平和外交研究所

中国

2017.04.26

世界保健機構(WHO)年次総会への台湾の出席問題

 今年のWHO年次総会(WHA)は5月22~31日、ジュネーブで開催される。例年通りだ。しかし、中国は台湾の出席を阻止、あるいは条件を付けようと工作しているらしい。その理由は蔡英文総統が「一つの中国」に関する中国側の主張を認めないからである。
 
 昨年の総会の場合、蔡英文総統は5月20日に就任した直後に難題に直面することとなったが、ひと悶着があったのち、結局認められた。それ以来、中国は何とかして蔡英文総統を中国の主張に従わせようと試みてきたが、奏功しなかった。
 そして、今年もWHAの開催が近づいてきたのであり、中国語のメディアは関連の報道を始めている。今年の場合、そのような経緯があっただけに、中国は昨年以上に圧力を強めている可能性がある。
 問題の性質は変わっていないので、昨年本研究所のHPに掲載した一文の関係部分をほぼそのまま掲載する。

「2016.05.20 台湾の蔡英文新総統の就任とWHOで起こっている不可解な事実

新総統就任の3日後から、ジュネーブで世界保健総会が開催される。WHO(世界保健機構)の年次総会だ。
 台湾は7年前から「Chinese Taipei 中華台北」の名称でオブザーバー参加してきた。ところが今年の招待状には例年と異なり、中国大陸と台湾が不可分であるとする「一つの中国」の原則を強調する特記事項が、45年前に国連で採択された決議の引用とともに記されていた。国連での中国の代表を「中華民国」から「中華人民共和国」に変更した決議である。末尾に引用しておく。
 中国のある高官は、今年は台湾の代表を世界保健総会に全く招待しないことになるだろうという発言をしたことが別途報道されていた。しかし、台湾をWHOのオブザーバーとして招待することとしたのは、WHOのメンバー国の総意である。中国が要求したからと言って、そのような特記事項を恣意的につけることはできないので、中国とWHOの事務局の間で工夫した結果、特記事項としたのだろう。
 しかし、それでも異論が出る可能性があり、わが国としても対応を迫られることがありうる。

 この招待状について、台湾の外交部は5月7日付で、次のような立場を表明した。
「WHOが我が国を「中華台北」の名称、オブザーバーの資格、衛生福利部長(大臣)の肩書きで今回のWHO総会に8回目となる招請を行ったことに対して、我が国政府はこの発展を前向き受け止めている。今年の招待状に国連総会第2758号決議、WHO総会第25.1号決議、並びに上述の文書の中に「1つの中国原則」が言及されたことは、WHOが一方的に独自の立場を陳述したものに過ぎない。我が国政府は過去8年間、両岸は「92年コンセンサス、『1つの中国』の解釈を各自表明する」を交流の基礎とし、衛生福利部の訪問団がWHO総会に参加することも含め、実務的に関連テーマを処理してきた。我が国がWHO総会に参加する意義、価値および貢献は、国民および国際社会が広く評価するところである。」
 これは冷静な対応だと思う。

 総じて、中国の台湾に対する態度は大国主義的、強権的ではないか。少なくとも台湾人の心をつかむには逆効果となる姿勢だと思う。

Resolution 2758 (XXVI)
THE GENERAL ASSEMBLY,
Recalling the principles of the Charter of the United Nations,
Considering the restoration of the lawful rights of the People’s Republic of China is essential both for the protection of the Charter of the United Nations and for the cause that the United Nations must serve under the Charter.
Recognizing that the representatives of the Government of the People’s Republic of China are the only lawful representatives of China to the United Nations and that the People’s Republic of China is one of the five permanent members of the Security Council,
Decides to restore all its rights to the People’s Republic of China and to recognize the representatives of its Government as the only legitimate representatives of China to the United Nations, and to expel forthwith the representatives of Chiang Kai-shek from the place which they unlawfully occupy at the United Nations and in all the organizations related to it.
1967th plenary meeting
25 October 1971」

 なお、中国の蔡英文総統に対する圧力の強化については、「2016.06.08(短文)中国の蔡英文新政権に対するハラスメント」にも関連の状況を記載している。ご参考まで。

2017.04.15

中国軍における「有償業務」の廃止

 中国軍における反腐敗運動について当研究所は数回論評してきた。最近では2月6日に「中国軍の改革―反腐敗運動はいまだ進まず」を掲載し、軍における反腐敗運動として様々なことが行われたが、習近平主席は不満であり、「軍は骨の髄まで腐りきっているので改革が必要だ。解放軍の魂を作り替えなければならない」とまで言う人もいることを紹介した。以下は軍改革のフォローアップである。

 中国の軍には「有償業務」なるものがある。抗日戦争を戦っていたとき以来の伝統というか、習慣として認められてきたことだ。中国以外では、何のことかよくわからないだろう。たとえば、医官が外部で治療を施し、それに対する報酬をえれば「有償業務」となる。日本の自衛隊病院でも自衛隊員のみならず、一般人も有償で診察・治療を受けることができるので中国軍と似ているが、自衛隊についてはこのような業務は例外的だ。しかし、中国軍では「有償業務」が一般的に認められている。
 具体的には、中国軍は通信、人材育成、文化体育、倉庫、科学研究、接客、医療、建築技術、不動産有償貸与、修繕など10業種は正規に認められており、そのほか、民兵の装備の修理、幼児教育、新聞の出版、農業の副業、運転手の訓練なども有償で行われているそうだ。
 「通信」とは民間のために通信を代わって行うことだとすれば、日本の感覚ではとんでもないことをしているように思われる。
 「倉庫」とは何か。民間のために物資を有償で保管することと聞こえるが、こんなことをしていてよいの?
 「幼児教育」? 一体何事か。

