オピニオン
2017.12.29
日韓間では、この問題の「最終的かつ不可逆的」な解決をうたった2015年合意の交渉過程などを調べていた韓国の外相直属の検証チームが、27日、検証結果を発表した。その内容は、「元慰安婦の意見が十分反映されなかった」、「不均衡な合意が一層不均衡になった」、「政府間で最終的・不可逆的解決を宣言したとしても問題は再燃するしかない」などであった。
文在寅大統領は翌日、日韓合意は「手続き上も内容上も重大な欠陥があったと確認された」とし、「両首脳の追認を経た政府間の公式的な約束という重みはあるが、この合意では慰安婦問題は解決されない」などと表明した。
これに対し河野外相は、訪問先のトルコ・アンカラで、「韓国政府がすでに実施に移されている合意を変更しようとするなら、日韓関係が管理不能となり、断じて受け入れられない」と、検証結果と文氏の発言を明確に拒否するとともに、合意に従って解決を図ることの重要性を強調した。当然の反応だったと思う。
文在寅大統領の声明が日本に対し再交渉を求めていなかったことは評価できるが、そもそも文在寅政権の慰安婦問題についての対応は中途半端な印象が強い。
最大の問題は、日韓の合意を一方的に否定しても事態は改善しないことである。国家間の合意は尊重していかなければ、正常な関係は維持できない。韓国側は、日本側の国際法と国際常識に基づく立場は岩のように堅固であることを容易に予測できたはずだのに、あえて検証を始めたのは賢明でなかったのではないか。
日本の常識と韓国の常識がずれているという問題はあろう。韓国政府は、前政権がしたことを覆す。米国との間のTHAAD配備問題についても前政権が実行したことを覆そうとした。
しかし、それでは相手の国は困る。到底認められない。外交の常識から言えば、こちらの主張が100%正しいとは言えないかもしれない、相手方の主張もよく聞かなければならないが、慰安婦問題については、2年前の合意のほか、韓国から可能な具体策を聞いたことがない。安倍首相に謝罪を求めているが、日韓合意でも謝罪しているし、十数年前、橋本首相は謝罪の手紙を被害者に送っている。
一方、国際社会での慰安婦問題をめぐる状況も悪化している。この面では、国連だけで慰安婦問題に関係する委員会がいくつかあり、また、米国各地で慰安婦問題を取り上げようとする動きがあるので、メディアとしても報道しにくいのだろうが、ともかく日本国内にはわかりやすく伝えられていない。日韓間の状況の報道に比べると、数分の一程度である。
いずれにしても、2年前の「女子差別撤廃委員会」(1979年採択の条約の運用状況をモニターし、必要な措置について国別に勧告を行う場。条約の締約国数は現在189)での日本審査以降、国際社会の状況は日本にとって厳しさを増している。
「拷問禁止委員会」が2017年5月、慰安婦問題に関する日韓合意について「見直すべきだ」とする勧告を含む「最終見解」を公表したことはその表れであった。
サンフランシスコ市と大阪市との間のやり取りは、政府間のことでないが、慰安婦問題全体について日本側のイメージダウンを助長した恐れがある。
日本では、慰安婦問題というと日韓間のことに注意が向きがちであるが、国際社会の状況はある意味では日韓の問題より深刻である。今後、国連などでどのように対応すべきか、徹底した検討が必要である。
悪化しつつある慰安婦問題
慰安婦問題については、日韓間の動向と国際的な状況(国連や米国など)は関連がないわけではないが、区別して見ていく必要がある。日韓間では、この問題の「最終的かつ不可逆的」な解決をうたった2015年合意の交渉過程などを調べていた韓国の外相直属の検証チームが、27日、検証結果を発表した。その内容は、「元慰安婦の意見が十分反映されなかった」、「不均衡な合意が一層不均衡になった」、「政府間で最終的・不可逆的解決を宣言したとしても問題は再燃するしかない」などであった。
文在寅大統領は翌日、日韓合意は「手続き上も内容上も重大な欠陥があったと確認された」とし、「両首脳の追認を経た政府間の公式的な約束という重みはあるが、この合意では慰安婦問題は解決されない」などと表明した。
これに対し河野外相は、訪問先のトルコ・アンカラで、「韓国政府がすでに実施に移されている合意を変更しようとするなら、日韓関係が管理不能となり、断じて受け入れられない」と、検証結果と文氏の発言を明確に拒否するとともに、合意に従って解決を図ることの重要性を強調した。当然の反応だったと思う。
