平和外交研究所

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2015.05.28

NPT再検討会議 日本はなすべきことがある

NPT再検討会議は決裂したが、日本は「核の非人道性」に関する国際会議をホストすべきである。
以下は、共同通信のOPED(署名入り論評)として配布され、中国新聞や信濃毎日新聞に掲載された。

「4月27日から5月22日まで国連本部で開催された核不拡散条約(NPT)の再検討会議の主要議題は核軍縮、つまり核兵器の廃絶であったが、議論は進まなかった。核軍縮以外の不拡散問題、核兵器禁止条約、中東非核兵器地帯を設置する構想などについても進展はなかった。そして、今次会議の議論をまとめた「最終文書」さえ採択できず、「会議は決裂した」と言われる状態で終了した。
6年前、オバマ大統領が登場し、プラハで行った演説で核兵器のない世界の実現を呼びかけ、世界に強いインパクトを与えたときと比べると何とも情けない有様である。ウクライナ問題を契機にロシアが核のパワーを誇示するなど、国際情勢が悪化したことも今回の再検討会議に暗い影を落としていた。
決裂したと言っても、実はNPTの再検討会議としては驚くにあたらない。過去の再検討会議でも毎回、核軍縮の進捗状況が検討されたが、積極的な結論が得られたことはなかったと言って過言でない。そもそも、核保有国は自分たちのペースでは核軍縮を進めるが、NPTの再検討会議でせっつかれるのは好まない。
今後、日本は「核の非人道性」についてなすべきことがある。どの兵器も人を殺傷するために作られており、その意味では兵器はすべて非人道的であるが、核兵器は他の兵器とは比較にならない破壊力で戦闘員(兵士)のみならず、非戦闘員である市民をも無差別に殺傷するので、とくに「非人道的」なのである。日本人にとってこれは説明などいらない常識だが、そう思わない国が先進国の中にもあるので、「核の非人道性」を確立しなければならない。
過去2年来、このための会議が有志国によって開催され、その会議に参加する国の数が回を重ねるたびに増加し、もっとも最近のウィーン会議には160近い国が参加した。今次再検討会議では、オーストリアが参加国を代表して「核の非人道性」を強調し、核軍縮の緊急性を訴えた。
一方、日本は、「世界の政治指導者や若者らに被爆地・広島、長崎を訪問すること」を促す提案を行なった。これに対し中国が強硬に反対したため、この提案は最終文書案に盛り込まれず、代わりに「核兵器の被害を受けた人々や地域の経験を、交流を通じて直接共有することなどの重要性」を指摘するにとどまった。会議が決裂する前にすでに妥協を余儀なくされていたのである。
 しかし、日本は、あらためて、「核の非人道性」に関する会議を被爆地で開催する提案を行うべきである。過去3回開かれたこの会議では、日本はけん引力にはならず、この会議を主導的に開催することに躊躇があるかもしれないが、世界の指導者に被爆地を訪問することを呼びかけたからには、有志国の指導者を被爆地で迎えることに支障はないはずである。会議後恒例の議長声明を出さなくてもかまわない。世界の指導者が被爆地で「核の非人道性」を体感することはどんなに雄弁な議長声明にも勝る。
この会議はNPTの会議でなく、有志国の会議なので被爆地訪問を厭う国を強制することにはならない。米国と英国は参加する可能性がある。オバマ大統領が被爆地を訪問することに積極的な関心を抱いていることは周知のことである。
 
2015.05.25

(短文)アジアインフラ投資銀行(AIIB)の正体

 シンガポールで開かれていたアジアインフラ投資銀行設立準備の会合で、設立協定の内容が合意されたと中国財務省が発表した。その内容は明かされていないが、各紙の報道によると、中国の出資比率がダントツに多くて29%、議決権は26%と、中国だけが拒否権を持つことになった。銀行の本部所在地は北京で決定済み。総裁はこれから決定されるが、中国が決定権を握っているので、やはり中国人になると見られている。代表格の理事は北京に常駐しないことも合意されたそうだが、本部所在地が北京であるという性質は何ら薄まらない。また、AIIBの事業は中国の構想である「一帯一路」の実現と密接な関係がある。
 中国が各国の協力を得てこのような銀行設立に漕ぎつけたことは中国の開発金融への取り組みとして、また、中国外交としても大成功であると思う。
 しかし、平等な主権国家が協力して設立する国際機関とは言えない。AIIBは、中国が圧倒的な決定権を持ち、中国のための(つまり、「一帯一路」のための)、中国に活動の本拠があり、中国人が代表するという性格の銀行だからである。これに日本が税金を使って拠出することはありえない。日本の企業は今後、AIIBの事業に商業ベースでかかわっていけばよい。株式を取得するもよし、あるいは債券を購入するもよし。
 
