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2017.04.05

米国の北朝鮮政策

 4月5日、北朝鮮は「弾道ミサイル」の発射実験を行った。あいかわらずの示威行動であり、それに対する各国の反応は、これまた相変わらずの過剰反応だ。北朝鮮は6~7日の米中首脳会談で北朝鮮問題が取り上げられることを不快視しているのだろう。
 米新政権の北朝鮮政策について、「ザ・ページ」に以下の一文を寄稿した。

「核や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進める北朝鮮は最近もミサイルの発射実験や新しい大型エンジンの噴射実験など挑発的な行動を続けています。
 一方、米国のトランプ新政権は北朝鮮に対する政策を見直しています。ティラーソン国務長官は3月16日、東京で岸田外相と会談した後の記者会見でそのことに言及し、また、「北朝鮮に対して非核化を求めた過去20年間の政策は失敗だった」とも言いました。
 北朝鮮が核開発に進む恐れが出てきたのは、1993年に核兵器不拡散条約(NPT)から脱退すると宣言してからです。これに対し米国は日本や韓国などとともに朝鮮半島エネルギー開発機構 (KEDO)を設立して北朝鮮の核開発を放棄させようと試みました。
 2003年からは北朝鮮、韓国、中国、ロシア、米国および日本による6者協議を行いました。しかし、北朝鮮は開発を継続し、2006年に初の核実験を行い、2016年には水爆実験もしました。たしかに北朝鮮に非核化を求める努力は失敗続きでした。
 
 では、米国は今後、北朝鮮に対してどのような新政策を打ち出せるでしょうか。
 一つの選択肢は、中国がその影響力を強化して北朝鮮の核開発を止めさせる方法です。中国は北朝鮮のエネルギー需要の約半分を供給しているとも言われており、本当にそうであれば、中国の影響力は絶大のはずです。
 しかし、中国が供給しているのは主として石油であり、北朝鮮の石油需要は多くありません。石炭に依存する度合いが高いからであり、約8割だとも言われています。石炭は北朝鮮国内で豊富に生産されており、石油とは逆に中国へ輸出もしています。
また、これまでの経緯を見ても、米国は中国に対して北朝鮮への働きかける強くするよう何回も求めました。しかし、今日に至るまで北朝鮮の核・ミサイルの開発を止めさせることはできませんでした。
 したがって、中国に北朝鮮への働きかけを強めるよう求める方法が有効か、疑問と言わざるをえないのですが、ティラーソン国務長官は米上院における就任前の審査で、中国が北朝鮮に対する働きかけを強くすることが重要であると述べており、また、岸田外相との会談後の記者会見でも「中国の役割が極めて重要だ」と発言しています。これではブッシュ・オバマ時代と基本的には同じ考えであり、トランプ政権としても新味を出せないでしょう。
 しかし、米中首脳会談を前に、英紙FTとのインタビューでトランプ氏は「中国が北朝鮮問題を解決しようとしなければ、米国が解決する」と語ったとされます。トランプ政権の考えはまだ固まっていないのでしょう。

 第2の選択肢は、物騒なことですが、北朝鮮に対する武力攻撃により核やミサイルの開発を止めさせることです。実は、このような方策は94年に検討されたことがあり、クリントン大統領はペリー国防長官から「朝鮮半島で戦争が勃発すれば、最初の90日間で米軍兵士の死傷者は5万2千人に上る」という見通しを聞き、軍事力を行使することは採用されなかったと言われています(ドン・オーバードーファー(菱木一美訳)『二つのコリア 国際政治の中の朝鮮半島』)。

 現在でも武力攻撃、核の先制攻撃は選択肢になりうるか、トランプ政権は検討対象としている可能性がありますが、はたして現実的か疑問です。核兵器を使って大規模に攻撃すれば米国兵の犠牲を少なくできるでしょうが、北朝鮮の民間人の犠牲は膨大な数に上ります。また、韓国も戦争状態になり、甚大な被害が発生します。そうなれば、米国は国際的にも米国内でも強い批判にさらされるでしょう。それを考えると武力攻撃は選択肢になりえないと思います。

 第3に、平和的に解決する選択肢として、米国が北朝鮮と話し合い、交渉して核開発を中止させる方法がありえます。交渉のポイントは、「米国は北朝鮮の存在を認める。北朝鮮は核開発を中止し、既存の核兵器をすべて放棄する」であり、これが北朝鮮問題の本質です。
 この交渉は米国しかできません。なぜなら、北朝鮮の存在を脅かす可能性があるのは米国だけであり、また、中国が米国に代わって北朝鮮の承認することなどありえないからです。中国自身による北朝鮮の承認は数十年も前に実現しています。
 もちろん、米朝間の交渉は困難なものであり、成功する保証はありません。しかし、北朝鮮の非核化は承認と引き換えでないかぎり実現しないと思います。残された唯一の方法を試みることもしないであきらめるべきでありません。

 トランプ氏は大統領になる前、北朝鮮と対話してもよいという、興味ある発言を複数回しました。しかし、北朝鮮のイメージは以前にもまして悪化しており、米国として対話に踏み切りにくくなっているかもしれません。
 しかし、危険はますます増大しており一刻の猶予もありません。米国は迂遠な方法に頼るのでなく、みずから北朝鮮の核・ミサイル問題の解決を急ぐべきだと思います。
米朝間の話し合いにより朝鮮半島の非核化が実現することは日本にとっても極めて重要な意義があり、日本政府も話し合いを後押しすべきです。米朝関係の進展は我が国の拉致問題の解決にも資すると思います。
2017.03.31