 中国軍は一方で核兵器やICBMをもちながら、このようにとてもプロとは思えないことをしているのが実情だ。しかし、中国の指導者は以前からそれではいけないという認識であり、たとえば習近平の前任の胡錦濤も盛んに軍の専門化、つまりプロ化が必要だと主張していた。

 習近平は胡錦濤より徹底的に軍のプロ化をすすめており、「有償業務」を廃止することとしたのはその一環である。決定は2015年11月、中央軍事委員会改革工作会議で行われた。その結果、2016年11月末現在で、40%の有償業務が廃止されたという。
 残っているのは、不動産業、農業、接客業(ホテル業?)、医療、科学研究などで現在それらを廃止する計画を策定中である。
しかし、これで軍のプロ化はほんとうに達成されるか。最初の1年間で40%達成したというのはかなりの実績のように聞こえるが、形を変えて残っていないか。今後も順調に有償業務の廃止が進むか。疑問の念は簡単に払しょくできない。
 

2017.04.14

トランプ大統領と中国

 北朝鮮は第6回目の核やミサイルの実験を強行するか、もしそうすれば米国は先制攻撃するか。今世界の注目はこの点に絞られている感があるが、米国が先制攻撃する可能性は低いことを4月13日、当研究所HPの「トランプ大統領は北朝鮮攻撃を決断するか」で書いた。
 
 この問題をめぐる米国と中国の関係は複雑だし、それによく変わる。トランプ大統領は4月6~7日に習近平主席と会談したが、記者会見も発表も行われなかった。合意したことが少なかったからだろうが、12日、トランプ大統領はFOXニュースの番組「FOXニュース・ビジネス」のインタビューでシリア攻撃について習近平国家主席に対し説明した時、習氏は次のような反応だったという(翌日の『ハッフィントン・ポスト』報道による。読みやすくするため若干手を加えた)。
「習氏は10秒くらい何も言わなかったが、通訳を通じて『もう1度言ってほしい』と聞き返してきた。それから習氏は『小さな子供や赤ん坊にまで化学兵器を使う残忍な人には、ミサイルを発射しても大丈夫だ』と言った。習氏は怒らなかった。大丈夫だった。」
 
 このほか、両者の会談では、トランプ氏から中国が一層努力すべきだと説得したのは間違いない。しかし、これだけであれば何十回と試みたことの繰り返しに過ぎないが、トランプ氏はさらに、「私は中国の習近平主席に説明した。中国が北朝鮮問題を解決するなら、米国との通商交渉ははるかによいものとなると」言っていた。これは11日のツイッターで述べたことであり、この発言はいかにもトランプ氏らしい。「カネで釣ろうとしている」とも解される恐れのある発言だが。

 一方、習氏は、中国の影響力には限界がある、話し合いで解決することが必要だと述べたのだろう。米側からの求めで両氏が12日、再び電話会談した際、やはり「習近平主席は平和的な方法で問題を解決すべきだ」と述べたと中国外務省が説明している。習氏は同じ姿勢だったのだ。
 トランプ氏が電話したのは、空母と攻撃能力が高い潜水艦を朝鮮半島に派遣したことを伝えるためだったと言われている。米国の本気度を示そうという気持ちもあったと思われる。

 以上は、米中関係がこれまでとあまり変化がないことを示しているが、進展しつつあることを示唆することも出てきた。
 12日、安保理はシリアで化学兵器が使われた疑惑について、同国政府に調査への協力を求める決議案の採決を行った。ロシアが拒否権を行使して廃案となったが、中国は棄権した。
 翌日、スパイサー大統領報道官は記者会見で「 China’s abstention is a significant win for the President. He went down and had discussions with President Xi and I think you all saw that, heard his remarks about how he walked through. It really shows the success of the trip, first and foremost.」と述べた。トランプ大統領が習近平主席に働きかけたので中国は「ノー」でなく「棄権」にとどめたというのだろう。

 トランプ大統領自身も、「12日の一連の会見やインタビューで、習近平主席との「絆」に言及した」(12日、ロイター電)。「習近平国家主席は適切に行動しようとしている。(中国に向かった北朝鮮の石炭貨物船が引き返したとし)中国が懸命に努力しようとしている」と評価した(『朝日新聞』14日付)。
 また、就任前から繰り返し中国批判を180度転換させ、中国を為替操作国には認定しないとの意向を示した(12日、『ウォールストリート・ジャーナル』)。
 
 中国は米国に対し一定の配慮はしているだろうが、トランプ大統領は変わり身が早く、予測困難であり、基本的にはこれからも警戒し続けるだろう。
 同時に、「一つの中国」問題で中国側が断固とした姿勢でトランプ大統領を変えさせたことから、トランプ大統領は意外とくみしやすいという見方が中国にあるようだ。分からないでもないが、中国の指導者がそこまで自信を持てるようになっているとは思えない。
 ともかく、そのような可能性も含めて米中関係を見ていく必要がありそうだ。

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