平和外交研究所

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朝鮮半島

2017.06.22

韓国の新政権と米国および日本との関係

 6月21日、岸田外相は韓国のカン・ギョンファ(康京和)新外相と電話で話し合った。ムン・ジェイン(文在寅)新政権の対日関係がどうなるか、懸念材料は慰安婦問題をはじめいくつかあるが、今のところ、大きな問題にはなっていない。
 一方、韓国と米国の関係はムン・ジェイン政権成立からわずか1カ月半だが早くも困難な状況になっている。特に問題なのは、高高度防衛ミサイルシステム(THAAD)だ。
 THAADはパク・クネ(朴槿恵)政権時代の昨年7月、米韓両軍が韓国への配備を決め、2017年3月から装備の搬入が開始され、すでに2基が運用されている。発射台は全6基で運用される予定で、追加の4基の搬入が始まろうとしたときに、就任早々のムン・ジェイン大統領はそのことを事前に聞いていなかったと発言して、真相究明を指示したため配備が遅れた。
 米側としては、両国間の合意に従い配備の手続きを進めてきたのに韓国側から急に待ったがかかったので反発したのは当然だった。
 
 しかも、2つの問題が加わった。1つは、6月16日にムン・ジョンイン(文正仁)大統領統一・外交・安保特別補佐官が東アジア財団とウッドロー・ウィルソンセンターが共同主催のセミナー(ワシントン)で、「ムン・ジェイン大統領が2つのことを提案したが、1つは北が核・ミサイル活動を中断すれば米国との議論を通じて韓米合同軍事訓練を縮小できるということだ。私の考えでは、文大統領は韓半島(朝鮮半島)への米国の戦略武器展開を縮小することも念頭に置いている」と述べたことである。
また、同補佐官はセミナーでの発言後、特派員との懇談会で、ムン大統領の条件のない南北対話提案に対する米国の反対に言及しながら、「北が非核化しなければ対話をしないというのを我々がどのように受け入れるのか」とし「南北対話は朝米対話と条件を合わせる必要はない」とも述べた。
 米韓合同軍事演習、韓国内への武器配備、北朝鮮との関係はいずれも米国としては韓国のために行っているデリケートな問題である。ムン特別補佐官の発言に米側は不快感を示したという。
 
 さらに、ムン氏の発言から4日後に、韓国は中国と次官級の戦略対話を行った。韓国の新政権として中国との関係改善を重視したい気持ちはよく分かるが、中国はかねてからTHAADの韓国配備に強く反対しており、今回の韓国との戦略対話でも配備見直しを強く求めた。
 米側からすれば、これも余計なことだっただろう。韓国の高官は分かっておりながら、中国へ行って注文取りをしたと思ったとしても不思議でない。

 6月29日と30日に米韓首脳会談が米国で行われるが、これを前に「3大悪材料」が降ってわいたので、韓国大統領府が頭を抱えていると20日付の朝鮮日報は述べている。
 「3大悪材料」とは「THAADの配備問題」と「ムン・ジョンイン特別補佐官の発言」と、3つ目は、ムン・ジェイン大統領が韓国を訪問する米国の議員らとの面会を拒否するなど消極的な対応を見せたため、米国側から不満が噴出した件である。
 ムン大統領はトランプ大統領との会談でこれら問題、特にTHAADの配備問題をどのようにさばき、会談を乗り切るか注目される。

 米韓関係に比べれば日韓関係は今のところ平穏だ。カン・ギョンファ新外相は慎重な物言いをしているが、ムン政権下での日韓関係はまだ初歩的な接触の段階にある。
2017.06.21

