平和外交研究所

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2020.09.17

中国外交に困難な状況が増えている?

 中国政府は9月8日、新型コロナウイルスとの闘いで貢献した科学者らを表彰した。その際、習近平主席は「完全勝利までにはさらなる努力が必要だが、この8カ月間、我々は努力して重大な戦略的成果を得た。人類と疾病との闘いの歴史における英雄的壮挙を成し遂げた。」と成果を強調した。中国では、新たな感染の発生は3月10日頃から1日当たり2桁、あるいは1桁に低下しており、9月中旬の感染者総数はその頃からあまり増えておらず、8万5千人強である。毎日3桁で感染が増えている日本はすでに7万6千人をこえており、このままで推移すると10月中には日本の感染者のほうが中国を上回るという恐ろしい事態になる。

 しかし対外面では、中国をめぐる状況は全般的には悪化しつつある。
 
 台湾の統一問題は、習近平政権が2012年に成立して以来、もっとも進展しなかったことである。昨年も経済協力をはじめあらゆる手段を使って、台湾の孤立化を図った。2016年に蔡英文政権が発足して以降、7カ国を台湾との外交関係断絶に追い込んでいる。
 
 にもかかわらず、台湾の統一問題は進展しなかった。去る8月、台湾では高雄市の市長選挙が行われ、与党民進党の陳其邁候補が勝利を収めた。2年前の市長選では国民党の韓国瑜氏に完敗した陳氏であるが、今回は韓氏の支援を受けた国民党の李眉蓁候補の3倍近い票を得て大勝した。
 
 このような結果となったのは、香港において国際約束を無視して民主化デモを強制的に排除するとともに、「国家安全維持法」を強引に成立させ、さらに今秋に予定されていた立法会(香港の議会)の選挙を恣意的に延期するなどしたためであろう。習近平政権としては、香港の扱いを誤ると中国全土で民主化を求める行動が強くなることを恐れているので、香港が国際的に問題になるたびに、「中国の主権にかかわることであり、他国は介入すべきでない」と力みかえるのである。
 
 そんな中、チェコのビストルチル上院議長一行が8月末、台湾を訪問した。ビストルチル氏は蔡英文総統と会談し、台湾の立法院で「私は台湾人です」と、1963年に米国のケネディ大統領が冷戦下の西ベルリンを訪れて「私はベルリン市民だ」と語ったことにならい、中国から圧力を受ける台湾への連帯を表明した。チェコの上院議長が訪台したのは、中国が約束通り投資事業を進めないことなどが理由であり、チェコでは中国への失望が拡大しているという。
 
 チェコの上院議長の訪台は習近平政権にとってきわめて不愉快な行動だったであろう。中国の王毅外相は8月31日、訪問先のドイツから「14億人の人民を敵に回すものだ。必ず大きな代価を払わせる」との談話を発表した。これは国際社会の常識として、恫喝に近いものである。ドイツのマース外相は1日、王毅外相との共同会見で、ビストルチル氏らの訪台を擁護する立場を表明したうえ、「脅しは適当ではない」と述べた。あきらかに王毅外相をたしなめたのであった。
 
 ドイツはEUの中にあって中国に強い関心を示し、メルケル首相は十数回訪中している。経済的にもドイツ企業は中国で非常に活発に行動している。自動車製造業においては日本よりも早く中国に進出するなど中国における外資系企業の進出のモデルとなった経緯もある。
 しかし、香港問題などが原因で、ドイツはこれまでのような友好的姿勢を継続しにくくなっているのである。

 台湾問題では、ほかにも習近平政権を刺激するあらたな状況が生まれつつある。時期的にはチェコ上院議長の訪台より以前の8月10日、米国のアザール厚生長官が訪台し、蔡英文総統と会談した。これも習近平政権にとってはきわめて不愉快なことであっただろう。

 9月1日には、ソロモン諸島で、人口最多のマライタ州が「中央政府が人々の声を聞かずに中国と国交を結んだ」として、独立の是非を問う住民投票を今月実施すると発表した。

 9日には、ソマリランドが台湾の台北市に代表機関の事務所を開いた。中国がこれまで経済協力を餌に引き付けてきた開発途上国の中に、一部であるが、疑問を呈したり、中国とは一線を画したりする行動が出てきたのである。
 
 米国からは7月末、ポンペオ国務長官に中国共産党政権を真っ向から批判され、9月15日にはファーウェイに対する規制が全面的に実施されることになり、EUからも批判的な見方が強まっている。そんな中、中国はロシアとの関係強化により、窮状の打開を図ったとみられる。

