平和外交研究所

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2017.08.24

中国にとっての北朝鮮問題

 中国にとって北朝鮮問題とはなにか、米国や日本の強い働きかけに本当に応じる用意があるのか、などに関する一文を東洋経済オンラインに寄稿した。
 米国と中国の立場は大きく異なっている。米国は、国連安保理の決議を忠実に実行すれば北朝鮮問題は解決するという考えであり、中国は、それでは北朝鮮の安全は確保されない、したがってまた核・ミサイル問題も解決できないという考えである。
 日本として米国と同じ立場に立つのは自然だが、北朝鮮問題が解決しない、核・ミサイル問題も解決しないというのであれば単純に米国と同じ立場に立てばよいとは言えなくなる。
 北朝鮮問題を論じる場合つねに悩まされることだが、今回は中国の側から見ればどう見えるかという視点に立って分析を試みた。
 「東洋経済オンライン」→「米朝チキンレースを静観する中国の深謀遠慮」にアクセスしてご覧いただきたい。
2017.08.15

「終戦の日」に考える平和と軍縮 北朝鮮の脅威が増す中で

8月15日、次の一文をザページに寄稿しました。

「8月15日で先の大戦が終結してから72年目。平和の尊さを反芻し、より良き将来を構築する決意を新たにしたい思いです。
 しかし、現実の状況は容易でありません。とくに、わが国周辺では北朝鮮が核・ミサイルの開発を進め、挑戦的な実験を繰り返しています。最近の報道では北朝鮮は60発の核兵器を保有しているといいます。また、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験はすでに2回実行しました。米国本土を直接攻撃する能力を取得しつつあるのです。
 トランプ米大統領は8月8日、「これ以上、米国への威嚇行為を行わないことが北朝鮮にとっての最善策だ。世界が見たことがない炎と怒りを受けることになる」と発言し、また翌日には、「米核戦力はかつてないほど強力だ。使わないことを望む」とツイートしました。その後も強い言葉で警告を発しています。
 もっとも、北朝鮮と対話する用意があることも述べています。
 一方、北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍は8日付声明で、米軍の重要な軍事拠点であるグアム島を、ミサイル「火星12」で「包囲射撃する作戦を慎重に検討中」と威嚇しました。日本も仮想標的となり、朝鮮中央通信は9日、「日本列島を瞬時に焦土化できる能力を備えた」と豪語しました。

 しかし、こんな時こそ冷静に対処することが必要です。日本では、自民党の安全保障調査会が8日、北朝鮮のミサイル発射に備えた国民保護のあり方に関する提言を安倍晋三首相に提出しました。その中には、国外の敵基地を攻撃する能力を日本が保有すべきことが含まれています。この敵基地攻撃能力の議論は「専守防衛」を掲げてきた従来の日本の方針から逸脱するのでは、との議論もあります。日本が有事の場合に備えることはもちろん必要ですが、勢い余って攻撃的にならないよう注意が必要です。
 米朝間の激しい非難合戦はたしかに憂慮されますが、「売り言葉に買い言葉」的なところがあり、その分差し引かなければなりません。そのうえで、冷静に状況を分析し、当面の緊張を緩和させ、北朝鮮の安全確保と朝鮮半島の非核化という最終目標に向かって進まなければなりません。

 トランプ政権は成立以来、中露両国との協力を重視する姿勢を見せています。ただし、ロシアの関係ではいわゆる「ロシア疑惑」の問題があり、また中国との間では、南シナ海における国際法違反の行動の問題があり、関係改善は一直線に進展していません。
 また、トランプ政権は、オバマ政権が軍縮を重視していたのと対照的に、軍事力を重視する姿勢を見せています。
トランプ大統領は、就任前、核兵器の使用を認めることを示唆する発言を行っており、過激派組織ISが米国を攻撃してくれば、「核で反撃する」と発言したこともありました。さらに、日本が核武装するのを容認するかのような発言をしたこともありました。
 トランプ政権は現在、「核体制見直し(NPR)」を進めており、年内に結論が出る予定です。オバマ前政権以来、7年ぶりの見直しで、報告が早まる可能性もあるそうです。これは新政権としての基本政策になるものであり、その内容が注目されます。トランプ氏の個人的な考えが強く反映されると軍備拡張競争を惹起する危険もあります。

