平和外交研究所

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2017.11.28

米国における慰安婦像問題

 米サンフランシスコ市議会は11月14日、慰安婦を象徴する少女像の寄贈を民間団体から受け入れる議案を可決した。吉村大阪市長はサンフランシスコ市のリー市長に対し、少女像の寄贈を拒否するよう求めていたが、リー市長は22日、寄贈の受け入れを承認した。
  
 サンフランシスコに限らない。ざんねんながら、今後、米国のほかの都市でも、とくに、アジア系米国人の影響力が強いところでは、同様の問題が発生する恐れがある。日本側としてどのように対応するべきか。複雑な問題だが、最低限次のようなことには注意が必要だと思う。

 第1に、日本側の論法は国際的に通用するか、慎重にふるいにかけたうえで議論を展開する必要がある。「〇〇しないと××する」という最後通牒的な要求は、日本(の一部)では評判が良いかもしれないが、絶対避けるべきだ。国際社会では、最後通牒を突き付けられて、ハイわかりましたということにならない。それどころか、逆効果になる危険が大きい。最後通牒が失敗した例は歴史上いくつもある。
 
 第2に、代替案を示すことも考えてみるべきだ。少女像に一方的な、偏った歴史認識が刻まれるのであれば、正しい、客観的な認識を示し、それを問題の歴史認識とならべて表示することを最低限の要求とすることも一案であろう。

 第3に、日本側が、力ずくで、あるいは財力にものを言わせて主張を通そうとしているという印象を与えないよう、細心の注意を払うべきである。

 第4に、国際社会は、日本が女性の権利を擁護する国際的な運動を支持すること、あるいは日本自身が積極的に展開することを求めている。日本側として、慰安婦問題に関する反論に力を入れるあまり、女性の権利の擁護に不熱心だ、ないしは反対しているという誤解を与えないようにすることが肝要である。

2017.11.16

静かな(?)北朝鮮と米朝非公式対話

 北朝鮮は9月3日の核実験、15日の中距離弾道ミサイルの発射実験以来、核もミサイルも実験していない。その間も言論面では米国や日本を激しく批判しているが、実験はそれまで2週間に1回、あるいはそれ以上のぺ-スで行ってきたことを想起すると、北朝鮮がこのように静かにしているのは昨年来初めてのことである。実験をしないほうがよいのはもちろんであるが、すでに2カ月間実験をしないのはどのような事情によるのか、注意だけは必要だ。

 9月11日に国連安保理で採択された制裁決議が効いているのか。中国も本気になってきたと見られており、そのことは北朝鮮にとっても由々しい事態であろうが、制裁決議が本当に効果を発揮するとしても数カ月後になろうというのが大方の見方である。したがって、制裁決議だけでは説明困難だと思われる。

 この間、水面下で米朝が協議していることが判明している。それも1か所でなく、ニューヨークとモスクワの2か所であった。
 モスクワでは10月20,21日に核不拡散会議が開かれ、北朝鮮から出席する崔善姫(チェソンヒ)北米局長が開催の前夜、シャーマン元米国務次官と接触していた、ロシア紙によって報じられたことである。崔氏とシャーマン氏は、ともに体調悪化を理由に19日夜のレセプションを欠席したという。
 どのような話し合いが行われたか、判明していないが、崔氏は米国との関係を重視する姿勢であったと伝えられている。日本と韓国からの出席者も崔氏に接触したが、話し合いにはならなかったようだ。

 一方、ニューヨークでは、米国のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表が北朝鮮側と非公式に接触していた。ユン氏は10月末に、北朝鮮が核・ミサイルの実験を60日間凍結すれば、米朝対話に応じる考えを示したと報じられた。ユン氏自身が10月30日に、米外交問題評議会でオフレコで語ったそうだ。
この接触はティラーソン国務長官の発言と平仄があっていた。
 北朝鮮が静かにしている期間はすでに60日になるので、ユン氏のことが頭をよぎるが、ユン氏の提案が北朝鮮の静けさをもたらしたとは言えないと思う。北朝鮮にとって米国との対話はかねてから望んできたことだが、あまりにも複雑化しているため、ユン氏の提案だけで簡単に動くはずはないからである。北朝鮮は米側の本気度をいつも気にしている。
 したがって、モスクワでもニューヨークでも非公式の接触は行われたが、現在関係国の首脳レベルで問題になっている米朝の対話とは区別されるもので、以前から行われてきた事務方による接触と同性質とみるべきだろう。

