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2020.05.04

憲法改正の主要論点

 日本の憲法は「硬性憲法」などというレッテルを貼られているが、憲法は不変であるという原則などどこにもない。時代の変化に応じ改正すべきは当然である。

 しかし、憲法に自衛隊を明記することには反対だ。規定すべきだという意見の根拠は、自衛隊が我が国の防衛を担う機関としてしかるべき地位を認められていないという点にあるようだが、国家機関の中で自衛隊だけが例外的に重要なのではない。

 憲法9条は、日本が戦争に敗れた結果占領軍に押し付けられたものであるというのは、経緯的にはそうであろうが、それだけではあまりにも皮相的な見方である。現憲法は、日本が戦後国際社会との関係を再定義し、再出発した原点である。9条には一部賢明でない表現もあるが、そんなことは大した問題でない。同条の本質的意義を損なってはならない。

 また、自衛隊が違憲であるとの考えが国民の間にあることが理由とされることがあるが、自衛隊が憲法に違反しないことはすでに60年以上も前に憲法の解釈として認められてきたことであり、また、大多数の国民にもその解釈は受け入れられている。

 名称の問題として、「自衛隊」は適切でない、「防衛軍」、あるいは「国防軍」とすべきだというのであれば、自衛隊法など関連の法律で名称変更を行うことは可能であると考える。

 安全保障の関係では、現憲法の「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」との規定(第66条2項)は通常、文民統制(シビリアンコントロール)を定めた規定だと説明されるが、実態は文民統制にほど遠い。そのことは南スーダンへの自衛隊派遣に際して如実に表れた。

 憲法では、「軍はいかなる場合でも政府の判断に従う」という一般原則を明記すべきである。このような原則を立てれば、すべての軍人がまもるべき規範であることが明確になる。また自衛隊員の教育にも役立つ。現行憲法規定では首相や防衛相だけが文民統制の原則を守ることになっているが、国民全員の問題である。

 憲法改正については他にもいくつかの論点があり、最近注目を浴びた公文書の管理問題はその一つである。現在は、国会に対して虚偽の文書を提出しても罪に問われない。政府が決定を行う際の経緯を示す文書が恣意的に破棄されるというひどい状況にある。政府の決定に至る経緯や理由を知ることは国民の権利であり、関連の文書を残し、国民が閲覧できるようにしなければならない。そのため、文書管理に関する原則を憲法に記載すべきである。

 憲法の解釈が政府の方針によって、国会における数の力に頼って変更されてはならない。集団的自衛権の行使は認められないという、戦後貫かれてきた憲法解釈が変更されたのは誤ちでなかったか。今後の憲法改正に関する議論において、まずこの問題点が明らかにされなければならない。

2020.04.15

医療崩壊の恐れ

 「医療崩壊」の恐れがある、あるいはすでに始まっているということを耳にすることが多くなっているが、その実態は素人には分かりにくい。特に、日本全体の状況が分かりにくい。専門家は個別のケース、たとえば個別の病院の状況などを自己の体験を交え説明する。それを聞くと、各地でそういうことが起こっていることは察しが付くが、日本全体、あるいはそこまで広げなくても東京のような地域全体の状況を理解するには至らない。

 日本や地域の全体的医療事情を、量的分析を含めて説明できそうなところは厚労省だろうが、同省の説明は一部のことに限られている。

 日本や地域の医療事情の全体的説明はこれまでもある程度行われてきた。たとえば、「過去一定期間の間に感染者数が2倍になった」とか、「患者の受け入れを拒否する病院が増えている」とか、「PCR検査を受けて陽性だった人の割合は3月末は5%前後であったが、いまは約20%に上昇している」などという説明である。「病床が東京でいくつ足りない」などという説明も分かりやすい。

 もう一つ、「院内感染」が発生している病院の数が説明されれば分かりやすいと思う。この言葉は医療機関に責任を負わせるので適当でないという考えがあるそうだが、本稿では便宜上この言葉を使わせてもらいたい。

