オピニオン
2015.12.25
THE PAGEにこの関係の一文を寄稿した(12月25日)。
「中国に対するODA(政府開発援助)が1979年に開始されたのは、直接的には中国が文化大革命の混乱期を脱し、改革開放政策に転じたことが契機でしたが、そもそも日本として中国に援助を供与することになったのは、中国が日本と歴史的関係が深く、また、アジアの平和と安定を維持するのに中国の発展が不可欠だと考えられたからでした。
さらに、先の日中戦争で中国に多大の損害を与えてしまったことに対する償いの気持ちを持っていた国民も多かったでしょう。
しかし、それから30年以上が経過する間に中国は長足の発展を実現し、今や世界第2の経済大国になり、被援助国ではなくなり、逆に多くの国に対して援助を供与するようになっています。
日本から中国に対するODAは以下に述べる援助の種類によって多少事情が異なりますが、最も多い時にはインドネシアと一二を争う額に達していましたが、その後は中国の経済発展に伴い減少しました。現在もなお一定程度継続されているので疑問の声が上がることがありますが、中国へのODAはひところに比べれば非常に少なくなっており、終了の方向にあります。
そもそもODA(政府開発援助)とは何でしょうか。「資金や技術を開発途上の国に対して公的資金を用いて供与すること」というのが政府による説明ですが、貿易と比べるとODAの特色がわかりやすいでしょう。貿易は売り手と買い手の間で商業として、つまり価格が合意されれば成立するのに対し、ODAは開発途上国にとって、無償での資金援助や低い金利などのように商業ベースより有利な条件で供与が行われます。
なぜそうするかと言えば、開発途上国は通常の商業的条件では必要な資金や技術を獲得する力が弱いからであり、また、開発途上国が発展しなければ世界の平和と安定は維持できないからです。
ODAには3つの形態があります。
第1は、供与した資金が返済されないもので、「無償資金協力」あるいは「贈与」と呼ばれています。
第2は、供与した資金が返済されるもので、「有償資金協力」と呼ばれています。日本の場合、通常日本円を供与するので「円借款」とも呼ばれています。
第3は、資金でなく技術が供与される「技術協力」です。
中国に対するODAは1979年から開始され、2013年度まで累計で次の通り供与されました。金額的に有償資金協力が突出して多いのは、インフラ建設など大型のプロジェクトに供与されるからです。
有償資金協力 約3兆3,164億円
無償資金協力 1,572億円
技術協力 1,817億円
総額 約3兆6000億円以上
このうち「無償資金協力」の大部分(「一般無償資金協力」と言います)は2006年に、「有償資金協力」は 2007年に新規供与が終了しており、現在残っているのは「技術協力」といわゆる「草の根・人間の安全保障」と呼ばれる限定的な無償資金協力だけです。
つぎに、それぞれの種類のODAとは具体的にどのようなものかを見ていきましょう。
「無償資金協力」は人間の生活に密着した事業のために供与されます。たとえば、病院、浄水場、学校などです。中国では北京に建設された「日中友好病院」が有名です。
「有償資金協力」では資金はいずれ返済されますが、市場における金利よりも低金利で、かつ返済期間が長期です。普通の商業借款よりどのくらい有利かについては計算する方法が国際的に定められており、「贈与分(グラントエレメント」として表示されます。
この種の資金協力は道路、空港、鉄道、発電所といった大型経済インフラや医療・環境分野のインフラ整備のために使用されます。具体的例は上海浦東国際空港、北京-秦皇島鉄道拡充、杭州-衢州高速道路、天生橋水力発電事業、上海宝山インフラ整備など多数に上ります。
「技術協力」は、途上国の人々に対する技術の普及あるいはその水準の向上を目的として行われる協力であり、研修員の受け入れ、専門家の派遣、機材の供与などが含まれます。
2013年度は20億1800万円実施されました。
「草の根・人間の安全保障無償資金協力」は学校校舎の建設・補修、日本語教材の供与、医療器具など「草の根」レベルで、つまり,開発途上国で活動するNGO(現地のNGO及び国際的なNGO)、地方公共団体、教育機関、医療機関等の非営利団体などに供与されます。
金額的には比較的小規模で、1件の供与限度額は,原則1,000万円以下です。全体の資金規模は2013年度が2億8400万円と少額ですが、実行が早く、また、地域の生活に密接なため高く評価されています。
1979年に開始されて以降、中国に対するODAは、中国の改革・開放政策の推進、そして経済発展に貢献し、日中友好関係の主要な柱の一つになっています。
また、日本企業の中国における投資環境の改善や日中の民間経済関係の進展にも大きく寄与しました。
中国側はこれに対し感謝の気持ちを十分表明しないなどと言われたことがありましたが、それは一部において一時的に起こったことであり、中国政府は様々な機会に評価と感謝の気持ちを表明しています。また、中国国民の間でも日本による経済協力は広く知られるようになっており、感謝されています。
外務省のホームページ「日本のODAプロジェクト 中国 対中ODA概要」には、ODAで建設された湖南省の救急センターである母親が緊急手術を受け無事出産することができ、保健院の方々とともに日本国政府、日本国民に感謝している逸話が掲載されています。
現在も中国に供与されているODAは「技術協力」と「草の根・人間の安全保障無償資金協力」だけであることは前述しましたが、具体的には日本国民の生活に直接影響する分野で実施されています。たとえば、PM2.5や黄砂など環境問題について日中両国は協力を強化しており、日本からのODAはその一環として活用されています。また、かつてのSARSなど感染症や食品の安全等についてもODAが活用されています。
一方、技術協力については、新たな協力のあり方として、日中双方が適切に費用を負担する方法を導入することについて両国間で合意されており、今後段階的に実施に移される予定です。そうなると中国側の負担は増加していくでしょう。
このように見ていくと、中国に対するODAはやがて対等の協力に取って代わられることとなると思います。」
