オピニオン
2014.12.06
「北京でのAPEC首脳会議(11月10-11日)から始まり、オバマ大統領の中国訪問、オーストラリアのブリスベンでのG20首脳会議と続く間に、米中両国がたがいに期待していることは一致していないことがさらけ出された。
習近平主席はインド訪問の時もそうであったが、外国首脳との会談の舞台演出に非常に気を使う。オバマ大統領に対しては、中国の権力機構の中枢である中南海に案内し、歴史の重みを背景に親しく語りかけ、中米両国は「新しい大国関係」を築いていくべきだと力説した。これに対し、オバマ大統領は歴史について学んだと述べるなど、中南海における友好的雰囲気の盛り上げは成功したかに見えた。
一方、習近平主席は日本の安倍首相を冷たくあしらった。「仏頂面」とはまさに両首脳が握手した時の習近平の表情を言う。習近平主席がそのような表情で臨んだのは国内向けの考慮からであったのは誰の目にも明らかであっただろうが、それはともかくとして、習近平主席の安倍首相とオバマ大統領に対する態度は対照的であった。
しかし、中国にとって肝心の「中国は大国である」ことについては、オバマ大統領は肯定しなかった。習近平主席の外交成果を盛り上げる役割の人民日報もオバマ大統領がこの点に関しどのような発言をしたか、あいまいな記述しかしていない。
中南海会談から4日後の15日、G20首脳会議に出席したオバマ大統領がクイーンズランド大学で行なった講演は、北京でははっきりしなかった米国の姿勢を浮き彫りにした。オバマの演説を貫いていたのは、アジア太平洋地域の重視と民主的な政治と自由な経済システムに対する米国の信念である。
オバマはまず、「世界の唯一の超大国として」米国が特別の責任を有していることを論じた。「超大国」と「大国」の違いはあるが、この発言によってオバマは中国を大国と認めていないことを間接的に示したのではないか。
オバマは続いて、米国はアジア太平洋地域において「すべての同盟国の主権、独立および安全保障に鉄のコミットメント(ironclad commitment)をしており、また、われわれは同盟諸国間の協力を拡大する考えである」「米国は持てる力をすべて駆使して関与を深める」として同盟の重要性を強調するどころか、さらに強化する考えを示したので各方面から注目をあびた。
同盟国としてオバマが真っ先にあげたのは日本である。また、民主主義は欧米に限られたものでないことを強調する下りでも日本、台湾、韓国という順番で成功例を指摘するなどオバマは日本に対し、習近平の冷たい態度とは対照的な温かい配慮を示した。
それだけではない。オバマはさらに、「領土、離島、岩礁などに関する紛争は国際的な対立を惹起する恐れがある」「どの国も人々も安全で平和に暮らす権利がある。アジアの安全保障は力(influence)や強制や大国による小国のいじめ(big nations bully the small)の上に立てられてはならない。相互の安全保障、国際法と確立されている国際規範、および紛争の平和的解決原則に基づかなければならない」「われわれは中国に、他の諸国と同じルールを尊重するよう促している」と胸のすくような指摘をした。オバマが中国の恣意的、国際法に基づかない行動をけん制していることは明らかである。
では米国は中国に対し何を期待しているか。オバマは「平和で、繁栄し、安定し、かつ世界において責任ある役割を演じる中国を歓迎する」と北京でもクイーンズランド大学でも繰り返し述べている。これが米国の率直な考えであろう。
オバマ演説はここまででも中国の指導者にとって耳が痛いだろうが、さらにオバマは香港での民主化要求デモに言及し、「香港の人々は普遍的な権利を求めて声をあげている。このアジアでも、世界のどこでも米国は自由で公正な選挙を支持している」「われわれは、タイでもそうしているが、民主的な統治(civilian rule)に早く戻るべきだと促している(注 どの国に対して促しているかは明示しなかったが、言わずとも明らかであろう)。われわれは集会の自由、言論の自由、プレスの自由、自由でオープンなインターネットを支持している」と断言した。
