朝鮮半島
2017.05.06
(米国側)
4月29日、トランプ大統領はCBSとのインタビューで北朝鮮についての考えを語った。日本では部分的に引用されたことはあっても全体的にはあまり注目されなかったが、トランプ氏の考えがよく表れていた。特に次の発言だ。
○金正恩委員長に対する評価
「人は金正恩を狂人と言うが、私は知らない。私がこう言うと多くの人が嫌うのだが、彼が父親の後継者になったのは26才とか27才の時だった。彼が相手にしているのは、軍の将軍など大変な人たち(very tough people)だ。多くの人が金正恩の権力を奪おうとしたのは確実だ。かれの叔父であったかも、あるいは他の人だったかもしれない。しかし、かれはそれをできた(He was able to do it)。彼はかなり賢い男(a pretty smart cookie)だと思う。しかし、長い間続いている北朝鮮の状況は放置しておけない。率直に言って、この問題は、オバマ政権、ブッシュ政権、クリントン政権によって処理されるべきだった。」
注 金正恩が困難な環境の中でしてきたことやその能力を理解する発言だ。また、叔父の張成沢を処刑したことについても頭から非難するのでなく、金正恩が指導者になる文脈の中で語っており、聞きようによっては肯定的に語っているとも解される話し方である。
トランプ氏のような発言をする人は他にいないと言っていることも注目される。よく計算した上での発言ではないか。
金正恩氏側の反応はまだないが、腹の中ではおそらく歓迎していると思われる。
○米朝直接対話について
5月1日のトランプ氏の「私にとって適切なものであれば、当然、会談をすることを光栄に思う」との発言は(その2)に記した。
それに引き続いて、3日、ティラーソン国務長官は国務省で、「米国は北朝鮮の政権交代を求めない。今後北朝鮮に対して話し合いを進める開放的な態度で臨む。一方、制裁をさらに進める準備も行っている」と発言(新華社電同日)。
○北朝鮮に対する強気の姿勢
米国は4月26日に続いて5月3日、ICBMの実験を行った。
同日、マティス国防長官は下院公聴会で、特殊作戦部隊を朝鮮半島に駐留させていることなどを証言。
同じく同日、ティラーソン国務長官は、米国が北朝鮮に課している制裁の強度は20~25%程度であると述べ、さらに強化する可能性もあることを示唆した。
4日、米議会下院は新制裁法案を通過、上院へ送付。内容は、北朝鮮の船舶が米国の水域に入ること、埠頭を利用することなどを禁止。北朝鮮で「強制労働」により製造された製品の米国への持ち込みを禁止。90日以内に、北朝鮮を「テロ支援国家」と指定するか否か、議会への報告を義務付けることなど。
注 米国は一方で米朝直接対話の可能性を示唆しつつ、同時に圧力をかけ続けるという硬軟両様の方針だと思われる。
○中国への期待
トランプ氏は中国が北朝鮮に対する圧力を強めるよう強く要請し、習近平氏との会談では当初中国が協力の姿勢を見せなかったので不満を表明していた。しかし、その後トランプ氏は1カ月もたたないうちに習近平氏の努力を認めるようになり、CBSとのインタビューでは「私は習近平氏を好きになり尊敬している。習主席は北朝鮮に圧力をかけている(And I will tell you, a man that I’ve gotten to like and respect, the president of China, President Xi, I believe, has been putting pressure on him also)」と表現を変えた。
注 この発言以降、トランプ氏は習近平氏が米国と協力して動いていることを何回か発言している。北朝鮮が孤立していることを強調する意味を込めていたのだろう。.