北朝鮮外務省米州局長のチェ・ソンヒ(崔善姫)氏

 最近、北朝鮮外務省のチェ・ソンヒ(崔善姫)米州局長の名前がメディアに再登場するようになった。きっかけとなったのはさる5月初め、ノルウェーで行われた米朝協議であり、チェ氏は北朝鮮の代表であった。
 チェ氏は、米国との協議や核についての北朝鮮の立場をずばりと言える稀有な人物だ。以前は6カ国協議の際の米国との交渉で通訳をしており、英語は堪能だ。マルチの国際会議でも英語で発言できる。
 昨年までは米州局の次長であったが、今回のノルウェー協議の際には「米州局長」に昇格していたことが判明した。彼女は次長の時から非常に率直な発言をしていたが、問題にならなかったどころかますます認められているのだ。
 そのように振る舞えるのは養父のチェ・ヨンリム(崔永林)元首相の後ろ盾があったからだとも言われていた。チェ・ヨンリム氏は1929年生まれ(1930年生まれとの説もある)で、当然日本語もできるだろう。朝鮮戦争に従軍し、その後順調に党政の重要ポストについてきた人物だ。が、それだけでは保障にならない。チェ・ソンヒ氏は明らかに金正恩委員長の信頼を勝ち得ている。
 チェ・ソンヒ局長はノルウェーでの協議から帰国途中の5月13日、北京空港で香港のフェニックステレビなどの取材に応じ、「条件が熟せば、トランプ政権と対話する用意がある。(事務的な協議については)今後も機会があれば、行う」と話した。今後についての方針や、米朝首脳間の会談についても平然と話したのはいかにもチェ・ソンヒ氏らしい。
 
 少し古い話だが、2012年3月、ニューヨークで「北東アジアの平和と協力に関する」会議が開かれた。分かりやすく言えば、北朝鮮問題と米朝関係に関する会議であったが、これにチェ・ソンヒ次長が出席していた。当時は、金正恩氏が父正日氏の後継者となってから間がなく、新体制が安定的に動き出せるか微妙なときだったが、チェ次長はその際も歯切れがよかった。
 たとえば、チェ氏は、北朝鮮の核について、「南が核の傘を放棄すれば北は核を放棄する」と言い放った。これに対し、韓国の学者が「本当か」と質問したが、それに対しても「本当だ」と緩まなかった。
 私はその場にいて、チェ次長はよほど大胆な女性か、常識的には想像できない強いバックがあるなと感じた。また、チェ次長は、同席していたケリー上院外交委員長(当時、後に国務長官)に対し、「北朝鮮へ来てほしい。そこで議論しよう」とも言った。日本に限らず、他の国では外務省の一介の局次長がケリーのような大物に対して言えることでない。
 それから5年以上が経過したが、チェ氏は順調に昇格して米州局長になり、また以前と同様率直な発言を行っている。今後も注目すべき人物だと思う。
2017.05.31

米朝関係―ジョンズ・ホプキンス大タウン副所長の見解

5月29日の時事通信は次のように報道している。

 「米ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院・米韓研究所のジェニー・タウン(Jenny Town)副所長は29日、東京都内でインタビューに応じ、北朝鮮の相次ぐミサイル発射に関し「技術的な進展を目指す側面もあるが、政治的な理由が反映されている」と指摘、「米中両国の圧力に対する反応であり、米国が強硬姿勢で臨んでも、北朝鮮は脅しに屈しないことを示すため、さらに(ミサイル発射を)続けるのではないか」と述べた。
 29日に北朝鮮が発射した弾道ミサイルについては、先の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)の際に行われた日米首脳会談への反発などが背景にあるとの見方を示した。
 米韓研究所は北朝鮮核実験場などの衛星写真の分析で知られるウェブサイト「38ノース」を運営し、タウン氏は編集長を務めている。タウン氏は「北朝鮮は(米国との)交渉が不可能だと判断すれば核実験に乗り出すかもしれない」と予測。北朝鮮が試験発射準備が最終段階に達したと表明している大陸間弾道ミサイル(ICBM)について、目指しているのは確かだが、開発は容易でなく「仮に来年までに試射を行ったとしても、実用化には2020年ぐらいまでかかる」と分析した。
 一方で、「今後、(米朝、南北の)対話が始まる可能性はある。トランプ政権も今は対話は可能だと強調している」と語った。非核化をめぐり米朝の隔たりは大きいが、「対話を始める条件をどう設定するかだ。米国も交渉の環境を整えるには何が現実的で可能なのか、考えざるを得なくなるだろう。条件を変えるのは不可能とは思わない」と説明した。」

 つまり、米国が強硬姿勢で臨んでも、北朝鮮は脅しに屈したくないのでミサイル発射を続けるということだ。
 また、トランプ政権は、対話は可能だとの考えであり、米朝の対話が始まる可能性がある。問題は対話を始める条件をどう設定するかだ。
 
 北朝鮮による相次ぐミサイル発射や米国による空母派遣やICBMの発射実験だけでは米朝関係は一面しか分からない。トランプ大統領の発言として様々なことが伝えられているが、タウン氏のように米朝関係の目立たない側面をじっくり見ていくことが必要である。先のノルウェー会談で米朝は対話の条件を協議したのだと思う。

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