香港のデモは扱いを誤ると中国内の民主化要求に火をつける危険があり、中国は非常に神経をとがらせている。北京での米中首脳会談後の記者会見で、米国が関与しているのではないかと疑う質問が出て一瞬緊張が走ったそうである。その時オバマは「米国は香港のデモに関与していない。ただ、米国は表現の自由については主張し続ける。香港の行政長官を選ぶ選挙は透明、公平かつ人々の考えを反映したものであることを促す」と述べてその場を収めた。この発言とブリスベン演説は、我々が聞くと趣旨はそう変わらないようにも思われるが、中国は、ブリスベン演説は我慢がならないと思っている可能性がある。
中国外交部のスポークスマンは香港に関するオバマ発言に直接触れず、「新型大国関係の建設を進めることに合意している」とだけコメントしたが、これは中国にとって都合のよい点だけを強調したに過ぎない。
多維新聞(米国に本拠がある中国語の新聞であり、中国内部に人脈を持ち中国の政治によく通じている。中共中央宣伝部の統制下にはなく比較的自由に報道できるので、中国でも台湾でも読まれている)は、香港での民主化要求に関するオバマ発言についてあからさまに不快感を示し、「オバマ大統領はAPECの際に約束(原文は「承諾」)したことをがらりと変え、香港の中心地の占拠について勝手な議論を展開した」という刺激的な見出しをつけた。オバマが二枚舌を使っていると言わんばかりである。
ともかく、オバマ大統領としては、日本、中国、オーストラリアの関心事について語る貴重な機会であったので、中国の問題点を自然な形で、率直に論じた。日本を始め同盟国の信頼を揺るがせるようなことはしない、今後一層強化するという米国の断固とした姿勢は実に頼もしいが、日本としても米国の対日重視姿勢が揺らがないよう、日米関係を大切にし、そのために努力していかなくてはならない。」
米中両国はたがいに何を期待しているか
キヤノングローバル戦略研究所のホームページに12月5日掲載されたもの。「北京でのAPEC首脳会議(11月10-11日)から始まり、オバマ大統領の中国訪問、オーストラリアのブリスベンでのG20首脳会議と続く間に、米中両国がたがいに期待していることは一致していないことがさらけ出された。
習近平主席はインド訪問の時もそうであったが、外国首脳との会談の舞台演出に非常に気を使う。オバマ大統領に対しては、中国の権力機構の中枢である中南海に案内し、歴史の重みを背景に親しく語りかけ、中米両国は「新しい大国関係」を築いていくべきだと力説した。これに対し、オバマ大統領は歴史について学んだと述べるなど、中南海における友好的雰囲気の盛り上げは成功したかに見えた。
一方、習近平主席は日本の安倍首相を冷たくあしらった。「仏頂面」とはまさに両首脳が握手した時の習近平の表情を言う。習近平主席がそのような表情で臨んだのは国内向けの考慮からであったのは誰の目にも明らかであっただろうが、それはともかくとして、習近平主席の安倍首相とオバマ大統領に対する態度は対照的であった。
しかし、中国にとって肝心の「中国は大国である」ことについては、オバマ大統領は肯定しなかった。習近平主席の外交成果を盛り上げる役割の人民日報もオバマ大統領がこの点に関しどのような発言をしたか、あいまいな記述しかしていない。
中南海会談から4日後の15日、G20首脳会議に出席したオバマ大統領がクイーンズランド大学で行なった講演は、北京でははっきりしなかった米国の姿勢を浮き彫りにした。オバマの演説を貫いていたのは、アジア太平洋地域の重視と民主的な政治と自由な経済システムに対する米国の信念である。
オバマはまず、「世界の唯一の超大国として」米国が特別の責任を有していることを論じた。「超大国」と「大国」の違いはあるが、この発言によってオバマは中国を大国と認めていないことを間接的に示したのではないか。
オバマは続いて、米国はアジア太平洋地域において「すべての同盟国の主権、独立および安全保障に鉄のコミットメント(ironclad commitment)をしており、また、われわれは同盟諸国間の協力を拡大する考えである」「米国は持てる力をすべて駆使して関与を深める」として同盟の重要性を強調するどころか、さらに強化する考えを示したので各方面から注目をあびた。