トランプ氏は中国についてCBSとのインタビューで次のようにも語った。「中国はかなり強い力を持っていると思う。しかし、究極の力ではないかもしれない(China does have reasonably good powers over North Korea. Now, maybe not, you know, ultimate, but pretty good powers)」。
注 究極の力(ultimate power)とは何か。北朝鮮がすでに保有している核兵器を放棄させる力のことだと思われる。つまり、北朝鮮の非核化を完全に実現する力は中国にはないことを認めている発言であり、興味深い。推測だが、それを実現させうるのは米国だけだということを自認しているのではないか。極めて正しい見方である。
(北朝鮮側)
硬軟両様の米国に対して、北朝鮮は一方で米韓演習や米国の軍事力の誇示に対し、「北朝鮮は恐れない。いつでも破壊できる」という趣旨のことを口汚くアピールしている。その批判は特に新味はないが、米国の行動の不当性を訴える狙いの論評を次々に出している。
「金哲」氏の3日付、「朝中関係の柱を切り倒す無謀な言行をこれ以上してはいけない」と題する論評は初めて中国を名指しで批判しており(5月3日朝鮮中央通信)注目された。
中国が北朝鮮に対する圧力を強めていることを示すものと考えられる。
北朝鮮と米国-現実とイメージ(その3)
(その1)では北朝鮮の、(その2)では米国の対応をとりまとめた。その後も注目すべき動きが続いている。(米国側)
4月29日、トランプ大統領はCBSとのインタビューで北朝鮮についての考えを語った。日本では部分的に引用されたことはあっても全体的にはあまり注目されなかったが、トランプ氏の考えがよく表れていた。特に次の発言だ。
○金正恩委員長に対する評価
「人は金正恩を狂人と言うが、私は知らない。私がこう言うと多くの人が嫌うのだが、彼が父親の後継者になったのは26才とか27才の時だった。彼が相手にしているのは、軍の将軍など大変な人たち(very tough people)だ。多くの人が金正恩の権力を奪おうとしたのは確実だ。かれの叔父であったかも、あるいは他の人だったかもしれない。しかし、かれはそれをできた(He was able to do it)。彼はかなり賢い男(a pretty smart cookie)だと思う。しかし、長い間続いている北朝鮮の状況は放置しておけない。率直に言って、この問題は、オバマ政権、ブッシュ政権、クリントン政権によって処理されるべきだった。」
注 金正恩が困難な環境の中でしてきたことやその能力を理解する発言だ。また、叔父の張成沢を処刑したことについても頭から非難するのでなく、金正恩が指導者になる文脈の中で語っており、聞きようによっては肯定的に語っているとも解される話し方である。
トランプ氏のような発言をする人は他にいないと言っていることも注目される。よく計算した上での発言ではないか。
金正恩氏側の反応はまだないが、腹の中ではおそらく歓迎していると思われる。
○米朝直接対話について
5月1日のトランプ氏の「私にとって適切なものであれば、当然、会談をすることを光栄に思う」との発言は(その2)に記した。
それに引き続いて、3日、ティラーソン国務長官は国務省で、「米国は北朝鮮の政権交代を求めない。今後北朝鮮に対して話し合いを進める開放的な態度で臨む。一方、制裁をさらに進める準備も行っている」と発言(新華社電同日)。
○北朝鮮に対する強気の姿勢
米国は4月26日に続いて5月3日、ICBMの実験を行った。
同日、マティス国防長官は下院公聴会で、特殊作戦部隊を朝鮮半島に駐留させていることなどを証言。
同じく同日、ティラーソン国務長官は、米国が北朝鮮に課している制裁の強度は20~25%程度であると述べ、さらに強化する可能性もあることを示唆した。
4日、米議会下院は新制裁法案を通過、上院へ送付。内容は、北朝鮮の船舶が米国の水域に入ること、埠頭を利用することなどを禁止。北朝鮮で「強制労働」により製造された製品の米国への持ち込みを禁止。90日以内に、北朝鮮を「テロ支援国家」と指定するか否か、議会への報告を義務付けることなど。
注 米国は一方で米朝直接対話の可能性を示唆しつつ、同時に圧力をかけ続けるという硬軟両様の方針だと思われる。
○中国への期待
トランプ氏は中国が北朝鮮に対する圧力を強めるよう強く要請し、習近平氏との会談では当初中国が協力の姿勢を見せなかったので不満を表明していた。しかし、その後トランプ氏は1カ月もたたないうちに習近平氏の努力を認めるようになり、CBSとのインタビューでは「私は習近平氏を好きになり尊敬している。習主席は北朝鮮に圧力をかけている(And I will tell you, a man that I’ve gotten to like and respect, the president of China, President Xi, I believe, has been putting pressure on him also)」と表現を変えた。
注 この発言以降、トランプ氏は習近平氏が米国と協力して動いていることを何回か発言している。北朝鮮が孤立していることを強調する意味を込めていたのだろう。.
