中国
2020.07.28
「関与政策」は1972年にニクソン大統領が始めた。ポンペオ氏がこの演説をニクソン氏の生まれ故郷に設立されている「ニクソン図書館・博物館」で行ったのは、ニクソン大統領を批判するためでなく、今後は「関与政策」と全く異なる中国政策が必要であることを強調するためだったのであろう。我々から見れば若干芝居じみているが、米国ではよく行われることである。
ポンペオ長官が標的にしたのは「中国」でなく、「中国共産党」であった。習近平総書記については、「中国共産党はマルクスレーニン主義のレジームであり、習近平総書記は正統性を失っている(bankrupt)全体主義イデオロギーの信奉者である」、「習近平総書記はわれわれが油断しない限り中国の内外をいつまでも専制支配することはできないGeneral Secretary Xi is not destined to tyrannize inside and outside of China forever, unless we allow it.」と述べたが、主たる目標は中国共産党であったことは明らかである。
ポンペオ氏は中国共産党批判のため非常に強い表現を使った。「覇権を狙っている」、「ウィンウィンというが米国は安全でなくなっている」、「毒気を含んだ中国共産党は中国国内ではますます独裁的になり、対外的にはますます自由に敵対的になる」、「かつて旧ソ連についてレーガン大統領は『信用する、しかし検証する』と言ったが、中国共産党については『信用せず、検証する』である」、「共産党支配下の中国はノーマルな国でない」などである(この段落での引用は、キーワードは残しつつ、文章的には若干編集した)。
演説中、ポンペオ氏は米中間に存在している、事実上すべての問題をやり玉に挙げた。列挙すると煩雑になるが、米国の中国に対する不満がいかに広範にわたっているかが確認できる。
新型コロナウイルスの感染への対応
中国共産党を支える人民解放軍、宇宙への侵略、核戦力
東シナ海・南シナ海・台湾海峡などでの公海の自由の侵害
米国内でのスパイ活動、サイバー攻撃、知的財産権の侵害
総領事館の閉鎖
香港や新疆自治区における民主的活動の抑圧、人権蹂躙
台湾への締め付け強化
西側の各種企業に対する圧力
共産党をバックとした中国企業(ファーウェイを例示)
これらの問題を挙げつつ、ポンペオ氏は次の諸点を強調した。
「我々が中国に求めているのは公平性、相互性、透明性、アカウンタビリティである」
「中国の指導者は中国人を恐れている。我々は中国人を助けエンパワーしなければならない。」
「我々は自由を守るため、どんなに困難でも努力しなければならない。中国共産党の脅威から我々の自由を守るのは時代の要請である」
「我々が今行動しなければ中国共産党は我々の自由を侵害し、ルールに基づいた秩序を覆すだろう。自由世界が中国共産党を変えなければ、彼らは我々を変えるだろう。」
「我々が弱い態度を取れば我々の子孫は中国共産党の言いなりになってしまうかもしれない。」
「中国について同じ考えの国々が新しいグループを、新しい民主主義の同盟を形成すべき時が来ているのかもしれない。」
「自由主義諸国の間で覚醒awakeningが起こりつつある。」
ポンペオ長官による中国共産党に対する包括的、具体的批判は、我々第三者としても共有できる点を含んでいるが、同長官が力説する今後の対中政策は「関与政策」とはまったく違ったものになるか。50年前に「関与政策」を始めたときのように画期的な政策となるか、疑問の余地もある。
ニクソン大統領が「関与政策」を始めたとき、中国との関係を見直さなければならないという考えはすでに国際的に広く共有されつつあった。その象徴が、国連における中国代表権問題であり、1971年10月の国連総会において、中国を代表する政権は中華民国(台湾)でなく、中華人民共和国だとする決議が成立していた。だから、ニクソン大統領の「関与政策」は日本を含め各国に支持されたのであった。
しかるに現在、各国は中国共産党と対決する姿勢を固めているわけではない。我が国においても中国との関係改善を重視する声は少なくない。また、経済面で各国は50年前とは比較にならないくらい中国へ依存するようになっている。
トランプ大統領自身も完全に中国共産との関係を見切ったのではなかろう。だから自身はいずれ習近平主席と再度交渉することになるという思いを秘めつつ、強い中国共産党批判の演説をポンペオ長官に任せた。そういう役割分担が大統領選を控え最適だと判断したのではないか。要するに一種の「寸止め」にしたのである。
もっとも、ポンペオ長官の演説を大統領選向けの政治的ジェスチャーと単純化すべきでない。トランプ政権が「同じ考えの国々が新しいグループを、新しい民主主義の同盟を形成すべき時が来ているのかもしれない」というのは、米国の感じている中国共産党に対する強い不満の表れであろう。
総じて、ポンペオ長官の演説が画期的な新しい政策の始まりとなるかについてはまだ不確定要因が残っていると思われる。
米国の新中国政策