 厚労省は3月31日に「同一の場所で5人以上の感染者が発生したクラスター(感染者の集団)の約3割を医療機関が占め、感染者のうち1割前後が院内感染である可能性がある。これまで、全国14都道府県に26カ所のクラスターが発生し、このうち医療機関は10か所だった」との発表を行ったが、それ以降の発表はない。

 そこで、報道に出ている院内感染した病院を拾ってみると、すでに厚労省発表の2倍以上の22に上っている。報道には具体名が出ているのだが、本稿では控えるとして、東京では6か所、神戸市、富山市、金沢市、福井市でそれぞれ2か所、そのほか、京都市、福岡県春日市、北九州市、名古屋市、兵庫県小野市、同県加東市、和歌山県湯浅町、大分市でそれぞれ1か所となっている。気が付いたところだけでもこれだけになるのであり、実際にはもっと多いのではないか。

 いわゆる医療崩壊と院内感染は同義でないが、院内感染が発生すれば臨時休業する病院が多い。その影響は甚大であり、近在の病院に影響が及ぶ。そうすると全体の状況はますます状況は悪くなる。そう考えれば、院内感染は医療崩壊につながることが多いのではないか。

 今回の感染について医師や看護師は献身的に治療にあたっている。そのことについても全体的、数量的な分析があると分かりやすくなるだろう。医療は商品の売買のように数量的にとらえられない面があることは分かるが、何とか工夫していただけないかと考えてしまう。

 日本政府には危機的状況を正確に示し、感染の拡大防止、収束に役立ててほしい。そのためにも、医療体制のひっ迫状況についての具体的、かつ、全体的な説明は役立つだろう。
2020.04.12

経済対策は緊急事態への対処か

4月7日、緊急事態宣言とともに発表された事業規模108・2兆円の緊急経済対策(以下「経済対策」)は、国民の間では緊急事態に対処するために策定されたものだという印象が強かった。状況からしてそのように受け止められたのは当然であった。発表後、エコノミストの間でも緊急事態への対処としてどの程度効果的であるかという観点からのコメントが多かった。

しかし、新型コロナウイルスによる感染問題への対処は経済対策の一側面に過ぎず、それには異なる目的の対策が盛り込まれていた。

感染拡大が収まるまでの対策(第1段階)だけでなく、その後に経済回復をめざすための対策(第2段階)が盛り込まれていたことである。後者は緊急事態への対処が目的でない経費である。

安倍首相が強調した総額6兆円超の現金給付についてもその対象は明確でなかった。安倍首相は「生活や事業を支援する策として、収入が減った低所得世帯などに5月にも現金30万円を給付する」と説明したが、その中には新型コロナウイルス問題により収入が減った世帯とそうでない理由で収入が減った世帯と両方が含まれているのではないか。少なくとも説明からはそう解さざるを得なかった。

給付の対象は「収入が減った低所得世帯」(30万円を1300万世帯に)と「中小・小規模事業者」(減収分として最大200万円、フリーランスを含めた個人事業者に最大100万円)という説明にも同じ問題があった。その中にはコロナ関連経費と非コロナ関連が含まれるからである。

非コロナ関連に何もしなくてよいといっているのではない。今回の宣言に際しては、前者が優先されるべきだといっているのである。

つまり、今回の経済対策は緊急事態に絞られていなかったので性格が不明確で、分かりにくかった。国民に大規模な対策を打ち出すことへの理解を求めるには緊急事態に絞った対策にしたほうがよかったと思う。

政府の緊急事態への認識はやはり甘いと思う。一方、経済困難な人たちを救おうという意識は強かった。極端かもしれないが、今回の経済対策は、一見緊急事態に対応して打ち出されたように見えたが、実はそうでなく、経済的に困難な人たちへの対策だったのである。

第2段階のことについては、今回の経済対策でおしまいということにならない。未曽有の困難が発生したのであり、今後も緊急経済対策が必要になるのは目に見えている。第2段階はその中で検討していくのが望ましい。

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