オピニオン
2018.05.25
翌日、北朝鮮の金桂寛第1外務次官は、「委任に従って」、つまり金委員長の指示によるとしつつ談話を発表した。
世界中の多くが実現を望んでいた米朝首脳会談の突然の取り消しは衝撃的であるが、米朝両国が北朝鮮の非核化に向け対話を進めるという大きな方向は今後も変わらないと思われる。そう考える理由は、双方ともお互いの立場にしっかりと配慮しあい、努力を認めあい、かつ今後対話が再開されることを希望しあっているからである。
いくつかの脚注を加えておきたい。
第1に、トランプ大統領が書簡で非難していることは、金委員長というよりむしろ北朝鮮である。そして、金委員長個人に配慮する言及をしている。
金次官の談話も、会談取り消しの決定は遺憾だとしつつ、トランプ大統領の努力をたたえ、評価している。
つまり、会談取り消しという事態になりながらも、トランプ氏と金氏はお互いにたたえ合っており、エールの交換とも見える言及をしているのである。
第2に、承認しあっていない二つの国家の指導者が考えを開陳するなかで、個人的にはお互いにたたえつつ、側近を非難するというのは奇妙なことである。世界のどこかに、かつてそのようなことがあったか、寡聞にして知らない。批判されたのは、北朝鮮では崔善姫外務次官と労働新聞、米国ではペンス副大統領やボルトン補佐官などである。
第3に、トランプ氏と金氏は、これまで個人的と言っても過言でない強いリーダーシップで対話に向かってきたが、問題発言をした側近に限らず、補佐をする人たち全体が指導者に追い付いていないのではないか。どちらの国内にも調整の必要が残っているのは何ら不思議でない。
第4に、トランプ氏は、今回の書簡に先立って、金委員長が第2回目の訪中後態度が変わったと不満を漏らしていたが、額面通りとることはできない。ポンペオ国務長官は金委員長が訪中から帰国した翌日に会見し、その結果に満足し、また、3人の米人の釈放に大喜びした。つまり、金・ポンペオ会談では、習近平主席がトランプ氏の気に入らないことを吹き込んでいた形跡はなかったのだ。ポンペオ氏と金氏との会談は首脳会談のために最も重要な準備の場であり、金氏の心変わりが現れるとすれば、この場からであるはずだ。
では、トランプ氏がなぜ中国のことに言及したかであるが、トランプ氏は、金氏との会談の準備を進めつつも、中国の問題、とくに貿易問題などが頭にあり、中国をけん制しようとしたのではないか。
第5に、文在寅大統領は、これまで巧みな外交を展開してきたが、今回はメンツをつぶされ、損な役回りになった。文氏がトランプ氏に会ったのはこの書簡のわずか2日前であったが、トランプ氏から事前に聞かされていなかったと思う。
ともかく、トランプ大統領は、書簡を締めくくるに際し、金委員長に「電話してほしい」と言わんばかりの言及をしている。
一方、金次官の談話は「我々は、いつでも、いかなる方式であれ対座して問題を解決する用意があることを米国側に改めて明らかにする」と述べ、米側が先に動くことを待つ姿勢である。両者の間には若干の距離があるが、次の展開が、いかなる形で起こるか注目される。
米朝首脳会談の取り消し
トランプ大統領は5月24日付で北朝鮮の金正恩委員長にあて書簡を送り、6月12日に予定されている米朝首脳会談を取り消す考えを示した。翌日、北朝鮮の金桂寛第1外務次官は、「委任に従って」、つまり金委員長の指示によるとしつつ談話を発表した。
世界中の多くが実現を望んでいた米朝首脳会談の突然の取り消しは衝撃的であるが、米朝両国が北朝鮮の非核化に向け対話を進めるという大きな方向は今後も変わらないと思われる。そう考える理由は、双方ともお互いの立場にしっかりと配慮しあい、努力を認めあい、かつ今後対話が再開されることを希望しあっているからである。
いくつかの脚注を加えておきたい。
第1に、トランプ大統領が書簡で非難していることは、金委員長というよりむしろ北朝鮮である。そして、金委員長個人に配慮する言及をしている。
金次官の談話も、会談取り消しの決定は遺憾だとしつつ、トランプ大統領の努力をたたえ、評価している。
つまり、会談取り消しという事態になりながらも、トランプ氏と金氏はお互いにたたえ合っており、エールの交換とも見える言及をしているのである。
第2に、承認しあっていない二つの国家の指導者が考えを開陳するなかで、個人的にはお互いにたたえつつ、側近を非難するというのは奇妙なことである。世界のどこかに、かつてそのようなことがあったか、寡聞にして知らない。批判されたのは、北朝鮮では崔善姫外務次官と労働新聞、米国ではペンス副大統領やボルトン補佐官などである。
第3に、トランプ氏と金氏は、これまで個人的と言っても過言でない強いリーダーシップで対話に向かってきたが、問題発言をした側近に限らず、補佐をする人たち全体が指導者に追い付いていないのではないか。どちらの国内にも調整の必要が残っているのは何ら不思議でない。
第4に、トランプ氏は、今回の書簡に先立って、金委員長が第2回目の訪中後態度が変わったと不満を漏らしていたが、額面通りとることはできない。ポンペオ国務長官は金委員長が訪中から帰国した翌日に会見し、その結果に満足し、また、3人の米人の釈放に大喜びした。つまり、金・ポンペオ会談では、習近平主席がトランプ氏の気に入らないことを吹き込んでいた形跡はなかったのだ。ポンペオ氏と金氏との会談は首脳会談のために最も重要な準備の場であり、金氏の心変わりが現れるとすれば、この場からであるはずだ。
では、トランプ氏がなぜ中国のことに言及したかであるが、トランプ氏は、金氏との会談の準備を進めつつも、中国の問題、とくに貿易問題などが頭にあり、中国をけん制しようとしたのではないか。
第5に、文在寅大統領は、これまで巧みな外交を展開してきたが、今回はメンツをつぶされ、損な役回りになった。文氏がトランプ氏に会ったのはこの書簡のわずか2日前であったが、トランプ氏から事前に聞かされていなかったと思う。
ともかく、トランプ大統領は、書簡を締めくくるに際し、金委員長に「電話してほしい」と言わんばかりの言及をしている。
一方、金次官の談話は「我々は、いつでも、いかなる方式であれ対座して問題を解決する用意があることを米国側に改めて明らかにする」と述べ、米側が先に動くことを待つ姿勢である。両者の間には若干の距離があるが、次の展開が、いかなる形で起こるか注目される。
2018.05.18
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米朝首脳会談は開かれるか
THE PAGEに米朝首脳会談について寄稿しました。金桂冠発言、首脳会談への障害、ミサイルの扱い、化学・生物兵器の扱い、米国のイラン核合意からの離脱の影響、CVIDなどに触れています。こちらをクリック
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