同盟国としてオバマが真っ先にあげたのは日本である。また、民主主義は欧米に限られたものでないことを強調する下りでも日本、台湾、韓国という順番で成功例を指摘するなどオバマは日本に対し、習近平の冷たい態度とは対照的な温かい配慮を示した。
それだけではない。オバマはさらに、「領土、離島、岩礁などに関する紛争は国際的な対立を惹起する恐れがある」「どの国も人々も安全で平和に暮らす権利がある。アジアの安全保障は力(influence)や強制や大国による小国のいじめ(big nations bully the small)の上に立てられてはならない。相互の安全保障、国際法と確立されている国際規範、および紛争の平和的解決原則に基づかなければならない」「われわれは中国に、他の諸国と同じルールを尊重するよう促している」と胸のすくような指摘をした。オバマが中国の恣意的、国際法に基づかない行動をけん制していることは明らかである。
では米国は中国に対し何を期待しているか。オバマは「平和で、繁栄し、安定し、かつ世界において責任ある役割を演じる中国を歓迎する」と北京でもクイーンズランド大学でも繰り返し述べている。これが米国の率直な考えであろう。
オバマ演説はここまででも中国の指導者にとって耳が痛いだろうが、さらにオバマは香港での民主化要求デモに言及し、「香港の人々は普遍的な権利を求めて声をあげている。このアジアでも、世界のどこでも米国は自由で公正な選挙を支持している」「われわれは、タイでもそうしているが、民主的な統治(civilian rule)に早く戻るべきだと促している(注 どの国に対して促しているかは明示しなかったが、言わずとも明らかであろう)。われわれは集会の自由、言論の自由、プレスの自由、自由でオープンなインターネットを支持している」と断言した。
香港のデモは扱いを誤ると中国内の民主化要求に火をつける危険があり、中国は非常に神経をとがらせている。北京での米中首脳会談後の記者会見で、米国が関与しているのではないかと疑う質問が出て一瞬緊張が走ったそうである。その時オバマは「米国は香港のデモに関与していない。ただ、米国は表現の自由については主張し続ける。香港の行政長官を選ぶ選挙は透明、公平かつ人々の考えを反映したものであることを促す」と述べてその場を収めた。この発言とブリスベン演説は、我々が聞くと趣旨はそう変わらないようにも思われるが、中国は、ブリスベン演説は我慢がならないと思っている可能性がある。
中国外交部のスポークスマンは香港に関するオバマ発言に直接触れず、「新型大国関係の建設を進めることに合意している」とだけコメントしたが、これは中国にとって都合のよい点だけを強調したに過ぎない。
多維新聞(米国に本拠がある中国語の新聞であり、中国内部に人脈を持ち中国の政治によく通じている。中共中央宣伝部の統制下にはなく比較的自由に報道できるので、中国でも台湾でも読まれている)は、香港での民主化要求に関するオバマ発言についてあからさまに不快感を示し、「オバマ大統領はAPECの際に約束(原文は「承諾」)したことをがらりと変え、香港の中心地の占拠について勝手な議論を展開した」という刺激的な見出しをつけた。オバマが二枚舌を使っていると言わんばかりである。
ともかく、オバマ大統領としては、日本、中国、オーストラリアの関心事について語る貴重な機会であったので、中国の問題点を自然な形で、率直に論じた。日本を始め同盟国の信頼を揺るがせるようなことはしない、今後一層強化するという米国の断固とした姿勢は実に頼もしいが、日本としても米国の対日重視姿勢が揺らがないよう、日米関係を大切にし、そのために努力していかなくてはならない。」
2014.11.30
今回の選挙で馬英九政権が国民の支持を失ったのは、中国とのサービス貿易協定、今年3月の学生による
立法院での座り込み(ひまわり学生運動)、食品安全問題、腐敗、格差などが理由であると指摘されている。
これらは決して容易な問題でないが、比較的技術的なことであり、台湾人の意見に耳を傾け、中国との関係促進にもっと慎重になれば、国民党として国民の支持を回復することは可能かもしれない。
