平和外交研究所

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朝鮮半島

2017.12.27

女子差別撤廃委員会での北朝鮮審査

 「女子差別撤廃委員会」とは、男女の平等を達成することを目的とし、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念とする「女子差別撤廃条約」(1979年採択。現在の締約国数189)の運用状況をモニターし、必要な措置について国別に勧告を行う場であり、日本についての最新の審査は2016年2月に行われた。
 
 北朝鮮の審査は2005年以来行われていなかった。同国政府が条約の規定に反して、4年ごとの報告を怠っていたためであるが、2017年11月に実現した。どうして応じることにしたのか。先般の安保理緊急会合に北朝鮮代表が出席したのも異例であった。北朝鮮政府は、国際社会と対立するだけでなく、北朝鮮の立場を積極的に説明する方針に転換しようとしている可能性もある。仮説にすぎないが、今後も注意深く見守っていく必要がある。
 
次回の北朝鮮審査は2021年11月に予定されている。
 
なお、今回の審査に出席した同国代表団は、在ジュネーブ国際機関代表部大使をはじめ、人民最高会議、中央法院、教育省、保健省、外務省などの官員から構成されていた。審査は厳しいものとなることが予想された中で、北朝鮮として最善の体制で対応しようとしたのであろう。

 今回の審査ではこのほか、次のような点が注目された。

 北朝鮮に対する国連などの制裁は女性に対する影響が特に強いので、女性の権利を擁護するため必要な措置を優先的に取るべきだと指摘された。

 今回の審査にはHuman Rights WatchなどNGOが事前に文書で委員会に情報を提供し、審査にもオブザーバーとして出席した。その調査に基づいて、北朝鮮から中国へ出国し、一定の期間中国で性的サービスを強要された女性が北朝鮮へ帰国した後に収容所などでふたたび暴行される例などが報告された。女性差別撤廃委員会の審査では、当該国に対して最も重要な勧告を数点「フォローアップ事項」として指摘し、2年以内の再度の報告を求める慣例となっているが、北朝鮮に関しては、脱北し帰国した女性に対する収容所での性暴力・堕胎の強要がフォローアップの対象となった。
 北朝鮮の女性の性的被害はさまざまな形で、また、児童も被害者となるなど深刻であり、法整備を含め至急対策を講じる必要があると指摘された。

 今回の審査結果は北朝鮮にとって厳しい内容であったが、北朝鮮においては、一定の分野で女性が進出しており、例えば、最高人民会議の事務局長(閣僚レベル)も女性であり、最近は外交官になる女性も増加しているという説明もあった。

2017.12.13

前提条件なしの米朝対話

 ティラーソン米国務長官は12月12日、シンクタンク「アトランティック・カウンシル(Atlantic Council)」の政策フォーラムで、「われわれは前提条件なしに北朝鮮と第1回会合を行う用意がある。会うだけ会って、話したければ天気の話でもして、気分が乗れば、会合のテーブルを四角いのにするか円いのにするか話せばいい」と発言した。これは評価すべき発言である。
 米国の立場は、公式な場では、対話を始めるには、北朝鮮が「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」を実行しなければならないというものであり、この方針は日本も共有している。
 しかし、実際にはこの方針を維持したまま北朝鮮の非核化を実現できるとはだれも思わない状況になっていた。
 その中で、ティラーソン長官はかねてより、北朝鮮に対して圧力をかける方針を維持しつつ、対話についても前向きの姿勢を示していたが、今回の発言のように、前提条件を付けずに話し合いに応じる姿勢を示したのは初めてであり、非常に注目される。ティラーソン長官は北朝鮮との関係において一歩前に踏み出したと言える。

 当然、トランプ大統領の姿勢が問われる。同大統領は表面的には安倍首相と全く同じであり、「今、対話をすべきでない。あくまで圧力を強める必要がある」ということであるが、トランプ氏は対話について幅のある姿勢であり、一方で、圧力を強くすることだけを主張する安倍首相に同意しつつ、他方、文在寅大統領には、対話によって解決を図る可能性にも言及し、また習近平主席にも安倍首相とは異なる物言いをしていた(詳しくは『世界』2018年新年号「トランプ大統領のアジア歴訪と安倍外交」を参照されたい)。
 ティラーソン長官が今回の発言を行うに際して、事前にトランプ大統領の了解を得ていたか不明であるが、トランプ氏と協議していなくてもトランプ氏の幅のある対応から判断すれば、了解してもらえると考えていた可能性がある。