トランプ氏は中国についてCBSとのインタビューで次のようにも語った。「中国はかなり強い力を持っていると思う。しかし、究極の力ではないかもしれない(China does have reasonably good powers over North Korea. Now, maybe not, you know, ultimate, but pretty good powers)」。
注 究極の力(ultimate power)とは何か。北朝鮮がすでに保有している核兵器を放棄させる力のことだと思われる。つまり、北朝鮮の非核化を完全に実現する力は中国にはないことを認めている発言であり、興味深い。推測だが、それを実現させうるのは米国だけだということを自認しているのではないか。極めて正しい見方である。
(北朝鮮側)
硬軟両様の米国に対して、北朝鮮は一方で米韓演習や米国の軍事力の誇示に対し、「北朝鮮は恐れない。いつでも破壊できる」という趣旨のことを口汚くアピールしている。その批判は特に新味はないが、米国の行動の不当性を訴える狙いの論評を次々に出している。
「金哲」氏の3日付、「朝中関係の柱を切り倒す無謀な言行をこれ以上してはいけない」と題する論評は初めて中国を名指しで批判しており(5月3日朝鮮中央通信)注目された。
中国が北朝鮮に対する圧力を強めていることを示すものと考えられる。
2017.05.02
トランプ新政権は発足直後から北朝鮮問題に強い関心を向け、北朝鮮政策の再検討を行った。その結果、4月中旬につぎのような新政策が決定されたと言われている。
○新政策の目的は北朝鮮の非核化であり、「政権交替」でない。
○中国に、北朝鮮に影響力を行使することを促す。
○北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を加える準備を進める。
○軍事的措置も検討する。
この間、ティラーソン国務長官は「北朝鮮に対して非核化を求めた過去20年間の政策は失敗だった」とも言っていた。3月16日、岸田外相と会談後の記者会見での発言だ。その後、ティラーソン氏は韓国で、「すべての選択肢がある」と述べたので、軍事行動もありうるという憶測を呼んだ。
北朝鮮においては、4月に金日成主席の誕生日(15日)をはじめ、いくつかの重要行事があり、その際に、第6回目の核実験やICBMの実験を行うかもしれないと騒がれていた。
そのさなかの12日、トランプ大統領はFox Business Channelのインタビューで、「空母カール・ビンソンや高性能の潜水艦を朝鮮半島に送っている。非常に強力な無敵艦隊」などと発言した。この発言は、少し前のシリアに対するミサイル攻撃やアフガニスタンでの世界最大の通常爆弾の使用とあいまって、米国が先制攻撃をも辞さない姿勢の表れとして大騒ぎになった。諸報道の見出しには「武力行使」「4月危機」などの言葉が躍った。
しかし、カール・ビンソンは、4月15日を過ぎても朝鮮半島付近に現れなかった。それどころか、実際には非常にゆっくり北上しており、北朝鮮の行動を警戒するとか、先制攻撃するとかいうような状況ではなかった。カール・ビンソンが日本海へ入ったのははるか後の4月29日、北朝鮮が危険な行動に出るかもしれないと警戒されたいた時を過ぎた後であった。トランプ氏の発言は「はったり」だったのだ。
トランプ政権はなぜ北朝鮮政策に力を入れるのか。核やICBMは米国にとってレッドライン、すなわち見逃すことのできない一線だとも言われているが、冷戦時代ソ連と対峙した経験を持つ米国は北朝鮮の核・ミサイルを恐れるはずがない。米国がインドやパキスタンの核は恐れず、北朝鮮を恐れるのは金正恩委員長という危険な人物が指導者になっているからだという説明しかありえないが、トランプ氏はそのように単純な見方をしていなかった。そのことは、後で述べる金正恩氏に対する評価ではっきりした。
一つ言えることは、トランプ大統領はオバマ氏がしてきたことを否定し、覆そうとしており、北朝鮮についてもそのような姿勢が表れていることである。ティラーソン国務長官もオバマ政権の「戦略的忍耐」は終わったと強調している。