 9月11日、中ロ両国はモスクワで共同声明を発表した。この声明は形式的には、世界大戦終結75周年記念であり、5年前と異なり、今年は中ロの国境であるアムール川で合同の戦勝記念式典を行っただけであった。そのためか、この共同声明は日本でほとんど注目されなかった。だが、その内容を見ると、中国が置かれている困難な状況がにじみ出ていた。

 両国は人権を国際的な問題とすることに反対した。両国とも人権の擁護が十分でなく、ひどい状況もあると批判されているからである。中国が香港の問題について国際社会の反応を強く警戒していることは周知である。

 さらに両国は、インターネットに関する規則を国連主導で定めるとの考えを支持した。米国などの主導でなく、中国が影響力を行使しやすい開発途上国が多数を占める国連で規則を作成するのが中国にとって有利なのである。

 また、共同声明は、「グローバルなデータの安全」にも言及した。しかし、ロシアは中国による提案を「重視する」と述べるにとどまった。「合意」したのでも、「支持」したのでもなかったのである。
 中国では「グローバルなデータの安全の保護」に関する法律案が作成されており、現在関係者からコメントを集めている。ロシアが重視したのはこの法律のことであり、中国はこの安全を国際的に広げたいが、ロシアはまだ自信が持てないのであろう。

 この法律は慎重に分析しなければならないが、たとえば、中国企業が保持している「データ」が中国の安全とかかわりがありうるとの認識に立っており、中国の安全保障のためには企業のデータが保護されなければならないという趣旨にも読める条文案が盛り込まれている(例えば第2条)。つまり、中国の企業が米国で上場する場合、情報の開示が求められるが、中国の安全保障に差しさわりがある場合は拒否できるようにするのが法律の主旨ではないか。

 中国が「データの安全を確保する」という構想を国際的に広めようとしているのは、中国の安全のためにもファーウェイなど中国企業を保護しなければならないという狙いからでないかと思われる。

2020.07.09

中国軍の演習など

 中国軍は7月6日までに、南シナ海、東シナ海および黄海で一斉に軍事演習を行った。当初予告していたのは南シナ海での演習であったが、範囲を広げて異例の3海域同時大演習としたのである。

 中国の意図は何であったか。軍事プレゼンスを誇示するのが狙いだというコメントもあるが、なぜ軍事プレゼンスを誇示する必要があったのかが問題である。

 米国務省は7月2日、中国の軍事演習は「南シナ海の状況をさらに不安定にする」と懸念を表明していた。中国政府はこれに対し、「米国は中国と東南アジア諸国との間に不和の種をまこうとしている」と批判したが、米軍はそれにかまわず、4日、南シナ海に原子力空母「ニミッツ」と「ロナルド・レーガン」を派遣し、大規模な軍事演習を行った。空母2隻が参加する演習は6年ぶりであった。

 3海域演習に先立ち、中国の官船「海警」(海上保安庁巡視船に相当)は6月21日、尖閣諸島周辺で日本の漁船を追い回した。また7月2日から3日夜にかけて、2隻の「海警」が約30時間にわたって尖閣諸島周辺の日本の領海に侵入した。これは8年前に日本政府が尖閣諸島を国有化して以降、最も長い領海侵犯であった。

 中国は過去数週間、活動を非常に活発化させているのである。その意図を判断する材料は乏しく、いたずらに推測を重ねるべきでないが、しいて言えば、新型コロナによる感染問題で約半年間国内が陰鬱な気分に陥っていたことと関係があるかもしれない。

 中国の国営中央テレビなどは、演習に投入されたミサイル駆逐艦をはじめ、南部、東部、北部の3戦区の部隊が同時期にそれぞれ演習を実施し、実際に火力を使うなどの映像を公開した。これらをみると、今回の演習では国内に向けて軍事力を誇示し、一種の景気づけを行う目的もあったのではないかと思われる。

 中国の「海警」が尖閣諸島周辺の日本の領海に執拗に侵入したことは看過できないが、今のところ、日本の海上自衛隊が出動するべき状況でない。出動すれば、尖閣諸島を日中間の紛争の対象としたい中国海軍は、待ってましたと言わんばかりに問題を拡大しようとするだろう。

 日本として取るべき対応は、中国船を追い払うことはもちろん、「海警」の尖閣諸島周辺での行動を、海上からだけでなく衛星からも子細に撮影しておくことと、南シナ海、東シナ海、黄海における中国軍の演習の影響を受ける恐れがある国々と情報交換など連携を強化することであろう。
2020.06.29

コロナ問題専門家会議の改組?