なお、中国は1972年の国交正常化共同声明で、日本に対する賠償を放棄した。中国に対するODAの供与はそれに代わるものだという考えが表明されることがあるが、それは日本政府の考えでなく、大平正芳首相 (当時) は、「より豊かな中国の出現が、よりよき世界に繋がる」と中国に対する協力の考えを説明していた(1979年12月)。
また、賠償の関係では、大平首相は国会で次のように答弁していた。「賠償につきまして、中国は賠償を請求しないということが決められたわけでございます。したがって、賠償とか賠償にかかわるものとか、そういう考え方に立脚して日中関係を考えることは正しくない、また中国の意図でもないと私は考えております」
(日中共同声明の第 5項「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」)
しかし、政治的には微妙な面があり、中国側は対中ODAにはそのような意味合いがあると述べることがある。2000年5月に来日した唐外相は日本記者クラブでの講演で、「中国に対するODAは、戦後賠償に代わる行為である」と述べていた。
「円借款」や「無償援助」は終了 対中国ODAの現状は?
中国が世界第2の経済大国となり、経済協力の受益国から供与国となっている今日、日本がまだ経済協力を継続していることを疑問視する意見が多くなっているが、残っているのは、環境面での技術協力と小規模のいわゆる「草の根」援助だけであり、これらも援助でなく対等の立場に立った協力になりつつある。THE PAGEにこの関係の一文を寄稿した(12月25日)。
「中国に対するODA(政府開発援助)が1979年に開始されたのは、直接的には中国が文化大革命の混乱期を脱し、改革開放政策に転じたことが契機でしたが、そもそも日本として中国に援助を供与することになったのは、中国が日本と歴史的関係が深く、また、アジアの平和と安定を維持するのに中国の発展が不可欠だと考えられたからでした。
さらに、先の日中戦争で中国に多大の損害を与えてしまったことに対する償いの気持ちを持っていた国民も多かったでしょう。
しかし、それから30年以上が経過する間に中国は長足の発展を実現し、今や世界第2の経済大国になり、被援助国ではなくなり、逆に多くの国に対して援助を供与するようになっています。
日本から中国に対するODAは以下に述べる援助の種類によって多少事情が異なりますが、最も多い時にはインドネシアと一二を争う額に達していましたが、その後は中国の経済発展に伴い減少しました。現在もなお一定程度継続されているので疑問の声が上がることがありますが、中国へのODAはひところに比べれば非常に少なくなっており、終了の方向にあります。
そもそもODA(政府開発援助)とは何でしょうか。「資金や技術を開発途上の国に対して公的資金を用いて供与すること」というのが政府による説明ですが、貿易と比べるとODAの特色がわかりやすいでしょう。貿易は売り手と買い手の間で商業として、つまり価格が合意されれば成立するのに対し、ODAは開発途上国にとって、無償での資金援助や低い金利などのように商業ベースより有利な条件で供与が行われます。
なぜそうするかと言えば、開発途上国は通常の商業的条件では必要な資金や技術を獲得する力が弱いからであり、また、開発途上国が発展しなければ世界の平和と安定は維持できないからです。
ODAには3つの形態があります。
第1は、供与した資金が返済されないもので、「無償資金協力」あるいは「贈与」と呼ばれています。
第2は、供与した資金が返済されるもので、「有償資金協力」と呼ばれています。日本の場合、通常日本円を供与するので「円借款」とも呼ばれています。
第3は、資金でなく技術が供与される「技術協力」です。
中国に対するODAは1979年から開始され、2013年度まで累計で次の通り供与されました。金額的に有償資金協力が突出して多いのは、インフラ建設など大型のプロジェクトに供与されるからです。
有償資金協力 約3兆3,164億円
無償資金協力 1,572億円
技術協力 1,817億円
総額 約3兆6000億円以上
このうち「無償資金協力」の大部分(「一般無償資金協力」と言います)は2006年に、「有償資金協力」は 2007年に新規供与が終了しており、現在残っているのは「技術協力」といわゆる「草の根・人間の安全保障」と呼ばれる限定的な無償資金協力だけです。
つぎに、それぞれの種類のODAとは具体的にどのようなものかを見ていきましょう。
「無償資金協力」は人間の生活に密着した事業のために供与されます。たとえば、病院、浄水場、学校などです。中国では北京に建設された「日中友好病院」が有名です。
「有償資金協力」では資金はいずれ返済されますが、市場における金利よりも低金利で、かつ返済期間が長期です。普通の商業借款よりどのくらい有利かについては計算する方法が国際的に定められており、「贈与分(グラントエレメント」として表示されます。
この種の資金協力は道路、空港、鉄道、発電所といった大型経済インフラや医療・環境分野のインフラ整備のために使用されます。具体的例は上海浦東国際空港、北京-秦皇島鉄道拡充、杭州-衢州高速道路、天生橋水力発電事業、上海宝山インフラ整備など多数に上ります。
「技術協力」は、途上国の人々に対する技術の普及あるいはその水準の向上を目的として行われる協力であり、研修員の受け入れ、専門家の派遣、機材の供与などが含まれます。
2013年度は20億1800万円実施されました。
「草の根・人間の安全保障無償資金協力」は学校校舎の建設・補修、日本語教材の供与、医療器具など「草の根」レベルで、つまり,開発途上国で活動するNGO(現地のNGO及び国際的なNGO)、地方公共団体、教育機関、医療機関等の非営利団体などに供与されます。
金額的には比較的小規模で、1件の供与限度額は,原則1,000万円以下です。全体の資金規模は2013年度が2億8400万円と少額ですが、実行が早く、また、地域の生活に密接なため高く評価されています。
1979年に開始されて以降、中国に対するODAは、中国の改革・開放政策の推進、そして経済発展に貢献し、日中友好関係の主要な柱の一つになっています。
また、日本企業の中国における投資環境の改善や日中の民間経済関係の進展にも大きく寄与しました。
中国側はこれに対し感謝の気持ちを十分表明しないなどと言われたことがありましたが、それは一部において一時的に起こったことであり、中国政府は様々な機会に評価と感謝の気持ちを表明しています。また、中国国民の間でも日本による経済協力は広く知られるようになっており、感謝されています。