 なお、AIIBと「一帯一路」については、2月16,18,19、23日、3月27日、4月1、6、10、15,20日、5月1,13日に当HPに掲載した記事を参照していただければ幸いである。
2015.05.20

ケリー米国務長官の訪中‐南シナ海の波は高い

 ケリー米国務長官は5月16~17日、訪中し、王毅外相と会談したほか、習近平主席、李克強首相、范長竜中央軍事委員会副主席(制服組のトップ)などとも会談した。米中両国間の諸問題について話し合ったと発表されているが、南シナ海が最大の問題であったことは間違いない。中国は最近南シナ海の南沙諸島で大規模な埋め立て工事を行ない、周辺諸国のみならず日米両国も憂慮していた。
 クリントン前国務長官もアセアン地域フォーラム(ARF)などで南シナ海の問題を取り上げ、楊外相と激しくぶつかる場面もあった。中国は2000年代の中ごろから南シナ海や東シナ海などに対する領有権主張を強め、これらを中国の「核心的利益」として他国に認めるよう要求し、2009年5月には、南シナ海のほぼ全域について領有権を主張する文書を国連に提出した経緯がある。
 ケリー長官は今次会談で、「中国の南シナ海での埋め立ての速度と範囲について懸念している」ことを伝えたと記者会見で述べている。「速度と範囲について懸念している」とは妙な感じがする表現であり、「速度と範囲」に問題がなければ埋め立て工事を認める趣旨かと尋ねたいところだが、実際にケリー長官が会談でどう発言したかよく分からないので、この説明にはこだわらないこととしよう。
 これに対し王毅外相は、埋め立ては「中国の主権の範囲内だ」と主張した。「中国のこの立場は岩のように固い」という趣旨の発言をしたとも報道されている。言葉はともかく、ケリー長官の指摘には一切応じなかったのであろう。もっとも、この王毅外相の発言はとくに新味があるわけでない。2011年に発表された領土問題などに関する白書は、中国の核心的利益を「断固として擁護する」と述べていた。
 
 領土に関する紛争は国際司法裁判所、あるいは国際仲裁裁判所で解決を求めるべきだというのが米国の立場である。フィリピンも同じ考えで、すでに提訴しており、中国は応じない状況が続いている。ベトナムも仲裁裁判での解決を求めることを検討していると伝えられている。
 一方、中国は国際司法裁判も仲裁裁判も拒否し、当事国との話し合いで解決するとの一点張りである。王毅外相もケリー長官に同じことを言っている。話し合いによる方が中国の影響力を行使しやすいと考えているのであろう

 習近平主席は、両国間の意見の違いによって関係が妨げられないようにしなければならないと述べたのは結構なことであるが、「広大な太平洋には中米2大国を受け入れる十分な空間がある」とも発言した。この発言には、①太平洋は現在全域が米国の影響下にある、②中国はそのような現状には不満であり、米国と2カ国で太平洋の勢力範囲を分けたいという意味が込められている。これは中国の戦略的劣勢を意識しつつ、大国化の願望を表したものであるが、日本を無視している驚くべき表明である。もっとも、これも初めてではないが、習近平主席がケリー長官にそう述べたことは記憶にとどめておくべきであろう。

 なお、安倍首相の訪米前に、米中の軍人同士でも南シナ海の問題についてやり取りがあり、中国側が米国や日本の関連動向を強く意識していることは5月7日に当HPにアップした「南シナ海でのロシアと中国の不一致」で指摘した。その中でも触れたが、米軍は艦船と航空機を埋立現場近くに派遣している可能性がある。ケリー長官訪中の一背景である。

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