朝鮮半島
2017.05.14
北朝鮮はなぜこのタイミングでミサイル実験を行ったのか。核やミサイルの実験は、北朝鮮の祝日や記念日に合わせて行われるとも言うが、あまり関係はなさそうだ。北朝鮮はそのようなことに重きを置いていないのではないかと思われる。
技術的な問題だが、今回のミサイルは高度が2千キロを超えており、ICBMであった可能性もあると言う。800キロ飛ぶのに30分かかったということであれば、通常のミサイルよりかなり遅い。高く上げたためか、それともほかの理由によることか、よくわからない。
朝鮮中央通信は15日、「新型の中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験を14日に行い、成功した。高度2111.5キロに達し、787キロ飛行した。金正恩朝鮮労働党委員長が発射に立ち会い、米国とその追随勢力が気を確かに持って正しい選択をする時まで高度に精密化、多種化された核兵器と核打撃手段をより多くつくり、必要な実験準備をいっそう推し進める」と報じた。
米国の「正しい選択」とは何か。対話あるいは交渉の開始か、北朝鮮の承認か、それともいずれでもない第三のことか。北朝鮮の承認は交渉の目標であり、現時点では対話あるいは交渉の開始のための条件とみるのが自然であろうが、同通信の短い発表だけではいずれとも判断しかねる。
北朝鮮はこの他にも挑発的な行動を行っている。4人の米人を拘束したし、11日には米国のCIAと韓国の国家情報院が北朝鮮に潜入させた「テロ犯罪一党」を摘発したとする声明を発表した。
一方、北朝鮮は5月8~9日、ノルウェーで米国と協議を行った。米朝双方とも意図的に目立たないようにしているが、北朝鮮からはチェ・ソンヒ外務省北米局長が出席した。米側は民間人が出席したので半官半民の対話だとも言われたが、米側の出席者も政府の元高官であった。要するに実質的には両国政府の非公式協議であった。
チェ・ソンヒ氏は元首相の娘であり、北朝鮮の人にしてはかなり率直に発言する人物だ。今回の協議では、北朝鮮に捉えられている4人の米人の釈放問題が主たる議題だという観測もあったが、チェ氏はその話はしなかったと明言している。
この協議に見られる北朝鮮の姿勢は、核やミサイルの実験とは違って普通の外交の常識にかなっていたようだ。
この協議は、5月1日、トランプ大統領が行った金正恩委員長との会談の可能性に関する発言を受けて行われたものだろう。米朝関係はこれまでの複雑な経緯のために一筋縄ではいかなくなっているが、北朝鮮としてはその実現に向けてさらに前に進めるか、米国の真意を探ろうとしているのではないか。
北朝鮮のミサイル実験は、韓国の文在寅新政権にとってまことに都合の悪いタイミングで起こった。文在寅氏が北朝鮮に融和的であることは自他ともに認めており、就任後も「条件がととのえばピョンヤンに行く」と表明していた。また、朴槿恵政権下で配備された高高度迎撃ミサイルシステムTHAADを新政権は見直す可能性があると言われており、北朝鮮はこの点についても文在寅大統領の姿勢を積極的に評価しているはずだ。
しかし、今回の実験について文在寅氏は「深刻な挑発行動だ」と北朝鮮を非難せざるを得なかった。南北関係がかみ合わない状態は今後も続きそうだ。
北朝鮮はまたミサイル実験を行った
北朝鮮は5月14日、ミサイルの発射実験を行った。国際社会の抗議を無視し、国連安保理決議に違反し、挑発的であり、我が国に重大な脅威となる行為である。以上は、ミサイルの発射実験のたびに指摘されていることだ。前回のミサイル実験(失敗した)は4月29日であった。北朝鮮はなぜこのタイミングでミサイル実験を行ったのか。核やミサイルの実験は、北朝鮮の祝日や記念日に合わせて行われるとも言うが、あまり関係はなさそうだ。北朝鮮はそのようなことに重きを置いていないのではないかと思われる。
技術的な問題だが、今回のミサイルは高度が2千キロを超えており、ICBMであった可能性もあると言う。800キロ飛ぶのに30分かかったということであれば、通常のミサイルよりかなり遅い。高く上げたためか、それともほかの理由によることか、よくわからない。
朝鮮中央通信は15日、「新型の中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験を14日に行い、成功した。高度2111.5キロに達し、787キロ飛行した。金正恩朝鮮労働党委員長が発射に立ち会い、米国とその追随勢力が気を確かに持って正しい選択をする時まで高度に精密化、多種化された核兵器と核打撃手段をより多くつくり、必要な実験準備をいっそう推し進める」と報じた。
