平和外交研究所

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朝鮮半島

2017.05.31

米朝関係―ジョンズ・ホプキンス大タウン副所長の見解

5月29日の時事通信は次のように報道している。

 「米ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院・米韓研究所のジェニー・タウン(Jenny Town)副所長は29日、東京都内でインタビューに応じ、北朝鮮の相次ぐミサイル発射に関し「技術的な進展を目指す側面もあるが、政治的な理由が反映されている」と指摘、「米中両国の圧力に対する反応であり、米国が強硬姿勢で臨んでも、北朝鮮は脅しに屈しないことを示すため、さらに(ミサイル発射を)続けるのではないか」と述べた。
 29日に北朝鮮が発射した弾道ミサイルについては、先の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)の際に行われた日米首脳会談への反発などが背景にあるとの見方を示した。
 米韓研究所は北朝鮮核実験場などの衛星写真の分析で知られるウェブサイト「38ノース」を運営し、タウン氏は編集長を務めている。タウン氏は「北朝鮮は(米国との)交渉が不可能だと判断すれば核実験に乗り出すかもしれない」と予測。北朝鮮が試験発射準備が最終段階に達したと表明している大陸間弾道ミサイル(ICBM)について、目指しているのは確かだが、開発は容易でなく「仮に来年までに試射を行ったとしても、実用化には2020年ぐらいまでかかる」と分析した。
 一方で、「今後、(米朝、南北の)対話が始まる可能性はある。トランプ政権も今は対話は可能だと強調している」と語った。非核化をめぐり米朝の隔たりは大きいが、「対話を始める条件をどう設定するかだ。米国も交渉の環境を整えるには何が現実的で可能なのか、考えざるを得なくなるだろう。条件を変えるのは不可能とは思わない」と説明した。」

 つまり、米国が強硬姿勢で臨んでも、北朝鮮は脅しに屈したくないのでミサイル発射を続けるということだ。
 また、トランプ政権は、対話は可能だとの考えであり、米朝の対話が始まる可能性がある。問題は対話を始める条件をどう設定するかだ。
 
 北朝鮮による相次ぐミサイル発射や米国による空母派遣やICBMの発射実験だけでは米朝関係は一面しか分からない。トランプ大統領の発言として様々なことが伝えられているが、タウン氏のように米朝関係の目立たない側面をじっくり見ていくことが必要である。先のノルウェー会談で米朝は対話の条件を協議したのだと思う。

2017.05.25

慰安婦問題-拷問禁止委員会の勧告

 最近「拷問禁止委員会」で慰安婦問題について「勧告」が出たが、そもそも「拷問禁止委員会」と言ってもピンとこないかもしれない。しかも、慰安婦問題を扱っている委員会は複数あり、つぎつぎにいろんな場で慰安婦問題が扱われており、全体像は非常に分かりにくい。

 THE PAGEに今回の勧告を分かりやすく解説する次の一文を寄稿した。

「「拷問禁止委員会」は5月12日、2015年12月の慰安婦問題に関する日韓合意について「見直すべきだ」とする勧告を含む「最終見解」を公表しました。

拷問禁止委員会とは、1984年に国連総会で採択された「拷問禁止条約」に基づいて設置された委員会で、慰安婦問題を審議する「場」の一つです。専門家によって構成されます。

この他、国連人権理事会、国際労働機関(ILO)、女子差別撤廃条約(に基づく委員会)、国際人権規約「自由権委員会」「社会権委員会」、人種差別撤廃委員会などでも慰安婦問題が取り上げられており、全体の状況は非常に複雑ですが、いずれの「場」でもほぼ定期的に審議の結果が公表され、関係国に対して「勧告」が行われます。これには法的拘束力はありませんが、無視したりすると次回の会議ではもっと厳しい「勧告」が行われる恐れがあり、強い力があります。

このうち、国連の機関は人権理事会だけです。女子差別撤廃委員会や拷問禁止委員会などの会議は国連から独立した存在ですが、通常国連の施設を借りて行われるので、外見上国連の委員会と区別がつきません。そのためか、報道では「国連の拷問禁止委員会」、さらには「国連拷問禁止委員会」などと呼ばれることがありますが、これは正確な呼称ではありません。

