平和外交研究所

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2014.01.10

米国と各国の原子力協定

米国と各国との原子力協力協定に関する日本原子力研究開発機構(JAEA)の核不拡散ニュースNo.202の関連資料を若干手直しした。

2013 年10 月10 日、米国のジョン・ケリー国務長官とベトナムのファム・ビン・ミン外相が両国間の原子力協力協定に仮署名した。この協定には、ベトナムは国内で濃縮・再処理活動を行わないとの法的拘束力のある約束(いわゆる「ゴールド・スタンダード」)が含まれておらず、米国内で論議を呼んでいる。
上院外交委員会のボブ・コーカー議員(共和党、テネシー)はジョン・ケリー国務長官に宛てた10 月28 日付の書簡で、「濃縮・再処理能力を現在保有していない諸国との新たな協定において濃縮・再処理能力を容認することは、米国の核不拡散政策目標とは相容れず、一貫した政策の欠如はこれら能力の獲得・増強を米国が防止しようとしている諸国に対して矛盾したメッセージを送ることになり、相手国にゴールド・スタンダードが標準でないと思わせる」と批判した。
2009 年12 月に発効した米・UAE 協定においては、米国はUAE にゴールド・スタンダードを受け入れさせたが、その時もこれを義務付けたいとする国務省と、原子力輸出への影響に鑑みてケースバイケースでの適用を考えたいエネルギー省(DOE)の間で意見の対立があった。この時、一旦はケースバイケースでの適用が行政府の方針として打ち出されたが、当時下院外交委員長だったイレーナ・ロスレーティネン下院議員(共和党、フロリダ)を中心とした下院の超党派議員により提案された、「ゴールド・スタンダードを満足しない123協定に対して議会の承認権限を強化するための法案(H.R.1280)に関する報告書」
(Report No. 112–507)が2012 年5 月30 日に下院外交委員会で作成され、本会議へ上程される可能性があったこともあり、クリントン国務長官(当時)は省庁間でのゴールド・スタンダード適用の可否について再検討するよう指示していた。見直しの結果はこれまで公表されていない。
米国の産業界には他国との原子力協力を進めようとする強いロビーがあり、米国が不拡散のため厳しい条件を要求し続けると、米国ほどには協定中の核不拡散条件が厳しくないロシアやフランスなどに取引を持っていかれるという懸念がある。米原子力エネルギー協会(NEI)、全米製造業協会(NAM)、米国商工会議所(USCC)はケリー国務長官、モニーツDOE 長官に宛てた書簡(2013 年7 月12 日付)で、「いまだに米国が協定内容に合意できていないヨルダン、ベトナム、サウジアラビアなどは、原子力発電計画を推進するに当たり、米国との 協定締結を待ってくれない」として、濃縮・再処理に対する“実際的なアプローチ(a pragmatic approach)”の採用と迅速な協定締結を促していた。要するに、難しいことを言わずに協定を早く締結すべきであると促していたのである。
冒頭のコーカー書簡によると、まもなく纏まる台湾との 協定には法的拘束力のあるゴールド・スタンダードが含まれているそうである。
一方、韓国との協定交渉ではゴールド・スタンダードの話は全く行われていないとし、こうした一貫性のない政策は米国の核不拡散の取組みを弱体化させると指摘している。
米・韓の現行協定では韓国における米国起源の核物質の再処理には米国との共同決定が必
要であり、更に1992 年の朝鮮半島非核化共同宣言において濃縮・再処理施設の不保有が宣言されているが、2014 年に期限を迎える協定改定交渉において韓国は再処理について日米協定と同様の包括同意を主張している。しかし、米国には応じる用意はなく、とりあえず現行協定を2 年間延長する方向で交渉を継続中である。