米国の「正しい選択」とは何か。対話あるいは交渉の開始か、北朝鮮の承認か、それともいずれでもない第三のことか。北朝鮮の承認は交渉の目標であり、現時点では対話あるいは交渉の開始のための条件とみるのが自然であろうが、同通信の短い発表だけではいずれとも判断しかねる。
北朝鮮はこの他にも挑発的な行動を行っている。4人の米人を拘束したし、11日には米国のCIAと韓国の国家情報院が北朝鮮に潜入させた「テロ犯罪一党」を摘発したとする声明を発表した。
一方、北朝鮮は5月8~9日、ノルウェーで米国と協議を行った。米朝双方とも意図的に目立たないようにしているが、北朝鮮からはチェ・ソンヒ外務省北米局長が出席した。米側は民間人が出席したので半官半民の対話だとも言われたが、米側の出席者も政府の元高官であった。要するに実質的には両国政府の非公式協議であった。
チェ・ソンヒ氏は元首相の娘であり、北朝鮮の人にしてはかなり率直に発言する人物だ。今回の協議では、北朝鮮に捉えられている4人の米人の釈放問題が主たる議題だという観測もあったが、チェ氏はその話はしなかったと明言している。
この協議に見られる北朝鮮の姿勢は、核やミサイルの実験とは違って普通の外交の常識にかなっていたようだ。
この協議は、5月1日、トランプ大統領が行った金正恩委員長との会談の可能性に関する発言を受けて行われたものだろう。米朝関係はこれまでの複雑な経緯のために一筋縄ではいかなくなっているが、北朝鮮としてはその実現に向けてさらに前に進めるか、米国の真意を探ろうとしているのではないか。
北朝鮮のミサイル実験は、韓国の文在寅新政権にとってまことに都合の悪いタイミングで起こった。文在寅氏が北朝鮮に融和的であることは自他ともに認めており、就任後も「条件がととのえばピョンヤンに行く」と表明していた。また、朴槿恵政権下で配備された高高度迎撃ミサイルシステムTHAADを新政権は見直す可能性があると言われており、北朝鮮はこの点についても文在寅大統領の姿勢を積極的に評価しているはずだ。
しかし、今回の実験について文在寅氏は「深刻な挑発行動だ」と北朝鮮を非難せざるを得なかった。南北関係がかみ合わない状態は今後も続きそうだ。
2017.05.10
「9日に行われた韓国の大統領選挙では、大方の予想通り文在寅「共に民主党」前代表が圧勝しました。新大統領の就任により韓国が一刻も早く正常な状態に復帰することが期待されます。
しかし、新政権には難題が待ち構えています。日韓関係もその一つであり、文在寅政権の下で状況はさらに悪化するのではないかと多くの人が懸念しています。
文在寅氏は、慰安婦問題については、ソウルの日本大使館と釜山の総領事館前の少女像の撤去に消極的な姿勢を取っており、少女像をいったん撤去した釜山市当局を批判したこともありました。また、2015年末の両政府間合意については再交渉を要求していました。文在寅氏の側近には、必ずしも「再交渉」に固執しない、なんらかの「追加的措置」でもよいという見方があるようですが、日本側から見れば「再交渉」とあまり違いはありません。
文在寅氏はいわゆる「徴用工(「強制労働」とも言われる)」の問題や日本の歴史教科書などについても現状に不満であり、日本に対し賠償や書き換えを強く要求すべきだと発言したことがあります。
竹島には2016年7月、上陸して韓国領であることをアピールしました。
今後、どうすれば日韓関係を改善できるでしょうか。たしかに文在寅氏の主張は日本の立場とあまりにもかけ離れており、関係改善の道筋を描くことは困難ですが、まず、日韓双方とも状況を悪化させないことが肝要です。これは当然のように聞こえるかもしれませんが、実際には知らず知らずのうちに関係を悪化させることがあります。たとえば、日本側では閣僚による靖国神社参拝問題があります。これは本来日本自身の問題ですが、韓国、中国、さらには米国などの反発や批判を招く危険があります。
一方、韓国側でも関係を悪化させない努力が必要です。韓国政府は韓国民に対し日韓関係の重要性を説明すべきだし、対馬の寺から盗取された仏像の返還も説得すべきです。
