平和外交研究所

オピニオン

2020.03.14

新型コロナウイルス 遅すぎた中国全土の入国制限

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2020.03.13

新型肺炎問題への中国の対応についての米メディアによる批判

 米国のメディアは、新型コロナウイルスによる感染問題への中国政府の対応に強く批判的な報道をしており、2月19日には、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者3人が国外退去処分を受けた。

 ワシントンポスト紙3月11日付は中国の宣伝工作について、要旨以下のような記事を掲載している。

 「中国の情報操作に関心が集まっている。中国政府は問題を克服できるというイメージを作り出し、世論の支持を集めようとしてきた。よいニュースは政府が適切に対応した結果であると印象付け、政府に対する非難をかわそうとした。

 中央テレビ(CCTV)や人民日報など政府系のメディアは、政府がウイルスとの「人民戦争」を戦っているという記事ばかりを報道し、新しい政策や規則の実施、資源の配分、状況の改善、危機に対応するのに中国の政治体制が有効であることばかりを強調している。

 中国の政府系メディアは新型コロナウイルスによる感染を自然災害のように報道するだけで、次のような重要問題を探求する姿勢に欠ける。
〇中国の権威主義的システムのために、社会秩序の維持が優先され、病気と闘うことよりも上司に気に入ろうとする風潮が生み出されているのではないか。
〇早期警戒システムが中央に届くのが遅れたのはなぜか。
〇初期対応においてトップの指導者はどのような役割を果たすべきであったか。
〇自由な情報が伝達されず、李文亮医師の警告が見殺しにされるなどしてウイルスの拡大につながったのではないか。

 また、中国の報道やインターネットは医師や看護師の英雄的な行動と犠牲、ボランティア活動など中国の団結を示すショーケースになっている。英雄的行動があったのは事実であるが、この種の報道ばかりをすると政府のアカウンタビリティについての疑問から目をそらすことになる。

 ある高校の教師は、生徒たちに「称賛ばかりではならない。疑問を忘れてはならない」「冬を春の始まりのように見なしてはならない」とスピーチをしたという。これはまさに中国の宣伝機関が行ったことに他ならない。彼らは失敗を反省するのでなく、災害を自画自賛の機会にしてしまった。

 一部のメディアは空虚な宣伝だけでなく、事実関係に基づいた報道をした。政府の権威主義的な宣伝でなくソフトな宣伝であり、ある程度説得力があった。多くの中国人はウイルスと闘った中央政府を誇りに思うようになった。怒りは武漢市と湖北省政府に向けられた。中国の人たちは、初期段階で感染をコントロールできなかったのはなぜかという問題に注意を向けなかった。

 中央の推奨を受けて2月26日に出版された『大国戦役』と題する本は、習近平主席がウイルスと戦うのにいかに情熱を注いだか、政府の戦いがいかに優れていたか、中国共産党のシステムがいかに優れていたかを誇示するだけの内容であった。しかし、この本は数日もたたないうちに引き上げられた。勝利を祝うのは早すぎる、また、あまりに厚顔無恥の自画自賛だとネットで批判されたためであった。

 ネットでは、武漢の新書記が、武漢市は「感謝の教育」をし、また共産党と習総書記に感謝しなければならないと発言したことに批判があふれた。多くのコメンテーターは、死亡者に対する弔意を表明し犠牲者の家族の忍耐に感謝するのが先だと論じた。武漢市書記の発言はその後記録から削除された。習近平主席は武漢を訪問した際、武漢の人びとに感謝すると述べた。ネットでの批判を意識した発言であった。政府が行う宣伝には限界がある。
2020.02.12

新型コロナウイルス肺炎と台湾

 台湾における新型コロナウイルスによる肺炎の感染者数18人(2月10日の厚生労働省の発表)であり、周辺の香港36人、フィリピン3人、ベトナム14人、マレーシア17人、シンガポール43人、韓国27人と比較して高くないが、特に少ないわけでもない。

 この中でフィリピンが特に少ないのは、各国に先駆けていち早く中国からの入国を完全禁止するなど果断な措置を取った結果であるという印象もあるが、新型コロナウイルスによる感染者数の把握は困難であり、また時間の経過とともに急速に増大していることも斟酌する必要があろう。

 フィリピンはさらに10日夜、入国禁止措置の対象地域に台湾を含めると発表した。フィリピンの新型コロナウイルスに関する強い警戒姿勢がここにも表れているが、その際行った「一つの中国政策に基づくもの」との説明はいただけない。中国の主張はともかく、事実として台湾は中国の一部でないし、独自の防疫体制を敷いていることを無視しているからだ。台湾は一方的な決定を改めるようフィリピン側に申し入れると表明している。

 台湾がWHO(世界保健機関)から締め出されていることはかねてから問題となってきたが、今回の新型コロナウイルスに関連して台湾は再び苦痛を強いられている。

 WHOは公式サイトで公表している「状況報告書」の1月22日版で、台湾を「中国台湾(Taiwan China)」と表記。同23、24日版は「台北直轄市」とし、同25日版以降、「台北」としていたが、最新の2月5日版では「台北および周辺地域」に変えた。いずれも中国国内の他の省市と並べて表記した。
 また、2月4日には、当時10人だった感染者数を13人と発表。その後修正されたが、誤った数字が記載されたのは中国当局が提供した情報が原因だったという。台湾が「われわれは台湾だ。WHOは名称をいったい何度、変えるのか。多くの国が台湾は中国の感染地域にあると誤解し、非常に困っている」と強く反発したのは当然であった。

 台湾が中国からいじめを受けていることは各国で注目され、台湾に同情する声が上がっている。日本では安倍首相が1月30日、参議院予算委員会で「政治的な立場からこの地域は排除するということを行うと、地域全体の健康維持、感染の防止は難しくなる」と答弁した。蔡英文総統は同日の記者会見で「新型肺炎の問題を通じ、世界が防疫における台湾の重要性を理解してきた。米国や日本の支持に感謝したい」と述べている。

 各国の声援があってか、2月11日から始まったWHOの緊急会合では台湾の専門家も参加が認められた。彼らは「台北」からの参加と位置づけられ、また、テレビ会議の形式であった。これでは台湾にとっては問題が完全に解消したわけではないだろうが、全く拒否されるよりはましであろう。

 台湾は2003年にSARSが流行した際、防疫体制の不手際から60人以上の死者を出した(中国に次いで多かった)苦い経験がある。情報が遅れたともいわれていた。それが真の原因か否かはともかく、その時の経験から今回の新型コロナウイルスによる感染には神経質に対応している。当然である。またWHOとしては台湾での対応が遅れをとらないよう細心の注意を払うべきである。

 来る5月初め、WHO総会を迎えるに際しては、台湾の参加が、オブザーバーとしてでもよい、認められるべきである。どの国も中国の台湾についての立場に穴をあけようとしていない。ただ、感染の拡大を防止する国際的体制を整備・改善するには、台湾を中国の各都市と同列に扱うのでなく、独自の防疫体制を持つ地域として扱うべきである。

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