台湾で中国との関係を安定的に維持してきたのは国民党である。民進党が1990年に政権を獲得し、一時期台湾独立の機運が盛り上がったかに見られたが、同党は政治的に未熟であったこと、また、台湾と中国との経済関係が急速に深まり、台湾としては感情的には中国との接近を欲しないが現実的には中国との関係を良好に維持していくことが必要であるという認識が広範囲に共有されるに至ったことなどから、国民党は政権を取り戻していた。国民党には歴史、伝統、組織力、特に中国との関係で安定感があり、1回の選挙でそのすべてがなくなるわけではない。
一方、台北市長に当選したコーウェンチェーは、台湾に新しい政治状況が生じたことを強調している。今回の選挙においては政党の役割よりむしろ市民の活動が目立たったことも事実である。台湾では本当に根本的な状況変化が生じつつあるのか。今後の台湾の動向を見るには次のような諸点から情勢をフォローし、分析していく必要があると考える。
第1は、馬英九が問題なのか、それとも国民党が問題か、それとも台湾人はいずれにもノーをつきつけたのか。現象的にはもっともつよく拒否されたのは馬英九であり、次いで国民党であった。
第2に、民進党は2000年から8年間の稚拙な政治から立ち直って民心を回復したと言えるか。選挙結果を見ると、国民党への投票率が40・70%であったのに対し、民進党は47・55%であり、両者の獲得票の数の差はさほど大きくない。民進党は相対的に有利になっただけである。
第3に、台湾人が国民党政権を拒否したのは、中国経済がかつての高度成長から停滞期に入り、将来的には問題があると思っているためか。つまり、台湾人は中国との経済関係に以前ほど左右されなくなっているのか。これは問題点として記しておこう。
第4に、今回の選挙は国民党支持でも民進党支持でもない浮動票に左右されたことが大きな要因であり、そうであれば、今回の選挙に示された世論は数年後にはまったく異なる結果をもたらす可能性があるのではないか。国民党にとっても、また民進党にとっても、今後の努力次第で浮動票を取り込み、党勢を拡大するチャンスがあるのではないか。
第5に、台湾における最近の世論調査では、「台湾人である」こと、すなわち、「中国人でなく台湾人であること」を好む傾向が強くなっているという結果が表れていた。民進党の政権時代に台湾人の意識が高揚したが、その失敗により、国民党政権に対する支持が回復したが、その後、台湾人としての意識が再度強くなっていたのである。今回の選挙はこのような台湾人の政治意識の変化と関連しているとみるのが自然であろう。
台湾の市長選挙
台湾の市長選挙では台北市、台中市を含め国民党候補が相次いで落選するなど、国民党は惨敗を喫した。台北市は台湾の首都であり、政府はこれまであらゆる方法で支持層を固める努力を払ってきが、今回の選挙ではほとんど効果がなかったのである。今回の選挙で馬英九政権が国民の支持を失ったのは、中国とのサービス貿易協定、今年3月の学生による
立法院での座り込み(ひまわり学生運動)、食品安全問題、腐敗、格差などが理由であると指摘されている。
これらは決して容易な問題でないが、比較的技術的なことであり、台湾人の意見に耳を傾け、中国との関係促進にもっと慎重になれば、国民党として国民の支持を回復することは可能かもしれない。
台湾で中国との関係を安定的に維持してきたのは国民党である。民進党が1990年に政権を獲得し、一時期台湾独立の機運が盛り上がったかに見られたが、同党は政治的に未熟であったこと、また、台湾と中国との経済関係が急速に深まり、台湾としては感情的には中国との接近を欲しないが現実的には中国との関係を良好に維持していくことが必要であるという認識が広範囲に共有されるに至ったことなどから、国民党は政権を取り戻していた。国民党には歴史、伝統、組織力、特に中国との関係で安定感があり、1回の選挙でそのすべてがなくなるわけではない。
一方、台北市長に当選したコーウェンチェーは、台湾に新しい政治状況が生じたことを強調している。今回の選挙においては政党の役割よりむしろ市民の活動が目立たったことも事実である。台湾では本当に根本的な状況変化が生じつつあるのか。今後の台湾の動向を見るには次のような諸点から情勢をフォローし、分析していく必要があると考える。