慰安婦問題については、文在寅氏はいずれ日本に要求を持ち出してくるでしょう。これに対し日本側が要求を受け入れる余地は皆無のように思われますが、韓国側との話し合いを拒絶してはならないと思います。残念ながら、慰安婦問題については当面できる限りの意思疎通を続けていくほかないのかもしれません。
日本はただ聞き役に回ればよいのではありません。韓国のように政権が代わると政府間の合意も変えたいというのでは、5年後、文在寅政権から次の政権になると、また変わるかもしれない、そのようなことでは日本として対応できないということも主張すべきでしょう。
日韓関係の改善については当面の対応に工夫するとともに、中長期的な視野で臨むことが不可欠です。韓国人は「法律を順守する精神が薄弱だ。ゴールポストを動かす」という類の指摘がありますが、それには歴史的な理由があると思います。韓国民の間では、政府や法律は自分たちを守ってくれないという意識が強く、問題が大きくなると政府も法律を変えようとするのではないでしょうか。韓国では憲法が9回改正されました。そのうち5回は新憲法の制定でした。1987年に軍政を倒したのは民衆の力でした。今回も朴槿恵政権を倒したのは世論の力でした。
日本としては、韓国側の順法精神が弱いことを批判するだけでなく、このような歴史的事情に由来する問題をいかに乗り越えるか、韓国とともに打開の糸口を探るべきです。たとえば、両国の若い世代の交流をさらに促進することなどは有力な方法でしょう。
一方、日韓間では対立案件ばかりではありません。拉致問題については韓国も同様の問題を抱えていますし、この関係で両国はさらに協力を強化すべきです。
安全保障面では、最大の問題は北朝鮮との関係です。この点では日韓両国、それに米国の立場は共通していますが、文在寅氏は朴槿恵氏と違って北朝鮮に融和的であり、最近韓国に配備された高高度迎撃ミサイルシステムTHAADについても北朝鮮を刺激するので消極的だと見られていました。
そんななか、文在寅政権が発足すればTHAADの配備を見直す可能性があることを示唆する説明を韓国国防部が行ったと報道されました(米国に本拠がある『多維新聞』5月8日付)。もしそうなると米韓両国政府で合意したことが守られなくなります。慰安婦合意と同じ問題が出てくるわけです。
THAADの配備は米韓両国が決定することですが、朝鮮半島のみならず東アジアの安全保障のためには日米韓の密接な協力が不可欠です。韓国にとって北朝鮮は同じ民族の国家であり、特別の思いがあるでしょうが、文在寅氏が安全保障面でも日米との協力関係を重視することが期待されます。
韓国の新大統領のもとで日韓関係はどうなるか
文在寅新大統領のもとで日韓関係はどうなるか、展望を試みました。THE PAGEに寄稿したものです。「9日に行われた韓国の大統領選挙では、大方の予想通り文在寅「共に民主党」前代表が圧勝しました。新大統領の就任により韓国が一刻も早く正常な状態に復帰することが期待されます。
しかし、新政権には難題が待ち構えています。日韓関係もその一つであり、文在寅政権の下で状況はさらに悪化するのではないかと多くの人が懸念しています。
文在寅氏は、慰安婦問題については、ソウルの日本大使館と釜山の総領事館前の少女像の撤去に消極的な姿勢を取っており、少女像をいったん撤去した釜山市当局を批判したこともありました。また、2015年末の両政府間合意については再交渉を要求していました。文在寅氏の側近には、必ずしも「再交渉」に固執しない、なんらかの「追加的措置」でもよいという見方があるようですが、日本側から見れば「再交渉」とあまり違いはありません。
文在寅氏はいわゆる「徴用工(「強制労働」とも言われる)」の問題や日本の歴史教科書などについても現状に不満であり、日本に対し賠償や書き換えを強く要求すべきだと発言したことがあります。
竹島には2016年7月、上陸して韓国領であることをアピールしました。
今後、どうすれば日韓関係を改善できるでしょうか。たしかに文在寅氏の主張は日本の立場とあまりにもかけ離れており、関係改善の道筋を描くことは困難ですが、まず、日韓双方とも状況を悪化させないことが肝要です。これは当然のように聞こえるかもしれませんが、実際には知らず知らずのうちに関係を悪化させることがあります。たとえば、日本側では閣僚による靖国神社参拝問題があります。これは本来日本自身の問題ですが、韓国、中国、さらには米国などの反発や批判を招く危険があります。
一方、韓国側でも関係を悪化させない努力が必要です。韓国政府は韓国民に対し日韓関係の重要性を説明すべきだし、対馬の寺から盗取された仏像の返還も説得すべきです。