しかし、トランプ政権の北朝鮮問題を重視する理由をオバマ政権否定だけで説明できるか。どうも我々にはよく分からない事情が働いているような気がする。
トランプ大統領が中国に対し北朝鮮への圧力を強めるよう強力に働きかけたことは明白である。その点では、オバマ政権と同じ手法を用いているのだが、トランプ大統領には習近平主席を抱き込む一種独特の手法があり、中国はオバマ時代より一味も二味も違ってきた。中国は北朝鮮に対して、「北朝鮮が再度核実験をすれば、中国は石油の禁輸を含む5項目の措置を取る」と伝えたのだ(米国に本拠がある『多維新聞』4月30日付)。
石油も含め、北朝鮮との取引は国連安保理の決議によりすでに原則としてできなくなっているはずであり、今頃、中国がそのようなことを言うのは奇妙なことだが、中国がこれまで決議をどこまで忠実に履行してきたかの問題には入らないでおこう。ともかく、中国がこのように北朝鮮に対して強い姿勢を取るようになったのはトランプ政権の成果である。
それは結構なことだが、なぜトランプ政権はかくも熱心に北朝鮮問題に力を入れるのか、やはり疑問である。トランプ氏が大統領になる前から言っていた中国の為替操作問題については、「中国の北朝鮮問題についての協力に鑑み為替操作指定しない」と言っているのだが、中国を為替操作国と指定することによって米国が得る利益と、北朝鮮問題で中国が協力することにより米国が得る利益とどちらが大きいか。為替問題の方が大きいのではないか。
こんな疑問が消えないなか、トランプ大統領はさらに驚きの発言を行った。5月1日、米ブルームバーグ通信のインタビューにおいて、「私にとって適切であれば金正恩委員長と会談をすることを光栄に思う」と語ったことである。「会談は適切な状況下で行われることになる」「ほとんどの政治家は絶対に口にしないだろう」とも言っている。
しかし、ホワイトハウスのスパイサー報道官は、トランプ氏のこの発言について、「米朝首脳会談が実現する条件は、現時点で満たされていない」と述べている。
また、米国の核戦略爆撃機編隊は、トランプ氏の発言とほぼ同時のタイミングで韓国の上空を飛行した。米国は今のところ硬軟両様かもしれないが、そうであってもトランプ氏の発言は重要だ。米国の大統領でこのような発言をした人は、トランプ氏が言うように、かつていなかった。1990年代の末、クリントン大統領が北朝鮮訪問を検討し、途中で沙汰やみとなったことがあったが、その時もクリントン氏はトランプ氏のように率直な発言をしなかった。
ともかく、北朝鮮の反応が重要だが、トランプ発言の真意を測りかねているだろう。トランプ氏は2~3週間前は武力攻撃も辞さないと言わんばかりの姿勢を見せていたのに、今度は直接対話を希望していると急に言いだしたのであり、北朝鮮としてはそのまま受け取れない、何か裏があるのではないかと思っていても不思議でない。
朝鮮中央通信は、トランプ発言と同時期に、前述の爆撃機の飛行を含め、米国と韓国の合同演習をいつもの調子で激しく非難しており、今後も北朝鮮は強面の対応を続けるだろう。
しかし、問題はその先である。トランプ発言は真意が測りかねるところがあろうが、米国大統領として初めての発言であることはたしかである。北朝鮮も一歩踏み込んで状況を確かめ、対話の道を探るべきだ。北朝鮮が今回のトランプ発言をうまく受け止め、次の一歩を踏み出していくことが期待される。
北朝鮮と米国-現実とイメージ(その2)
(米国)トランプ新政権は発足直後から北朝鮮問題に強い関心を向け、北朝鮮政策の再検討を行った。その結果、4月中旬につぎのような新政策が決定されたと言われている。
○新政策の目的は北朝鮮の非核化であり、「政権交替」でない。
○中国に、北朝鮮に影響力を行使することを促す。
○北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を加える準備を進める。
○軍事的措置も検討する。
この間、ティラーソン国務長官は「北朝鮮に対して非核化を求めた過去20年間の政策は失敗だった」とも言っていた。3月16日、岸田外相と会談後の記者会見での発言だ。その後、ティラーソン氏は韓国で、「すべての選択肢がある」と述べたので、軍事行動もありうるという憶測を呼んだ。
