朝鮮半島
2021.06.04
北朝鮮労働党は最近規約を改訂した。
北朝鮮は韓国統一の戦略目標を事実上放棄した。改訂前の規約には「われらの民族は自主、和平、統一、民族大団結原則の下に協力して祖国統一を行う」とあったが、改訂規約は「我々民族」の表現を削除し、「祖国統一」に代えて「祖国の平和的統一を早く実現する」とした。
もう一つの重要な改訂は、労働党に「第一書記」を新設したことである。その職務は「労働党総書記(注 金正恩)の代理人」とした。当面はこの地位は空席となろうが、「第一書記」は総書記の包括的継承者となる可能性がある。白頭山の血統を引くものでなければならないだろうから、任命されるのは金正恩総書記の妹の金与正になる可能性がある。
注
さる1月に開催された朝鮮労働党大会において、金正恩委員長が総書記となった。北朝鮮の最高幹部人事はこの大会で決定され、今回明らかになった労働党規約の改訂はその決定に基づくものであったとみられる。
注目されていた金与正党第一副部長は、労働党大会で党政治局の候補委員から外れ、党部長の名簿にも名前がなくなった。しかし、これは降格でなく、引き続き、金正恩総書記の特別の側近として補佐し続けたのであろう。
金与正が実質的に北朝鮮のナンバー2であることは2020年から目立ってきていた。今回の党規約改定で「第一書記」を正式に設置したのは、万一の場合には金与正を金正恩の後継者とする布石だと思われる。
北朝鮮労働党の規約改訂
米系の『多維新聞』は6月3日、韓国聯合通信社の記事によりつつ以下の諸点を報道している。北朝鮮労働党は最近規約を改訂した。
北朝鮮は韓国統一の戦略目標を事実上放棄した。改訂前の規約には「われらの民族は自主、和平、統一、民族大団結原則の下に協力して祖国統一を行う」とあったが、改訂規約は「我々民族」の表現を削除し、「祖国統一」に代えて「祖国の平和的統一を早く実現する」とした。
もう一つの重要な改訂は、労働党に「第一書記」を新設したことである。その職務は「労働党総書記(注 金正恩)の代理人」とした。当面はこの地位は空席となろうが、「第一書記」は総書記の包括的継承者となる可能性がある。白頭山の血統を引くものでなければならないだろうから、任命されるのは金正恩総書記の妹の金与正になる可能性がある。
注
さる1月に開催された朝鮮労働党大会において、金正恩委員長が総書記となった。北朝鮮の最高幹部人事はこの大会で決定され、今回明らかになった労働党規約の改訂はその決定に基づくものであったとみられる。
注目されていた金与正党第一副部長は、労働党大会で党政治局の候補委員から外れ、党部長の名簿にも名前がなくなった。しかし、これは降格でなく、引き続き、金正恩総書記の特別の側近として補佐し続けたのであろう。
金与正が実質的に北朝鮮のナンバー2であることは2020年から目立ってきていた。今回の党規約改定で「第一書記」を正式に設置したのは、万一の場合には金与正を金正恩の後継者とする布石だと思われる。
2021.05.25
バイデン政権の北朝鮮政策は見直しが終わったばかりであり、その内容を知りたいところであるが、今次会談後も具体的に示されなかった。4月に見直し結果が発表された際、「トランプ政権の『グランドバーゲン(一括取引)』もオバマ政権の『戦略的忍耐』のアプローチもとらない」と説明されたが、それ以上のことは不明確なままである。失礼ながら、バイデン政権の考えは一種の「中間的政策」に過ぎないようだ。
バイデン大統領は記者会見でソン・キム国務次官補代行の北朝鮮担当特使への任命を発表した。ソン・キム氏はよく知られている朝鮮通であり、韓国の大統領も同席している場で新任の発表が行われたことはソン・キム氏にとって晴れがましいことであっただろう。しかし、バイデン政権の新しい北朝鮮政策について具体的に公表されたことはソン・キム氏の任命だけだというのは言い過ぎであろうか。
一方、韓国側は今次首脳会談で一定の成果を上げたと言えよう。特に印象的だったのは2018年4月の文・金両首脳による板門店宣言を、同年6月にシンガポールで米朝首脳が出した共同声明と、形式的には同等の扱いをし、今後両声明を基礎として北朝鮮と対話していくという方針が明記されたことである。韓国大統領府関係者が「韓国側の強い要望が反映された」と話している通りの面があるのであろう。
しかし、今後文大統領がバイデン大統領との協力関係を背景に働きかけても、金正恩総書記が誘いに応じることはまず考えられない。金氏にとって最大の問題は米国に対する不信である。この不信感は米国の責めに帰せられることでなく、むしろ北朝鮮側の発言と行動にそもそもの原因があるのだろうが、その点はともかく、金総書記が米国を信用していないことは事実であり、その問題をいかに打開していくかが今後の米朝関係を進めるうえでカギとなる。
また金総書記は文大統領に対する信頼も失っており、韓国ができることはないと見限っている。北朝鮮が最も重視する制裁措置の緩和について、文大統領が意味のある提案ができれば別であろうが、その可能性は限りなく低い。バイデン大統領との今次会談でその件について話し合ったかもしれないが、表に出せることは皆無であった。今後、文大統領が金総書記に働きかけても、制裁はどうするのだと問われれば、返答に窮するのではないか。