文在寅大統領の声明が日本に対し再交渉を求めていなかったことは評価できるが、そもそも文在寅政権の慰安婦問題についての対応は中途半端な印象が強い。
最大の問題は、日韓の合意を一方的に否定しても事態は改善しないことである。国家間の合意は尊重していかなければ、正常な関係は維持できない。韓国側は、日本側の国際法と国際常識に基づく立場は岩のように堅固であることを容易に予測できたはずだのに、あえて検証を始めたのは賢明でなかったのではないか。
日本の常識と韓国の常識がずれているという問題はあろう。韓国政府は、前政権がしたことを覆す。米国との間のTHAAD配備問題についても前政権が実行したことを覆そうとした。
しかし、それでは相手の国は困る。到底認められない。外交の常識から言えば、こちらの主張が100%正しいとは言えないかもしれない、相手方の主張もよく聞かなければならないが、慰安婦問題については、2年前の合意のほか、韓国から可能な具体策を聞いたことがない。安倍首相に謝罪を求めているが、日韓合意でも謝罪しているし、十数年前、橋本首相は謝罪の手紙を被害者に送っている。
一方、国際社会での慰安婦問題をめぐる状況も悪化している。この面では、国連だけで慰安婦問題に関係する委員会がいくつかあり、また、米国各地で慰安婦問題を取り上げようとする動きがあるので、メディアとしても報道しにくいのだろうが、ともかく日本国内にはわかりやすく伝えられていない。日韓間の状況の報道に比べると、数分の一程度である。
いずれにしても、2年前の「女子差別撤廃委員会」(1979年採択の条約の運用状況をモニターし、必要な措置について国別に勧告を行う場。条約の締約国数は現在189)での日本審査以降、国際社会の状況は日本にとって厳しさを増している。
「拷問禁止委員会」が2017年5月、慰安婦問題に関する日韓合意について「見直すべきだ」とする勧告を含む「最終見解」を公表したことはその表れであった。
サンフランシスコ市と大阪市との間のやり取りは、政府間のことでないが、慰安婦問題全体について日本側のイメージダウンを助長した恐れがある。
日本では、慰安婦問題というと日韓間のことに注意が向きがちであるが、国際社会の状況はある意味では日韓の問題より深刻である。今後、国連などでどのように対応すべきか、徹底した検討が必要である。
2017.12.27
北朝鮮の審査は2005年以来行われていなかった。同国政府が条約の規定に反して、4年ごとの報告を怠っていたためであるが、2017年11月に実現した。どうして応じることにしたのか。先般の安保理緊急会合に北朝鮮代表が出席したのも異例であった。北朝鮮政府は、国際社会と対立するだけでなく、北朝鮮の立場を積極的に説明する方針に転換しようとしている可能性もある。仮説にすぎないが、今後も注意深く見守っていく必要がある。
次回の北朝鮮審査は2021年11月に予定されている。
なお、今回の審査に出席した同国代表団は、在ジュネーブ国際機関代表部大使をはじめ、人民最高会議、中央法院、教育省、保健省、外務省などの官員から構成されていた。審査は厳しいものとなることが予想された中で、北朝鮮として最善の体制で対応しようとしたのであろう。
今回の審査ではこのほか、次のような点が注目された。
北朝鮮に対する国連などの制裁は女性に対する影響が特に強いので、女性の権利を擁護するため必要な措置を優先的に取るべきだと指摘された。
今回の審査にはHuman Rights WatchなどNGOが事前に文書で委員会に情報を提供し、審査にもオブザーバーとして出席した。その調査に基づいて、北朝鮮から中国へ出国し、一定の期間中国で性的サービスを強要された女性が北朝鮮へ帰国した後に収容所などでふたたび暴行される例などが報告された。女性差別撤廃委員会の審査では、当該国に対して最も重要な勧告を数点「フォローアップ事項」として指摘し、2年以内の再度の報告を求める慣例となっているが、北朝鮮に関しては、脱北し帰国した女性に対する収容所での性暴力・堕胎の強要がフォローアップの対象となった。
北朝鮮の女性の性的被害はさまざまな形で、また、児童も被害者となるなど深刻であり、法整備を含め至急対策を講じる必要があると指摘された。
今回の審査結果は北朝鮮にとって厳しい内容であったが、北朝鮮においては、一定の分野で女性が進出しており、例えば、最高人民会議の事務局長(閣僚レベル)も女性であり、最近は外交官になる女性も増加しているという説明もあった。
女子差別撤廃委員会での北朝鮮審査
