中国
2017.07.05
しかし、米国は実力行使をしないだろう。米国が軍事行動に慎重になる理由として挙げられるのは、北朝鮮との戦争が起こると韓国や日本が甚大な被害、壊滅的かもしれない被害を被るということであるが、米軍も耐え難い損失を被るという予測が20年前のシミュレーションで示されていた。今ならはるかに大きな被害となるだろう。
また、北朝鮮の核とミサイルだけを標的にして攻撃することは不可能だと見られている。中東では限定的な範囲の作戦が可能だが、北朝鮮の場合は、国土が完全に消滅するくらいの攻撃でない限り不可能だと見られている。つまり、北朝鮮との間では限定戦争で済まず、全面戦争になるということだ。前述したシミュレーションは戦闘行為を起こしてから90日間の問題であり、全面戦争の場合米軍の損失ははるかに大きくなる。
さらに、これはあまり語られないことだが、米国内には冷静な見方がある。北朝鮮の軍事能力は相次ぐ核・ミサイルの実験を見ても急速に向上しているのは事実だが、それだけに誇張されて伝えられる恐れがあり、冷静に見れば、「北朝鮮の核・ミサイル能力はICBMの実験を成功させた後も、米国にははるかに及ばない」と判断されるはずである。このような考えは北朝鮮に対して軍事行動を行うことを制止する力となるだろう。
米国は冷戦中、ソ連と対峙し、人類が滅亡するかどうかという瀬戸際までいったが、何とか乗り越えてきた。相手の軍事能力や意図についての誇張や過大な恐怖感に左右されるのはいかに危険かを経験しており、戦争を始める前に、危険の大きさ、差し迫っている程度、失うことの大きさなどさまざまな要因を勘案するはずだ。
それにしても、「レッドライン」とは面白い言葉である。本人はレッドラインなど示さない。自分の手を縛ることになるからだ。しかし、周囲の人はレッドラインを問題にする。これは北朝鮮の核・ミサイルに限ったことでなく、交渉においては珍しくない言葉であるが、北朝鮮を相手とする場合、「レッドラインを超えたから○○する」という単純なことにはならない。軍事行動を起こすか否かは、必要となった時点で総合的に判断される。
一方、金正恩委員長としては、いつ、どのような状況の下でICBMの実験に踏み切るか、かなり時間をかけ慎重に見極めていたと思われる。下手をすると米国を怒らせ、北朝鮮は抹殺されてしまうかもしれない大問題だからである。そして今回実験に踏み切ったのは、一つには、トランプ大統領は北朝鮮に対する政策をまだ固めておらず、ICBMの実験をしても米国は軍事行動に出ないと判断したからであろう。トランプ大統領やティラーソン国務長官は、おどろおどろしいことを口にしていたが、足元が見えてきたのではないか。
もう一つの要因は、米国と中国の関係がぎくしゃくし始めたことである。習近平主席は両国間に「否定的要因がある」と言っている。北朝鮮が最も嫌悪するのは、米国と中国が協力して北朝鮮に圧力をかけてくることであり、さる4月のトランプ・習会談以降その悪夢が実際に起こっていたのだが、ここにきて潮目が変わってきたのである。
なお、北朝鮮による核・ミサイル実験のタイミングについては、金正恩などの誕生日とか、国家的記念日などとの関連がよく話題になる。また今回は米国の独立記念日に合わせたとも言われている。これらはいずれも、あると言えばある、ないと言えばない程度のこである。それより、7月2日に中国が人工衛星「長征五号」の発射に失敗したことのほうに注意が向いていたのではないかと思われる。
北朝鮮のICBM発射実験
7月4日、北朝鮮はICBMの実験を行った。今まで北朝鮮について言われてきたことの流れで見ると、「レッドラインを超えたのではないか、そうであれば、米国は軍事行動に出るか」などが問題になる。しかし、米国は実力行使をしないだろう。米国が軍事行動に慎重になる理由として挙げられるのは、北朝鮮との戦争が起こると韓国や日本が甚大な被害、壊滅的かもしれない被害を被るということであるが、米軍も耐え難い損失を被るという予測が20年前のシミュレーションで示されていた。今ならはるかに大きな被害となるだろう。
また、北朝鮮の核とミサイルだけを標的にして攻撃することは不可能だと見られている。中東では限定的な範囲の作戦が可能だが、北朝鮮の場合は、国土が完全に消滅するくらいの攻撃でない限り不可能だと見られている。つまり、北朝鮮との間では限定戦争で済まず、全面戦争になるということだ。前述したシミュレーションは戦闘行為を起こしてから90日間の問題であり、全面戦争の場合米軍の損失ははるかに大きくなる。