同じ慰安婦問題なら、一つの委員会でまとめて扱えばいいのではないかという考えがあるかもしれませんが、切り口がそれぞれ違っており、国連人権理事会は人権問題一般、国際労働機関は各国の労働問題(その中に「強制労働」が含まれ、さらにその中で慰安婦問題が扱われます)、女子差別撤廃条約は文字通り女性に対する差別の撤廃、拷問禁止条約は女性に限らず人に対する劣悪な待遇の撤廃を扱うので、一緒にされないのです。

拷問禁止委員会では、締約国の状況について順番に審査していきます。今回の「最終見解」は、韓国に関する審査の結果として韓国政府に対して行われたものです。勧告には法的拘束力はありませんが、野党時代から日韓の慰安婦合意を批判していた文在寅大統領にとっては国際的な援軍となるでしょう。今後、韓国政府は「日韓合意の再交渉」を求めてくる恐れがあります。

日本政府としては拷問禁止委員会の勧告を踏まえ、今後慰安婦問題についてどのように対処すべきでしょうか。実はなかなか厄介な面があります。慰安婦問題は日韓間での問題であると同時に、女性の権利、とりわけ武力紛争下での性的暴力から女性を擁護する国際的運動の一環として展開されており、国際社会は日韓両国から状況を聴取するだけでなく、国際社会として意見を持っているからです。多数の「場」で慰安婦問題が取り上げられているのはそのためです。

2015年末の日韓合意後の経緯を見ますと、まず、2016年2~3月に女子差別撤廃委員会で慰安婦問題が審議され、その「最終見解」は日韓合意を「留意する」と記しました。

今回の拷問禁止委員会が日韓合意を「歓迎し」「留意する」としたのは女子差別撤廃委員会と同様ですが、「見直すべきだ」との勧告を行いました。女子差別撤廃委員会の時と比べると、その分厳しくなったと思います。

日本はこれまで慰安婦問題解決のため努力し、その説明をし、国際社会が間違った点は指摘し、反論もしてきました。にもかかわらず、国際社会の意見がこのような形で表れてきたのです。

来る6月にはILOの会議があり、11月には国連の人権理事会で日本に関する審査が行われ、慰安婦問題が取り上げられるのは確実です。そして来年以降も多数の「場」で慰安婦問題が審議されます。

今回の勧告について、日本政府はすでに反論をしたと報道されていますが、内容は分かりません。いずれにしても、日本政府はこの際、日本の対応について足りなかった点はないか、あらためて検討すべきではないでしょうか。

とくに、国際社会がどのように慰安婦問題を見ているかを知るうえで2016年3月に公表された女子差別撤廃委員会の「最終見解」が参考になります。そこでは、慰安婦問題に限らず、女性に対する差別の撤廃に関する国会の役割、女性の人権擁護に関する日本国内の諸機構、日本に残存する「固定観念と有害な慣行」、女性に対する暴力、売買春、政治への参加、教育、雇用など広範な分野においても問題点が指摘されています。国際的な女性の権利擁護運動の関心がどこにあるかが示されているのです。

また、日韓合意以前ですが、2014年7月の国際人権規約「自由権委員会」の最終見解も「加害者の訴追」など厳しい内容であり、参考にすべきです。

日韓合意は画期的な一歩でした。日本はその忠実な履行に努めていますが、今後は、国際的に展開されている女性の権利を擁護する運動の重要性をこれまで以上に踏まえた行動が必要です。」

紙面の関係上触れなかったが、「女子差別撤廃委員会の最終見解」には、「締約国(日本のこと)の指導者や公職にある者が、慰安婦問題に対する責任を過小評価し、被害者を再び傷つけるような発言はやめるよう確保すること」との勧告もあった。日本では「強制性はあったか、なかったか」大きな議論になったが、「強制性はなかった」という発言は問題視されたのだと思う。

また、「慰安婦の問題を教科書に適切に組み込むとともに、歴史的事実を生徒や社会全般に客観的に伝えられるよう確保すること」とも勧告された。日本で教科書の関連記述が減らされたことも国際社会は問題視したのである。