「女子差別撤廃委員会」とは、男女の平等を達成することを目的とし、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念とする「女子差別撤廃条約」(1979年採択。現在の締約国数189)の運用状況をモニターし、必要な措置について国別に勧告を行う場であり、日本についての最新の審査は2016年2月に行われた。北朝鮮の審査は2005年以来行われていなかった。同国政府が条約の規定に反して、4年ごとの報告を怠っていたためであるが、2017年11月に実現した。どうして応じることにしたのか。先般の安保理緊急会合に北朝鮮代表が出席したのも異例であった。北朝鮮政府は、国際社会と対立するだけでなく、北朝鮮の立場を積極的に説明する方針に転換しようとしている可能性もある。仮説にすぎないが、今後も注意深く見守っていく必要がある。
次回の北朝鮮審査は2021年11月に予定されている。
なお、今回の審査に出席した同国代表団は、在ジュネーブ国際機関代表部大使をはじめ、人民最高会議、中央法院、教育省、保健省、外務省などの官員から構成されていた。審査は厳しいものとなることが予想された中で、北朝鮮として最善の体制で対応しようとしたのであろう。
今回の審査ではこのほか、次のような点が注目された。
北朝鮮に対する国連などの制裁は女性に対する影響が特に強いので、女性の権利を擁護するため必要な措置を優先的に取るべきだと指摘された。
今回の審査にはHuman Rights WatchなどNGOが事前に文書で委員会に情報を提供し、審査にもオブザーバーとして出席した。その調査に基づいて、北朝鮮から中国へ出国し、一定の期間中国で性的サービスを強要された女性が北朝鮮へ帰国した後に収容所などでふたたび暴行される例などが報告された。女性差別撤廃委員会の審査では、当該国に対して最も重要な勧告を数点「フォローアップ事項」として指摘し、2年以内の再度の報告を求める慣例となっているが、北朝鮮に関しては、脱北し帰国した女性に対する収容所での性暴力・堕胎の強要がフォローアップの対象となった。
北朝鮮の女性の性的被害はさまざまな形で、また、児童も被害者となるなど深刻であり、法整備を含め至急対策を講じる必要があると指摘された。
今回の審査結果は北朝鮮にとって厳しい内容であったが、北朝鮮においては、一定の分野で女性が進出しており、例えば、最高人民会議の事務局長(閣僚レベル)も女性であり、最近は外交官になる女性も増加しているという説明もあった。
2017.12.13
米国の立場は、公式な場では、対話を始めるには、北朝鮮が「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」を実行しなければならないというものであり、この方針は日本も共有している。
しかし、実際にはこの方針を維持したまま北朝鮮の非核化を実現できるとはだれも思わない状況になっていた。
その中で、ティラーソン長官はかねてより、北朝鮮に対して圧力をかける方針を維持しつつ、対話についても前向きの姿勢を示していたが、今回の発言のように、前提条件を付けずに話し合いに応じる姿勢を示したのは初めてであり、非常に注目される。ティラーソン長官は北朝鮮との関係において一歩前に踏み出したと言える。
当然、トランプ大統領の姿勢が問われる。同大統領は表面的には安倍首相と全く同じであり、「今、対話をすべきでない。あくまで圧力を強める必要がある」ということであるが、トランプ氏は対話について幅のある姿勢であり、一方で、圧力を強くすることだけを主張する安倍首相に同意しつつ、他方、文在寅大統領には、対話によって解決を図る可能性にも言及し、また習近平主席にも安倍首相とは異なる物言いをしていた(詳しくは『世界』2018年新年号「トランプ大統領のアジア歴訪と安倍外交」を参照されたい)。
ティラーソン長官が今回の発言を行うに際して、事前にトランプ大統領の了解を得ていたか不明であるが、トランプ氏と協議していなくてもトランプ氏の幅のある対応から判断すれば、了解してもらえると考えていた可能性がある。
ただし、今回の発言だけでは事態がさらに前進するとはまだ言えないだろう。ティラーソン氏の国務長官としての地位は不安定であり、近日中に辞職するとも、しないともいわれている。
そんな問題もあるが、北朝鮮は今回のティラーソン氏の発言を重く受け止めるべきである。北朝鮮が何らかの肯定的反応を示せれば、朝鮮半島、さらには東アジア全域におよぶ大惨事を回避するきっかけとなりうる。北朝鮮側では、核とミサイルの実験を控えることが考えられるが、積極的にティラーソン発言を受け止めていることを示すだけならば、他にも方法があろう。
