平和外交研究所

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朝鮮半島

2017.01.04

(短評)金正恩委員長の新年の辞

 金正恩北朝鮮労働党委員長が1日に行った「新年の辞」で目立ったことが2つあった。

 1つは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射準備が最終段階に入ったと明かしたことだ。
 昨年、北朝鮮は核実験を2回、ミサイルは各種の実験を合計10回以上行い、そのため各国から非難され、国連では制裁決議を複数回受けた。
 金正恩委員長のICBM発射実験への言及に米国はとくに刺激されるだろう。トランプ氏は「北朝鮮にそのようなことはさせない」と得意のツイッターで述べたそうだ。

 もう1つの注目点は、金正恩委員長が祝辞を述べるに際し、テレビカメラの前で深々とお辞儀をし、また、「能力が追い付いていないという遺憾と自責の中で昨年一年を送ったが、今年はもっと奮発して全身全力を尽くし、人民のためにもっと多くのことを遂げるという決心をした」とし、「真の忠僕、忠実な手足になることを新年の朝に盟約する」と話したことだ。
 このように穏やかで、かつ国民思いの姿勢を示したことは初めてである。これについては、いままで恐怖の政治をしてきたが、国民の支持を失うと金正恩委員長の立場が危うくなるので下手に出たという見方もあるようだが、むしろ逆であり、自信の表れだと思う。

 あえて推測してみると、金正恩委員長は次のようなことを重視しているのではないか。
○核とミサイルの実験は、途中、部分的な失敗もあったが、全体としては成功であった。核と経済成長の2本柱路線は今後も維持するが、経済成長にとって障害となる制裁措置がさらに強化されないよう努める。
○韓国では朴槿恵大統領が国民の支持を失い、窮地に陥っている。朴槿恵大統領が辞任してもしなくても、韓国は北朝鮮に対して強硬姿勢をとらざるをえないだろう。自分(金正恩)が物分かりのよい、合理的な人物であることをアピールするよい機会だ(注 新年の辞で朴大統領に言及したのも初めてである)。
○米国との関係では、北朝鮮を敵視する政策を止めさせ、平和条約交渉を実現することが今後も目標である。トランプ氏は、北朝鮮との話し合いに応じる可能性がある。

 金正恩委員長が今年の「新年の辞」で見せた比較的穏やかな姿勢が今後長きにわたって維持される保証はない。方向転換することもありうるが、今後の北朝鮮をウォッチしていく上で一つのポイントになると思われる。
2016.12.20

(短評)朴槿恵大統領の答弁書

 韓国国会での朴槿恵大統領の弾劾決定を審理している憲法裁判所に大統領側から提出された答弁書が12月18日、公表された。チェ・スンシル被告などとの関連で責任を追及されている諸点に関し、訴追には根拠がなく、一連の疑惑はすべて事実でないと主張する内容だそうだ。

 大きく言って、一つの前置き、二つの感想がある。
 前置きしたいのは、答弁書が提出されたからと言ってその内容が正しいと思っているわけではないことである。誤りだと決めつけるのでもない。内容の正誤を判断するのはもちろん韓国の憲法裁判所だ。
 
 第一の感想は、これまで韓国で起こった反大統領デモや国会での弾劾などにおいては、推測や噂かもしれないことを理由に大統領の退陣が要求され、弾劾の決定まで行われた印象が強かったところ、答弁書はまさにそのことを問題とし、反論していることである。前置きで述べたように弾劾が正当か、答弁書が正しいか、今の時点でどちらかに軍配を上げるのではないが、両方の意見が正式に提示されたことに一種の満足感がある。これまでは沈黙を続ける大統領に対する一方的な攻撃の連続であった。

 第二に、日本の立場から見た感想だ。前任の李明博大統領、さらにその前の盧武鉉大統領は朴槿恵大統領の現在の状況と同じころ、つまり任期の終了を間近に控えて日本に対して非友好的な行動を取った。
 李明博氏は2012年の8月、韓国の大統領として初めて竹島へ上陸した。
 盧武鉉大統領はやはり2005年の5月、ドイツを訪問して日本の国連常任理事国入りに反対を表明し、さらに日本をナチスドイツと同様に批判しようと共同宣言を持ちかけ、逆にドイツ政府から猛批判・猛反発を受けた。
 これに比べ、朴槿恵大統領の対日姿勢は、就任当初は日本に厳しかったが、今は日本との協力を重視するようになっている。
 国家指導者の行動には複雑な理由があるので、結果だけを単純に比較すべきでないのはもちろんであり、朴槿恵大統領も欧州訪問に際して日本に対して厳しい発言をしたが、日本の利益の観点からすれば朴槿恵大統領は高く評価できる面がある。だから不名誉な辞任に追い込まれることなく任期を全うすることを望みたい。

 ここには言及しない重要な問題、たとえば朝鮮を植民地としたことについては日本として責任がある。またそのことには複雑な事情が絡んでいる。そういうことはわきに置いたうえでの感想だ。

