かな心を込めて熱い挨拶を送るとともに、希望に満ちた新年の栄光と祝福を送る」と述べ、頭を下げた。さらに最後の部分では「いつも気持ちばかりが先走って能力が及ばないもどかしさと自責の念の中で昨年1年を送ったが、今年はますます奮起して身も心も捧げて人民のためにより多くの仕事をするつもりだ」と述べた。「能力が及ばない」「もどかしさと自責」などという自己批判の言葉やテレビ映像の中で人民に頭を下げるのは前代未聞であった。この新年の辞は主として国内向けだが、外国にも報道されることは承知の上だったはずである
また、北朝鮮は上記の中国批判後の3月1日に、外務省の李吉成次官を北京に派遣し、王毅中国外相と会談させた。この会談内容として報道されたことは、両者とも中朝関係の緊密さを述べたという模範発言だけであり、前記の朝鮮中央通信による中国批判とはまったくトーンが違っていた。李吉成次官が北京へ行ったのは中国に対し石炭輸入の停止を解除してもらうことが目的だと考えれば、王毅外相との間で友好的な雰囲気で会談したのは当然だが、では、わずか10日前になぜ激烈に中国批判をしたのか疑問がわいてくる。
このように趣が非常に違う二つの傾向がみられるのはこちらに伝わっていないことがあるためかもしれないが、昨年まではそのようなことは見かけなかったように記憶している。いずれにしても今後さらに観察していく必要がある。
2017.03.01
特別検察官による捜査は大統領弾劾とならんで朴槿恵政権追及の主要手段であり、残る憲法裁判所による弾劾の是非についての判断は3月中にも下されると言われている。
特別検察官の捜査結果は当然重大であるとみなすのが本来のあり方だろうが、それには躊躇を覚える。朴槿恵大統領はチェ・スンシル被告に演説などについて相談したことは認めつつも、人事に関与させたことも、賄賂を受け取ったことも否認し続けているからだ。つまり、朴槿恵大統領に関しては特別検察官と大統領府の主張は真っ向から食い違ったままなのだ。
そして、特別検察官の判断が国民の声によって影響されていないかという問題もある。検察官が、事実関係はともかく、厳しい態度を示しておいた方が有利だと考えた可能性があると思う。
いずれにしても、憲法裁判所による弾劾の是非についての判断が待たれる。そこで弾劾が認められれば、朴槿恵氏は失職し、新大統領を選ぶ手続きが始まる。
黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行は、特別検察官の発表の翌日、恒例の「3・1節」演説を行った。1919年3月1日、日本の統治下で起きた三・一独立運動の記念日の式典でのことだ。
その中で黄教安氏は、日韓関係について「未来志向的な正しい歴史認識に基づき、断固対応していく」「(日韓)二つの国は互いに信頼し、発展していく」「日本とは経済、文化、人的な交流を拡大していく」などと強調した。これは日本の立場から見ても積極的に評価できる内容である。
また、慰安婦問題については、「2015年末の日韓合意の趣旨と精神を心から尊重し、実践しなければならない」とし強調した。
慰安婦問題については先に、外相が同趣旨のことを指摘しており、現政権が困難な状況にありながらも慰安婦問題で両国関係を現在以上悪化させてはならないという気持ちであることが表れている。
三・一節における韓国首脳の発言はその時の対日観を反映して波があり、朴槿恵大統領自身も就任直後は厳しい口調であったが、その後は比較的穏健になっていた。黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行の今次演説は歴代の大統領演説と比べて対日関係への配慮が濃厚に表れており、日本側もこれを積極的に受け止めるべきである。一時帰国させている長嶺大使らは早く帰任させた方がよい。
なお、黄教安氏は大統領候補として支持者が増えており、野党のムン・ジェイン氏にはまだ及ばないが、両者の差は接近しているという世論調査があるそうだ。
(短評)朴槿恵大統領の弾劾など
韓国の大統領府をめぐる汚職などを捜査していた特別検察官は2月28日、任務を終了するに際し、疑惑の中心人物であったチェ・スンシル被告やサムソン電子のイ・ジェヨン副会長(実質的にはナンバーワン)を起訴するとともに、朴槿恵大統領も共謀関係にあったと認定し、収賄罪で立件すると発表した。朴槿恵氏は現在職務を停止されているが大統領の地位にあるので起訴されず、職を離れた時点で起訴されることになるそうだ。特別検察官による捜査は大統領弾劾とならんで朴槿恵政権追及の主要手段であり、残る憲法裁判所による弾劾の是非についての判断は3月中にも下されると言われている。