米国としてもさらになすべきことがある。北朝鮮は猜疑的な見方をするので、さらなるサインを出すことが望ましい。韓国との合同演習を暫定的であってもよい、停止することなどもあるが、トランプ大統領自身が前向きの姿勢を示すことができれば事態は大きく変わってくる。あるいはそこへ至る前に、ティラーソン長官が李容浩外相と前提条件なく話し合うのが現実的な方策かもしれない。
米朝関係は1950年以来、あまりにもこじれ、複雑化しているだけに、今回の前提条件なしの話し合い提案は貴重である。緊張がかつてなく高まっている今日、双方が危険回避に向けさらなる一歩を踏み出すことを期待したい。
日本政府には、緊張激化と偶発戦争の危険しか見えてこない「圧力一本やり」と、戦争許容を含む「すべての選択肢支持」をやめてもらいたい。
前提条件なしの米朝対話
ティラーソン米国務長官は12月12日、シンクタンク「アトランティック・カウンシル(Atlantic Council)」の政策フォーラムで、「われわれは前提条件なしに北朝鮮と第1回会合を行う用意がある。会うだけ会って、話したければ天気の話でもして、気分が乗れば、会合のテーブルを四角いのにするか円いのにするか話せばいい」と発言した。これは評価すべき発言である。米国の立場は、公式な場では、対話を始めるには、北朝鮮が「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」を実行しなければならないというものであり、この方針は日本も共有している。
しかし、実際にはこの方針を維持したまま北朝鮮の非核化を実現できるとはだれも思わない状況になっていた。
その中で、ティラーソン長官はかねてより、北朝鮮に対して圧力をかける方針を維持しつつ、対話についても前向きの姿勢を示していたが、今回の発言のように、前提条件を付けずに話し合いに応じる姿勢を示したのは初めてであり、非常に注目される。ティラーソン長官は北朝鮮との関係において一歩前に踏み出したと言える。
当然、トランプ大統領の姿勢が問われる。同大統領は表面的には安倍首相と全く同じであり、「今、対話をすべきでない。あくまで圧力を強める必要がある」ということであるが、トランプ氏は対話について幅のある姿勢であり、一方で、圧力を強くすることだけを主張する安倍首相に同意しつつ、他方、文在寅大統領には、対話によって解決を図る可能性にも言及し、また習近平主席にも安倍首相とは異なる物言いをしていた(詳しくは『世界』2018年新年号「トランプ大統領のアジア歴訪と安倍外交」を参照されたい)。
ティラーソン長官が今回の発言を行うに際して、事前にトランプ大統領の了解を得ていたか不明であるが、トランプ氏と協議していなくてもトランプ氏の幅のある対応から判断すれば、了解してもらえると考えていた可能性がある。
ただし、今回の発言だけでは事態がさらに前進するとはまだ言えないだろう。ティラーソン氏の国務長官としての地位は不安定であり、近日中に辞職するとも、しないともいわれている。
そんな問題もあるが、北朝鮮は今回のティラーソン氏の発言を重く受け止めるべきである。北朝鮮が何らかの肯定的反応を示せれば、朝鮮半島、さらには東アジア全域におよぶ大惨事を回避するきっかけとなりうる。北朝鮮側では、核とミサイルの実験を控えることが考えられるが、積極的にティラーソン発言を受け止めていることを示すだけならば、他にも方法があろう。
米国としてもさらになすべきことがある。北朝鮮は猜疑的な見方をするので、さらなるサインを出すことが望ましい。韓国との合同演習を暫定的であってもよい、停止することなどもあるが、トランプ大統領自身が前向きの姿勢を示すことができれば事態は大きく変わってくる。あるいはそこへ至る前に、ティラーソン長官が李容浩外相と前提条件なく話し合うのが現実的な方策かもしれない。
米朝関係は1950年以来、あまりにもこじれ、複雑化しているだけに、今回の前提条件なしの話し合い提案は貴重である。緊張がかつてなく高まっている今日、双方が危険回避に向けさらなる一歩を踏み出すことを期待したい。
日本政府には、緊張激化と偶発戦争の危険しか見えてこない「圧力一本やり」と、戦争許容を含む「すべての選択肢支持」をやめてもらいたい。
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