北朝鮮においては、4月に金日成主席の誕生日(15日)をはじめ、いくつかの重要行事があり、その際に、第6回目の核実験やICBMの実験を行うかもしれないと騒がれていた。
そのさなかの12日、トランプ大統領はFox Business Channelのインタビューで、「空母カール・ビンソンや高性能の潜水艦を朝鮮半島に送っている。非常に強力な無敵艦隊」などと発言した。この発言は、少し前のシリアに対するミサイル攻撃やアフガニスタンでの世界最大の通常爆弾の使用とあいまって、米国が先制攻撃をも辞さない姿勢の表れとして大騒ぎになった。諸報道の見出しには「武力行使」「4月危機」などの言葉が躍った。
しかし、カール・ビンソンは、4月15日を過ぎても朝鮮半島付近に現れなかった。それどころか、実際には非常にゆっくり北上しており、北朝鮮の行動を警戒するとか、先制攻撃するとかいうような状況ではなかった。カール・ビンソンが日本海へ入ったのははるか後の4月29日、北朝鮮が危険な行動に出るかもしれないと警戒されたいた時を過ぎた後であった。トランプ氏の発言は「はったり」だったのだ。
トランプ政権はなぜ北朝鮮政策に力を入れるのか。核やICBMは米国にとってレッドライン、すなわち見逃すことのできない一線だとも言われているが、冷戦時代ソ連と対峙した経験を持つ米国は北朝鮮の核・ミサイルを恐れるはずがない。米国がインドやパキスタンの核は恐れず、北朝鮮を恐れるのは金正恩委員長という危険な人物が指導者になっているからだという説明しかありえないが、トランプ氏はそのように単純な見方をしていなかった。そのことは、後で述べる金正恩氏に対する評価ではっきりした。
一つ言えることは、トランプ大統領はオバマ氏がしてきたことを否定し、覆そうとしており、北朝鮮についてもそのような姿勢が表れていることである。ティラーソン国務長官もオバマ政権の「戦略的忍耐」は終わったと強調している。
しかし、トランプ政権の北朝鮮問題を重視する理由をオバマ政権否定だけで説明できるか。どうも我々にはよく分からない事情が働いているような気がする。
トランプ大統領が中国に対し北朝鮮への圧力を強めるよう強力に働きかけたことは明白である。その点では、オバマ政権と同じ手法を用いているのだが、トランプ大統領には習近平主席を抱き込む一種独特の手法があり、中国はオバマ時代より一味も二味も違ってきた。中国は北朝鮮に対して、「北朝鮮が再度核実験をすれば、中国は石油の禁輸を含む5項目の措置を取る」と伝えたのだ(米国に本拠がある『多維新聞』4月30日付)。
石油も含め、北朝鮮との取引は国連安保理の決議によりすでに原則としてできなくなっているはずであり、今頃、中国がそのようなことを言うのは奇妙なことだが、中国がこれまで決議をどこまで忠実に履行してきたかの問題には入らないでおこう。ともかく、中国がこのように北朝鮮に対して強い姿勢を取るようになったのはトランプ政権の成果である。
それは結構なことだが、なぜトランプ政権はかくも熱心に北朝鮮問題に力を入れるのか、やはり疑問である。トランプ氏が大統領になる前から言っていた中国の為替操作問題については、「中国の北朝鮮問題についての協力に鑑み為替操作指定しない」と言っているのだが、中国を為替操作国と指定することによって米国が得る利益と、北朝鮮問題で中国が協力することにより米国が得る利益とどちらが大きいか。為替問題の方が大きいのではないか。
こんな疑問が消えないなか、トランプ大統領はさらに驚きの発言を行った。5月1日、米ブルームバーグ通信のインタビューにおいて、「私にとって適切であれば金正恩委員長と会談をすることを光栄に思う」と語ったことである。「会談は適切な状況下で行われることになる」「ほとんどの政治家は絶対に口にしないだろう」とも言っている。
しかし、ホワイトハウスのスパイサー報道官は、トランプ氏のこの発言について、「米朝首脳会談が実現する条件は、現時点で満たされていない」と述べている。
また、米国の核戦略爆撃機編隊は、トランプ氏の発言とほぼ同時のタイミングで韓国の上空を飛行した。米国は今のところ硬軟両様かもしれないが、そうであってもトランプ氏の発言は重要だ。米国の大統領でこのような発言をした人は、トランプ氏が言うように、かつていなかった。1990年代の末、クリントン大統領が北朝鮮訪問を検討し、途中で沙汰やみとなったことがあったが、その時もクリントン氏はトランプ氏のように率直な発言をしなかった。