北朝鮮と米国との非核化交渉が膠着状態に陥ったのは、トランプ政権がいわゆる「段階的非核化」を認めなかったからであるが、金総書記としては、第2回目のハノイ会談に臨むにあたって北朝鮮の交渉チームからも、また韓国側からも米国の意図についてミスリードされたと考えている可能性が高い。今後の北朝鮮の非核化交渉の成否は、米朝間で信頼関係を構築できるかということと、バイデン政権が段階的非核化について北朝鮮と妥協できる方策を見つけ出せるかということにかかっている。
バイデン大統領は、中国との関係においては目覚ましい姿勢をみせている。またパレスチナ問題でも鮮やかな外交ぶりである。これにくらべ北朝鮮との関係では、トランプ政権が実現した核と長距離ミサイルの実験停止とシンガポール合意から後退しないことがボトムラインとなっていくのではないか。
米韓首脳会談と非核化
バイデン米大統領は文在寅韓国大統領と5月21日、ホワイトハウスで会談した。会談の主要テーマは北朝鮮問題だったと言われているが、メディアなどでは、バイデン・文両大統領の北朝鮮についての考えはかなりずれている、とのコメントが多かった。バイデン政権の北朝鮮政策は見直しが終わったばかりであり、その内容を知りたいところであるが、今次会談後も具体的に示されなかった。4月に見直し結果が発表された際、「トランプ政権の『グランドバーゲン(一括取引)』もオバマ政権の『戦略的忍耐』のアプローチもとらない」と説明されたが、それ以上のことは不明確なままである。失礼ながら、バイデン政権の考えは一種の「中間的政策」に過ぎないようだ。
バイデン大統領は記者会見でソン・キム国務次官補代行の北朝鮮担当特使への任命を発表した。ソン・キム氏はよく知られている朝鮮通であり、韓国の大統領も同席している場で新任の発表が行われたことはソン・キム氏にとって晴れがましいことであっただろう。しかし、バイデン政権の新しい北朝鮮政策について具体的に公表されたことはソン・キム氏の任命だけだというのは言い過ぎであろうか。
一方、韓国側は今次首脳会談で一定の成果を上げたと言えよう。特に印象的だったのは2018年4月の文・金両首脳による板門店宣言を、同年6月にシンガポールで米朝首脳が出した共同声明と、形式的には同等の扱いをし、今後両声明を基礎として北朝鮮と対話していくという方針が明記されたことである。韓国大統領府関係者が「韓国側の強い要望が反映された」と話している通りの面があるのであろう。
しかし、今後文大統領がバイデン大統領との協力関係を背景に働きかけても、金正恩総書記が誘いに応じることはまず考えられない。金氏にとって最大の問題は米国に対する不信である。この不信感は米国の責めに帰せられることでなく、むしろ北朝鮮側の発言と行動にそもそもの原因があるのだろうが、その点はともかく、金総書記が米国を信用していないことは事実であり、その問題をいかに打開していくかが今後の米朝関係を進めるうえでカギとなる。
また金総書記は文大統領に対する信頼も失っており、韓国ができることはないと見限っている。北朝鮮が最も重視する制裁措置の緩和について、文大統領が意味のある提案ができれば別であろうが、その可能性は限りなく低い。バイデン大統領との今次会談でその件について話し合ったかもしれないが、表に出せることは皆無であった。今後、文大統領が金総書記に働きかけても、制裁はどうするのだと問われれば、返答に窮するのではないか。
北朝鮮と米国との非核化交渉が膠着状態に陥ったのは、トランプ政権がいわゆる「段階的非核化」を認めなかったからであるが、金総書記としては、第2回目のハノイ会談に臨むにあたって北朝鮮の交渉チームからも、また韓国側からも米国の意図についてミスリードされたと考えている可能性が高い。今後の北朝鮮の非核化交渉の成否は、米朝間で信頼関係を構築できるかということと、バイデン政権が段階的非核化について北朝鮮と妥協できる方策を見つけ出せるかということにかかっている。
バイデン大統領は、中国との関係においては目覚ましい姿勢をみせている。またパレスチナ問題でも鮮やかな外交ぶりである。これにくらべ北朝鮮との関係では、トランプ政権が実現した核と長距離ミサイルの実験停止とシンガポール合意から後退しないことがボトムラインとなっていくのではないか。
2021.05.02
バイデン大統領は、中国については日本政府がアップアップするほど力強く対決姿勢を打ち出したが、これに比べ北朝鮮に対する政策の見直しがローキーになることは事前に予想された。バイデン氏にはトランプ氏のような金正恩総書記に対する個人的興味はない。バイデン氏にとって北朝鮮は中国のような危険な相手ではない。北朝鮮にはバイデン氏が重視する人権問題があるが、基本的には北朝鮮国内にとどまっており、またウイグルのようにイスラムを介した外の世界とのつながりはないので、実情を把握しにくく、追及困難だからである。