外務省のホームページ「日本のODAプロジェクト 中国 対中ODA概要」には、ODAで建設された湖南省の救急センターである母親が緊急手術を受け無事出産することができ、保健院の方々とともに日本国政府、日本国民に感謝している逸話が掲載されています。
現在も中国に供与されているODAは「技術協力」と「草の根・人間の安全保障無償資金協力」だけであることは前述しましたが、具体的には日本国民の生活に直接影響する分野で実施されています。たとえば、PM2.5や黄砂など環境問題について日中両国は協力を強化しており、日本からのODAはその一環として活用されています。また、かつてのSARSなど感染症や食品の安全等についてもODAが活用されています。
一方、技術協力については、新たな協力のあり方として、日中双方が適切に費用を負担する方法を導入することについて両国間で合意されており、今後段階的に実施に移される予定です。そうなると中国側の負担は増加していくでしょう。
このように見ていくと、中国に対するODAはやがて対等の協力に取って代わられることとなると思います。」
なお、中国は1972年の国交正常化共同声明で、日本に対する賠償を放棄した。中国に対するODAの供与はそれに代わるものだという考えが表明されることがあるが、それは日本政府の考えでなく、大平正芳首相 (当時) は、「より豊かな中国の出現が、よりよき世界に繋がる」と中国に対する協力の考えを説明していた(1979年12月)。
また、賠償の関係では、大平首相は国会で次のように答弁していた。「賠償につきまして、中国は賠償を請求しないということが決められたわけでございます。したがって、賠償とか賠償にかかわるものとか、そういう考え方に立脚して日中関係を考えることは正しくない、また中国の意図でもないと私は考えております」
(日中共同声明の第 5項「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」)
しかし、政治的には微妙な面があり、中国側は対中ODAにはそのような意味合いがあると述べることがある。2000年5月に来日した唐外相は日本記者クラブでの講演で、「中国に対するODAは、戦後賠償に代わる行為である」と述べていた。
2015.12.23
しかし、米欧とロシアの意見が全く違っているアサド大統領の処遇について決議は何も言っておらず、ロードマップ通りに事が運ぶか、楽観的に見られないと広く指摘されている。
確かにそれも問題だが、過激派組織ISの問題がどのように扱われているか、分かりにくい。
まず、和平会議にISは招待されるか。答えはノーだろう。決議はそういう想定で書かれていると読める。常識的に考えても、テロ集団であるISが国連主催の会議に招かれることはまずない。この会議は、シリア政府と反体制派の間で先に新政府を作る、それと並行して、あるいはその後、ISの問題に取り掛かるという手順を想定しているようだ。
しかし、シリアの停戦には特殊な点がある。シリアの武力紛争は、大きく言って、シリア政府、反体制派およびISの3者の間で発生しており、それに米国、ロシアなど空爆を実行している国が関係して複雑な構図になっている。その中でISが絡む紛争が最も激しく、また厄介である。シリアで和平を実現するにはISを含めて停戦しなければならない。
しかるに、ISは和平会議に参加する主体でないので、通常の紛争のように紛争の当事者間で停戦するということにはならない。つまり、ISはシリアでの停戦の実現のために最大の障害であるが、停戦交渉の当事者とは見られていないのだ。
このような問題があるので、今般採択された決議は「停戦のmodalities and requirements」を決めなければならないと指摘している。珍しい文言だ。
決議はシリア全土の停戦を’nationwide ceasefire’と言っている。これはISによる武力闘争を含んでいると読めるが、この紛争については、「まず停戦。それから交渉」という形にならない恐れが大きい。停戦はISに関する限り、最終目標である可能性が高い。このような複雑性があるので国連決議は、「停戦のmodalities and requirements」を決めなければならないと述べた上で、先にシリアの新政府を樹立し、それと同時に、またはその後でIS問題の解決を進めるとしたものと思われる。
以下が、安保理決議2254号の関係部分である。
5. Acknowledges the close linkage between a ceasefire and a parallel political process, pursuant to the 2012 Geneva Communiqué, and that both initiatives should move ahead expeditiously, and in this regard expresses its support for a nationwide ceasefire in Syria, which the ISSG has committed to support and assist in implementing, to come into effect as soon as the representatives of the Syrian government and the opposition have begun initial steps towards a political transition under UN auspices, on the basis of the Geneva Communiqué, as set forth in the 14 November 2015 ISSG Statement, and to do so on an urgent basis;