 ただし、今回の発言だけでは事態がさらに前進するとはまだ言えないだろう。ティラーソン氏の国務長官としての地位は不安定であり、近日中に辞職するとも、しないともいわれている。
 そんな問題もあるが、北朝鮮は今回のティラーソン氏の発言を重く受け止めるべきである。北朝鮮が何らかの肯定的反応を示せれば、朝鮮半島、さらには東アジア全域におよぶ大惨事を回避するきっかけとなりうる。北朝鮮側では、核とミサイルの実験を控えることが考えられるが、積極的にティラーソン発言を受け止めていることを示すだけならば、他にも方法があろう。
 米国としてもさらになすべきことがある。北朝鮮は猜疑的な見方をするので、さらなるサインを出すことが望ましい。韓国との合同演習を暫定的であってもよい、停止することなどもあるが、トランプ大統領自身が前向きの姿勢を示すことができれば事態は大きく変わってくる。あるいはそこへ至る前に、ティラーソン長官が李容浩外相と前提条件なく話し合うのが現実的な方策かもしれない。

 米朝関係は1950年以来、あまりにもこじれ、複雑化しているだけに、今回の前提条件なしの話し合い提案は貴重である。緊張がかつてなく高まっている今日、双方が危険回避に向けさらなる一歩を踏み出すことを期待したい。
 日本政府には、緊張激化と偶発戦争の危険しか見えてこない「圧力一本やり」と、戦争許容を含む「すべての選択肢支持」をやめてもらいたい。

2017.12.07

ポスト「火星15号」

 北朝鮮は9月15日のミサイル発射実験から2か月半、核もミサイルも実験しなかった。世界中の人々はそのような状態が続くことを望んでいたが、北朝鮮はまたもや国際社会の意思を無視して11月29日、「火星15号」の実験を行った。これまでで最も性能が高いものでICBMであったという。その後の各国の反応を見ておこう。

 米国のヘイリー国連大使は、29日の安保理緊急会合で、「ミサイル発射は世界を戦争から遠ざけるのではなく近づけた。戦争になれば、昨日我々が目撃した侵害行為(ミサイル発射)が理由だ」などと北朝鮮を非難する一方、すべての国々に、北朝鮮との国交を断ち、北朝鮮を「国際社会ののけ者」として扱うべきだと求めた。
 また、同大使は、トランプ大統領が習近平主席に電話連絡し、「中国は北朝鮮への石油供給を断たねばならない」と伝えたことを明らかにした。
 このヘイリー大使の発言は米国の不快感をよく表しているが、どの程度の効果が期待できるか。9月11日の制裁決議で最大限強力な措置を決定した後なので、いまひとつ明確でない。

 米韓両空軍は12月4日、韓国各地で合同軍事演習を始めた。8日まで実施される予定だ。演習には米軍のF22、F35両ステルス戦闘機などに加え、話題性の高いB-1爆撃機も参加し、地上の爆撃や空中戦などの演習を行う。今回の演習は過去最大規模で、北朝鮮が演習に強く反発しているのはいつものことだが、この演習が必要なのか、どのような利点があるのかが問われる。
 韓国は12月1日、斬首部隊を成立させた。韓国軍にそのような任務の部隊があることは以前から話題に上っていたが、今回は1000人の兵員からなる部隊の正式立ち上げの発表であった。

 北朝鮮によるミサイルの実験後、ティラーソン米国務長官は国連軍派遣国会合を、日本を含めて開催することを提案した。この提案に対し、日本政府は全面拒絶ではなかったが、近日中(12月中?)の開催には消極的で、この会合は開催するにしても来年になるとみられている。日本政府は安保理の緊急会合を優先的に考えており、国連軍派遣国会合はかえって国際社会の足並みを乱しかねないと危惧し、開催に積極的な米加両国に不快感を伝えたとも報道されている(『産経新聞』12月5日)。
 日本政府がこの会合に消極的なのは、これらの理由に加え、この会合を開催すると、北朝鮮が核とミサイルの開発にこだわるのは朝鮮戦争との関係、つまり北朝鮮の安全のためであるという基本問題に焦点が当たるようになるとみているためではないか。

 国連事務局のフェルトマン事務次長が12月5日~8日、北朝鮮を訪問している。この訪問は北朝鮮側の要望に応えたものであるという。北朝鮮は、一方で、実験を繰り返しつつ、国際社会とは意思疎通を続けたいという考えのようだ。柔軟に考える余地があるなら、他にも方策があるのではないか。
 フェルトマン次長は米国の元外交官である。今は国連の職員として中立の立場にあるが、米国政府とも連絡を取ったうえでの訪朝とみるのが自然であろう。
 なお、2010年、潘基文国連事務総長時代にパスコー次長が訪朝した例があったが、その時と現在は客観状況が違っており、あまり参考にならない。

 安倍首相は11月29日の記者会見で、「国連安保理に対して緊急会合を要請します。国際社会は団結して制裁措置を完全に履行していく必要があります。我が国はいかなる挑発行為にも屈することなく、圧力を最大限まで高めていきます」と述べた。やはり圧力一本やりであった。

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