ポンペオ米国務長官は7月23日、新しい中国政策について重要演説を行った。これまで約50年間対中政策の基本であった「関与政策(engagement 中国を国際社会の一員として迎え入れ、変化を促していく政策)」からの決別を宣言するものであり、むしろ大統領の演説に相応しい内容であった。トランプ大統領が自ら演説しなかった理由は本稿の末尾で述べることとしたい。「関与政策」は1972年にニクソン大統領が始めた。ポンペオ氏がこの演説をニクソン氏の生まれ故郷に設立されている「ニクソン図書館・博物館」で行ったのは、ニクソン大統領を批判するためでなく、今後は「関与政策」と全く異なる中国政策が必要であることを強調するためだったのであろう。我々から見れば若干芝居じみているが、米国ではよく行われることである。
ポンペオ長官が標的にしたのは「中国」でなく、「中国共産党」であった。習近平総書記については、「中国共産党はマルクスレーニン主義のレジームであり、習近平総書記は正統性を失っている(bankrupt)全体主義イデオロギーの信奉者である」、「習近平総書記はわれわれが油断しない限り中国の内外をいつまでも専制支配することはできないGeneral Secretary Xi is not destined to tyrannize inside and outside of China forever, unless we allow it.」と述べたが、主たる目標は中国共産党であったことは明らかである。
ポンペオ氏は中国共産党批判のため非常に強い表現を使った。「覇権を狙っている」、「ウィンウィンというが米国は安全でなくなっている」、「毒気を含んだ中国共産党は中国国内ではますます独裁的になり、対外的にはますます自由に敵対的になる」、「かつて旧ソ連についてレーガン大統領は『信用する、しかし検証する』と言ったが、中国共産党については『信用せず、検証する』である」、「共産党支配下の中国はノーマルな国でない」などである(この段落での引用は、キーワードは残しつつ、文章的には若干編集した)。
演説中、ポンペオ氏は米中間に存在している、事実上すべての問題をやり玉に挙げた。列挙すると煩雑になるが、米国の中国に対する不満がいかに広範にわたっているかが確認できる。
新型コロナウイルスの感染への対応
中国共産党を支える人民解放軍、宇宙への侵略、核戦力
東シナ海・南シナ海・台湾海峡などでの公海の自由の侵害
米国内でのスパイ活動、サイバー攻撃、知的財産権の侵害
総領事館の閉鎖
香港や新疆自治区における民主的活動の抑圧、人権蹂躙
台湾への締め付け強化
西側の各種企業に対する圧力
共産党をバックとした中国企業(ファーウェイを例示)
これらの問題を挙げつつ、ポンペオ氏は次の諸点を強調した。
「我々が中国に求めているのは公平性、相互性、透明性、アカウンタビリティである」
「中国の指導者は中国人を恐れている。我々は中国人を助けエンパワーしなければならない。」
「我々は自由を守るため、どんなに困難でも努力しなければならない。中国共産党の脅威から我々の自由を守るのは時代の要請である」
「我々が今行動しなければ中国共産党は我々の自由を侵害し、ルールに基づいた秩序を覆すだろう。自由世界が中国共産党を変えなければ、彼らは我々を変えるだろう。」
「我々が弱い態度を取れば我々の子孫は中国共産党の言いなりになってしまうかもしれない。」
「中国について同じ考えの国々が新しいグループを、新しい民主主義の同盟を形成すべき時が来ているのかもしれない。」
「自由主義諸国の間で覚醒awakeningが起こりつつある。」
ポンペオ長官による中国共産党に対する包括的、具体的批判は、我々第三者としても共有できる点を含んでいるが、同長官が力説する今後の対中政策は「関与政策」とはまったく違ったものになるか。50年前に「関与政策」を始めたときのように画期的な政策となるか、疑問の余地もある。
ニクソン大統領が「関与政策」を始めたとき、中国との関係を見直さなければならないという考えはすでに国際的に広く共有されつつあった。その象徴が、国連における中国代表権問題であり、1971年10月の国連総会において、中国を代表する政権は中華民国(台湾)でなく、中華人民共和国だとする決議が成立していた。だから、ニクソン大統領の「関与政策」は日本を含め各国に支持されたのであった。
しかるに現在、各国は中国共産党と対決する姿勢を固めているわけではない。我が国においても中国との関係改善を重視する声は少なくない。また、経済面で各国は50年前とは比較にならないくらい中国へ依存するようになっている。
トランプ大統領自身も完全に中国共産との関係を見切ったのではなかろう。だから自身はいずれ習近平主席と再度交渉することになるという思いを秘めつつ、強い中国共産党批判の演説をポンペオ長官に任せた。そういう役割分担が大統領選を控え最適だと判断したのではないか。要するに一種の「寸止め」にしたのである。