6. Requests the Secretary-General to lead the effort, through the office of his Special Envoy and in consultation with relevant parties, to determine the modalities and requirements of a ceasefire as well as continue planning for the support of ceasefire implementation, and urges Member States, in particular members of the ISSG, to support and accelerate all efforts to achieve a ceasefire, including through pressing all relevant parties to agree and adhere to such a ceasefire;
7. Emphasizes the need for a ceasefire monitoring, verification and reporting mechanism, requests the Secretary-General to report to the Security Council on options for such a mechanism that it can support, as soon as possible and no later than one month after the adoption of this resolution, and encourages Member States, including members of the Security Council, to provide assistance, including through expertise and in-kind contributions, to support such a mechanism;
8. Reiterates its call in resolution 2249 (2015) for Member States to prevent and suppress terrorist acts committed specifically by Islamic State in Iraq and the Levant (ISIL, also known as Da’esh), Al-Nusra Front (ANF), and all other individuals, groups, undertakings, and entities associated with Al Qaeda or ISIL, and other terrorist groups, as designated by the Security Council, and as may further be agreed by the ISSG and determined by the Security Council, pursuant to the Statement of the ISSG of 14 November 2015, and to eradicate the safe haven they have established over significant parts of Syria, and notes that the aforementioned ceasefire will not apply to offensive or defensive actions against these individuals, groups, undertakings and entities, as set forth in the 14 November 2015 ISSG Statement;
シリア和平に関する安保理決議
12月18日、シリアの和平に関して成立した安保理決議第2254号は、来年早々に国連がシリア政府と反体制派を集めて和平のための会議を開催し、6カ月以内に暫定政府を樹立し、新憲法の起草を始め、18ヶ月以内に選挙を実施するというロードマップを決定した。しかし、米欧とロシアの意見が全く違っているアサド大統領の処遇について決議は何も言っておらず、ロードマップ通りに事が運ぶか、楽観的に見られないと広く指摘されている。
確かにそれも問題だが、過激派組織ISの問題がどのように扱われているか、分かりにくい。
まず、和平会議にISは招待されるか。答えはノーだろう。決議はそういう想定で書かれていると読める。常識的に考えても、テロ集団であるISが国連主催の会議に招かれることはまずない。この会議は、シリア政府と反体制派の間で先に新政府を作る、それと並行して、あるいはその後、ISの問題に取り掛かるという手順を想定しているようだ。
しかし、シリアの停戦には特殊な点がある。シリアの武力紛争は、大きく言って、シリア政府、反体制派およびISの3者の間で発生しており、それに米国、ロシアなど空爆を実行している国が関係して複雑な構図になっている。その中でISが絡む紛争が最も激しく、また厄介である。シリアで和平を実現するにはISを含めて停戦しなければならない。
しかるに、ISは和平会議に参加する主体でないので、通常の紛争のように紛争の当事者間で停戦するということにはならない。つまり、ISはシリアでの停戦の実現のために最大の障害であるが、停戦交渉の当事者とは見られていないのだ。
このような問題があるので、今般採択された決議は「停戦のmodalities and requirements」を決めなければならないと指摘している。珍しい文言だ。
決議はシリア全土の停戦を’nationwide ceasefire’と言っている。これはISによる武力闘争を含んでいると読めるが、この紛争については、「まず停戦。それから交渉」という形にならない恐れが大きい。停戦はISに関する限り、最終目標である可能性が高い。このような複雑性があるので国連決議は、「停戦のmodalities and requirements」を決めなければならないと述べた上で、先にシリアの新政府を樹立し、それと同時に、またはその後でIS問題の解決を進めるとしたものと思われる。
以下が、安保理決議2254号の関係部分である。
