平和外交研究所

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2017.09.04

北朝鮮による新たな核実験

 北朝鮮は9月3日、新たな水爆実験を行った。昨年9月以来であり、第6回目の核実験であった。今回の実験は、地震波から見てこれまでの約10倍の威力があるという推定もある。
 朝鮮中央通信の報道と「朝鮮核兵器研究所」が発表した声明には3つの特色がある。
 
 第1は、「声明」が、ミサイルに装着する核兵器の実験であったとわざわざ説明していること。北朝鮮はいわゆる「戦略核兵器」の開発に成功していることを誇示しているのだ。

 第2に、「声明」が、核兵器関連の技術向上に関する説明に大きなスペースを割いていること。たとえば、「水爆2次系の核融合威力を高めるうえで中核技術である核装薬に対する対称圧縮と分裂起爆および高温核融合点火」というような技術用語が次々に出てくる(翻訳の問題もあるかもしれない)。要するに、北朝鮮は、巨大な出力の爆発を成功させるためには多くの技術的困難があるが、それらを克服したと誇示しているのである。
 
 第3に、北朝鮮は今回の核実験の発表においても、従来と同様対外的アピールを重視する姿勢を見せた。

 北朝鮮が国際社会の意向を無視して危険な核実験を強行したことはまことに遺憾だ。北朝鮮の責任は重大である。
 一方、日本を含め関係国の今後の対応について検討すべきことがある。

 第1に、国連の決議が重要なことはもちろんだが、決議の履行だけでは北朝鮮の核・ミサイル問題を解決できないのではないか。

 第2に、中国とロシアの考えを見極めるべきだ。中国が本気になれば北朝鮮問題は解決するというのは思い込みに過ぎないのではないか。

 第3に、核実験の2日前に河野外相は中国の王毅外相と電話で会談し、その結果について日本側は、「非核化がゴールである点では一致した」と一致点を強調したが、実際には、「圧力」についても、北朝鮮の核・ミサイル問題の本質についても両者の考えは違っていたのではないか。中国系の『多維新聞』は、王毅外相がかねてからの主張である、核・ミサイル問題の核心は「北朝鮮の安全保障」だということを繰り返したと報道している。

 第4に、日本政府は「圧力」の一本やりだが、「圧力」で北朝鮮をねじ伏せようとするのは危険なことでないか。

 第5に、日本政府は米政府に対し、平和的な方法、外交による解決をもっと重視するよう説得すべきでないか。現状は、米政府以上に「圧力」の強化を強調しているのではないか。
2017.08.31

北朝鮮による8月29日の弾道ミサイル発射

 8月29日早朝、北朝鮮が日本の上空を越えて太平洋に弾道ミサイル「火星12」を発射したことについては、次のような諸点に不自然さ、人為的な所作を感じる。

 北朝鮮は累次の発射実験について多くの内部映像を外国メディアに提供するなど宣伝の色彩が強い行動を取っている。トランプ大統領が強く反発し、メディアによって大きく取り上げられると、それだけ宣伝の効果があったとみているのではないか。

 トランプ大統領の姿勢は一貫しているか。発言はころころ変わっている。賢明に、必要な発言だけを行うべきでないか。100%日本と一致しているというのはほんとうか。安倍首相の発言はいつも同じだ。

 中国とロシアはどのようにして北朝鮮の非核化を実現しようとしているのか。安保理などでは米国に対抗するという政治目的の行動が強すぎるのではないか。

 日本は、弾道ミサイルが日本に向けられて発射されたのではないのにいたずらに国民の危機意識をあおっているのではないか。Jアラートは核攻撃に有効と国民に思わせるは欺瞞でないか。地下鉄や新幹線は、日本を標的に打ち込まれる場合以外短時間にせよ、止めるべきでない。

 北朝鮮は、遺憾なことに、また実験をするだろう。そうするとふたたび実の少ない応酬が繰り返されるのを恐れる。
2017.08.27

朝鮮人「徴用工」問題

 朝鮮人徴用工とは1944年8月に国民徴用令が朝鮮人にも適用されることとなり、それ以来終戦までの間、日本政府に徴用された人たちのことである。実際には日本の民間企業で労働に従事した。
 ただし、自由意思で日本にわたってきた朝鮮人も多数おり、日本外務省の1959年7月11日の説明では、1939年から終戦の時点までに約100万人の朝鮮人が渡来しており、その大部分は自由意思に基づき日本での労働に従事したとされている。その中の、徴用された朝鮮人の数については説明がなく、わずかに、「1959年時点での在日朝鮮人の総数は約61万で、外国人登録票について調査した結果、戦時中に徴用労務者としてきたものは245人であった」とのみ記されていた。つまり、100万人のうち大部分は終戦から1959年までに朝鮮に戻っていたので、1959年に日本に在住していることが確認された徴用工の数は245人という小さい数字であった。
 そもそも、徴用された朝鮮人の数があるはずだが、公表されていないようである。このような状況から徴用工の数を具体的に示すことは非常に困難であり、研究対象になっているのが実情である。
 また、戦争中には中国人も日本の企業で労働に従事していたので、いわゆる徴用工の問題を考える場合にはこれも考慮する必要がある。