さらに、これはあまり語られないことだが、米国内には冷静な見方がある。北朝鮮の軍事能力は相次ぐ核・ミサイルの実験を見ても急速に向上しているのは事実だが、それだけに誇張されて伝えられる恐れがあり、冷静に見れば、「北朝鮮の核・ミサイル能力はICBMの実験を成功させた後も、米国にははるかに及ばない」と判断されるはずである。このような考えは北朝鮮に対して軍事行動を行うことを制止する力となるだろう。
米国は冷戦中、ソ連と対峙し、人類が滅亡するかどうかという瀬戸際までいったが、何とか乗り越えてきた。相手の軍事能力や意図についての誇張や過大な恐怖感に左右されるのはいかに危険かを経験しており、戦争を始める前に、危険の大きさ、差し迫っている程度、失うことの大きさなどさまざまな要因を勘案するはずだ。
それにしても、「レッドライン」とは面白い言葉である。本人はレッドラインなど示さない。自分の手を縛ることになるからだ。しかし、周囲の人はレッドラインを問題にする。これは北朝鮮の核・ミサイルに限ったことでなく、交渉においては珍しくない言葉であるが、北朝鮮を相手とする場合、「レッドラインを超えたから○○する」という単純なことにはならない。軍事行動を起こすか否かは、必要となった時点で総合的に判断される。
一方、金正恩委員長としては、いつ、どのような状況の下でICBMの実験に踏み切るか、かなり時間をかけ慎重に見極めていたと思われる。下手をすると米国を怒らせ、北朝鮮は抹殺されてしまうかもしれない大問題だからである。そして今回実験に踏み切ったのは、一つには、トランプ大統領は北朝鮮に対する政策をまだ固めておらず、ICBMの実験をしても米国は軍事行動に出ないと判断したからであろう。トランプ大統領やティラーソン国務長官は、おどろおどろしいことを口にしていたが、足元が見えてきたのではないか。
もう一つの要因は、米国と中国の関係がぎくしゃくし始めたことである。習近平主席は両国間に「否定的要因がある」と言っている。北朝鮮が最も嫌悪するのは、米国と中国が協力して北朝鮮に圧力をかけてくることであり、さる4月のトランプ・習会談以降その悪夢が実際に起こっていたのだが、ここにきて潮目が変わってきたのである。
なお、北朝鮮による核・ミサイル実験のタイミングについては、金正恩などの誕生日とか、国家的記念日などとの関連がよく話題になる。また今回は米国の独立記念日に合わせたとも言われている。これらはいずれも、あると言えばある、ないと言えばない程度のこである。それより、7月2日に中国が人工衛星「長征五号」の発射に失敗したことのほうに注意が向いていたのではないかと思われる。
2017.07.01
米国は韓国に対し、高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)については両国間の合意に従い配備することを受け入れること(配備するのは米軍)、また米韓自由貿易協定(FTA)については再交渉に応じることを求めていた。今次会談では率直な議論が行われたものと推測されるが、明確な結論は出なかったようだ。共同声明ではいずれの点も直接には触れられなかった。これを見れば、文在寅氏の頑張りが成功したとも解しうる。
一方、米国としては、この共同声明は100点満点ではないが、米韓両国の軍事防衛面での協力を両首脳が再確認したことを詳しく述べており、その中でTHAADの配備についても読めるという考えなのだろう。
また、FTAの再交渉につても共同声明の文言は間接的だが、貿易に関する問題点はしっかりと言及していると見ているのだろう。トランプ氏は、共同声明発表の際に、米国がFTAの再交渉を強く要求したことを明らかにしている。文在寅氏が強く反対したのであれば、トランプ氏としてもそう言えなかったと思われる。
なお、米政府は、近く韓国に対し再交渉の開始を求める方針であるとも別途伝えられている。
北朝鮮問題についても両者の考えは違っており、文在寅氏は何とかして北朝鮮との対話の途を開きたいとの考えであったが、トランプ氏は対話の開始には慎重であり、一定の条件、ないし環境が必要だとの考えであり、文在寅氏が突っ走ることを警戒していた。
共同声明は、「北朝鮮との対話の門は、適切な状況の下であれば開かれている(The door to dialogue with North Korea remains open under the right circumstances.)」とした。これはトランプ氏の主張に近い。
また、トランプ氏は中国が北朝鮮にこれまで以上積極的に働きかけることを望んでおり、共同声明には両首脳が「中国の重要な役割」について合意したと記載された。このことは、翻って考えれば、トランプ氏は韓国には北朝鮮の非核化問題で期待しなかったことを示唆しているのではないか。