朴槿恵前大統領の逮捕

 朴槿恵前大統領がついに逮捕された。裁判所が検察当局による逮捕請求を認めた結果だ。朴槿恵氏が実際どのような罪を犯したのか。韓国での裁判はこれからであり、事実関係はまだ確定していない。ましてや日本にいる我々が知っていることは限られているので、逮捕について安易に論評すべきでない。
 しかし、韓国は日本の重要な隣国であり、3週間前まで韓国の大統領であった人が逮捕され、収監されたことは日本にとっても重大な出来事であり、注目するのは当然だろう。
 
 日本から見ると、韓国は同じ民主主義の法治国家であるが、日本の常識で理解できる面とできない面が両方あるように思えてならない。
 韓国にも憲法以下の法律があり、それによって国民の権利が守られ、また義務が定められている。また、法の実現のために裁判制度が設けられている。朴槿恵氏についていえば、韓国国会における弾劾も、検察当局による取調べも、また憲法裁判所による弾劾の是非についての判断も、そして逮捕の是非についての裁判所の判断もすべて法の定める手続きにしたがって行われた。これは我々としても容易に理解できることである。
 しかし、これらの決定や判断の理由と根拠については理解困難な面がある。朴槿恵氏はチェ・スンシル被告に演説などについて相談したことは認めつつも、人事に関与させたことも、賄賂を受け取ったことも否認し続けてきた。このような姿勢は一貫しており、現在も変わっていない。だから、朴槿恵氏が重大な過ちを犯したとは思えず、収監するのは理解に苦しむ。
 裁判所や検察当局の説明には、朴槿恵氏が捜査に協力しないという指摘もあるが、それが3週間前まで大統領であった人を収監する理由になるとは思えない。
 さらに付言すると、検察当局などの説明には、チェ・スンシル氏やサムソン電子の実質上のトップの訴追と「バランスをとるために」ということが混じっている。これも理解に苦しむ。
 もっとも、以上は表面的なことに過ぎず、朴槿恵氏には本当に重大な犯罪事実があると言うなら話は違ってくる。我々としても理解可能となるだろう。
 細かいことにも触れてしまったが、要するに、韓国の裁判所や検察当局の判断は、報道されている限り、理由と根拠がとぼしく、世論に影響されているのではないかという疑念をぬぐえないのである。
 
 それは韓国の実情だと言われそうな気もする。そうかもしれないが、このような韓国論には一言付け加えたい。
 現在、日韓関係はとくに慰安婦少女像の問題などをめぐって非常に悪化している。そして、残念ながら、韓国人は日本に怒りを覚え、日本人はそれを不愉快に思うことが少なくないが、韓国人の怒りは日本にだけ向くのではなく、問題が違えば韓国人自身にも向くことがあるということだ。
 
2017.03.20

(短文)中国の戦略的行動は韓国にも向いている

 
 THAADの韓国配備をめぐって韓国と中国の関係が悪化している。その影響は中国から韓国への旅行にも表れ、中国の国家観光局(中国国家旅游局)は3月15日から韓国への団体観光旅行を全面的に停止してしまった。韓国の『ハンギョレ新聞』や『朝鮮日報』などが関連の報道を行っている。
 『ハンギョレ新聞』の取材に対し北京の各旅行社は、「国家観光局の指示により韓国行きのツアーをすべて停止した。もしどうしても行きたければ、自分で航空券やホテルの手配をするしかない。中国はどこでも同じ扱いになっている。韓国への旅行について旅行社に問い合わせがくれば、他の場所にしたほうがよいと勧めている。各旅行社では韓国関係の要員を日本や東南アジアへ向けている」と回答した由。
 韓国の済州島は中国人に人気がありこれまで年間3百万の旅行者が訪れていた。今年も韓国のある旅行社は、3月11日までは毎日90人受け入れていたが、12日以降ゼロになったと嘆いているそうだ。

 中国の国家観光局は、「部」(日本の省庁)でなく、一ランク下の国務院直属機関であり(税関、体育総局、統計局などと同列)、国務院の決定した方針を実施する機関であるが、観光市場を拡大させるための戦略計画の策定、各国の観光関連機関との協議、中国に設立する各国の観光事務所の審査と認可などを行う。また、海外に観光局の事務所を設置する。
 中国政府は中国人の出入国に対して強い影響力を持っており、それを背景に国家観光局の権限は日本の観光庁(国土交通省の外局)と比べはるかに大きいと見てよいだろう。

 中国は戦略的行動、すなわち、目標を立てその実現のために資源、手段を集中的に投入することが得意である。中国共産党は不利な条件の下で日本や国民党と戦うのにそうすることが必要だったのだ。
 目標が大きすぎると達成は困難になるが、明確に、しかも達成可能な目標であれば、成功する可能性が高くなる。トランプ大統領に「一つの中国」を認めさせたのは成功した例であった。
 韓国への旅行客を禁止ないし制限するのは何を目標としているのか。THAADの配備を止めさせようとしていることは容易にうかがわれるが、それは戦略的行動に適しているか疑問である。韓国としては米国との関係、さらには北朝鮮との関係から、中国が嫌がっても引き下がるわけにはいかないだろうからである。
 目標を達成できなければ中国のしたことはいやがらせに終わる危険が高い。いたずらに韓国民を刺激することにもなる。

 なお、中国は2014年、テロの脅威が理由で中国人がフィリピンへ渡航するのを自粛するよう勧告していた。実際には、アキノ前大統領の時代、フィリピンが南シナ海問題について国際仲裁裁判所へ提訴したことに反発し、フィリピンへ圧力を加えるためではないかと言われていた。
 しかるに、中国は2016年10月、ドゥテルテ大統領が訪中したのをきっかけに勧告を解除した。同大統領はアキノ前大統領と違って対中関係を重視する姿勢をとっている。中国はそのような姿勢を積極的に評価したのではないか。

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