2014.01.08

米ICBM部隊の沈滞

米国の核ミサイル部隊で種々問題が発生していることは、軍や議会の関係者の間ではすでに知られていたらしいが、昨年の12月23日、AP通信のRobert Burns記者が現場の状況を報道して注目を集めた。全体的に核ミサイル部隊は深刻な沈滞ムードにあることを伝えている。主な点は次の通りである。
○ミサイル部隊のなかに規律違反で処分を受けるものが、2013年だけで4人いた。規則を無視してICBMの格納庫を開けたり、勤務中に居眠りしたためである。
○Maj. Gen. Michael Carey(Maj. Gen.は少将)は2013年10月にICBM部隊の司令官をクビになった。同少将は代表団を率いて3日間ロシアを訪問した際、泥酔し、現地のいかがわしい女性とパーティーをし、ロシア側のホスト役を侮辱し、他の人がいるところで自分の上司に対する不満をブチまけたためである。
○ICBM部隊は2人が1組となり、交代制で24時間、ミサイルに異常がないか、いつでも命令があれば発射できるか監視する。このような監視を数10年間継続してきたが、一度も発射されたことはなかった。冷戦中はそれでも緊張感があったが、今は明確な敵はおらず、脅威の実態は変わってきており、サイバー攻撃とかテロ攻撃が問題である。ICBMの監視は退屈極まりない仕事になっており、その真の敵は倦怠である。
○イランや北朝鮮をICBMで攻撃するにはロシア領を通過することになる公算が大であり、そうなるとロシアが自国への攻撃と誤解する危険もある。
○オバマ大統領は核兵器を減少しようとしている。いずれはなくなるという期待感さえ口しており、ICBM部隊にとって先行きはますます暗くなっている。
○ヘーゲル国防長官も、長官就任以前、10年以内にICBMをすべて廃棄すべきだという意見に賛成していた。国防長官就任後は、さすがにそのようなことは言わなくなったが、各部隊には「職業的な沈滞がある」ことは指摘している。

2014.01.06

張成沢事件に見る金正恩と軍の関係

張成沢の粛清に関し、金正恩第1書記が主導したか、軍がそうさせたか。金正恩が年若く、経験が浅いだけに一人ですべて指導したとは常識的に考えにくいことからありがちな疑問であるが、軍の影響力が強いことを示す材料は比較的少ないと思われる。たとえば、12月25日発行のラジオプレス『北朝鮮政策動向』(No492)は、北朝鮮当局による同事件の発表ぶりおよび事件前後の諸事情を詳細に分析しており、軍の関係では次のような指摘(私の言葉で言い換えてある)を行なっている。
○今回の事件についての北朝鮮の発表は、金正恩の主導を強く印象付けるものである。同人の指導のもとで労働党が行動したことが強調される一方、軍が特別の役割を果たしたという説明は見られない。
○張成沢の罪状のなかに軍事に直接関係することは入っておらず、張成沢が軍の利益を害していたことを伺わせるような記述もなかった。軍としてとくに張成沢を不快視していたというわけではなさそうであった。
○張成沢は何人かの古参の軍人と親しかったと言われており、むしろ張成沢に続いて追求される可能性がある軍幹部がいるかもしれない。
○なぜ通常の裁判でなく、軍事裁判となったかよく分からない。張成沢は職業軍人ではないが、国防委員会副委員長であり、また「大将」の肩書を持っていた関係では軍事裁判となったことは不思議でないが、適用された法律は軍法でなく、一般の刑法であった。
○最高司令官、すなわち金正恩の命令に服従しなかったことを指摘しているが、同時に労働党の方針のそむいたこともあげている。
○今回の発表は「先軍」にも、また、2013年の春から言い始めた「核開発と経済建設」の「並進」路線にも触れていない。一方9月、10月の北朝鮮メディアは経済建設重視を強調していた。
○張成沢と関係が深い朴奉珠首相は無事に残っている。一時期うわさされていたように張成沢の累が広く及んだ形跡はない。北朝鮮当局はむしろ抑制しようとしている節もある。
○崔竜海軍総政治部長の存在感が増しているのは事実であるが、つねに金正恩第1書記をたたえる発言を行なっている。今回どういう役割を果たしたか、検証が必要であろう。

金正恩第1書記と軍の関係については、以上の他、高級軍人の人事を異常なほど頻繁に行ない、また2年の間に総参謀長を3回代えたことなども注目する必要があることを付言しておく。

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