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2016.11.23

(短評)韓国の政情についての疑問

 韓国は多数の国民が朴槿恵大統領の退陣を求めるという危機的状況にあるが、同大統領がはたして退陣するか。いくつか疑問点がある。

 第1に、朴槿恵大統領は検察の聴取に応じると明言していたが、検察当局が11月20日、チェ・スンシル氏と2人の前大統領秘書官の起訴を発表した際、朴大統領について一定程度共謀関係にあったと説明したことに反発して、今後は検察当局に協力しないと大統領の弁護士が表明した。
 最大の疑問は、検察がなぜ、朴槿恵大統領から直接話も聞かないで共謀関係を認定したかだ。大統領側が引き延ばしたと検察側はみなした可能性はある。引き延ばしたのが事実か、それとも理由があったか、それは我々にはわからない。しかし、引き延ばしたとしても数カ月も待たせたのではなく、せいぜい数日、あるいは1~2週間のことでないか。それなのに、検察がそのような発表をすることが許されるか。日本ではちょっと考えられないことだ。
 携帯電話に残された通信などから検察は判断したそうだが、それにしても大統領の話を聞かないで共謀したと公表するのは解せない。

 第2に、特別検察官の任命の手続きが進んでおり、これには朴大統領は協力するとあらためて表明している。特別検察官は野党が選んだ2人の候補から1人を大統領が任命する。野党の意見が色濃く反映されるのは当然だが、それでも大統領側は協力するとしているのだ。この特別検察官の調査を待たなければ、大統領の関与は明確にならないのではないか。
 特別検察官による取り調べは、大統領側の延命策だと見る見方もあるようだ。そうかもしれないが、野党がそれに応じたことを見ると、そうでないかもしれないと思う。 
 また、野党は一部の与党議員とともに弾劾手続きを進めることにしたが、野党が認める特別検察官による調査が始まってもいないのに、どうして弾劾できるのかも腑に落ちない。
 チェ・スンシルらの公判は近日中に始まるそうだ。公判では、関係の諸事実が明らかにされるだろう。そのなかで朴大統領の関与の可能性も審理されるだろう。それも待たないで、退陣だ、弾劾だ、ということには強い違和感を覚える。

 第3に、国政の混乱を朴大統領も国民もどのように考えているのか。国民は朴大統領が退陣しないと韓国の政治はよくならないとみなしているのだろうが、朴大統領はどのように考えているのか。退陣しないことにかんがみれば、退陣するとかえって混乱が増す、あるいは新たな混乱が生じることを恐れているとも考えられる。
 もっとも、大統領も国民も混乱は避けたいと言うだろうからこの3つ目の疑問は事の性質上なかなかはっきりしないかもしれない。それにしても、退陣するのとしないのではどちらが混乱が大きくなるかは、韓国の情勢に関心を持つ誰もが考える必要がある。
2016.11.14

(短評)朴槿恵大統領に対する退陣要求

 11月12日、ソウル市で朴槿恵大統領の退陣を要求する大規模なデモが起こった。主催者側は100万人が参加したと言い、警察側の発表は26万人だったが、その後ソウル市は126万人と発表した。警察とソウル市の発表数字が大きく異なるのは不可解だが、それはさておくこととしよう。
 朴槿恵大統領の犯した過ちは何か。朴大統領は10月25日発表した談話で、友人のチェ・ソンシル氏を信頼して公務についてもアドバイスを受けたことを認め、「就任後、一定期間、一部の資料について意見を聞いたことはあるが、青瓦台及び補佐体系が完備されてからはやめた」と語った。
 韓国で問題になっているのはこれだけでない。「チェ・ソンシル氏は秘書官を大統領府に送り込み、彼らはほかの人が朴大統領に接近するのを困難にした。機密の文書がチェ・ソンシル氏に渡された。文化とスポーツに関する財団を作り、それに企業が拠出するよう圧力をかけた。チェ氏の娘の大学入学や馬術競技のためにサムスン電子にカネを出すよう働きかけた。「コリア体操」が採用されることに決まっていたのを「ヌルプム体操」に変更させた。朴大統領は人形のように操られている」などとも報道されている。文書のコピーや朴大統領が体操をしている映像もついている。セウォル号が沈没した際に大統領の所在が数時間不明であったことなどもあらためて蒸し返されている。
 しかし、朴大統領がこれらについて実際指示、要請あるいは圧力をかけたかどうかは明確でない。他の人が言っていることは、朴大統領に関する限り「疑惑」に過ぎないようだ。
 今回のデモは2008年の牛肉輸入の再開に対する抗議デモと比較されるが、その時、デモの対象は「牛肉の輸入再開」というのは明確な事実であった。しかし、今回、デモの対象である朴大統領の責任は明確になっていない。よく調査した結果、退陣を迫られるほどのことでないということになるかもしれない。
つまり、大統領の責任がはっきりしないのに最大126万ともいわれる数の人が、デモに参加していることに違和感を覚えるのだ。
 実際にデモに参加している人たちが言っていることを聞くと、経済状況、財閥の支配、教育などへの不満が混じっている一方、朴槿恵大統領の犯した過ちについての指摘はあまりにも抽象的だと思う。
野党もこぞって朴槿恵大統領の退陣を要求しているが、政治的な駆け引きの感じがある。

 韓国は日本にとって重要な国だ。だから本当の姿を知りたい。今回の朴大統領の退陣要求について、根拠があるか、ないか。韓国の特徴が出ていないか。あれこれ考えたのもそのためだ。
 朴大統領自身はどのように受け止め、また、どのように乗り切ろうとしているのか。朴大統領は事件が明るみに出て以来、韓国民が知りたいと思うことにすべて答えているわけではないが、過ちを起こしたことは率直に認め、検察の調査にも応じると言った。対応は速く、丁寧であった。低姿勢の印象もあった。
 朴大統領は首相の人事についても野党の要求に応じる姿勢であり、与野党が一致する人物であれば受け入れる、権限も広く認めると言っている。これに対し野党は、大統領から移譲される権限の範囲が明確でないという理由で首を縦に振っていないが、全体的に朴大統領はかなり譲歩しているのではないか。
 大統領自身は退陣するのか、これだけ国民の支持を失えば政権の維持は困難だとする声もよく聞くが、はたしてそうか。大統領の責任が明確になっていない以上辞職しないで何らかの妥協策を見出すべく頑張るのが筋だと思うが、いずれにしても今回の事件が終息するにはまだ時間が必要なようだ。

2016.11.02

(短文)韓国警備艇と中国漁船の衝突

 10月7日、仁川市の西方の海上で、中国漁船が取り締まりに当たっていた韓国の高速警備艇に体当たりして沈没させる事件が発生した。警備艇に乗っていた隊員は救助された。
 11月1日、やはり仁川沖で、違法操業を取り締まっていた韓国の警備艇5隻が中国漁船に対し機関銃で600~700発銃撃した。警備艇の規模は3千~1千トンであった。韓国側の発表では、違法操業の中国船2隻を拿捕するため警備員が中国船に乗船していたところ、周辺にいた30隻の中国漁船が威嚇してきたので警備員の安全のために警告射撃を行った由。

注 この海域では時折、類似の事件が起こっている。北朝鮮と中国の船が衝突したこともあった。

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