第1は、馬英九が問題なのか、それとも国民党が問題か、それとも台湾人はいずれにもノーをつきつけたのか。現象的にはもっともつよく拒否されたのは馬英九であり、次いで国民党であった。
第2に、民進党は2000年から8年間の稚拙な政治から立ち直って民心を回復したと言えるか。選挙結果を見ると、国民党への投票率が40・70%であったのに対し、民進党は47・55%であり、両者の獲得票の数の差はさほど大きくない。民進党は相対的に有利になっただけである。
第3に、台湾人が国民党政権を拒否したのは、中国経済がかつての高度成長から停滞期に入り、将来的には問題があると思っているためか。つまり、台湾人は中国との経済関係に以前ほど左右されなくなっているのか。これは問題点として記しておこう。
第4に、今回の選挙は国民党支持でも民進党支持でもない浮動票に左右されたことが大きな要因であり、そうであれば、今回の選挙に示された世論は数年後にはまったく異なる結果をもたらす可能性があるのではないか。国民党にとっても、また民進党にとっても、今後の努力次第で浮動票を取り込み、党勢を拡大するチャンスがあるのではないか。
第5に、台湾における最近の世論調査では、「台湾人である」こと、すなわち、「中国人でなく台湾人であること」を好む傾向が強くなっているという結果が表れていた。民進党の政権時代に台湾人の意識が高揚したが、その失敗により、国民党政権に対する支持が回復したが、その後、台湾人としての意識が再度強くなっていたのである。今回の選挙はこのような台湾人の政治意識の変化と関連しているとみるのが自然であろう。
2014.11.26
イランの核問題に関する協議はイランの前政権時代から断続的に行なわれており、その時の経緯を含めると延期の回数はもっと多くなる。それだけに今後、はたして予定通り進むか疑問を抱かれても仕方がない面はあるが、イランのロハニ大統領が2013年8月に就任し西側と協力する姿勢を取るようになってから核協議をめぐる雰囲気は大きく変化しており、また交渉は2回目の中断となったが、米国などはイランがため込んでいた核物質の処理が順調に進展していることを確認しており、言葉だけでなく実質的な内容も伴っているようである。
イランは、欧米諸国が課している制裁が解除されると経済的に大きな利益を回復することとなるので、イランの政権が合理的であれば制裁解除については強い関心を抱くのは当然である。今回の共同声明によると、6月末までは昨年11月に結んだ「第1段階の合意」を継続し、イランはウラン濃縮活動を制限し、その見返りとして、米欧はイランの凍結資産を毎月7億ドル(約827億円)解除することになっている。
しかるに、今回最終合意にこぎつけられなかったのはなぜか。イランも米国も相互の不信感が最終合意の妨げになっていることを指摘している。イランは、原子力エネルギーの平和利用はすべての国の権利であり、核兵器不拡散条約(NPT)でもそのことは明記されているが、米欧はそれを認めない、という立場である。これに対し米欧がイランに不信感を抱くのは、イランが平和利用に徹していることを確認する査察にこれまで何回も協力しなかったからである。一方、イランが米欧やIAEAの言うなりにならない背景には、1979年のイラン革命以来の米国、とくにCIAの地下工作などに起因する不信感がある。このように両国関係はこじれているので交渉は困難であり、それだけにロハニ大統領が協調路線で臨んでいることに米欧が大きな期待を抱くのは当然である。
さらに、過激派組織「イスラム国」との関係においてもイランは米欧にとって頼れる存在となりつつある。イランはシーア派が圧倒的に多数であり、スンニ派の「イスラム国」とは基本的な違いがあり、またイランの現政権は「イスラム国」の残忍な手法に反対して反「イスラム国」勢力に物的支援のみならず人的にも貢献している。このような状況が米国の対イラン政策に影響を与えると断定するのは過早かもしれないが、注目すべき状況になっていることは事実であろう。