 新型コロナウイルスによる感染問題に取り組む政府の中枢に異常事態が生じている。6月27日付の時事通信は以下のように伝えた。

「新型コロナウイルス対策の方向性を主導してきた政府の専門家会議が突如、廃止されることとなった。政府が廃止を発表したのは、折しも会議メンバーが位置付けの見直しを主張して記者会見していたさなか。
(中略)
 専門家会議の見直し自体は、5月の緊急事態宣言解除前後から尾身氏らが政府に打診していたこと。この日の会見では、政府の政策決定と会議の関係を明確にする必要性を訴えていた。
(中略)
 (専門家)会議の存在感が高まるにつれ、経済・社会の混乱を避けたい政府と事前に擦り合わせる機会が拡大。5月1日の提言では緊急事態宣言の長期化も念頭に「今後1年以上、何らかの持続的対策が必要」とした原案の文言が削られた。関係者は「会議の方向性をめぐりメンバー間でもぎくしゃくしていった」と明かす。
揺れる専門家を政府は「どうしても見直すなら政府の外でやってもらう」(内閣官房幹部)と突き放していた。亀裂を表面化させない思惑が働いたことで最近になってから調整が進み、(1)会議の廃止(2)法的な位置付けを持つ新型コロナ対策分科会への衣替え(3)自治体代表らの参加―が固まった。当初は尾身氏らの提言を受け、25日に発表する段取りだった。
 それが覆ったのは24日の尾身氏らの会見直前。「きょう発表する」。西村再生相の一声で関係職員が準備に追われた。ある政府高官は西村氏の狙いを「専門家の会見で、政府が後手に回った印象を与える事態を回避しようとした」と断言する。
 専門家会議の脇田隆字座長や尾身氏には連絡を試みたが、急だったため電話はつながらないまま。「分科会とは一言も聞いてない」とこぼす専門家らに、内閣官房から24日夜、おわびのメールが送られた。
 後味の悪さが残る最後のボタンの掛け違い。会議メンバーの一人は「政治とはそういうもの。分科会で専門家が表に立つことはない」と静かに語った。」

 このまとめには不正確な部分があるかもしれないが、特に関係者の発言の引用部分は正確だと思う。その前提であるが、本件についてはいくつか非常に懸念されることがある。

 第1に、専門家会議のあり方について、政府と専門家会議の間には考えが違っているところがある。「あった」と過去形で言いたいが、考えの違いが完全に解消されたとは思えない。具体的にどう違っているかについては、専門家の側からは「十分な説明ができない政府に代わって前面に出ざるを得なかった」などの説明はあったが、それだけでは本当の問題が何か、よく分からない。

 第2に、専門家会議の方が、政府とのすり合わせのないまま記者会見を開いて同会議としての立場を説明しようと見える。しかし、政府の方でも専門家会議の訴えを突っぱね、「どうしても見直すなら政府の外でやってもらう」との立場を取ったことは重大な誤りであった。なぜならば、この重要問題が新型コロナウイルス感染症対策本部の本部長である安倍首相に上がっていなかったと推測されるからである。上がっていたのに、それでもこのように突っぱねるということは政府の常識としてあり得ない。政府の側でこの問題を知っていたのは西村康稔経済再生担当相しか見えない。

 第3に、西村再生相は専門家会議による記者会見直前に、(1)会議の廃止(2)法的な位置付けを持つ新型コロナ対策分科会への衣替え(3)自治体代表らの参加を内容とする対応方針を発表した。この内容については、原則として専門家会議側の理解があったような印象だが、問題はこの方針の発表を西村再生相の判断で1日早め、しかも、そうすることについて専門家会議側の了承を得ていなかったことである。政府側は、試みたが連絡できなかったと言っているそうだが、そうであるならば連絡できるまで待つべきだ。この間の政府側の対応は強権を振るったとしか言いようがない。

 第4に、西村再生相は、無断発表についての強い批判を受け、政府の専門家会議を廃止する方針について「(公表に際し)十分説明できていなかった」と釈明したうえ、「専門家会議の皆さんを排除するようにとられたことも反省している」、「『廃止』という言葉が強すぎた。発展的に移行していく」と大わらわでダメージコントロールを行った。率直に非を認めたのは評価できるが、安倍首相がどのような役割を果たしたのか、とくに専門家会議と政府とのずれを解消しようと努めたのか、不明であり、こんな状況では第二次感染に備えなければならないのに不安が残る。今後、西村再生相は重要問題は安倍首相の指示を受けて対処すべきである。

 第5に、加藤勝信厚生労働大臣の姿がまるで見えないのは不可解である。新型コロナウイルスによる感染問題は西村再生相の担当だが、政府と感染症の専門家との間のズレについて厚生労働相は無関係でおれないはずである。

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