慰安婦問題については、文在寅氏はいずれ日本に要求を持ち出してくるでしょう。これに対し日本側が要求を受け入れる余地は皆無のように思われますが、韓国側との話し合いを拒絶してはならないと思います。残念ながら、慰安婦問題については当面できる限りの意思疎通を続けていくほかないのかもしれません。
日本はただ聞き役に回ればよいのではありません。韓国のように政権が代わると政府間の合意も変えたいというのでは、5年後、文在寅政権から次の政権になると、また変わるかもしれない、そのようなことでは日本として対応できないということも主張すべきでしょう。
日韓関係の改善については当面の対応に工夫するとともに、中長期的な視野で臨むことが不可欠です。韓国人は「法律を順守する精神が薄弱だ。ゴールポストを動かす」という類の指摘がありますが、それには歴史的な理由があると思います。韓国民の間では、政府や法律は自分たちを守ってくれないという意識が強く、問題が大きくなると政府も法律を変えようとするのではないでしょうか。韓国では憲法が9回改正されました。そのうち5回は新憲法の制定でした。1987年に軍政を倒したのは民衆の力でした。今回も朴槿恵政権を倒したのは世論の力でした。
日本としては、韓国側の順法精神が弱いことを批判するだけでなく、このような歴史的事情に由来する問題をいかに乗り越えるか、韓国とともに打開の糸口を探るべきです。たとえば、両国の若い世代の交流をさらに促進することなどは有力な方法でしょう。
一方、日韓間では対立案件ばかりではありません。拉致問題については韓国も同様の問題を抱えていますし、この関係で両国はさらに協力を強化すべきです。
安全保障面では、最大の問題は北朝鮮との関係です。この点では日韓両国、それに米国の立場は共通していますが、文在寅氏は朴槿恵氏と違って北朝鮮に融和的であり、最近韓国に配備された高高度迎撃ミサイルシステムTHAADについても北朝鮮を刺激するので消極的だと見られていました。
そんななか、文在寅政権が発足すればTHAADの配備を見直す可能性があることを示唆する説明を韓国国防部が行ったと報道されました(米国に本拠がある『多維新聞』5月8日付)。もしそうなると米韓両国政府で合意したことが守られなくなります。慰安婦合意と同じ問題が出てくるわけです。
THAADの配備は米韓両国が決定することですが、朝鮮半島のみならず東アジアの安全保障のためには日米韓の密接な協力が不可欠です。韓国にとって北朝鮮は同じ民族の国家であり、特別の思いがあるでしょうが、文在寅氏が安全保障面でも日米との協力関係を重視することが期待されます。
2017.05.06
(米国側)
4月29日、トランプ大統領はCBSとのインタビューで北朝鮮についての考えを語った。日本では部分的に引用されたことはあっても全体的にはあまり注目されなかったが、トランプ氏の考えがよく表れていた。特に次の発言だ。
○金正恩委員長に対する評価
「人は金正恩を狂人と言うが、私は知らない。私がこう言うと多くの人が嫌うのだが、彼が父親の後継者になったのは26才とか27才の時だった。彼が相手にしているのは、軍の将軍など大変な人たち(very tough people)だ。多くの人が金正恩の権力を奪おうとしたのは確実だ。かれの叔父であったかも、あるいは他の人だったかもしれない。しかし、かれはそれをできた(He was able to do it)。彼はかなり賢い男(a pretty smart cookie)だと思う。しかし、長い間続いている北朝鮮の状況は放置しておけない。率直に言って、この問題は、オバマ政権、ブッシュ政権、クリントン政権によって処理されるべきだった。」
注 金正恩が困難な環境の中でしてきたことやその能力を理解する発言だ。また、叔父の張成沢を処刑したことについても頭から非難するのでなく、金正恩が指導者になる文脈の中で語っており、聞きようによっては肯定的に語っているとも解される話し方である。
トランプ氏のような発言をする人は他にいないと言っていることも注目される。よく計算した上での発言ではないか。
金正恩氏側の反応はまだないが、腹の中ではおそらく歓迎していると思われる。
○米朝直接対話について
5月1日のトランプ氏の「私にとって適切なものであれば、当然、会談をすることを光栄に思う」との発言は(その2)に記した。