2016.12.16

韓国の朴槿恵大統領が職務停止 慰安婦合意など日韓関係への影響は。

THE PAGEに寄稿した韓国情勢と慰安婦問題に関する一文です。

 「韓国の朴槿恵大統領は、12月9日、国会が弾劾訴追案を可決したため職務の執行を停止されました。朴大統領の友人が国政に不当に関与したことが明るみに出て以来、朴大統領自身の言動にも疑惑が生じ、韓国民がその退陣を要求するようになり、ついに国会が大統領の弾劾を決定したのです。
 今後、憲法裁判所が弾劾の適否を判断することになっており、その結果次第で朴大統領がその地位を失うか、それとも職務執行の停止が解け通常の状態に復帰するかが決まります。その時期は早ければ2月初め、遅ければ6月頃になると推測されます。その間、大統領の職務は黄教安首相が代行することになりますが、韓国の国政が影響を受けることは避けがたいでしょう。
 対外面でも懸念材料があります。韓国には日本や中国とともに東アジアの平和と安定に果たすべき重要な役割があり、朴大統領は北朝鮮の核実験などに厳しい姿勢で対処してきました。
 また、さる11月末に日本と秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)を締結しました。防衛情報を米を介さず日韓両国で共有するのが狙いであり、これにより北朝鮮の核やミサイル問題への対応能力が向上することが期待されます。GSOMIAは米国が防衛協力強化のため同盟関係にある各国と結んでいる取り決めです。しかし、韓国の野党は日韓のGSOMIAにも反対しており、韓国の政変はこの面でも悪影響を及ぼす恐れがあります。

 日本との二国間関係ではいわゆる「慰安婦」問題への影響が懸念されます。これは非常に複雑で、日韓両国にとって頭の痛い問題ですが、今からちょうど1年前の12月下旬に両政府は解決について合意しました。
 日本政府はあらためて「責任」を認め、安倍首相は「おわび」するとともに、元慰安婦の「心の傷の癒やすための事業」に10億円を拠出することになりました。そして、両国政府はこの合意により慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決される」ことを確認しあいました。
 在韓国日本大使館前の少女像については、韓国政府は,「適切に解決されるよう努力する」と表明しました。
 日本政府による10億円の拠出はさる8月に完了しています。韓国政府は元慰安婦に対して事業を受け入れるよう説得し、日韓合意の時点で生存していた元慰安婦46名(その後6人死亡)のうち29名が受け入れを表明しました。10月中旬、事業実施のための財団の理事会で報告されたことです。
 しかし、少女像の撤去については、韓国政府は関係者に説得を続けていますが、まだ実現していません。このため日本では不満の声が上がっていますが、この問題については韓国政府が努力を強化するよう粘り強く求めていくことが必要です。

 このような状況の中で今回の政変が起こったのです。野党は慰安婦問題に関する合意が成立した時から反対の姿勢を続けており、去る9月には朴大統領に面会して再交渉を要求しました。この合意は「屈辱的合意」だとも言っています。かりに、朴槿恵大統領に代わって野党から新大統領が選出されると、何らかの新しい取り決めを求めて再交渉を日本に提案してくる可能性があります。合意を一方的に破棄する可能性もないとは言い切れません。1965年に結ばれた日韓基本条約ですべての請求権について「完全かつ最終的に解決済み」とされたことについて、日本側は文字通りの解釈ですが、韓国側では慰安婦問題はこれには含まれないと主張している例があります。
 しかし、再交渉に日本政府が応じることはないでしょう。1年前の合意により慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決された」ことは両国政府が確認しあったことであり、しかも文書に明確に記載されています。国際法では政府間の合意には国家を拘束する力がないとされていますが、それは理論の問題です。両国政府が合意したことが、政権が代わったからと言って守られないと信頼は失われ、政治・経済・文化面にわたる密接な協力関係は甚大な影響を受けるでしょう。日本は新大統領に誰が選ばれようと、韓国に対しあくまで日本との合意を守ることを求めていくでしょう。当然のことです。
 ただし、「慰安婦問題」については国際的な同情があり、日本政府が開き直ったりするとその悪影響は計り知れないものがあり、それには注意が必要です。この問題についてはあくまで丁寧に、誠意を尽くして対応していかなければなりません。

 朴大統領の退陣を求めて広場を埋め尽くした人々がコンサート会場よろしくペンライトを振りながら弾劾の決定に喜んでいる姿もどうかと思いますが、朴槿恵大統領の責めに帰せられるべき過ちが何であり、またどれほど深刻か、まだ明確になっていないのに弾劾という強制的手続きで大統領の職務を停止することが妥当か、隣国のこととは言え、正直なところ、強い違和感を覚えます。
 ともかく、韓国における世論と政治との関係は日本の今後の対韓政策にも参考にしなければならないと思います。

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