 軍縮を進めるには不利な状況になっています。しかし、軍縮は一時の勢い、あるいは個人的な好みによって左右されてはなりません。米露の二大軍事国家も中長期的には核軍縮を進めなければならない考えであり、1972年のSALTⅠ(第一次戦略兵器制限交渉)以来、戦略兵器の削減交渉を重ねてきており、もっとも最近の合意は2010年の「新START(
新戦略兵器削減条約)でした。また、1987年には中距離の核戦力(INF)を全廃する条約を締結しました。
 問題は、核軍縮の進め方、速度であり、それらについては核保有国と非保有国では考えが違っています。非保有国の中にも意見の違いがありますが、オーストリア、ノルウェー、メキシコなどの急進派は数年前から「核の非人道性」を確立する運動をはじめ、これには核保有国も徐々に参加し始めていました。
 さらに、核軍縮急進派は核兵器の禁止に転じ、さる7月7日、国連で「核兵器禁止条約」が採択されました。
 日本の立場は微妙です。今年の「原爆の日」に長崎市長が「平和宣言」で条約への参加を求めたように、唯一の被爆国として日本は核軍縮の先頭に立つべきだという強い期待感がある一方、米国の核の傘の下にあり、その抑止力を弱めるようなことはできません。日本はそのため、米国の核の傘の下にある他の諸国と同様、この条約交渉にも参加しませんでした(ただし、オランダだけは交渉に参加)が、はたしてそのような姿勢は適切だったか。反省の余地があります。
 ともかく、核軍縮問題は禁止条約で終わったわけではありません。河野外相は10日、中満国連事務次長・軍縮担当上級代表に対し、「我が国として,現実的かつ実践的な措置を積み重ねることを通じ,実際の核兵器の削減に向けて核兵器国と非核兵器国との協力関係を再構築すべく取り組んで行く」と述べました。日本は、国際社会でのコンセンサス形成のため最大限努力していくべきです。
2017.08.08

マニラでの米国と北朝鮮

 北朝鮮によるICBMの第2回目実験(7月28日)を非難して国連安保理が北朝鮮制裁の新決議を採択したのが8月5日。その直後に(7日)マニラで開かれたASEAN地域フォーラム(ARF)において北朝鮮によるミサイル発射実験問題が議論され、ほぼすべての国が北朝鮮を非難し、態度を変更するよう求めたが、北朝鮮のリ・ヨンホ(李容浩)外相は従来からの米国非難を繰り返し、まったく応じる姿勢を見せなかったという。
 大筋としては、最初のICBM実験(7月4日)の際には中ロが日米韓などに同調せず国際社会が割れていた感があったが、さすがに第2回目の実験となると関係国は北朝鮮に厳しい姿勢で臨むことで一致し、今般のASEAN会議でも各国はこぞって北朝鮮を非難したという流れである。
 しかし、マニラで米朝両国は、もちろん直接対話ではなかったが、一種の間接的なコミュニケーションを行ったと思われる。
 特に、ティラーソン長官の、「北朝鮮が一連のミサイル発射実験を中止すれば米国は北朝鮮と話し合いをする用意がある」という発言である。米国はオバマ政権時代から、「北朝鮮が核を放棄すること」を関係改善の条件とし、トランプ政権も(いやいやながら?)この立場を維持しつつ、「北朝鮮との対話を始めるには一定の環境が必要」とも述べていた。

 これらに比べ、今回のティラーソン発言については次の点が注目された。
 第1に、「ミサイルの発射実験を中止すれば話し合う用意がある」という表明は、「核を放棄しない限り対話しない」というのと比べ、前向きの印象がある。
 第2に、これまでは、核放棄という最終目標達成と話し合いの開始の条件を区別していなかったが、今回は「話し合いを始める」ことに絞って条件を具体的に示した。
 第3に、核実験には言及しなかった。話し合いの開始のためには核実験の停止は必要でないとも解しうる発言だった。ただし、ティラーソン氏はそのようなことを十分認識した上で発言したか、疑問の余地はありそうだ。

 一方、リ・ヨンホ外相の発言は、各国から強硬な姿勢に終始し、攻撃的であったなどと評されたそうだ。しかし、北朝鮮の外相として各国が歓迎するようなことを発言できるはずはないので、リ・ヨンホ氏の発言が強硬であったというだけではあまり意味がない。少なくともこれまでの北朝鮮の発言と比べさらに強硬になっていたか、というところまで踏み込まなければならない。そのように見ていくと、リ・ヨンホ氏の発言は決して強硬であったとは思われない。
 リ・ヨンホ氏は、米国を非難する文脈の中でアフガニスタン、イラン、リビアなどで政権が交代させられたことに言及した。米国によって攻撃されることは北朝鮮が20年以上繰り返している基本問題であり、核・ミサイル問題の核心である。要するにリ・ヨンホ氏の発言は従来通りだったのだ。
 リ・ヨンホ氏は河野新外相とも、また、カン・ギョンフア(康京和)韓国外相とも短時間言葉を交わした。
 同氏がティラーソン長官の発言をどのように受け止めたか、知る由もないが、全体的にみると、歓迎できるという気持ちを持ったのではないかと推測される。

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