ともかく、北朝鮮の反応が重要だが、トランプ発言の真意を測りかねているだろう。トランプ氏は2~3週間前は武力攻撃も辞さないと言わんばかりの姿勢を見せていたのに、今度は直接対話を希望していると急に言いだしたのであり、北朝鮮としてはそのまま受け取れない、何か裏があるのではないかと思っていても不思議でない。
朝鮮中央通信は、トランプ発言と同時期に、前述の爆撃機の飛行を含め、米国と韓国の合同演習をいつもの調子で激しく非難しており、今後も北朝鮮は強面の対応を続けるだろう。
しかし、問題はその先である。トランプ発言は真意が測りかねるところがあろうが、米国大統領として初めての発言であることはたしかである。北朝鮮も一歩踏み込んで状況を確かめ、対話の道を探るべきだ。北朝鮮が今回のトランプ発言をうまく受け止め、次の一歩を踏み出していくことが期待される。
2017.05.01
(北朝鮮)
そもそも、今回の緊張はどちらが引き起こしたか。
ミサイルについては、金正恩委員長が1月1日の新年の辞で、ICBMの発射実験準備が最終段階に入ったと述べ世界の耳目をひいた。そして、各種のミサイル発射実験を行った。いずれも国連決議に違反する行為である。
核については、北朝鮮が第6回目の核実験を行う準備を進めていると米国の研究機関がその観測結果を公表したのが事の始まりであったが、そのような準備をしたのはもちろん北朝鮮である。これも国連決議違反だ。
したがってミサイルについても、また、核についての緊張を作り出した原因は北朝鮮にあった。
なぜ北朝鮮は国連決議に違反し、国際社会の意向を無視してまでこのような行動に出るのか。
北朝鮮は「挑発している」というのが一般的な説明だ。とくにわが国ではこの説明が圧倒的に多い。緊張を作り出したのは北朝鮮だということからすれば、先に問題の行動を起こしたことを意味する「挑発」というのも分かるが、「挑発」というからには目的があるはずだ。たとえば、喧嘩に、あるいは戦争に引き込むという目的だ。
北朝鮮にはそのような目的があったと言えるか。北朝鮮のことを勉強している人であれば、十中八九、「戦争をするのが目的でない」と言うだろう。私もその一人である。本当の専門家などいないと思うのであえて「勉強家」としたのであり、ご理解願いたい。
「米国の注意をひこうとしている」という説明は時々聞かれる。これは間違いでないが、女性が男性の、あるいは男性が女性の注意をひこうとしているのとはかなり違っているのではないか。この下手な男女の例では、注意をしてもらえばそれでいったんは目的を達するのだろうが、国家の場合、ただ注意をひくのでは終わらない。そう考えると、「米国の注意をひこうとしている」というのもよくわからない説明だ。
北朝鮮の勉強家の多くは、北朝鮮は「体制維持」を国家目標としていると考えている。「体制維持」は「安全保障」、あるいは「安全の確保」と言っても同じことだ。
このことはトランプ政権も認めているように思われる。米国は「北朝鮮の体制転換を意図していない」と言っているからだ。
ともかく、勉強家はそのように考えているが、公の場になるとその考えを率直に表明しなくなる傾向がある。不用意にそのことを認めると、北朝鮮の擁護をしているように思われる危険があるからだろう。要するに、北朝鮮シンパだというレッテルを張られたくないのだ。
そのように用心するのは分からないではないが、しかし、北朝鮮の真実は見えにくくなる。北朝鮮については信頼できる情報が少ないと前述したが、北朝鮮の真実を語るにはそのような考慮が働くという事情も加わっているので一層分かりにくくなっている。要するに、北朝鮮に批判的な態度を取っておけば安全であり、通りがよいのだが、そのため真実は見えにくくなっているのだ。
米国も「北朝鮮の目標は体制維持である」とは明言していない。米国の場合は、そう明言すると北朝鮮を承認することに一歩踏み出すことになるという問題があるのだろう。「体制転換を意図していない」ということと、「北朝鮮の目標は体制維持である」は、言葉の意味としてはそれほど違わないかもしれないが、実際には大きな差がある。米国が、単に、「北朝鮮の目標は体制維持である」と言っただけでも、米朝間の雰囲気はもちろん、政治的状況も大きく変化するだろう。
