平和外交研究所

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2014.11.17

中国の対米、対日姿勢

北京でのAPEC、それに引き続くオバマ大統領の中国訪問、オーストラリアのブリスベンで開催されたG20首脳会議は日米中3国間の関係でも興味深い出来事となった。
APECは中国が大国であることを誇示する絶好の機会であり、開会式をオリンピック並ににぎにぎしく演出し、各国首脳に強iい印象を植え付けようとした。米国に対しては、清朝以来中国の権力機構の中枢である中南海にオバマ大統領を案内し、そこを舞台にオバマ大統領と個人的な親密さを醸し出す会話をし、中米両国は「新しい大国関係」を築いていくべきだと力説する演出を行なった。歴史を背景としたのは、列強の侵略を受けて弱体化した中国を共産党が立て直したということと、当時米国は中国を助けたということを強調する狙いがあったかもしれない。米国に、中米両国はともに大国であることを認めさせたいという願望は、人民日報に、オバマ大統領がいかにも習近平主席の言葉に全面的に賛成したかのような印象の記事を書かせるおまけまでついた。
一方、習近平主席は日本の安倍首相を冷たくあしらった。「仏頂面」とはまさに両首脳が握手した時の習近平の表情を言い、習近平主席として安倍首相との会見は何の面白味もない、興味もわかないことを強調しているようであった。両首脳の会談が実現する前から、日本側が日中首脳会談を熱望していたということがプレスによって広く流布されていた。事実はそのように一方的なものではなく、中国側としても日本との首脳会談を望んでいたと思われるが、日本が強く要望していたということを中国側は巧みに利用した。とくに、中国内部の反日派、反習近平派などに対して、「日本側がしつこく言ってくるので会ってやったのだ」というメッセージを送るのに習近平の仏頂面は役立ったのであろう。
さらに、中国の新聞ではないが、中国に近い多維新聞などは、岸田外相が11・7合意に関して「尖閣諸島について領有権問題は存在しないという日本政府の立場に変化はない」とか「11・7合意は国際法的拘束力がない」と日本で述べたことを大きく取り上げ、いかにも岸田外相が久しぶりの重要な日中合意を否定し始めているような印象の記事を書いている。これは中国の新聞ではないが、従来からの傾向にかんがみれば中国での見方をかなり忠実に反映している可能性がある。台湾の新聞も岸田外相の発言には注目して報道している。
日本を矮小化し、米国には熱意をもって接するのが中国の方針であるかのような印象があるのである。以上の描写には少なからず推測が混じっており、また、情報が偏っている危険がないではないが、すくなくとも一つの仮説として、今後そのような見方が間違っていないか、時間をかけ検討するに値する。(続く)

2014.11.14

集団的自衛権 行使は人道的措置に限って

11月9日付『朝日新聞』「私の視点」に掲載されたもの。

「過激派組織「イスラム国」に対して米国が8月~9月に行なった空爆は、多くの国は支持を表明し、特に9月22日のシリア空爆後の支持国の数は40カ国に上った。
武力行使を認める国連の安保理決議はなかったが、圧倒的な支持が得られた理由は、「イスラム国」の蛮行により現地の少数民族が迫害され、無辜のジャ―ナリスや法律家がむごたらしく殺害されるという人道問題を各国が重大視し、対応が必要と考えたからであろう。
米国は今回の空爆について、「国連憲章51条で定められた個別的自衛権と集団的自衛権に基づいて攻撃した」と主張している。イラクは「イスラム国」から武力攻撃を受けて危機的な状況に陥り、米国に空爆を要請したので集団的自衛権行使の要件を満たしているようである。そうであれば、国連の安保理決議がなくても武力行使は可能であり、安保理には事後的に報告すれば足りる。
ただ、集団的自衛権の行使が広く行なわれることについては不安を覚える。実際、米国や旧ソ連はこれまで、自国の戦争について都合よく集団的自衛権を解釈してきた。また、1991年に起こった湾岸戦争のように、いわゆる多国籍軍が出動する場合は集団的自衛権の主張ができることが多いかもしれないが、それは形式的な解釈であり、適切と言えない。
国連はたしかに不完全で、常任理事国の拒否権があるために期待に応じた働きができないことも事実だ。オバマ大統領が9月下旬に行なった国連総会での演説でも、そのことが苦渋に満ちた言葉で語られていた。
しかし、安保理は国連のかなめであり、米国といえども安保理を軽視したり無視しようとしたりはしていない。不完全であっても、米国にとって安保理は味方を増やすために必要な場だからである。もちろん、らちが明かない場合に米国がみずからの判断で動き出すこともあるが、安保理で自らの主張を展開し、懸命に支持票を数えている。やはり国際紛争は、安保理を中心に解決を図るべきである。
今回の「イスラム国」に対する空爆に際し、米国が人道的措置であることを強調したのは正しい方向に向かっている。これをさらに一歩進め、集団的自衛権の行使ははなはだしい人道的侵害を除去する場合に限るのがよいのではないか。人道法の概念も確立されつつある。それは、今後の安保法制の議論で日本の集団的自衛権の行使を考える上でも示唆に富むものである。」