徴用工問題と慰安婦問題はともに戦争の犠牲になって過酷な労働、あるいは生活を強いられたという点で類似しているが、違っている点もある。上述した、徴用工全体の数字が把握しにくいこともその一つである。

 徴用工の賠償あるいは補償を求める請求権については、国民徴用令に基づいて徴用されたので日本政府に対する請求が行われる可能性があるが、国民徴用令は日本国籍を有する者全員を対象としていたのであり、朝鮮半島出身者だけが特別に扱われる理由はない。日本人も朝鮮人も徴用されたことに対する補償を受けられるのが理想であるが、それは畢竟戦争の問題であり、国民は甘受するほかなかった(なお、この点はさらに確認する必要があるが、現時点では筆者の理解を記しておく)。
 ともかく、日韓両国政府は1965年、日韓基本条約と同時に請求権・経済協力協定を結び、財産・請求権の問題を「完全かつ最終的に」解決した。
 請求権とは、朝鮮人の側では、日本による植民地統治時代にこうむった苦痛と損害に対する補償要求、日本人(企業を含む)の側では朝鮮半島に残してきた工場、住居などの財産についての返還請求がある。それらの清算のため両国政府は長期間交渉したが、請求権問題は極めて複雑であり、一括解決せざるを得なかった。そうしなければ日韓両国が不幸な植民地時代の歴史を乗り越えて対等の立場で再出発することができなかったのである。日韓両国がこの協定を順守していかなければならないのは、単に国際法的に当然というだけでなく、歴史的意義がある重要な約束だからである。

 しかし、韓国政府は、慰安婦問題は請求権協定で解決していないという立場である。これに対し日本政府は、慰安婦問題も請求権協定で解決したという法的立場を曲げるわけにはいかないとしつつ、可能な限りの対応をしてきた。

 一方、徴用工問題については、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下の2005年、日韓の請求権協定には徴用工問題も含まれ、賠償を含めた責任は韓国政府が持つべきだとの政府見解もまとめた。文在寅氏は当時大統領首席秘書官としてその方針決定にかかわった。
 そして、文在寅(ムンジェイン)大統領は、大統領就任100日を迎えて開かれた2017年8月17日の記者会見で、これまでの韓国政府の見解から逸脱するかのような認識を示した。韓国においては2012年5月、大法院(最高裁判所)が、「請求権協定で放棄された外交保護権と個人請求権は別」という判断を示し、そのころから韓国政府はそれまでの立場とは異なる姿勢を見せ始めたのだが、文在寅大統領はこの大法院判断に触れつつ、「政府はその立場から歴史認識問題に臨んでいる」と語ったのである。
 また、文氏は、その2日前の植民地解放の式典でも、慰安婦問題と徴用工問題を並べて取りあげ、「日本指導者の勇気ある姿勢が必要」だと訴えた。
 要するに、文在寅大統領は、盧武鉉政権で決定したことを変更して、日本政府に、韓国の世論が希望する解決のために行動するよう求めたのである。
 文在寅氏はこの問題の困難性を十分理解しているはずである。にもかかわらず、韓国世論に迎合して日本政府に要求をするのは無責任であると言わざるを得ない。文在寅氏は、韓国の世論に対して国家間の約束を尊重すべきことを説得すべきであった。百歩譲って、現実の政治ではそのとおりにすることが困難であっても、文在寅氏には、日本政府に要求をするのとは異なる対応があるのではないか。もしその対応が今見つからなければ、引き続き模索し続けるべきではないか。

 一方、日本政府は国際的にどのように振る舞うべきか。これには最大限の慎重さが必要である。日本側としては徴用工問題についての文在寅大統領の理不尽さを突きたいところであっても、下手に動けば日本政府は元徴用工の人々に対しても批判的な態度を取っていると誤解される危険がある。慰安婦問題において見られたように、一部の事実関係についての誤りを指摘することは政治家がすべきことでない。このため日本がいかに不利な立場に置かれたか肝に銘じるべきである。
 徴用工問題についてもそのような危険はありうる。請求権問題は人権問題と絡んで国際的運動で取り上げられやすい面があるだけに、事実関係の誤りを正して相手の主張の信頼性、信憑性を崩すという手法は百害あって一利ないことに注意が必要である。
 一方、首脳レベル、外相レベルで国際約束を順守すべきこと、韓国政府がいったん決めたことを政権が代わったからと言って反故にするようでは韓国の信用にかかわることなどを日本側から冷静に説くことは当然である。
 しかし、その場合も対外発表は最小限にとどめるべきである。そうしないと、メディア報道を通じて国際的な混乱が生じる恐れがある。


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