一方、トランプ氏は北朝鮮問題など北東アジアの安全保障について日本を含めた3国間の協力が必要であることを強調したらしく、共同声明は3国間協力についてかなりのスペースを割いた。また、7月末にドイツで行われるG20の際にこの3国間の協議を行うことまで記載した。これらのことを文在寅大統領が積極的に求めたとは考えられない。
推測を交えてのことだが、以上のように見れば、今次首脳会談でトランプ氏は自説をかなり通したと解すべきであろう。
一方、文在寅氏は今次首脳会談の結果をどのように受け止めているか。文在寅氏は今後も非核化を含め北朝鮮との関係改善に熱心な姿勢を見せるだろう。それは韓国の立場としてもっともなことであるが、それにしても米国と韓国はズレているのではないかと気になる。
米韓両国首脳の初会談
訪米した文在寅韓国大統領は6月29~30日、ドナルド・トランプ米国大統領と初めて会談した。会談後には共同声明が発出されたが、文在寅政権と米国はやはり重要な問題について考えが違うことをあらためて印象付けるものであった。米国は韓国に対し、高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)については両国間の合意に従い配備することを受け入れること(配備するのは米軍)、また米韓自由貿易協定(FTA)については再交渉に応じることを求めていた。今次会談では率直な議論が行われたものと推測されるが、明確な結論は出なかったようだ。共同声明ではいずれの点も直接には触れられなかった。これを見れば、文在寅氏の頑張りが成功したとも解しうる。
一方、米国としては、この共同声明は100点満点ではないが、米韓両国の軍事防衛面での協力を両首脳が再確認したことを詳しく述べており、その中でTHAADの配備についても読めるという考えなのだろう。
また、FTAの再交渉につても共同声明の文言は間接的だが、貿易に関する問題点はしっかりと言及していると見ているのだろう。トランプ氏は、共同声明発表の際に、米国がFTAの再交渉を強く要求したことを明らかにしている。文在寅氏が強く反対したのであれば、トランプ氏としてもそう言えなかったと思われる。
なお、米政府は、近く韓国に対し再交渉の開始を求める方針であるとも別途伝えられている。
北朝鮮問題についても両者の考えは違っており、文在寅氏は何とかして北朝鮮との対話の途を開きたいとの考えであったが、トランプ氏は対話の開始には慎重であり、一定の条件、ないし環境が必要だとの考えであり、文在寅氏が突っ走ることを警戒していた。
共同声明は、「北朝鮮との対話の門は、適切な状況の下であれば開かれている(The door to dialogue with North Korea remains open under the right circumstances.)」とした。これはトランプ氏の主張に近い。
また、トランプ氏は中国が北朝鮮にこれまで以上積極的に働きかけることを望んでおり、共同声明には両首脳が「中国の重要な役割」について合意したと記載された。このことは、翻って考えれば、トランプ氏は韓国には北朝鮮の非核化問題で期待しなかったことを示唆しているのではないか。
一方、トランプ氏は北朝鮮問題など北東アジアの安全保障について日本を含めた3国間の協力が必要であることを強調したらしく、共同声明は3国間協力についてかなりのスペースを割いた。また、7月末にドイツで行われるG20の際にこの3国間の協議を行うことまで記載した。これらのことを文在寅大統領が積極的に求めたとは考えられない。
推測を交えてのことだが、以上のように見れば、今次首脳会談でトランプ氏は自説をかなり通したと解すべきであろう。
一方、文在寅氏は今次首脳会談の結果をどのように受け止めているか。文在寅氏は今後も非核化を含め北朝鮮との関係改善に熱心な姿勢を見せるだろう。それは韓国の立場としてもっともなことであるが、それにしても米国と韓国はズレているのではないかと気になる。
2017.06.29
米国にとって北朝鮮は朝鮮戦争以来一にも二にも安全保障上の問題であり、しかも最近は度重なる核やミサイルの実験のためますます北朝鮮の脅威が増大している。
一方、韓国にとって北朝鮮は同じ民族であり、第二次大戦が終わって以来統一国家の樹立を目標としてきた。この実現可能性は遠のいているが、韓国としては分野を問わず、可能な限り北朝鮮との関係を進展させたいという気持ちである。朴槿恵政権時代にそのような姿勢が見られなくなったこともあったが、北朝鮮との関係改善は歴代政権の悲願であり、現政権も北朝鮮との関係改善に熱意を示している。