バイデン政権は北朝鮮との関係改善をあきらめたわけではなく、今後も進めようとするだろうが、その手法は常識的、官僚的であろう。そうであれば、北朝鮮に対する制裁が解除あるいは緩和される可能性はそれだけ低くなる。
一方、北朝鮮はバイデン政権の政策見直しの結果を注視してきたが、膠着状態はすぐには打開されないとなると、不満を募らせ、以前の核とミサイルによる挑発的姿勢に戻る危険性がある。これはバイデン政権にとっても看過できない問題になるので、今後の対北朝鮮政策においては、そのような状況にまで北朝鮮を追い込まないことが重要な目標となるだろうが、それだけでは北朝鮮と米国の関係も、東アジアの安全保障環境も大して変わらない。米朝交渉はかつての6者協議のようになって、会議は重ねるが進まないという結果になりかねない。
米国のこのような対北朝鮮政策で一番困るのは、韓国の文在寅大統領であろう。文氏は今でも北との関係改善に熱意を抱き続けているようだが、客観情勢は韓国が一定に役割を果たした2018年とすでに大きく違っている。金総書記は、文大統領に米朝関係改善に関して役割を与えることに極めて消極的になっている。
また東京オリンピックを、平昌オリンピックのように南北関係と米朝関係を進めるきっかけにすることは、今やだれが考えても無理である。文大統領の支持率低下の傾向に米朝関係が歯止めになることは考えられない状況になっているのである。
日本にとってバイデン政権の「中間政策」はとくに都合が悪いわけでない。バイデン氏は、日本や韓国との協働を重視する考えであり、すでに実行し始めている。また拉致問題の解決にも協力を惜しまない姿勢である。
しかし、そういうことだけで満足すべきでない。北朝鮮を含む東アジアの安全保障環境を改善する努力は常に求められており、北朝鮮が以前の挑発的な姿勢に戻ることは日本としても避けなければならない。日本は、米国が「中間政策」を実行していくのに積極的に協力すべきであり、連絡事務所の設置なども検討対象になるのではないか。
バイデン政権の新北朝鮮政策
バイデン政権が進めてきた対北朝鮮政策の見直しが完了した。これを発表したサキ米大統領報道官は、「バイデン政権の政策はトランプ政権のような『グランドバーゲン』を重視したり、オバマ政権のような『戦略的忍耐』に頼ったりすることはない」と説明したので「中間政策」と呼べるかもしれない。だが、内容については新味はない印象である。バイデン大統領は、中国については日本政府がアップアップするほど力強く対決姿勢を打ち出したが、これに比べ北朝鮮に対する政策の見直しがローキーになることは事前に予想された。バイデン氏にはトランプ氏のような金正恩総書記に対する個人的興味はない。バイデン氏にとって北朝鮮は中国のような危険な相手ではない。北朝鮮にはバイデン氏が重視する人権問題があるが、基本的には北朝鮮国内にとどまっており、またウイグルのようにイスラムを介した外の世界とのつながりはないので、実情を把握しにくく、追及困難だからである。
バイデン政権は北朝鮮との関係改善をあきらめたわけではなく、今後も進めようとするだろうが、その手法は常識的、官僚的であろう。そうであれば、北朝鮮に対する制裁が解除あるいは緩和される可能性はそれだけ低くなる。
一方、北朝鮮はバイデン政権の政策見直しの結果を注視してきたが、膠着状態はすぐには打開されないとなると、不満を募らせ、以前の核とミサイルによる挑発的姿勢に戻る危険性がある。これはバイデン政権にとっても看過できない問題になるので、今後の対北朝鮮政策においては、そのような状況にまで北朝鮮を追い込まないことが重要な目標となるだろうが、それだけでは北朝鮮と米国の関係も、東アジアの安全保障環境も大して変わらない。米朝交渉はかつての6者協議のようになって、会議は重ねるが進まないという結果になりかねない。
米国のこのような対北朝鮮政策で一番困るのは、韓国の文在寅大統領であろう。文氏は今でも北との関係改善に熱意を抱き続けているようだが、客観情勢は韓国が一定に役割を果たした2018年とすでに大きく違っている。金総書記は、文大統領に米朝関係改善に関して役割を与えることに極めて消極的になっている。
また東京オリンピックを、平昌オリンピックのように南北関係と米朝関係を進めるきっかけにすることは、今やだれが考えても無理である。文大統領の支持率低下の傾向に米朝関係が歯止めになることは考えられない状況になっているのである。
日本にとってバイデン政権の「中間政策」はとくに都合が悪いわけでない。バイデン氏は、日本や韓国との協働を重視する考えであり、すでに実行し始めている。また拉致問題の解決にも協力を惜しまない姿勢である。
しかし、そういうことだけで満足すべきでない。北朝鮮を含む東アジアの安全保障環境を改善する努力は常に求められており、北朝鮮が以前の挑発的な姿勢に戻ることは日本としても避けなければならない。日本は、米国が「中間政策」を実行していくのに積極的に協力すべきであり、連絡事務所の設置なども検討対象になるのではないか。
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