平和外交研究所

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2015.12.30

(短評)大使館前の少女像撤去問題

 ソウルの日本大使館前に置かれている少女像を撤去しないと、今回の日韓合意で決まった拠出は実行しない、それは双方で合意された条件だという声が永田町などで上がっていると報道されている。愚かな議論である。

 第1に、発表された合意では、「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体と話し合いを行い、適切なかたちで解決するよう努力する。」ということであった。これは韓国側で措置する問題だから尹外相が発言したが、岸田外相はその説明に異を唱えなかった。尹外相のこの説明を正しいと認めたのであり、合意されたのはこの説明通りであった。「少女像を撤去しないと拠出を実行しない」とは合意されたことでない。

 第2に、少女像は撤去すべきだが、撤去しないと拠出しないというのはカネの力にものを言わせて目的を実現しようとする行為と各国から見られる恐れがあり、そのように品のないことは誇り高い日本としてすべきでない。

 第3に、拠出しないとどうなるか。喜ぶのは今回の合意に反対している韓国の団体などではないか。今回の合意の最大の効果は、韓国政府が日本政府とともに慰安婦問題の解決に努めることになったことであり、それまでの韓国政府とは180度近く方針を変更し、今や日本政府と同じ側に立っている。実際、韓国政府は彼らの説得に取り掛かっているのであり、日本政府は反対派の団体を勇気づけるようなことはすべきでない。

 第4に、大使館の周囲が思わしくない状況になることは他の国でも例があり、解決は簡単でない。ソウルでも、韓国政府が努力しても少女像が撤去されないことはありうる。だからといって、韓国政府は合意通り「努力したが実現できませんでした」で済まされる問題でないのは当然だ。しかし、そのような場合でも日本政府は韓国政府に対し、大使館周辺の土地を買い上げるなどして環境の維持を要求すべきである。それは韓国政府として可能なことであろう。

 合意と違ったことを勝手に合意だったと主張し、それを聞き入れなければカネは出さないというのはさもしい行為ではないか。
2015.12.29

(短評)慰安婦問題の解決に関する日韓合意

 慰安婦問題の解決に関し、岸田・尹両外相が合意に達し、記者会見でその内容を公表した。この合意は画期的だと思う。最大の成果を順に3つ挙げてみる。

 第1に、とうぜんだが、慰安婦問題が最終的に解決されることだ。ただし、これは政府間の合意であり、すべての当事者、関係者が満足したわけではない。政府の外では今後も不満の声が上がるかもしれないが、そのことを勘案しても両政府が合意したことの意義は大きい。

 第2に、韓国政府は、慰安婦問題の解決について、これまでは日本政府に注文を付けるだけであり、いわば評論家的な態度であったが、これからは当事者としてこの問題の解決に努めることとなる。これは大きな態度変更である。
 韓国人元慰安婦に関し韓国政府が日本政府と初めて合意したこともその表れだ。
 新たに設置される基金が、アジア女性基金と異なり韓国政府によって設置されることはまさにそのような韓国政府の姿勢を表している。
 国際場裏で再び韓国人元慰安婦の問題が取り上げられると、今後は両政府が協力して対応することとなる。表向き協力していないように見えても、両政府は今回の合意にしたがって対応するので結局は協力するのと同じことであろう。

 第3に、国家補償、あるいは国家賠償の問題は、今回の合意は日韓双方の立場を損なわない、賢明な解決方式になっている。玉虫色の解決策だが、法的にどのような説明をするかは両国の法律の専門家に任せておけばよい(任せておくしかない?)。ともかく、双方が受け入れ可能な解決方式になっていることが重要であり、それ以上の詮索は無用だ。
2015.12.26

慰安婦問題に関する韓国との交渉

 慰安婦問題について岸田外相は週明けに訪韓する。日韓間の交渉は大詰めを迎えている印象がある。
 両国を悩ませてきたこの難問が最終的に解決されることを望みたいが、注目点を挙げておこう。

 第1に、日韓両国が合意に達するとして、その合意は文書に記載されなければならない。文書にならない合意は、残念ながら、慰安婦問題を解決したことにはならない。なぜならば、文書に明記されない合意は将来両政府間で異なる解釈を生むからだ。つまり、日本政府が「A」と合意したと言っても、韓国政府は「B」に合意したのだということになる危険が大きいのだ。

 第2に、合意文書には、慰安婦問題は将来二度と問題にしないことを韓国政府が明確に約束しなければならない。しかし、韓国における政府と裁判所の関係にかんがみてこれが果たして可能か、非常に疑問だ。李明博前大統領が慰安婦問題について日本側に善処を求めるようになったのは、韓国の憲法裁判所がそうすべきだと促したからではなかったか。

 第3に、元慰安婦が強くこだわり、日本政府に求めてきた「日本政府による公的補償」については、どのような解決になるのか見えてこない。「新しい基金」を作って償いをするそうだが、日本側はこれと、安倍首相のわび状をもって公的な補償だと主張するのかもしれない。
 元慰安婦は従来からそのようなものでは解決にならないと強く主張してきたが、「新しい基金」は日本で設置されるものであり、その法的性格を韓国側で決定するわけにはいかない。つまり、それが公的な補償か否か、また、それにどこまで近いかなどは、結局は、日本側の説明を受け入れざるを得ない。
 もし、あくまで受け入れないのであれば、かつての「アジア女性基金」による償いの場合と同様の結果になる。

 第4に、韓国政府が日本政府による公的補償についての考えを受け入れる、つまり、公的補償をしないということを受け入れることにしたのであれば、韓国政府の英断であり、交渉をそのように導いた日本政府は称賛に値する。
 しかし、韓国政府は、慰安婦問題は1965年の請求権協定で解決されていないとの立場であり、その立場を変更することになるが、そんなことは本当にできるのか。
 しかも、韓国政府は、将来国際的にこの問題が取り上げられた場合、日本政府だけでなく韓国政府も非難を浴びる可能性がある。むしろ、日本政府に同調した韓国政府が主に責められることも考えられる。韓国政府はそれに耐えられるか。

 今回の交渉ではこれらの諸問題をクリアした上で合意されることを望みたいが、カギとなるのは日本側が取る措置が公的補償か否かであり、それを迂回しては真の解決は実現しないだろう。

 しかし、今回の合意が無意味だというのではない。日韓両政府が慰安婦問題の解決について正式に合意したことはかつてなかったことである。今回の合意は限定的な効果しかないとしても、それなりに政治的な意義はあろう。
 慰安婦問題が両国以外で、国際的に取り上げられる可能性は残るが、その場合でも日本政府だけでなく、日韓両政府が共同して対処できる。これも大きな効果だ。
 今回の解決の積極的意義を生かすためにも、合意を文書で明確に示すことは絶対的に必要だ。それがないとせっかくの合意も一時的な政治ショーになってしまう危険がある。
 産経前ソウル支局長に対する裁判で無罪判決が出たこと、徴用工の問題で韓国政府は自国内で解決を図る方針としていることなど韓国側は態度を軟化させている兆候があるようにも見える。また、水面下ではそのような結果を生み出すのに交渉があったかもしれない。だからといって慰安婦問題の解決が容易になっていると考えるのは危険だ。最終的な解決と、現状で可能な現実的解決とをはっきりと区別した上で合意が達成されることが肝要である。

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