最近のトランプ政権と中国の努力は効果があったか。北朝鮮は果たしてミサイルと核の実験をしないこととしたか。
この問題に対して、「北朝鮮はもうしない」と断言できる人はまずいないだろう。つまり、効果があったと思える人は少ないだろう。
北朝鮮は、「核については、必要と判断した時に実験する」という立場だ。これは北朝鮮の高官による説明だが、ミサイルについても今後実験を行うだろう。もちろん北朝鮮はそのようなことをすべきでないのでそのような見通しを述べることもはばかられるが、心で思っていることは別だ。
北朝鮮は、米国が北朝鮮に対する圧力を加える中、4月16日と29日にまたもやミサイルの実験を行った。両方とも失敗だった。2回目は、洋上でなく陸上に落ちた。
このことをどのように解釈するか。北朝鮮は米国の圧力をひしひしと感じていると思う。しかし、それを表に出すわけにはいかず、逆に、米国の言いなりにはならないことを示したかったのではないか。意図的に失敗させた可能性も排除できない。失敗するようなミサイルの発射実験に米国が反応して武力攻撃してくることはないと判断したのではないか。
タイミングについては、16日の実験は、その前日の金日成主席の誕生日と結び付ける向きが多かったが、むしろトランプ大統領が空母カール・ビンソンや高性能の潜水艦を派遣したとして圧力をかけてことに対する反発であり、29日の実験は安保理が北朝鮮問題を取り上げたことに威嚇的な態度で水を差すのが目的だったと推測している。
北朝鮮の発表ぶりにも問題がある。「ソウルを火の海にする」など眉をひそめるような暴言を吐いた例は数多い。最近は、在日米軍基地を攻撃するのも可能だと言っている。さらに、朝鮮労働党機関紙、労働新聞は29日、「核弾頭を搭載した戦略ロケット(ミサイル)の最終目標は米本土だ」と息巻いた。
北朝鮮があくまで強気の姿勢を貫きたいという考えであることは理解できるが、そのような言葉が賢明か、はたして北朝鮮の利益になるか疑問である。また、北朝鮮のそのような吠え立てる姿勢は、北朝鮮のことを一層わかりにくくしているのではないか。
北朝鮮と米国-現実とイメージ(その1)
過去数週間、北朝鮮と米国は激しく対立し、軍事衝突が起こる危険がある、北朝鮮の重要な記念日がある4月はとくに危ないとさかんに言われたが、大したことにはならなかった。危険な状況はまだ続いているという見方もあるが、本当に危機はあったのか。あったとしてどの程度か、冷静に見直すことも必要だ。とくに、北朝鮮についてはイメージが先走りする傾向がある。北朝鮮に関する信頼できる情報はあまりに少ないので、それもある程度はやむをえないが、あらためて今回の緊張を北朝鮮と米国の側から見てみたい。(北朝鮮)
そもそも、今回の緊張はどちらが引き起こしたか。
ミサイルについては、金正恩委員長が1月1日の新年の辞で、ICBMの発射実験準備が最終段階に入ったと述べ世界の耳目をひいた。そして、各種のミサイル発射実験を行った。いずれも国連決議に違反する行為である。
核については、北朝鮮が第6回目の核実験を行う準備を進めていると米国の研究機関がその観測結果を公表したのが事の始まりであったが、そのような準備をしたのはもちろん北朝鮮である。これも国連決議違反だ。
したがってミサイルについても、また、核についての緊張を作り出した原因は北朝鮮にあった。
なぜ北朝鮮は国連決議に違反し、国際社会の意向を無視してまでこのような行動に出るのか。
北朝鮮は「挑発している」というのが一般的な説明だ。とくにわが国ではこの説明が圧倒的に多い。緊張を作り出したのは北朝鮮だということからすれば、先に問題の行動を起こしたことを意味する「挑発」というのも分かるが、「挑発」というからには目的があるはずだ。たとえば、喧嘩に、あるいは戦争に引き込むという目的だ。
北朝鮮にはそのような目的があったと言えるか。北朝鮮のことを勉強している人であれば、十中八九、「戦争をするのが目的でない」と言うだろう。私もその一人である。本当の専門家などいないと思うのであえて「勉強家」としたのであり、ご理解願いたい。
