平和外交研究所

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2014.11.14

集団的自衛権 行使は人道的措置に限って

11月9日付『朝日新聞』「私の視点」に掲載されたもの。

「過激派組織「イスラム国」に対して米国が8月~9月に行なった空爆は、多くの国は支持を表明し、特に9月22日のシリア空爆後の支持国の数は40カ国に上った。
武力行使を認める国連の安保理決議はなかったが、圧倒的な支持が得られた理由は、「イスラム国」の蛮行により現地の少数民族が迫害され、無辜のジャ―ナリスや法律家がむごたらしく殺害されるという人道問題を各国が重大視し、対応が必要と考えたからであろう。
米国は今回の空爆について、「国連憲章51条で定められた個別的自衛権と集団的自衛権に基づいて攻撃した」と主張している。イラクは「イスラム国」から武力攻撃を受けて危機的な状況に陥り、米国に空爆を要請したので集団的自衛権行使の要件を満たしているようである。そうであれば、国連の安保理決議がなくても武力行使は可能であり、安保理には事後的に報告すれば足りる。
ただ、集団的自衛権の行使が広く行なわれることについては不安を覚える。実際、米国や旧ソ連はこれまで、自国の戦争について都合よく集団的自衛権を解釈してきた。また、1991年に起こった湾岸戦争のように、いわゆる多国籍軍が出動する場合は集団的自衛権の主張ができることが多いかもしれないが、それは形式的な解釈であり、適切と言えない。
国連はたしかに不完全で、常任理事国の拒否権があるために期待に応じた働きができないことも事実だ。オバマ大統領が9月下旬に行なった国連総会での演説でも、そのことが苦渋に満ちた言葉で語られていた。
しかし、安保理は国連のかなめであり、米国といえども安保理を軽視したり無視しようとしたりはしていない。不完全であっても、米国にとって安保理は味方を増やすために必要な場だからである。もちろん、らちが明かない場合に米国がみずからの判断で動き出すこともあるが、安保理で自らの主張を展開し、懸命に支持票を数えている。やはり国際紛争は、安保理を中心に解決を図るべきである。
今回の「イスラム国」に対する空爆に際し、米国が人道的措置であることを強調したのは正しい方向に向かっている。これをさらに一歩進め、集団的自衛権の行使ははなはだしい人道的侵害を除去する場合に限るのがよいのではないか。人道法の概念も確立されつつある。それは、今後の安保法制の議論で日本の集団的自衛権の行使を考える上でも示唆に富むものである。」

2014.11.13

中国の大国化を米国は認めるか

安倍首相が近寄って握手し、話しかけても習近平主席は仏頂面で一言も発せず、しかも安倍首相の発言の通訳を一切聞かずにカメラのほうを向いてしまった。別の機会には、他の国の場合は国旗を背景にして握手しているところを写真撮影したのに、安倍首相の時だけは国旗なしであった。習近平主席の気持ちは凍り付いているのだろうか。それとも、国内の対日強硬派に向けてのジェスチャーだろうか。両方であるかもしれない。
これとは対照的に、APEC首脳会議後中国を訪問したオバマ大統領に対しては、中国の政治権力機構の中枢である中南海にも招き入れるなど異例の熱烈な待遇であった。中国が米国との関係を重視しているのは言うまでもないが、さらに中国は米国と並ぶ大国になり、かつ米国にそれを認めさせることが国家的目標であり、今回のオバマ大統領の訪中はその目標に近づくのに格好の機会だったのであろう。
11月12日の首脳会談後の共同記者会見で、習近平主席は「米中間で新型大国関係の構築に向け引き続き努力していくことで合意した」と述べた。この「合意」には中国としての願望が混じっており、正確には合意でない。
米国は、中国が大国であることを認めたことはなく、今次首脳会談でも認めた事実はないようである。しかし、中国が「世界で責任ある役割を果たす」ことを期待していることは明言している。記者会見でのオバマ大統領の発言もその線に沿ったものであった。これに対し習近平主席は、「中国は自らの国際的地位に見合った責任を果たす」と述べている。中国が「大国」であることを米中が合意するところまでは至っていないが、「国際社会における地位にふさわしい責任を果たす」という点では米中両国の意見は一致していると見てよいであろう。また、このことは日本としても歓迎すべきことである。
習近平主席は「新型大国関係」として、お互いの主権、領土、政治制度、核心的利益などを尊重することを挙げている。これに米国が同意することはありえない。お互いに主権を尊重しあうとは当然のことを述べているようにも聞こえるが、その言葉の背後には「中国に対する内政干渉は認めない」、さらには「他国に対する内政干渉も認められない」という考えがある。とくに後者の点は、ロシアとともに国際社会での保守派として米国に楯突く立場そのものである。
核心的利益には台湾、尖閣諸島、南シナ海の島嶼に対する主権主張が含まれる。この尊重を米国に認めさせることは中国の願望であるのは分かるが、米国が認めることはありえない。中国の大国化願望が実現するのは道遠い。
11月14日の人民日報海外版は、11日の中南海瀛台でのオバマ・習近平の会話の全文を伝えた。その最後の部分で、「習近平主席は「中米間の新型大国関係の戦略的目標は明確である。我々はその概念上でとどまることはできない、また、早期に結果を収めることに満足することはできない。前を向いて歩み続ける必要がある。我々は戦略的高度から、また、遠大な角度から出発し、水を湖とし、土を山として絶え間なく新型の大国関係の建設にまい進していかなければならない」と述べた。これに対し、オバマ大統領は大いに賛同し、米国としてもこの目的のために中国と共同で努力していきたいとした(表示)。」
この記事によれば、オバマ大統領は「大国関係」に同意した印象があるが、それは中国側のプロパガンダであろう。