特別検察官の捜査結果は当然重大であるとみなすのが本来のあり方だろうが、それには躊躇を覚える。朴槿恵大統領はチェ・スンシル被告に演説などについて相談したことは認めつつも、人事に関与させたことも、賄賂を受け取ったことも否認し続けているからだ。つまり、朴槿恵大統領に関しては特別検察官と大統領府の主張は真っ向から食い違ったままなのだ。
そして、特別検察官の判断が国民の声によって影響されていないかという問題もある。検察官が、事実関係はともかく、厳しい態度を示しておいた方が有利だと考えた可能性があると思う。
いずれにしても、憲法裁判所による弾劾の是非についての判断が待たれる。そこで弾劾が認められれば、朴槿恵氏は失職し、新大統領を選ぶ手続きが始まる。
黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行は、特別検察官の発表の翌日、恒例の「3・1節」演説を行った。1919年3月1日、日本の統治下で起きた三・一独立運動の記念日の式典でのことだ。
その中で黄教安氏は、日韓関係について「未来志向的な正しい歴史認識に基づき、断固対応していく」「(日韓)二つの国は互いに信頼し、発展していく」「日本とは経済、文化、人的な交流を拡大していく」などと強調した。これは日本の立場から見ても積極的に評価できる内容である。
また、慰安婦問題については、「2015年末の日韓合意の趣旨と精神を心から尊重し、実践しなければならない」とし強調した。
慰安婦問題については先に、外相が同趣旨のことを指摘しており、現政権が困難な状況にありながらも慰安婦問題で両国関係を現在以上悪化させてはならないという気持ちであることが表れている。
三・一節における韓国首脳の発言はその時の対日観を反映して波があり、朴槿恵大統領自身も就任直後は厳しい口調であったが、その後は比較的穏健になっていた。黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行の今次演説は歴代の大統領演説と比べて対日関係への配慮が濃厚に表れており、日本側もこれを積極的に受け止めるべきである。一時帰国させている長嶺大使らは早く帰任させた方がよい。
なお、黄教安氏は大統領候補として支持者が増えており、野党のムン・ジェイン氏にはまだ及ばないが、両者の差は接近しているという世論調査があるそうだ。
2017.02.27
北朝鮮は23日、朝鮮中央通信論評という形で激しく反発した。中国の名指しはせず、「『親善的な隣国』だと言っている周辺国」としたものの、内容的には明確な、しかも強い感情がほとばしり出た中国非難であった。
同論評は、「朝鮮(北朝鮮)が12日に成功させた「北極星2号」型地対地中距離弾道ミサイルについて、国際社会は朝鮮の核打撃能力が高度に達していることを認識したのに、その国は「初級段階の核技術に過ぎない、今回の実験でもっとも損をするのは挑戦だ」などと言った」とも批判した(読みやすくするため直訳しなかった部分がある)。つまり、先日行ったミサイルの発射実験について国際社会は技術力の高さを認めたのに、中国だけは「初級段階だ」とけなしたと言っているのである。この「初級段階云々」のコメントは具体的に中国のだれが言ったのか不明だ。
また、同論評は、「何かというとすぐに国連の制裁決議は民生活動には影響を与えないと言うが、実際には敵対勢力と結託して朝鮮を打倒しようとしている。対外貿易を完全に遮断するという非人道的な措置をためらいなく講じた」と非難した。経済制裁によって北朝鮮が深刻な影響を受けることを、事実上にせよ、初めて認めたケースだと思われる。
中国が石炭輸入を停止したのは、北朝鮮が2月12日にミサイルの発射実験を行ったことが直接的なきっかけである。
その翌日に起こった金正男の暗殺は関係しているか。今まで何回ミサイル実験が行われても中国がこれほどまでに厳しい措置をとることはなかったので、今回はさらなる事情が加わったと見るべきであろう。金正男はマカオを中心に生活しており、中国との関係が深かったのは事実だ。しかし、今回の事件については、明確でないこと、確認できないことがあまりにも多すぎるので、現段階では何とも言えない。
それより気になるのは、中国は米新政権から北朝鮮への働きかけを強化するよう強い要請を受けていたことである。北朝鮮は今回の論評の表題で中国のことを「卑しい」と非難しているのだが、中国は北朝鮮に厳しい態度を取ることにより米国の歓心を買おうとした、つまり北朝鮮を米国に売り渡そうとしたと見ている可能性がある。