「米国の注意をひこうとしている」という説明は時々聞かれる。これは間違いでないが、女性が男性の、あるいは男性が女性の注意をひこうとしているのとはかなり違っているのではないか。この下手な男女の例では、注意をしてもらえばそれでいったんは目的を達するのだろうが、国家の場合、ただ注意をひくのでは終わらない。そう考えると、「米国の注意をひこうとしている」というのもよくわからない説明だ。
北朝鮮の勉強家の多くは、北朝鮮は「体制維持」を国家目標としていると考えている。「体制維持」は「安全保障」、あるいは「安全の確保」と言っても同じことだ。
このことはトランプ政権も認めているように思われる。米国は「北朝鮮の体制転換を意図していない」と言っているからだ。
ともかく、勉強家はそのように考えているが、公の場になるとその考えを率直に表明しなくなる傾向がある。不用意にそのことを認めると、北朝鮮の擁護をしているように思われる危険があるからだろう。要するに、北朝鮮シンパだというレッテルを張られたくないのだ。
そのように用心するのは分からないではないが、しかし、北朝鮮の真実は見えにくくなる。北朝鮮については信頼できる情報が少ないと前述したが、北朝鮮の真実を語るにはそのような考慮が働くという事情も加わっているので一層分かりにくくなっている。要するに、北朝鮮に批判的な態度を取っておけば安全であり、通りがよいのだが、そのため真実は見えにくくなっているのだ。
米国も「北朝鮮の目標は体制維持である」とは明言していない。米国の場合は、そう明言すると北朝鮮を承認することに一歩踏み出すことになるという問題があるのだろう。「体制転換を意図していない」ということと、「北朝鮮の目標は体制維持である」は、言葉の意味としてはそれほど違わないかもしれないが、実際には大きな差がある。米国が、単に、「北朝鮮の目標は体制維持である」と言っただけでも、米朝間の雰囲気はもちろん、政治的状況も大きく変化するだろう。
最近のトランプ政権と中国の努力は効果があったか。北朝鮮は果たしてミサイルと核の実験をしないこととしたか。
この問題に対して、「北朝鮮はもうしない」と断言できる人はまずいないだろう。つまり、効果があったと思える人は少ないだろう。
北朝鮮は、「核については、必要と判断した時に実験する」という立場だ。これは北朝鮮の高官による説明だが、ミサイルについても今後実験を行うだろう。もちろん北朝鮮はそのようなことをすべきでないのでそのような見通しを述べることもはばかられるが、心で思っていることは別だ。
北朝鮮は、米国が北朝鮮に対する圧力を加える中、4月16日と29日にまたもやミサイルの実験を行った。両方とも失敗だった。2回目は、洋上でなく陸上に落ちた。
このことをどのように解釈するか。北朝鮮は米国の圧力をひしひしと感じていると思う。しかし、それを表に出すわけにはいかず、逆に、米国の言いなりにはならないことを示したかったのではないか。意図的に失敗させた可能性も排除できない。失敗するようなミサイルの発射実験に米国が反応して武力攻撃してくることはないと判断したのではないか。
タイミングについては、16日の実験は、その前日の金日成主席の誕生日と結び付ける向きが多かったが、むしろトランプ大統領が空母カール・ビンソンや高性能の潜水艦を派遣したとして圧力をかけてことに対する反発であり、29日の実験は安保理が北朝鮮問題を取り上げたことに威嚇的な態度で水を差すのが目的だったと推測している。
北朝鮮の発表ぶりにも問題がある。「ソウルを火の海にする」など眉をひそめるような暴言を吐いた例は数多い。最近は、在日米軍基地を攻撃するのも可能だと言っている。さらに、朝鮮労働党機関紙、労働新聞は29日、「核弾頭を搭載した戦略ロケット(ミサイル)の最終目標は米本土だ」と息巻いた。
北朝鮮があくまで強気の姿勢を貫きたいという考えであることは理解できるが、そのような言葉が賢明か、はたして北朝鮮の利益になるか疑問である。また、北朝鮮のそのような吠え立てる姿勢は、北朝鮮のことを一層わかりにくくしているのではないか。
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