2014.11.09

日中11・7合意を再度論ず

7日に達成された日中合意について両国内部で批判する声も上がっているが、客観的にどのように評価すべきか。どちらが多く譲歩したか。比べる必要もないし、そうすべきでないが、留意しておくべきことがいくつかある。

○この合意により、約3年ぶりとなる日中首脳会談開催の道をつけた意義は大きい。
○中国はこれまで日本政府による尖閣諸島の国有化を目の敵のように攻撃してきたが、国有化問題に触れない内容で合意した。尖閣諸島を日本政府が所有しているという状態は今後も変わらない。
○尖閣諸島に関し「領有権問題は存在しない」という日本政府の立場について合意は何も言っていない。領有権問題について意見の相違があるとも言っていない。「日中両国は尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し」と言っているだけである。日本政府は今後も「領有権問題は存在しない」という立場を維持していくであろう。
○8日付の中国共産党機関紙・人民日報は「中日双方は初めて釣魚島問題について、文字として明確な合意に達した」と指摘した。これは事実上中国政府の公式見解である。「釣魚島問題について明確な合意に達した」と言うが、その合意がどのような内容かが問題であり、それについて合意文書は「両国は尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避すること」が合意内容だと言っている。それ以上のことではない。
○さらに人民日報は、「文字として合意した」と述べている。「文字として」は特に問題視する必要はない。結局重要なことは合意したことの内容である。
○合意文書は、尖閣諸島等東シナ海での緊張状態について、国際法に従って解決を図るべきであるという日本側のかねてからの主張に何も触れていない。双方は「対話と協議」および「危機管理メカニズム」により情勢の悪化を防ぐと言っているが、これに加えて「国際法に従って」と言う一言を挿入したほうがよかったのではないか。もっとも、中国側がそれに触れたくないのは明らかであり、日本側がこれにこだわると合意達成は困難だったかもしれない。実際に日本側からこの点を主張したかどうか知らないが。
○靖国神社参拝については、合意第2項の「双方は、歴史を直視し、未来に向かうという精神に従い、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」をどのように解釈するか。合意文書の中で「若干の認識の一致をみた」と言うのはめずらしいどころか、稀有なことである。「若干の認識の一致をみた」とは一致しなかったことがあることを意味している。そうすると、この2項はいわゆるagree to disagreeの一例か。ともかく、靖国神社参拝については、中国は今後も抗議の声を上げ続けるであろう。日本側がそれを完全に無視すると両国関係は再び落ち込むであろう。つまり、歴史問題については明確な合意に至らなかったが、日本側としても一定の配慮が必要である。

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