平和外交研究所

中国

2018.06.18

中国は軍の有償業務を年末までに廃止する?

 まず、2017年4月15日にアップした「中国軍における「有償業務」の廃止」を再掲する。中国軍の「有償業務」はあまりにも特殊だからである。

 「中国軍における反腐敗運動について当研究所は数回論評してきた。最近では2月6日に「中国軍の改革―反腐敗運動はいまだ進まず」を掲載し、軍における反腐敗運動として様々なことが行われたが、習近平主席は不満であり、「軍は骨の髄まで腐りきっているので改革が必要だ。解放軍の魂を作り替えなければならない」とまで言う人もいることを紹介した。以下は軍改革のフォローアップである。

 中国の軍には「有償業務」なるものがある。抗日戦争を戦っていたとき以来の伝統というか、習慣として認められてきたことだ。中国以外では、何のことかよくわからないだろう。たとえば、医官が外部で治療を施し、それに対する報酬をえれば「有償業務」となる。日本の自衛隊病院でも自衛隊員のみならず、一般人も有償で診察・治療を受けることができるので中国軍と似ているが、自衛隊についてはこのような業務は例外的だ。しかし、中国軍では「有償業務」が一般的に認められている。
 具体的には、中国軍は通信、人材育成、文化体育、倉庫、科学研究、接客、医療、建築技術、不動産有償貸与、修繕など10業種は正規に認められており、そのほか、民兵の装備の修理、幼児教育、新聞の出版、農業の副業、運転手の訓練なども有償で行われているそうだ。
 「通信」とは民間のために通信を代わって行うことだとすれば、日本の感覚ではとんでもないことをしているように思われる。
 「倉庫」とは何か。民間のために物資を有償で保管することと聞こえるが、こんなことをしていてよいの?
 「幼児教育」? 一体何事か。

 中国軍は一方で核兵器やICBMをもちながら、このようにとてもプロとは思えないことをしているのが実情だ。しかし、中国の指導者は以前からそれではいけないという認識であり、たとえば習近平の前任の胡錦濤も盛んに軍の専門化、つまりプロ化が必要だと主張していた。

 習近平は胡錦濤より徹底的に軍のプロ化をすすめており、「有償業務」を廃止することとしたのはその一環である。決定は2015年11月、中央軍事委員会改革工作会議で行われた。その結果、2016年11月末現在で、40%の有償業務が廃止されたという。
 残っているのは、不動産業、農業、接客業(ホテル業?)、医療、科学研究などで現在それらを廃止する計画を策定中である。
しかし、これで軍のプロ化はほんとうに達成されるか。最初の1年間で40%達成したというのはかなりの実績のように聞こえるが、形を変えて残っていないか。今後も順調に有償業務の廃止が進むか。疑問の念は簡単に払しょくできない。」
 

 2018年6月11日、中共中央は「軍による有償業務の全面的停止を深く推進することに関する指導意見」を発表した。年末までにすべての有償業務を廃止することを求めるのがその趣旨だ。
 昨年5月31日の新華社報道では2018年6月までに有償業務を停止することになっていたので、半年ずれることになったのだ。この期間であれば深刻な問題でなさそうだが、在米の華字紙『多維新聞』や香港の『明報』などは有償業務の廃止に抵抗する力が働いていることをあらためて指摘している。
 
 この「指導意見」は、廃止の期日が到来した場合、その延長は許されないこと、補償が必要な場合国家が補償すること、などを指示しているが、抜け道があると解する余地もありそうだ。
 たとえば、有償で貸与されている軍の資産で、所在地の発展計画に入っている場合、廃止が社会経済の発展に悪影響を及ぼす場合、契約期間が長い場合、軍事利用価値が高い場合には、一律に廃止してしまうのでなく、「委託管理」する可能性を残している。これは、つまり、軍がその資産を地方政府や民間に管理業務を委託することではないか。そうであれば、現在の有償業務と何が変わるのか、どうもはっきりしない。

 一方、「指導意見」は今後、業務の許可、空き地や農業用地の利用、ホテル経営などはすべて中央軍事委員会が統一的に管理することを謳っている。この点「指導意見」の考えは明確だが、このような改革がいわゆる軍の「専門化」、産軍一体の伝統からの脱却に決定的な対策となるか疑問の余地がある。
 
2018.06.11

中国でのトラック運転手によるストライキ

 現在、中国では1年間に万の台に上る数の集団抗議事件(「群体性事件」と呼ばれる)が起こっている。その中で比較的多いのが、土地の再開発・収用に関する事件であり、企業でもよくデモが起こっている。

 香港紙『明報』6月11日付が伝えるトラック運転手によるストライキは比較的珍しい。このような事件が珍しいのでなく、報道されることが少ないと見るべきだろう。

〇去る5月にクレーン車の運転手による大規模なストライキが起こったのに引き続き、トラックの運転手が全国規模で抗議する動きを見せている。
〇不満の原因は、燃料の高騰、運送費の低迷、交通を管理する当局が罰金を恣意的に課するなど搾取していることなどである。
〇山東、四川両省ではすでにストが始まった。
〇一部地域ではスト決行を予定日より早めている。また、全国3千万人のトラック運転手に参加を呼び掛けている。
〇各地でストライキしている運転手は、車を高速道路、国道、駐車場などに止めてストを行っている。料金所を占拠している者もいる。物流基地でデモを行っている例もある。
2018.06.06