核については、韓国は北朝鮮と直接交渉してでもその放棄を実現させたい考えである。韓国は1992年に北朝鮮と朝鮮半島の非核化に合意しており、その時以来考えは基本的に変わっていない。
しかし、米国は北朝鮮の核問題解決について韓国の力を頼りにしようとしない。米国が強く期待するのは、北朝鮮問題にかかわるのを嫌がる中国であることは周知である。
韓国が北朝鮮問題、特に非核化について、意図と異なり役割を果たせないのは、この問題における韓国の当事者能力に微妙な問題があるからだ。
まず、北朝鮮は韓国と非核化の交渉を行う気持ちでない。北朝鮮は、「自国の安全を脅かすのは米国であり、米国に対抗するには核とミサイルが必要」と考えている。それは国際的には認められないことだし、また、客観的に見ても誤りかもしれないが、北朝鮮がそのような立場であることは事実として認める必要がある。要するに、北朝鮮が相手と考えているのは米国であり、韓国を当事者とみなしていないのである。
一方、米国は北朝鮮ほどあからさまでないが、非核化について韓国の当事者能力を完全には認めていない。米国にとって韓国は重要な同盟国だが、両国は安全保障については対等の立場になく、米国が主で、韓国は従であろう。しかも、韓国には非核化を実現する能力がない。
米国が主、韓国が従であることについては朝鮮戦争以来の経緯がある。というのは、同戦争を戦ったのは、形式的には国連軍と北朝鮮軍であり、途中から中国の「義勇軍」が北朝鮮側に加わった。そして1953年に成立した休戦協定に署名したのは国連軍、北朝鮮軍、中国軍の各司令官であり、その中に韓国軍の名はなかった。これは有名な故事である。国連軍は実質的には米軍であり、司令官は米軍の将軍であった。そのため、韓国は当事者扱いされていなかったなどといわれたこともあった。
しかし、韓国軍を他の参加国軍と同様に扱うのは問題だ。朝鮮戦争で国連軍に参加した国の数は、医療支援まで含めると20を超えた。朝鮮半島で行われた戦争であり、当然だったが、その中で韓国軍が抜群に多かった。休戦交渉は米軍の代表によって行われたが、韓国軍の代表も参加していた。そして、休戦協定の署名は米軍の司令官によって行われたが、米軍や韓国軍など全参加国軍の代表としての署名であった。したがって、韓国軍は朝鮮戦争の休戦協定の当事者でなかったというのは誤りであり、むしろ一部であったと見るべきである。
それはともかく、国連軍の主力が米軍であったことは紛れもない事実であった。その後60年以上が経過し、韓国軍の実力は朝鮮戦争時とは比較にならないくらいレベルアップしたが、韓国の安全保障を、形式的には国連軍が、実質的には米軍が支えているという状況は基本的には変わっていない。
そのことの象徴(の一つ)が、朝鮮半島有事の際の作戦指揮権であり、これは朝鮮戦争以来米軍にゆだねられている。もっとも、作戦指揮権は2012年から韓国軍に移すことが2007年に合意された。しかし、その後の検討で2020年代中ごろまで延期されている。ともかく、韓国の当事者能力については、歴史的経緯からくる問題がまだ残っていると見るべきだろう。
先日、文正仁大統領補佐官による米韓合同軍事演習の縮小についての発言は、その可能性に言及しただけであったが、米側から反発の声が上がった。米国政府としての公式の反応は承知していないが、そのような反発が起こったことは驚きでなかった。
米国が韓国の防衛にコミットし、さまざまな努力を払っているのは、純粋に韓国を助けたいためではない。そのような気持ちもあるだろうが、基本的には東アジアにおける米国の安全保障戦略なのであり、むしろ米国と北朝鮮の関係である。文補佐官の発言はその戦略に意見を言ったと取られたのではないか。
韓国は朝鮮半島の非核化にかかわり、その実現に努力する理由も正当性もあるにもかかわらず、情勢の変化により、北朝鮮からは言うまでもなく、米国からも当事者性を完全には認められていない。そのように困難な立場にあることは我々としても理解すべきだが、韓国としても南北関係を重視するあまり米国との間で齟齬が生じることがないよう細心の注意が必要だと思われる。
北朝鮮をめぐる韓国と米国の立場の相違
文在寅大統領とトランプ大統領との会談(米国時間6月29~30日)で北朝鮮問題が話し合われる。韓国と米国はこの問題をめぐって原則論では一致しているように見えるが、実際には、両者の立場はかなり違っている。米国にとって北朝鮮は朝鮮戦争以来一にも二にも安全保障上の問題であり、しかも最近は度重なる核やミサイルの実験のためますます北朝鮮の脅威が増大している。