一方、ミサイルの発射実験以降の北朝鮮の状況をどう見るべきか。北朝鮮のイメージがますます悪化したことは否めないが、イメージ悪化の原因となったことを金正恩委員長がすべて直接指示したかは不明だ。次のような状況があるからだ。
第1に、金正男を殺害することが北朝鮮にとってどれほどの意味があったのか。同氏は権力の中枢からすでに離れており、金正恩の地位を脅かす存在ではなかったはずだ。事件発生後に、亡命政権を樹立しようとする人たちにかつがれる可能性があったという説が出ているが、それを裏付ける根拠はあまりにも乏しい。
第2に、久しく待望してきた米国との対話の開始に向けて予備的な接触が始まっていた(始まろうとしていた?)。そのようなときに国際社会から強く非難される人道問題を起こすかという疑問がある。
北朝鮮は閉鎖的で、状況は不透明だ。乏しい材料を膨らまし、推測に推測を重ねるようなことは差し控えるべきであるが、このようにちぐはぐな状況は金正恩委員長が国政のすべてを牛耳っているのではない可能性を示唆しているのかもしれない。
中国の仕打ちに怒りをあらわにした北朝鮮
中国は2月18日、本年度の北朝鮮産石炭輸入を暫定的に停止すると発表した。石炭は北朝鮮にとっては貴重な外貨収入源であり、この輸出ができなくなると経済全体に影響が及ぶ。北朝鮮は23日、朝鮮中央通信論評という形で激しく反発した。中国の名指しはせず、「『親善的な隣国』だと言っている周辺国」としたものの、内容的には明確な、しかも強い感情がほとばしり出た中国非難であった。
同論評は、「朝鮮(北朝鮮)が12日に成功させた「北極星2号」型地対地中距離弾道ミサイルについて、国際社会は朝鮮の核打撃能力が高度に達していることを認識したのに、その国は「初級段階の核技術に過ぎない、今回の実験でもっとも損をするのは挑戦だ」などと言った」とも批判した(読みやすくするため直訳しなかった部分がある)。つまり、先日行ったミサイルの発射実験について国際社会は技術力の高さを認めたのに、中国だけは「初級段階だ」とけなしたと言っているのである。この「初級段階云々」のコメントは具体的に中国のだれが言ったのか不明だ。
また、同論評は、「何かというとすぐに国連の制裁決議は民生活動には影響を与えないと言うが、実際には敵対勢力と結託して朝鮮を打倒しようとしている。対外貿易を完全に遮断するという非人道的な措置をためらいなく講じた」と非難した。経済制裁によって北朝鮮が深刻な影響を受けることを、事実上にせよ、初めて認めたケースだと思われる。
中国が石炭輸入を停止したのは、北朝鮮が2月12日にミサイルの発射実験を行ったことが直接的なきっかけである。
その翌日に起こった金正男の暗殺は関係しているか。今まで何回ミサイル実験が行われても中国がこれほどまでに厳しい措置をとることはなかったので、今回はさらなる事情が加わったと見るべきであろう。金正男はマカオを中心に生活しており、中国との関係が深かったのは事実だ。しかし、今回の事件については、明確でないこと、確認できないことがあまりにも多すぎるので、現段階では何とも言えない。
それより気になるのは、中国は米新政権から北朝鮮への働きかけを強化するよう強い要請を受けていたことである。北朝鮮は今回の論評の表題で中国のことを「卑しい」と非難しているのだが、中国は北朝鮮に厳しい態度を取ることにより米国の歓心を買おうとした、つまり北朝鮮を米国に売り渡そうとしたと見ている可能性がある。
一方、ミサイルの発射実験以降の北朝鮮の状況をどう見るべきか。北朝鮮のイメージがますます悪化したことは否めないが、イメージ悪化の原因となったことを金正恩委員長がすべて直接指示したかは不明だ。次のような状況があるからだ。
第1に、金正男を殺害することが北朝鮮にとってどれほどの意味があったのか。同氏は権力の中枢からすでに離れており、金正恩の地位を脅かす存在ではなかったはずだ。事件発生後に、亡命政権を樹立しようとする人たちにかつがれる可能性があったという説が出ているが、それを裏付ける根拠はあまりにも乏しい。
第2に、久しく待望してきた米国との対話の開始に向けて予備的な接触が始まっていた(始まろうとしていた?)。そのようなときに国際社会から強く非難される人道問題を起こすかという疑問がある。
北朝鮮は閉鎖的で、状況は不透明だ。乏しい材料を膨らまし、推測に推測を重ねるようなことは差し控えるべきであるが、このようにちぐはぐな状況は金正恩委員長が国政のすべてを牛耳っているのではない可能性を示唆しているのかもしれない。
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