日本の役割もある。すべての非核保有国は武器への転用がないか、IAEAが査察を行なうのであるが、1回調べれば分かるというわけにはいかない。日本は約30年間IAEAの査察に忠実に協力し、2014年になって初めて、日本には転用の危険がないという判断を下してもらった。それほど時間がかかることなのである。しかるにイランも含め、そのようなことには理解がなく、2~3年協力すれば十分だと思っている国が多い。専門家は分かっていても国全体の理解がないと長期間にわたる持続的協力は困難である。イランと協議している6カ国のうち5カ国は核保有国であり、独のみが非核保有国であるが、同国は脱原子力を決定しているので同じ状況にない。だから日本の経験が重要であり、イランに対しても同じ非核保有国として、かつIAEAからお墨付きを得た経験に基づきアドバイスが可能である。
イランの核協議延期
イランと米英独仏中ロの6カ国による核協議は11月24日までに終了させる予定であったが、再度延期され(ロハニ・イラン大統領の下では2回目)、4か月以内に大枠について「枠組み合意」し、6月末までに最終合意を達成することとなったという共同声明を発表した。イランの核問題に関する協議はイランの前政権時代から断続的に行なわれており、その時の経緯を含めると延期の回数はもっと多くなる。それだけに今後、はたして予定通り進むか疑問を抱かれても仕方がない面はあるが、イランのロハニ大統領が2013年8月に就任し西側と協力する姿勢を取るようになってから核協議をめぐる雰囲気は大きく変化しており、また交渉は2回目の中断となったが、米国などはイランがため込んでいた核物質の処理が順調に進展していることを確認しており、言葉だけでなく実質的な内容も伴っているようである。
イランは、欧米諸国が課している制裁が解除されると経済的に大きな利益を回復することとなるので、イランの政権が合理的であれば制裁解除については強い関心を抱くのは当然である。今回の共同声明によると、6月末までは昨年11月に結んだ「第1段階の合意」を継続し、イランはウラン濃縮活動を制限し、その見返りとして、米欧はイランの凍結資産を毎月7億ドル(約827億円)解除することになっている。
しかるに、今回最終合意にこぎつけられなかったのはなぜか。イランも米国も相互の不信感が最終合意の妨げになっていることを指摘している。イランは、原子力エネルギーの平和利用はすべての国の権利であり、核兵器不拡散条約(NPT)でもそのことは明記されているが、米欧はそれを認めない、という立場である。これに対し米欧がイランに不信感を抱くのは、イランが平和利用に徹していることを確認する査察にこれまで何回も協力しなかったからである。一方、イランが米欧やIAEAの言うなりにならない背景には、1979年のイラン革命以来の米国、とくにCIAの地下工作などに起因する不信感がある。このように両国関係はこじれているので交渉は困難であり、それだけにロハニ大統領が協調路線で臨んでいることに米欧が大きな期待を抱くのは当然である。
さらに、過激派組織「イスラム国」との関係においてもイランは米欧にとって頼れる存在となりつつある。イランはシーア派が圧倒的に多数であり、スンニ派の「イスラム国」とは基本的な違いがあり、またイランの現政権は「イスラム国」の残忍な手法に反対して反「イスラム国」勢力に物的支援のみならず人的にも貢献している。このような状況が米国の対イラン政策に影響を与えると断定するのは過早かもしれないが、注目すべき状況になっていることは事実であろう。
日本の役割もある。すべての非核保有国は武器への転用がないか、IAEAが査察を行なうのであるが、1回調べれば分かるというわけにはいかない。日本は約30年間IAEAの査察に忠実に協力し、2014年になって初めて、日本には転用の危険がないという判断を下してもらった。それほど時間がかかることなのである。しかるにイランも含め、そのようなことには理解がなく、2~3年協力すれば十分だと思っている国が多い。専門家は分かっていても国全体の理解がないと長期間にわたる持続的協力は困難である。イランと協議している6カ国のうち5カ国は核保有国であり、独のみが非核保有国であるが、同国は脱原子力を決定しているので同じ状況にない。だから日本の経験が重要であり、イランに対しても同じ非核保有国として、かつIAEAからお墨付きを得た経験に基づきアドバイスが可能である。
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