一方、韓国にとって北朝鮮は同じ民族であり、第二次大戦が終わって以来統一国家の樹立を目標としてきた。この実現可能性は遠のいているが、韓国としては分野を問わず、可能な限り北朝鮮との関係を進展させたいという気持ちである。朴槿恵政権時代にそのような姿勢が見られなくなったこともあったが、北朝鮮との関係改善は歴代政権の悲願であり、現政権も北朝鮮との関係改善に熱意を示している。
核については、韓国は北朝鮮と直接交渉してでもその放棄を実現させたい考えである。韓国は1992年に北朝鮮と朝鮮半島の非核化に合意しており、その時以来考えは基本的に変わっていない。
しかし、米国は北朝鮮の核問題解決について韓国の力を頼りにしようとしない。米国が強く期待するのは、北朝鮮問題にかかわるのを嫌がる中国であることは周知である。
韓国が北朝鮮問題、特に非核化について、意図と異なり役割を果たせないのは、この問題における韓国の当事者能力に微妙な問題があるからだ。
まず、北朝鮮は韓国と非核化の交渉を行う気持ちでない。北朝鮮は、「自国の安全を脅かすのは米国であり、米国に対抗するには核とミサイルが必要」と考えている。それは国際的には認められないことだし、また、客観的に見ても誤りかもしれないが、北朝鮮がそのような立場であることは事実として認める必要がある。要するに、北朝鮮が相手と考えているのは米国であり、韓国を当事者とみなしていないのである。
一方、米国は北朝鮮ほどあからさまでないが、非核化について韓国の当事者能力を完全には認めていない。米国にとって韓国は重要な同盟国だが、両国は安全保障については対等の立場になく、米国が主で、韓国は従であろう。しかも、韓国には非核化を実現する能力がない。
米国が主、韓国が従であることについては朝鮮戦争以来の経緯がある。というのは、同戦争を戦ったのは、形式的には国連軍と北朝鮮軍であり、途中から中国の「義勇軍」が北朝鮮側に加わった。そして1953年に成立した休戦協定に署名したのは国連軍、北朝鮮軍、中国軍の各司令官であり、その中に韓国軍の名はなかった。これは有名な故事である。国連軍は実質的には米軍であり、司令官は米軍の将軍であった。そのため、韓国は当事者扱いされていなかったなどといわれたこともあった。
しかし、韓国軍を他の参加国軍と同様に扱うのは問題だ。朝鮮戦争で国連軍に参加した国の数は、医療支援まで含めると20を超えた。朝鮮半島で行われた戦争であり、当然だったが、その中で韓国軍が抜群に多かった。休戦交渉は米軍の代表によって行われたが、韓国軍の代表も参加していた。そして、休戦協定の署名は米軍の司令官によって行われたが、米軍や韓国軍など全参加国軍の代表としての署名であった。したがって、韓国軍は朝鮮戦争の休戦協定の当事者でなかったというのは誤りであり、むしろ一部であったと見るべきである。
それはともかく、国連軍の主力が米軍であったことは紛れもない事実であった。その後60年以上が経過し、韓国軍の実力は朝鮮戦争時とは比較にならないくらいレベルアップしたが、韓国の安全保障を、形式的には国連軍が、実質的には米軍が支えているという状況は基本的には変わっていない。
そのことの象徴(の一つ)が、朝鮮半島有事の際の作戦指揮権であり、これは朝鮮戦争以来米軍にゆだねられている。もっとも、作戦指揮権は2012年から韓国軍に移すことが2007年に合意された。しかし、その後の検討で2020年代中ごろまで延期されている。ともかく、韓国の当事者能力については、歴史的経緯からくる問題がまだ残っていると見るべきだろう。
先日、文正仁大統領補佐官による米韓合同軍事演習の縮小についての発言は、その可能性に言及しただけであったが、米側から反発の声が上がった。米国政府としての公式の反応は承知していないが、そのような反発が起こったことは驚きでなかった。
米国が韓国の防衛にコミットし、さまざまな努力を払っているのは、純粋に韓国を助けたいためではない。そのような気持ちもあるだろうが、基本的には東アジアにおける米国の安全保障戦略なのであり、むしろ米国と北朝鮮の関係である。文補佐官の発言はその戦略に意見を言ったと取られたのではないか。
韓国は朝鮮半島の非核化にかかわり、その実現に努力する理由も正当性もあるにもかかわらず、情勢の変化により、北朝鮮からは言うまでもなく、米国からも当事者性を完全には認められていない。そのように困難な立場にあることは我々としても理解すべきだが、韓国としても南北関係を重視するあまり米国との間で齟齬が生じることがないよう細心の注意が必要だと思われる。
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