平和外交研究所

中国

2018.08.22

中国の台湾孤立化工作

 エルサルバドルは8月、台湾との関係を断絶し、中国と外交関係を結んだ。中国が同国に対し、経済協力を餌に圧力をかけた結果であろう。
 台湾で蔡英文政権が2016年5月に発足して以来、サントメ・プリンシペ、パナマ、ドミニカ共和国、ブルキナファソに続いて5カ国目である。中国は最近、台湾を孤立化させる工作を強化しており、今年に入ってからだけで3カ国が台湾と外交関係を断絶している。
 
 これにより、台湾と外交関係を残す国は以下の17カ国になったが、この中からもさらに続く国が出るかもしれない。
(中米)ニカラグア、グアテマラ、ホンジュラス、ベリーズ
(カリブ海地域)ハイチ、セントクリストファー・ネイビス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン
(南米)パラグアイ
(オセアニア)キリバス、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ソロモン諸島、ツバル
(アフリカ)スワジランド
(欧州)バチカン

 小国が台湾との関係を断って中国と外交関係を樹立する場合にはパターンがある。小国から台湾に対する経済・資金協力の要請が先にあり、それが大きすぎて台湾が対応しきれないと、中国が小国にとって魅力的な条件を提示する。小国はそのほうが得なので台湾から中国に乗り換えるのである。
 中国は民主的な国でないので、政府が決めればそのようなことも可能になるのであり、中国の大国主義の表れともいえるだろう。

 中国はこのほか、ヨルダンにある台湾の代表事務所に「中華民国」の表示があるのに目を付け、ヨルダン政府に対しその4文字を消去するよう求め、ヨルダン政府はそれに従ったそうだ。このように、台湾の代表事務所の名称に中国がクレームをつけるケースが他の国でも起こっている。

 ヨルダンでは文化イベントの際、台湾の「国旗」が中国当局者に引きずり降ろされる事件まで起こった。これは国際慣行にもとる暴挙である。

 台湾が各国でどのような名称を用いるかは、それぞれの国との合意に従っているはずだ。日本では「台北駐日経済文化代表処」、米国では「台北駐美國經済文化代表處」、その他の国でも同じ方式の名称が多く、「中華民国」の4文字はない。
 ヨルダンでどのような名称が用いられているか、詳細は不明だが、名称の一部に「中華民国」の4文字が残っていたのだろう。

 また、中国は各国の民間航空会社に対し、「台湾」の表記を使用しないよう求めている。これは、政治的主張を民間に半ば強制的に求める行為であるが、多くの航空会社はそれに従わないと中国からどのような制裁を受けるかわからないので従わざるを得ないようだ。
 もっとも、航空会社でよく使う名称は行き先の都市名あるいは飛行場名であり、台湾の場合、一般人の目に触れるのは「台北」や「高雄」などである。パンフレットなどには「台湾」が出てくる可能性がある。

 世界保健機関(WHO)においては、台湾は従来オブザーバーとして毎年の総会に出席していたが、2~3年前から中国が圧力をかけはじめ、今年はついにオブザーバー参加もできなかった。
 WHOは広範囲に影響が拡大する感染症などに対する対策を協議し、必要な措置を講じる機関である。状況によっては台湾が重要な役割を果たすことにもなる。そんなところへ政治問題を持ち込むべきでないが、中国は腕力で主張を通したのである。
 
 2002年、中国の広州でSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生した。翌年3月11日までに広州地域の患者数は300人に達していたが、その時点まで中国はWHOに報告しなかった。3月に入ると、中国国内および周辺の複数の国から相次いでWHOに報告されるようになった。SARSはその後アジアはもちろん、世界各地に拡散、短期間の内に患者数が激増し、大きな社会不安が引き起こされた。WHOの集計によると、最終的には感染者数8098例、死亡者数774例で死亡率9・6%に達した。中国政府の隠蔽により対応策が遅れたことが、急拡散の要因であった。

 1990年代に、中国でSARSと同じ感染症であるHIV/AIDSの感染拡大が起こった。しかし、中国政府が情報を隠匿したため対応が遅れたと言われている。1990年代後半になって、産婦人科医を中心として複数のグループから内部告発がなされ、明るみに出てきた。国際的な批判を浴びる結果にもなった。中国自身HIV感染患者の激増で苦しんだはずである。

 中国は一党独裁であり、目標を決めればあらゆる手段を使って達成しようとする。結果を生み出すのには効果的かもしれないが、そのために生じる犠牲の大きさには注意が払われないのではないか。
2018.08.10

「くまのプーさん」の上映禁止

 中国当局は、米ディズニー映画「くまのプーさん」の中国における上映を禁止したそうだ。

 その理由を中国当局は説明していないが、「くまのプーさん」が反政府的な人たちによって利用されるのを嫌ったためではないかとみられている。

 おそらくそんなところだろうとわたくしも思うが、さらに、「くまのプーさん」は特定の人に対する悪意に満ちているわけではなく、中国当局の上映禁止措置は安易に過ぎる、しかも、政府の過剰な懸念を一方的におしつけているのではないかと思われる。

中国では、現在、一方で習近平主席について偶像崇拝することを戒めているが、逆にすこしでも貶めてはいけないというのか。指導者のイメージを強権的に操作しようとしている点で両者は共通しているのではないか。

2018.07.31

中国における「個人崇拝」問題

 最近、中国では、習近平主席に対する批判が起こっていると一部のメディアが指摘している。とくに問題視されているのは「個人崇拝」の傾向である。中国では毎夏指導者が河北省北戴河で非公式の協議をする習わしがあり、そこでも話題になっているという。

 在米の中国語新聞『多維新聞』7月16日付は要旨次のように論評している。

〇米中間の貿易戦争を背景に、北戴河避暑の直前から、「個人崇拝」に関する議論が突然沸き起こってきた。

〇最近、習氏の写真やポスターを即刻撤去するよう警察が指示したとする文書がインターネット上で拡散した。今月初めには、上海で董瑶琼という名前の女性が「独裁、暴政に反対する」と叫びながら、習氏の写真に墨汁をかける事件が起こった。

〇政府も習近平の宣伝頻度を下げている。人民日報7月9日付は、1面の見出しの中に習氏の名前を出さなかった。

〇政治状況に詳しいある人物は「政変」はあり得ないと言いつつ、「個人崇拝」を生み出す原因に注目すべきだと述べている。

〇中国では、毛沢東の「個人崇拝」から文化革命がおこった苦い経験から、「個人崇拝」を排除し、集団指導によることにした。

〇しかし、胡錦涛の時代、またもや「船頭多くして船進まず」や「中南海から指示が出ない」現象が現れた。

〇そこで第18回党大会の前後、党の集中統一的指導を強化し、内政・外交両面で現れていた問題を克服する試みが行われた。

〇しかし、この時の調整にも問題があった。諸団体の活力を抑制したため、個人崇拝の傾向を復活させたのだ。

〇個人崇拝は中国政治において周期的に現れる問題である。中央が「政治意識」「大局的意識」「核心意識」「右に倣う意識」を強調すると、上から下への統制が強化され、結果、本来細かいことでも大きな事にし、厳しい罰を課すようになる。また、下から上へお世辞を言うようになる。

〇西側の政治と中国の政治は違う。前者においては意見の集約が困難なためそれだけ能率が悪くなる。中国はその逆であるが、中国政治においては階層、官民の区別と対立が重要な問題になる。中国型の権力集中型政治は体制の硬化を惹起しやすく、西側の政治より早く老化する。

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