5. Acknowledges the close linkage between a ceasefire and a parallel political process, pursuant to the 2012 Geneva Communiqué, and that both initiatives should move ahead expeditiously, and in this regard expresses its support for a nationwide ceasefire in Syria, which the ISSG has committed to support and assist in implementing, to come into effect as soon as the representatives of the Syrian government and the opposition have begun initial steps towards a political transition under UN auspices, on the basis of the Geneva Communiqué, as set forth in the 14 November 2015 ISSG Statement, and to do so on an urgent basis;
6. Requests the Secretary-General to lead the effort, through the office of his Special Envoy and in consultation with relevant parties, to determine the modalities and requirements of a ceasefire as well as continue planning for the support of ceasefire implementation, and urges Member States, in particular members of the ISSG, to support and accelerate all efforts to achieve a ceasefire, including through pressing all relevant parties to agree and adhere to such a ceasefire;
7. Emphasizes the need for a ceasefire monitoring, verification and reporting mechanism, requests the Secretary-General to report to the Security Council on options for such a mechanism that it can support, as soon as possible and no later than one month after the adoption of this resolution, and encourages Member States, including members of the Security Council, to provide assistance, including through expertise and in-kind contributions, to support such a mechanism;
8. Reiterates its call in resolution 2249 (2015) for Member States to prevent and suppress terrorist acts committed specifically by Islamic State in Iraq and the Levant (ISIL, also known as Da’esh), Al-Nusra Front (ANF), and all other individuals, groups, undertakings, and entities associated with Al Qaeda or ISIL, and other terrorist groups, as designated by the Security Council, and as may further be agreed by the ISSG and determined by the Security Council, pursuant to the Statement of the ISSG of 14 November 2015, and to eradicate the safe haven they have established over significant parts of Syria, and notes that the aforementioned ceasefire will not apply to offensive or defensive actions against these individuals, groups, undertakings and entities, as set forth in the 14 November 2015 ISSG Statement;
2015.12.21
東洋経済オンラインにこの関係の一文、「温暖化防止へ、日本は原発をどうするべきか パリ協定実行に避けられない「原発」の議論」を寄稿した。
地球温暖化対策を決めた「パリ協定」
地球温暖化対策を決めた「パリ協定」は石油、天然ガスなど化石燃料による発電を今世紀後半にはゼロにすることなど画期的な方針を打ち出した。この実行のため、日本は現在全発電の9割以上となっている化石燃料発電をほとんどすべてなくしてしまわなければならない。そうなると原発と再生可能エネルギーに頼るしかない。再生可能エネルギーの大幅増、しかも革命的な大幅増が必要となるだろう。東洋経済オンラインにこの関係の一文、「温暖化防止へ、日本は原発をどうするべきか パリ協定実行に避けられない「原発」の議論」を寄稿した。
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