2014.11.13

中国の大国化を米国は認めるか

安倍首相が近寄って握手し、話しかけても習近平主席は仏頂面で一言も発せず、しかも安倍首相の発言の通訳を一切聞かずにカメラのほうを向いてしまった。別の機会には、他の国の場合は国旗を背景にして握手しているところを写真撮影したのに、安倍首相の時だけは国旗なしであった。習近平主席の気持ちは凍り付いているのだろうか。それとも、国内の対日強硬派に向けてのジェスチャーだろうか。両方であるかもしれない。
これとは対照的に、APEC首脳会議後中国を訪問したオバマ大統領に対しては、中国の政治権力機構の中枢である中南海にも招き入れるなど異例の熱烈な待遇であった。中国が米国との関係を重視しているのは言うまでもないが、さらに中国は米国と並ぶ大国になり、かつ米国にそれを認めさせることが国家的目標であり、今回のオバマ大統領の訪中はその目標に近づくのに格好の機会だったのであろう。
11月12日の首脳会談後の共同記者会見で、習近平主席は「米中間で新型大国関係の構築に向け引き続き努力していくことで合意した」と述べた。この「合意」には中国としての願望が混じっており、正確には合意でない。
米国は、中国が大国であることを認めたことはなく、今次首脳会談でも認めた事実はないようである。しかし、中国が「世界で責任ある役割を果たす」ことを期待していることは明言している。記者会見でのオバマ大統領の発言もその線に沿ったものであった。これに対し習近平主席は、「中国は自らの国際的地位に見合った責任を果たす」と述べている。中国が「大国」であることを米中が合意するところまでは至っていないが、「国際社会における地位にふさわしい責任を果たす」という点では米中両国の意見は一致していると見てよいであろう。また、このことは日本としても歓迎すべきことである。
習近平主席は「新型大国関係」として、お互いの主権、領土、政治制度、核心的利益などを尊重することを挙げている。これに米国が同意することはありえない。お互いに主権を尊重しあうとは当然のことを述べているようにも聞こえるが、その言葉の背後には「中国に対する内政干渉は認めない」、さらには「他国に対する内政干渉も認められない」という考えがある。とくに後者の点は、ロシアとともに国際社会での保守派として米国に楯突く立場そのものである。
核心的利益には台湾、尖閣諸島、南シナ海の島嶼に対する主権主張が含まれる。この尊重を米国に認めさせることは中国の願望であるのは分かるが、米国が認めることはありえない。中国の大国化願望が実現するのは道遠い。
11月14日の人民日報海外版は、11日の中南海瀛台でのオバマ・習近平の会話の全文を伝えた。その最後の部分で、「習近平主席は「中米間の新型大国関係の戦略的目標は明確である。我々はその概念上でとどまることはできない、また、早期に結果を収めることに満足することはできない。前を向いて歩み続ける必要がある。我々は戦略的高度から、また、遠大な角度から出発し、水を湖とし、土を山として絶え間なく新型の大国関係の建設にまい進していかなければならない」と述べた。これに対し、オバマ大統領は大いに賛同し、米国としてもこの目的のために中国と共同で努力していきたいとした(表示)。」
この記事によれば、オバマ大統領は「大国関係」に同意した印象があるが、それは中国側のプロパガンダであろう。

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