それに引き続いて、3日、ティラーソン国務長官は国務省で、「米国は北朝鮮の政権交代を求めない。今後北朝鮮に対して話し合いを進める開放的な態度で臨む。一方、制裁をさらに進める準備も行っている」と発言(新華社電同日)。
○北朝鮮に対する強気の姿勢
米国は4月26日に続いて5月3日、ICBMの実験を行った。
同日、マティス国防長官は下院公聴会で、特殊作戦部隊を朝鮮半島に駐留させていることなどを証言。
同じく同日、ティラーソン国務長官は、米国が北朝鮮に課している制裁の強度は20~25%程度であると述べ、さらに強化する可能性もあることを示唆した。
4日、米議会下院は新制裁法案を通過、上院へ送付。内容は、北朝鮮の船舶が米国の水域に入ること、埠頭を利用することなどを禁止。北朝鮮で「強制労働」により製造された製品の米国への持ち込みを禁止。90日以内に、北朝鮮を「テロ支援国家」と指定するか否か、議会への報告を義務付けることなど。
注 米国は一方で米朝直接対話の可能性を示唆しつつ、同時に圧力をかけ続けるという硬軟両様の方針だと思われる。
○中国への期待
トランプ氏は中国が北朝鮮に対する圧力を強めるよう強く要請し、習近平氏との会談では当初中国が協力の姿勢を見せなかったので不満を表明していた。しかし、その後トランプ氏は1カ月もたたないうちに習近平氏の努力を認めるようになり、CBSとのインタビューでは「私は習近平氏を好きになり尊敬している。習主席は北朝鮮に圧力をかけている(And I will tell you, a man that I’ve gotten to like and respect, the president of China, President Xi, I believe, has been putting pressure on him also)」と表現を変えた。
注 この発言以降、トランプ氏は習近平氏が米国と協力して動いていることを何回か発言している。北朝鮮が孤立していることを強調する意味を込めていたのだろう。.
トランプ氏は中国についてCBSとのインタビューで次のようにも語った。「中国はかなり強い力を持っていると思う。しかし、究極の力ではないかもしれない(China does have reasonably good powers over North Korea. Now, maybe not, you know, ultimate, but pretty good powers)」。
注 究極の力(ultimate power)とは何か。北朝鮮がすでに保有している核兵器を放棄させる力のことだと思われる。つまり、北朝鮮の非核化を完全に実現する力は中国にはないことを認めている発言であり、興味深い。推測だが、それを実現させうるのは米国だけだということを自認しているのではないか。極めて正しい見方である。
(北朝鮮側)
硬軟両様の米国に対して、北朝鮮は一方で米韓演習や米国の軍事力の誇示に対し、「北朝鮮は恐れない。いつでも破壊できる」という趣旨のことを口汚くアピールしている。その批判は特に新味はないが、米国の行動の不当性を訴える狙いの論評を次々に出している。
「金哲」氏の3日付、「朝中関係の柱を切り倒す無謀な言行をこれ以上してはいけない」と題する論評は初めて中国を名指しで批判しており(5月3日朝鮮中央通信)注目された。
中国が北朝鮮に対する圧力を強めていることを示すものと考えられる。
北朝鮮と米国-現実とイメージ(その3)
(その1)では北朝鮮の、(その2)では米国の対応をとりまとめた。その後も注目すべき動きが続いている。(米国側)
4月29日、トランプ大統領はCBSとのインタビューで北朝鮮についての考えを語った。日本では部分的に引用されたことはあっても全体的にはあまり注目されなかったが、トランプ氏の考えがよく表れていた。特に次の発言だ。
○金正恩委員長に対する評価
「人は金正恩を狂人と言うが、私は知らない。私がこう言うと多くの人が嫌うのだが、彼が父親の後継者になったのは26才とか27才の時だった。彼が相手にしているのは、軍の将軍など大変な人たち(very tough people)だ。多くの人が金正恩の権力を奪おうとしたのは確実だ。かれの叔父であったかも、あるいは他の人だったかもしれない。しかし、かれはそれをできた(He was able to do it)。彼はかなり賢い男(a pretty smart cookie)だと思う。しかし、長い間続いている北朝鮮の状況は放置しておけない。率直に言って、この問題は、オバマ政権、ブッシュ政権、クリントン政権によって処理されるべきだった。」
