オピニオン
2014.10.23
しかし、米国の空爆を多数の国が支持し、また近隣諸国を含め米軍の作戦に協力する国家も出てきた。米国はそ空爆について、集団的自衛権の行使であるとも説明したが、多数の国はそのために支持したのではなかった。「イスラム国」が占拠している地域で非人道的な扱いを受けている住民を助けることに各国が賛同し、空爆に積極的な意義を認めたからである。
このケースは、安保理決議のあり方にも一石を投じた。国連は国際の平和と安定の維持を脅かす行為について、非強制的および強制的措置を取ってたいおうすると定めている。前者は勧告などであり、後者は制裁措置や軍事行動などである。軍事的な方法とはいわゆる国連軍の派遣であるが、これは実現していない。ともかく国連は、侵略を想定し、それに対する対処を定めているが、人道問題の特殊性を考慮した特別の対応は想定していない。つまり、人道問題が生じても侵略行為がなければ安保理は対応しないのが国連憲章の建前である。
今回の空爆は国連が想定しているこのような平和維持の仕組みに合致しない行動であっても圧倒的多数の国が支持するケースがありうることを示した。それは深刻な人道侵害を防ぎ、あるいはさらなる悪化を防ぐ目的で行なわれる行動である。
深刻な人道問題が発生している場合に、他に方法がないなどの要件を満たさなければならないが、各国の主権の壁を越えて軍事的な介入が必要となる場合があるという考えが21世紀に入る頃から徐々に強まってきた。英語ではresponsibility to protect(R2P)、日本語では「保護する責任」として論じられている問題である。今後、深刻な人道問題が発生した場合には安保理のこれまでのあり方を超えて、人道的行動を積極的に認めるケースが増えてくるのではないかと思われる。
「イスラム国」空爆と「保護する責任」
さる8月、過激派組織「イスラム国」に対して米国が始めた空爆は安保理の決議を経ていなかったが、世界の多数の国から支持された。以前、米国やNATOなどが軍事行動を起こした場合、それを承認する安保理決議があったか否か、何回も問題になったことがある。イラク戦争の場合は米英などがイラクに対する攻撃を承認する安保理決議を獲得しようと努めたが、それは果たせないまま開戦に踏み切り問題になった。そのためイラク戦争は違法であるとする主張が生まれた。一方、米英は、1990年以来何回もイラクの対する決議が採択されており、2003年の攻撃も承認されていると主張した。今回の「イスラム国」に対する攻撃については、承認する安保理の決議はまったくなく、議論が分かれる余地はなかったのである。しかし、米国の空爆を多数の国が支持し、また近隣諸国を含め米軍の作戦に協力する国家も出てきた。米国はそ空爆について、集団的自衛権の行使であるとも説明したが、多数の国はそのために支持したのではなかった。「イスラム国」が占拠している地域で非人道的な扱いを受けている住民を助けることに各国が賛同し、空爆に積極的な意義を認めたからである。
このケースは、安保理決議のあり方にも一石を投じた。国連は国際の平和と安定の維持を脅かす行為について、非強制的および強制的措置を取ってたいおうすると定めている。前者は勧告などであり、後者は制裁措置や軍事行動などである。軍事的な方法とはいわゆる国連軍の派遣であるが、これは実現していない。ともかく国連は、侵略を想定し、それに対する対処を定めているが、人道問題の特殊性を考慮した特別の対応は想定していない。つまり、人道問題が生じても侵略行為がなければ安保理は対応しないのが国連憲章の建前である。
今回の空爆は国連が想定しているこのような平和維持の仕組みに合致しない行動であっても圧倒的多数の国が支持するケースがありうることを示した。それは深刻な人道侵害を防ぎ、あるいはさらなる悪化を防ぐ目的で行なわれる行動である。
深刻な人道問題が発生している場合に、他に方法がないなどの要件を満たさなければならないが、各国の主権の壁を越えて軍事的な介入が必要となる場合があるという考えが21世紀に入る頃から徐々に強まってきた。英語ではresponsibility to protect(R2P)、日本語では「保護する責任」として論じられている問題である。今後、深刻な人道問題が発生した場合には安保理のこれまでのあり方を超えて、人道的行動を積極的に認めるケースが増えてくるのではないかと思われる。
2014.10.20
10月5日に本ブログに掲載したコメントに加え、同報告が「日米同盟はグローバルな性質を持つ」と複数回指摘していることも注目される。
「日米同盟」とは、常識的には日米安保条約により結ばれている日米間の関係、すなわち安全保障に関する日米の関係とみなされているであろう。この条約はもともと日本がサンフランシスコ平和条約で独立を回復するのに際し日本の安全を確保するために結ばれたものである。これが一体いつの間にグローバルな性質を帯びるに至ったのかと疑問を抱かれても不思議でない。それどころか、今回の指針見直しの最大眼目である、両国間の防衛協力を世界全体に拡大するために都合よく待ちだされた説明であると思われるかもしれない。
一方、外務省は「日米同盟」を必ずしも安全保障のための協力に限ってはいないようである。外務省のサイトに掲げられている「日米同盟:未来のための変革と再編(骨子)」では、「日米同盟は、日本の安全とアジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎。同盟に基づいた緊密かつ協力的な関係は、世界における課題に対処する上で重要な役割を果たす」とし、日米同盟の重点分野として次の2つを示している。