さらに、日本では、この女子差別撤廃委員会の「最終見解」に不満な一部の人たちが同委員会を非難する署名運動までおこした。これらの指摘は、「女子の権利を擁護する運動に日本は熱心でない。一部にはそれに逆行する動きさえ出てきている」という認識あるいは疑問が強くなったことを示唆しているのではないか。

このような解釈に同意できない人も昨年以来の経緯と状況を虚心坦懐に振り返ってみるべきだ。


2017.05.14

北朝鮮はまたミサイル実験を行った

 北朝鮮は5月14日、ミサイルの発射実験を行った。国際社会の抗議を無視し、国連安保理決議に違反し、挑発的であり、我が国に重大な脅威となる行為である。以上は、ミサイルの発射実験のたびに指摘されていることだ。前回のミサイル実験(失敗した)は4月29日であった。

 北朝鮮はなぜこのタイミングでミサイル実験を行ったのか。核やミサイルの実験は、北朝鮮の祝日や記念日に合わせて行われるとも言うが、あまり関係はなさそうだ。北朝鮮はそのようなことに重きを置いていないのではないかと思われる。

 技術的な問題だが、今回のミサイルは高度が2千キロを超えており、ICBMであった可能性もあると言う。800キロ飛ぶのに30分かかったということであれば、通常のミサイルよりかなり遅い。高く上げたためか、それともほかの理由によることか、よくわからない。

 朝鮮中央通信は15日、「新型の中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験を14日に行い、成功した。高度2111.5キロに達し、787キロ飛行した。金正恩朝鮮労働党委員長が発射に立ち会い、米国とその追随勢力が気を確かに持って正しい選択をする時まで高度に精密化、多種化された核兵器と核打撃手段をより多くつくり、必要な実験準備をいっそう推し進める」と報じた。
 米国の「正しい選択」とは何か。対話あるいは交渉の開始か、北朝鮮の承認か、それともいずれでもない第三のことか。北朝鮮の承認は交渉の目標であり、現時点では対話あるいは交渉の開始のための条件とみるのが自然であろうが、同通信の短い発表だけではいずれとも判断しかねる。 

 北朝鮮はこの他にも挑発的な行動を行っている。4人の米人を拘束したし、11日には米国のCIAと韓国の国家情報院が北朝鮮に潜入させた「テロ犯罪一党」を摘発したとする声明を発表した。

 一方、北朝鮮は5月8~9日、ノルウェーで米国と協議を行った。米朝双方とも意図的に目立たないようにしているが、北朝鮮からはチェ・ソンヒ外務省北米局長が出席した。米側は民間人が出席したので半官半民の対話だとも言われたが、米側の出席者も政府の元高官であった。要するに実質的には両国政府の非公式協議であった。
 チェ・ソンヒ氏は元首相の娘であり、北朝鮮の人にしてはかなり率直に発言する人物だ。今回の協議では、北朝鮮に捉えられている4人の米人の釈放問題が主たる議題だという観測もあったが、チェ氏はその話はしなかったと明言している。
 この協議に見られる北朝鮮の姿勢は、核やミサイルの実験とは違って普通の外交の常識にかなっていたようだ。
この協議は、5月1日、トランプ大統領が行った金正恩委員長との会談の可能性に関する発言を受けて行われたものだろう。米朝関係はこれまでの複雑な経緯のために一筋縄ではいかなくなっているが、北朝鮮としてはその実現に向けてさらに前に進めるか、米国の真意を探ろうとしているのではないか。

 北朝鮮のミサイル実験は、韓国の文在寅新政権にとってまことに都合の悪いタイミングで起こった。文在寅氏が北朝鮮に融和的であることは自他ともに認めており、就任後も「条件がととのえばピョンヤンに行く」と表明していた。また、朴槿恵政権下で配備された高高度迎撃ミサイルシステムTHAADを新政権は見直す可能性があると言われており、北朝鮮はこの点についても文在寅大統領の姿勢を積極的に評価しているはずだ。
 しかし、今回の実験について文在寅氏は「深刻な挑発行動だ」と北朝鮮を非難せざるを得なかった。南北関係がかみ合わない状態は今後も続きそうだ。

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