もっとも、ポンペオ長官の演説を大統領選向けの政治的ジェスチャーと単純化すべきでない。トランプ政権が「同じ考えの国々が新しいグループを、新しい民主主義の同盟を形成すべき時が来ているのかもしれない」というのは、米国の感じている中国共産党に対する強い不満の表れであろう。
総じて、ポンペオ長官の演説が画期的な新しい政策の始まりとなるかについてはまだ不確定要因が残っていると思われる。
2020.07.09
中国の意図は何であったか。軍事プレゼンスを誇示するのが狙いだというコメントもあるが、なぜ軍事プレゼンスを誇示する必要があったのかが問題である。
米国務省は7月2日、中国の軍事演習は「南シナ海の状況をさらに不安定にする」と懸念を表明していた。中国政府はこれに対し、「米国は中国と東南アジア諸国との間に不和の種をまこうとしている」と批判したが、米軍はそれにかまわず、4日、南シナ海に原子力空母「ニミッツ」と「ロナルド・レーガン」を派遣し、大規模な軍事演習を行った。空母2隻が参加する演習は6年ぶりであった。
3海域演習に先立ち、中国の官船「海警」(海上保安庁巡視船に相当)は6月21日、尖閣諸島周辺で日本の漁船を追い回した。また7月2日から3日夜にかけて、2隻の「海警」が約30時間にわたって尖閣諸島周辺の日本の領海に侵入した。これは8年前に日本政府が尖閣諸島を国有化して以降、最も長い領海侵犯であった。
中国は過去数週間、活動を非常に活発化させているのである。その意図を判断する材料は乏しく、いたずらに推測を重ねるべきでないが、しいて言えば、新型コロナによる感染問題で約半年間国内が陰鬱な気分に陥っていたことと関係があるかもしれない。
中国の国営中央テレビなどは、演習に投入されたミサイル駆逐艦をはじめ、南部、東部、北部の3戦区の部隊が同時期にそれぞれ演習を実施し、実際に火力を使うなどの映像を公開した。これらをみると、今回の演習では国内に向けて軍事力を誇示し、一種の景気づけを行う目的もあったのではないかと思われる。
中国の「海警」が尖閣諸島周辺の日本の領海に執拗に侵入したことは看過できないが、今のところ、日本の海上自衛隊が出動するべき状況でない。出動すれば、尖閣諸島を日中間の紛争の対象としたい中国海軍は、待ってましたと言わんばかりに問題を拡大しようとするだろう。
日本として取るべき対応は、中国船を追い払うことはもちろん、「海警」の尖閣諸島周辺での行動を、海上からだけでなく衛星からも子細に撮影しておくことと、南シナ海、東シナ海、黄海における中国軍の演習の影響を受ける恐れがある国々と情報交換など連携を強化することであろう。
中国軍の演習など
中国軍は7月6日までに、南シナ海、東シナ海および黄海で一斉に軍事演習を行った。当初予告していたのは南シナ海での演習であったが、範囲を広げて異例の3海域同時大演習としたのである。中国の意図は何であったか。軍事プレゼンスを誇示するのが狙いだというコメントもあるが、なぜ軍事プレゼンスを誇示する必要があったのかが問題である。
米国務省は7月2日、中国の軍事演習は「南シナ海の状況をさらに不安定にする」と懸念を表明していた。中国政府はこれに対し、「米国は中国と東南アジア諸国との間に不和の種をまこうとしている」と批判したが、米軍はそれにかまわず、4日、南シナ海に原子力空母「ニミッツ」と「ロナルド・レーガン」を派遣し、大規模な軍事演習を行った。空母2隻が参加する演習は6年ぶりであった。
3海域演習に先立ち、中国の官船「海警」(海上保安庁巡視船に相当)は6月21日、尖閣諸島周辺で日本の漁船を追い回した。また7月2日から3日夜にかけて、2隻の「海警」が約30時間にわたって尖閣諸島周辺の日本の領海に侵入した。これは8年前に日本政府が尖閣諸島を国有化して以降、最も長い領海侵犯であった。
中国は過去数週間、活動を非常に活発化させているのである。その意図を判断する材料は乏しく、いたずらに推測を重ねるべきでないが、しいて言えば、新型コロナによる感染問題で約半年間国内が陰鬱な気分に陥っていたことと関係があるかもしれない。
中国の国営中央テレビなどは、演習に投入されたミサイル駆逐艦をはじめ、南部、東部、北部の3戦区の部隊が同時期にそれぞれ演習を実施し、実際に火力を使うなどの映像を公開した。これらをみると、今回の演習では国内に向けて軍事力を誇示し、一種の景気づけを行う目的もあったのではないかと思われる。
中国の「海警」が尖閣諸島周辺の日本の領海に執拗に侵入したことは看過できないが、今のところ、日本の海上自衛隊が出動するべき状況でない。出動すれば、尖閣諸島を日中間の紛争の対象としたい中国海軍は、待ってましたと言わんばかりに問題を拡大しようとするだろう。
日本として取るべき対応は、中国船を追い払うことはもちろん、「海警」の尖閣諸島周辺での行動を、海上からだけでなく衛星からも子細に撮影しておくことと、南シナ海、東シナ海、黄海における中国軍の演習の影響を受ける恐れがある国々と情報交換など連携を強化することであろう。
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