•日本の防衛及び周辺事態への対応(新たな脅威や多様な事態への対応を含む)
•国際的な安全保障環境の改善のための取組
つまり、日米同盟には両国の問題に限らず国際的な面があると外務省は言っているのである。では、この「国際的な安全保障環境の改善のための取組」とは何か。外務省のこの説明資料からは明確でないが、米国とともに多国籍軍として協力することなどは日本はできないはずである。一方、政治的な協力あるいは技術面での協力などはありうる。
いずれにしても、今後は「グローバルな性質の日米同盟」とは何かを明確にしておかなければならない。そのプロセスを経ることなく、「グローバルな性質の日米同盟」という御旗だけで日米両国の安全保障面での協力が世界全体に拡大されてはならない。2国間の関係を超え、国際的に日米両国が協力できることは何か、また、日米両国は多国籍軍などで協力できるかいなか、できるならばどのような協力かを先に明確にすることにより、「日米同盟」の内容が決まってくるはずである。
米国の一部プレスからは、想定された範囲内であるが、日米間の防衛協力に関する中間報告はあいまいな表現で偏っているとする指摘が出ている。米国の期待は、日本が米軍の軍事行動に協力することにある。これは米国として至極もっともなことである。しかし、日本はそうではない。日本は国際的に協力すべきであり、何でもカネで済ますのは許されないが、軍事面で協力できないことは厳然とある。それをなし崩し的に認めてしまおうとしてはならない。また、そのためには、今後の日本の防衛のあり方について透徹した分析に基づく検討が必要である。
日米防衛指針の中間報告2
日米両国政府は10月8日、「日米防衛協力のための指針の見直しに関する中間報告」を発表した。10月5日に本ブログに掲載したコメントに加え、同報告が「日米同盟はグローバルな性質を持つ」と複数回指摘していることも注目される。
「日米同盟」とは、常識的には日米安保条約により結ばれている日米間の関係、すなわち安全保障に関する日米の関係とみなされているであろう。この条約はもともと日本がサンフランシスコ平和条約で独立を回復するのに際し日本の安全を確保するために結ばれたものである。これが一体いつの間にグローバルな性質を帯びるに至ったのかと疑問を抱かれても不思議でない。それどころか、今回の指針見直しの最大眼目である、両国間の防衛協力を世界全体に拡大するために都合よく待ちだされた説明であると思われるかもしれない。
一方、外務省は「日米同盟」を必ずしも安全保障のための協力に限ってはいないようである。外務省のサイトに掲げられている「日米同盟:未来のための変革と再編(骨子)」では、「日米同盟は、日本の安全とアジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎。同盟に基づいた緊密かつ協力的な関係は、世界における課題に対処する上で重要な役割を果たす」とし、日米同盟の重点分野として次の2つを示している。
•日本の防衛及び周辺事態への対応(新たな脅威や多様な事態への対応を含む)
•国際的な安全保障環境の改善のための取組
つまり、日米同盟には両国の問題に限らず国際的な面があると外務省は言っているのである。では、この「国際的な安全保障環境の改善のための取組」とは何か。外務省のこの説明資料からは明確でないが、米国とともに多国籍軍として協力することなどは日本はできないはずである。一方、政治的な協力あるいは技術面での協力などはありうる。
いずれにしても、今後は「グローバルな性質の日米同盟」とは何かを明確にしておかなければならない。そのプロセスを経ることなく、「グローバルな性質の日米同盟」という御旗だけで日米両国の安全保障面での協力が世界全体に拡大されてはならない。2国間の関係を超え、国際的に日米両国が協力できることは何か、また、日米両国は多国籍軍などで協力できるかいなか、できるならばどのような協力かを先に明確にすることにより、「日米同盟」の内容が決まってくるはずである。
米国の一部プレスからは、想定された範囲内であるが、日米間の防衛協力に関する中間報告はあいまいな表現で偏っているとする指摘が出ている。米国の期待は、日本が米軍の軍事行動に協力することにある。これは米国として至極もっともなことである。しかし、日本はそうではない。日本は国際的に協力すべきであり、何でもカネで済ますのは許されないが、軍事面で協力できないことは厳然とある。それをなし崩し的に認めてしまおうとしてはならない。また、そのためには、今後の日本の防衛のあり方について透徹した分析に基づく検討が必要である。
2014.10.05
そうなると、米国が要請してくれば、イラク戦争のような場合に自衛隊が米軍に協力すべきか問われることになる。しかるに、閣議決定された新方針に従えば、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」などの要件が満たすことが条件であるが、自衛隊を派遣することはできる。さらに、日米間で合意された(現時点ではまだ合意前であるが)日米防衛協力のための指針でも自衛隊を派遣できるわけである。
日本は協力を拒否できるか。法的には、集団的自衛権を行使するか否かは日本の権利であり義務でないので拒否できるが、法的に可能であるにもかかわらず拒否するのはよけい困難であろう。