中国は外国航空会社に台湾の呼称を改めるよう要求

 去る4月、中国の民航当局は外国の航空会社に対し、「台湾」の呼称を改めるよう要求した。対象となった会社は30以上。日本の会社は含まれていないようだ。‘Chinese Taipei’ならよいという。
 台湾の名称は複雑だ。各国での扱い、国際機関での扱い、民間での扱いの3つの次元を区別して見ていく必要がある。
 国のレベルでは、まず、日本政府は「台湾」を使っている。日本と台湾の間には外交関係がないので、実務を処理する公益財団法人が設置されており、その名称は2017年1月1日から、「公益財団法人日本台湾交流協会」に変更されている。この名称はこの財団法人が独自で決めたのではなく、日本政府の事実上の承認を得ている。
 米国は台湾との関係を法律、Taiwan Relations Actで定めており、‘Taiwan’と呼んでいる。後で述べる’Republic of China’は使用していない。
 当事者である台湾では、「中華民国」が正式の呼称であり、通称は「台湾」であるが、むしろこの通称のほうが好まれる傾向がある。
 
 中国は「中華民国」という名称を認めない。逆に、台湾も「中華人民共和国」という中国の正式名称を認めない。両者は、法的には、今でも内戦状態にあるからだ。
 中国は、また、「台湾」については、中国の一部であることが表示されれば構わないという立場のようにも見受けられるが、実際には「中国台北」という名称を使っている。
 なお、台湾では、この「中国台北」は受け入れないが、「中華台北」ならしぶしぶだが、受け入れている。どちらも奇妙な名称だが、何が違うのか。「中国台北」では中国が前面に出るので、中国政府は、それでよいとし、台湾は同じ理由で受け入れないのだ。しかし、「中華台北」であれば、「中華」は「中華民国」にも入っているので受け入れているのだろう。
 いずれにしても、この違いは台湾や中国にとっては重要なのだろうが、漢字を使わない大多数の国にとっては、いずれの訳も’Chinese Taipei’となり、どちらでも構わないということになる。
 国際機関においては、国連での扱いがモデルになる。1971年、中国を代表するのは「中華民国」でなく「中華人民共和国」となって以来、国連には台湾を表示する機会が原則的になくなった。
 しかし、統計などではどうしても台湾に言及する必要があり、その場合には、長い注を付けて誤解のないようにしている。
 たとえば、国連には「世界地理区分」という統計スキームがある。そのなかで、「アジア」とはどの国と表示されており、台湾を無視することはできない。そこで国連は、次の注を付けている。
Note on Taiwan
Several institutions and research papers using classification schemes based on the UN geoscheme include Taiwan separately in their divisions of Eastern Asia. (1) The Unicode CLDR’s “Territory Containment (UN M.49)” includes Taiwan in its presentation of the UN M.49. (2) The public domain map dataset Natural Earth has metadata in the fields named “region_un” and “subregion” for Taiwan. (3)The regional split recommended by Lloyd’s of London for Eastern Asia (UN statistical divisions of Eastern Asia) contains Taiwan. (4) Based on the United Nations statistical divisions, the APRICOT (conference) includes Taiwan in East Asia. (5) Studying Website Usability in Asia, Ather Nawaz and Torkil Clemmensen select Asian countries on the basis of United Nations statistical divisions, and Taiwan is also included. (6) Taiwan is also included in the UN Geoscheme of Eastern Asia in one systematic review on attention deficit hyperactivity disorder.
 国際的には、国連など国際機関と並んで、国際スポーツ団体でも台湾を表示する必要があり、国際オリンピック連盟では’Chinese Taipei’名義を用いている。競技種目ごとに国際団体があるが、このオリンピック方式に倣っている。
 民間での呼称は国際的に決まっているわけではない。個人、あるいは個々の企業が決めることだが、通常は所属国政府が用いている呼称、具体的には’Taiwan’を用いている。今回中国の民航当局から通告を受けた企業も、確かめたわけではないが、’Taiwan’としているのだろう。中国政府はこれを嫌い、今般の通告を発したのだ。
 オーストラリアのカンタス航空はこの通告を受け入れる方針だと伝えられているが、米国企業がどう対応するかは不明だ。
かりに、航空会社が中国の通告に従わなければ、中国への飛行を、適当な理由で阻まれることになるのだろう。それは困るので、中国政府の言うなりに対応するということである。

 米ホワイトハウスのサンダーズ報道官は5月5日、中国の通告を厳しく批判して、”We call on China to stop threatening and coercing American carriers and citizens.” “part of a growing trend by the Chinese Communist Party to impose its political views on American citizens and private companies.”と述べ、また、中国当局の要求は “Orwellian nonsense”だともこき下ろした。「ジョージ・オーウェルが書いた『ナンセンス詩』のようにわけのわからない話だ」という意味であろうか。
ナンセンスかどうかはともかく、サンダーズ報道官の言うとおりである。中国は最近台湾の孤立化を進めようと躍起になっている。世界保健機関(WHO)オブザーバー参加を阻んだのも中国の差し金だ。要するに、中国は台湾統一を実現するためにあらゆる可能な手段を用いているのである。
 さらに注目すべきは、中国が、市場が巨大であることを利用して、強引に主張を通そうとしていることである。
 
 日本の場合は、日本航空も全日本空輸も、日本政府と同様「台湾」と表示している。中国は日本の航空会社に対しても同様の要求をしてくるか、今のところ不明であるが、このような政治的な問題に日本の企業を巻き込まないよう願いたいものだ。

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