注 金正恩が困難な環境の中でしてきたことやその能力を理解する発言だ。また、叔父の張成沢を処刑したことについても頭から非難するのでなく、金正恩が指導者になる文脈の中で語っており、聞きようによっては肯定的に語っているとも解される話し方である。
トランプ氏のような発言をする人は他にいないと言っていることも注目される。よく計算した上での発言ではないか。
金正恩氏側の反応はまだないが、腹の中ではおそらく歓迎していると思われる。
○米朝直接対話について
5月1日のトランプ氏の「私にとって適切なものであれば、当然、会談をすることを光栄に思う」との発言は(その2)に記した。
それに引き続いて、3日、ティラーソン国務長官は国務省で、「米国は北朝鮮の政権交代を求めない。今後北朝鮮に対して話し合いを進める開放的な態度で臨む。一方、制裁をさらに進める準備も行っている」と発言(新華社電同日)。
○北朝鮮に対する強気の姿勢
米国は4月26日に続いて5月3日、ICBMの実験を行った。
同日、マティス国防長官は下院公聴会で、特殊作戦部隊を朝鮮半島に駐留させていることなどを証言。
同じく同日、ティラーソン国務長官は、米国が北朝鮮に課している制裁の強度は20~25%程度であると述べ、さらに強化する可能性もあることを示唆した。
4日、米議会下院は新制裁法案を通過、上院へ送付。内容は、北朝鮮の船舶が米国の水域に入ること、埠頭を利用することなどを禁止。北朝鮮で「強制労働」により製造された製品の米国への持ち込みを禁止。90日以内に、北朝鮮を「テロ支援国家」と指定するか否か、議会への報告を義務付けることなど。
注 米国は一方で米朝直接対話の可能性を示唆しつつ、同時に圧力をかけ続けるという硬軟両様の方針だと思われる。
○中国への期待
トランプ氏は中国が北朝鮮に対する圧力を強めるよう強く要請し、習近平氏との会談では当初中国が協力の姿勢を見せなかったので不満を表明していた。しかし、その後トランプ氏は1カ月もたたないうちに習近平氏の努力を認めるようになり、CBSとのインタビューでは「私は習近平氏を好きになり尊敬している。習主席は北朝鮮に圧力をかけている(And I will tell you, a man that I’ve gotten to like and respect, the president of China, President Xi, I believe, has been putting pressure on him also)」と表現を変えた。
注 この発言以降、トランプ氏は習近平氏が米国と協力して動いていることを何回か発言している。北朝鮮が孤立していることを強調する意味を込めていたのだろう。.
トランプ氏は中国についてCBSとのインタビューで次のようにも語った。「中国はかなり強い力を持っていると思う。しかし、究極の力ではないかもしれない(China does have reasonably good powers over North Korea. Now, maybe not, you know, ultimate, but pretty good powers)」。
注 究極の力(ultimate power)とは何か。北朝鮮がすでに保有している核兵器を放棄させる力のことだと思われる。つまり、北朝鮮の非核化を完全に実現する力は中国にはないことを認めている発言であり、興味深い。推測だが、それを実現させうるのは米国だけだということを自認しているのではないか。極めて正しい見方である。
(北朝鮮側)
硬軟両様の米国に対して、北朝鮮は一方で米韓演習や米国の軍事力の誇示に対し、「北朝鮮は恐れない。いつでも破壊できる」という趣旨のことを口汚くアピールしている。その批判は特に新味はないが、米国の行動の不当性を訴える狙いの論評を次々に出している。
「金哲」氏の3日付、「朝中関係の柱を切り倒す無謀な言行をこれ以上してはいけない」と題する論評は初めて中国を名指しで批判しており(5月3日朝鮮中央通信)注目された。
中国が北朝鮮に対する圧力を強めていることを示すものと考えられる。
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