米軍の活動に自衛隊が参加する場合に実態的に何が問題となるか。米軍は紛争のあるところでも活動する。イラクもそうであったし、シリアについても米議会では軍事介入すべきであったという意見は強い。世界政治における米国の在り方から見て、紛争があり、それに巻き込まれるから行動しないというのはありえないことである。もっとも米軍は問題があれば必ず出動するのではない。米国が軍事介入の是非を検討したが、結局しなかった例はいくつもある。北朝鮮との関係でも検討したがやめたことがあった。しかし、米軍が行動しない理由は紛争に巻き込まれるからではない。成功の可能性がどのくらいあるか、米軍のこうむる損害の大きさなど諸般の事情を勘案した結果である。
日本の状況は大きく異なっている。紛争を起こしてはならない、紛争に巻き込まれてはならないというのは、日本国憲法の根幹であり、またそのような制限を自らに課すことについては、大多数の国民が支持している。「絶対的平和主義」と揶揄されるような硬直した考えを取らない人も、自衛隊の積極的意義を認める人も、また、国連の平和維持活動には自衛隊も他国と同じように参加、貢献すべきであるという考えの人も、紛争に巻き込まれてはならないことを心底から受け入れるのではないか。
この重要な国民的規範を閣議決定の新方針や日米間防衛協力の新指針が変更するのは認めるわけにはいかない。これこそ憲法を改正して自衛隊が米軍と同じように行動できるようにすべきか、国民に十分な議論の機会を提供し、その意見を聞くべきことである。
日米防衛指針の中間報告
政府は、年末に予定されている、日米防衛協力のための新指針(ガイドライン)に関する中間報告において、1997年に策定された現行の指針が日米の防衛協力を日本の周辺(「周辺事態」)に限っていた制限をなくすそうである(『朝日新聞』10月4日付)。政府は、関連法案が国会で審議される際、「周辺事態」は必ずしも地理的概念でないと説明していたので、新指針についての報告が行われ、「周辺事態」の概念がなくなっても自衛隊の行動範囲を変更するのではないと説明するかもしれないが、「周辺事態」とは、「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重大な影響を与える事態」と法律で定義されている。「周辺事態」という区分がなくなれば、地理的限定がなくなることは明らかであろう。7月に決定された集団的自衛権等に関する閣議決定で、他国に対する武力攻撃が行われた場合にも一定の要件を満たせば自衛隊が出動することが可能になったこととあいまって、自衛隊が米軍と協力する範囲について限定がなくなれば、たとえば中近東で米軍が行なう活動に自衛隊が参加することが可能になることを意味している。そうなると、米国が要請してくれば、イラク戦争のような場合に自衛隊が米軍に協力すべきか問われることになる。しかるに、閣議決定された新方針に従えば、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」などの要件が満たすことが条件であるが、自衛隊を派遣することはできる。さらに、日米間で合意された(現時点ではまだ合意前であるが)日米防衛協力のための指針でも自衛隊を派遣できるわけである。
日本は協力を拒否できるか。法的には、集団的自衛権を行使するか否かは日本の権利であり義務でないので拒否できるが、法的に可能であるにもかかわらず拒否するのはよけい困難であろう。
米軍の活動に自衛隊が参加する場合に実態的に何が問題となるか。米軍は紛争のあるところでも活動する。イラクもそうであったし、シリアについても米議会では軍事介入すべきであったという意見は強い。世界政治における米国の在り方から見て、紛争があり、それに巻き込まれるから行動しないというのはありえないことである。もっとも米軍は問題があれば必ず出動するのではない。米国が軍事介入の是非を検討したが、結局しなかった例はいくつもある。北朝鮮との関係でも検討したがやめたことがあった。しかし、米軍が行動しない理由は紛争に巻き込まれるからではない。成功の可能性がどのくらいあるか、米軍のこうむる損害の大きさなど諸般の事情を勘案した結果である。
日本の状況は大きく異なっている。紛争を起こしてはならない、紛争に巻き込まれてはならないというのは、日本国憲法の根幹であり、またそのような制限を自らに課すことについては、大多数の国民が支持している。「絶対的平和主義」と揶揄されるような硬直した考えを取らない人も、自衛隊の積極的意義を認める人も、また、国連の平和維持活動には自衛隊も他国と同じように参加、貢献すべきであるという考えの人も、紛争に巻き込まれてはならないことを心底から受け入れるのではないか。
この重要な国民的規範を閣議決定の新方針や日米間防衛協力の新指針が変更するのは認めるわけにはいかない。これこそ憲法を改正して自衛隊が米軍と同じように行動できるようにすべきか、国民に十分な議論の機会を提供し、その意見を聞くべきことである。
アーカイブ
- 2025年9月
- 2025年8月
- 2025年7月
- 2025年6月
- 2025年5月
- 2025年4月
- 2025年3月
- 2025年2月
- 2025年1月
- 2024年10月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月