 ただこの間、トランプ大統領は奇妙な発言をしていた。11月12日の「金正恩氏と友人になる可能性はある」との発言だ。これは将来もトランプ氏の本心が問題になる際に引用されるだろうが、しかし、この発言から対話に進むというわけでもないだろう。

 ともかく、米側の姿勢にはかなり幅がある。公式な発言になると、「北朝鮮がまず非核化の意思を明確に示さないと対話に応じない」と従来からの立場を繰り返すが、それがすべてでなく、米国としては、少なくとも非公式の接触・対話は随時行う考えであると見られる。

2017.11.14

トランプ大統領のアジア歴訪

 トランプ米大統領は11月5日からの日本訪問を皮切りに、韓国、中国と相次いで訪問し、さらにアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するためベトナム(ダナン)、ついでASEAN首脳会議拡大会議のためにフィリピンへと足を延ばした。ベトナムでは、環太平洋経済連携協定(TPP)の首脳会議がAPECと並行して開催される予定であり、米国は離脱を表明しているのでトランプ氏は直接関係ない立場であったが、やはり注目された。
米国の大統領がこれだけ長く母国を離れることは珍しいことであったという。

 事前には北朝鮮と貿易の二つが最大の注目点になっていたが、結局、貿易の比重が大きくなった。トランプ氏は日本、韓国及び中国において貿易面で大きな成果を上げ、中国とは28兆円にのぼる企業間契約を締結させた。また、APECでは、二国間主義を貫こうとするトランプ大統領に一定の配慮が払われ、非難めいたことは宣言に盛り込まれなかった。

 一方、北朝鮮問題が大きな問題にならなかったことは、ある意味、喜ぶべきことだろう。しかし、一連の会議においてではなかったが、トランプ氏は12日、ツイッターで、金正恩委員長について、「金正恩氏はなぜ私を『年寄り』と侮辱するのだろうか。私は彼を『チビでデブ』と決して呼ばないのに」と記した。さらに、ベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席との共同記者会見で、金正恩氏と友人になる可能性を問われ、トランプ氏は「あらゆることに可能性はある。人生、不思議なことが起きる。もし友人になれば、北朝鮮にとって、世界にとって良いことだろう。可能性は確かにある。そうなるかは分からないが、そうなれば非常に素晴らしいことだ」と回答したのは実に興味深い発言であった。
 トランプ氏が、条件付きであったとはいえ、金正恩氏と友人になれる可能性に言及したのは初めてだと思う。この発言は、トランプ大統領が、北朝鮮問題については圧力の強化を重視しつつも、かなり幅のある見方をしていることの新たな証左である。

 トランプ大統領以上に満足したのは習近平主席であった。何が飛び出すか分からないところがあるトランプ氏の訪中を大成功で終わらせることができたからである。トランプ氏をどのように遇するのがよいか、周到に準備したのは当たり前であったが、非常に巧妙であった。トランプ氏が理屈よりも「力」を重視する傾向があることを踏まえ、中国は米国よりはるかに長い歴史があること、中国のパワーは侮れないことを強く印象付け、さらに超大規模な企業間契約を成立させるなどしてトランプ氏を喜ばせた。また、中国は米国とともに世界の平和と安定を守っていくことを強調しつつ、処々に「大国中国」を印象付けた。
 これに対しトランプ氏は、会見で貿易不均衡問題に言及し、「我々は貿易上の問題を解決するために着実に行動しなければならない。米国企業が中国で公平に競争できるようにさせなければならない」と説く一方、「貿易不均衡は中国の責任ではない。その責任は放置してきた歴代の米大統領にある」と異例の発言まで行って歓待してくれた習近平主席にこたえた。
 そして習氏は、APECでトランプ氏が二国間主義にこだわるのをしり目に、中国は多国間協調を重視し、グローバル化を尊重しつつ積極的な役割をはたす姿勢であることを強調した。
 一方、各国から批判されやすい南シナ海問題については、ASEAN首脳会議は中国への配慮を示し、昨年言及した中国の活動への「懸念」は議長声明に盛り込まない見通しとなっている。

 安倍首相と習主席の会談では、今後の関係改善につながる希望が高まった。安倍首相が南シナ海の問題を封印するなどして中国との関係改善に積極的な姿勢を示したことが今回の会談成功に貢献したのはもちろんだが、習近平主席が笑顔で応じたのは、中国内では第19回党大会を成功させ、対外面ではトランプ大統領の訪中とAPECおよびASEANの首脳会議で大国らしい役割を果たしえた満足感が背景となっていたと思われる。

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