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2018.07.09

米朝非核化高官協議

米朝の協議で何が話し合われ、詰めなければならないかについて、2回に分けてTHE PAGEに寄稿しました。これは第1回目です。
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2018.06.21

金正恩委員長はなぜ足しげく中国へ行くのか

金正恩委員長はトランプ大統領との会談の前、3月末と5月初めに訪中し、さらに会談から1週間後の6月19日にも訪中した。
 金委員長は2011年末に北朝鮮の指導者となって以来6年数か月間、一度も中国を訪問していなかった。中国側は訪中を求めていたと思われるが、金委員長はなかなか腰を上げようとしなかった。一方この間には、習近平主席がソウルを訪問するなど、北朝鮮として不愉快な出来事もあった。
 ところが、米国大統領との会談がセットされると、金委員長はがらりと態度を変え、訪中した。しかも3回立て続けであった。
 
 なぜ金委員長はそのように変わったのか。米国との非核化交渉に関して中国から支援を得たことに謝意を表明すること、今後のさらなる協力を要請すること、米国との交渉を有利に運ぶために中国との連携を強化すること、などの目的があったのであろう。

 なかには、中国の影響力が強いことを指摘する意見もある。金委員長は中国の言いなりになっていると言わんばかりのコメントもある。しかし、実態は逆であり、金委員長のイニシャチブによるところが大きいと思われる。

 金委員長としては様々な思いがあったものと推測されるが、朝鮮半島の戦争状態を終わらせることに関して、習主席に対し釈明をしたいとの気持ちがあったかもしれない。中国は朝鮮戦争に参加した当事国であり、中国抜きには戦争状態を終わらせることはできないが、4月末の南北首脳会談の板門店宣言には、中国の参加は不可欠と考えていないと誤解される恐れのある表現があったからである。

 しかし、金委員長にはもっと大きな理由があったと思われる。金委員長は、非核化した後、韓国や米国、さらには日本からの経済面での協力がはじまり、増大していくことが予想される中で、北朝鮮としての自主性を失ってはならない、中国のように独自の考えを維持しつつ経済発展していくべきだと考えたのではないか。
 つまり、北朝鮮が中国に急接近したのは、一種のアイデンティティ・クライシスが強くなってきたからではないか。北朝鮮はよく「自主性」を口にするが、それはアイデンティティ維持への願望である。

 朝鮮半島の平和が実現すれば、次は半島の統一問題が浮上してくる。北朝鮮として、韓国や米国からの経済支援を受けつつ、アイデンティティを失わないで韓国と交渉することが必要となる。そうでなければ、北朝鮮は経済力がはるかに大きい韓国に飲み込まれてしまう。

 金委員長は訪中のたびに経済発展の参考となる施設を訪れている。今回も農業研究施設を視察し、栽培管理の最新技術を見学した。農業研究施設は5月の訪中視察団も訪れた場所であり、北朝鮮は中国の農業技術に強い関心を示している。

 北朝鮮が、経済発展のために、一方では韓米日の協力を期待しつつ、他方で中国からの支援をも重視しているのはある意味当然だが、北朝鮮としてのアイデンティティ維持への強い思いは、今後、様々な場面で表面化してくると思われる。

2018.06.15

トランプ・金会談は重要なことに合意した

 6月12日、シンガポールで行われた米朝首脳会談については、具体性に欠けるとか、金正恩委員長に譲歩しすぎだとの評価が多いが、それだけでは一面的な見方になる。共同声明から見て、次の4点は特に注目すべきである。

 第1に、米朝両国間の長く続いた激しい敵対状況を終わらせ、新しい関係を樹立していくために首脳同士が直接会談したことの意義は大きい。両者の間では一定の信頼関係も生まれたようだ。トランプ氏は、金正恩氏が「1万人に1人の優れた人物」とまで持ち上げた。

 第2に、米朝両国は、両国民の平和と繁栄への願望に沿って新しい関係を築いていくことに合意した(共同声明第1項)。「両国民の平和と繁栄への願望に沿って」という文言を入れたことは極めて重要だ。民主的に米朝関係を構築していくことを意味する文言だからだ。人権の問題なども含まれてくる。北朝鮮のこれまでの姿勢からして、文言だけでもこのようなことに合意するのは大きな決断であっただろう。

 第3に、朝鮮半島の統一は本来南北両朝鮮の問題だが、これに米国は協力することとなった(第2項)。極端な場合、かりに南北いずれかが武力で朝鮮半島の統一を試みる場合、米国が関与する根拠になりうる。
 この合意は米朝限りのもので、韓国はこの合意に入っていないが、そのことは問題にならないだろう。

 第4に、「非核化」については、共同声明の言及は確かに具体性に欠けるが、今後米朝両国の事務方で詰めていくことになっている。会談後の共同声明が60点だとすれば、今後の協議次第で90点にも、また30点にもなりうる。現在の時点では確定的に評価することはできない。

 共同声明に記載されていること以外にも注目すべき点がある。

 朝鮮半島の緊張はすでにおおはばに緩和された。この点についてはどこにも異論はないだろう。

 トランプ大統領が記者会見で、演習の中止や在韓米軍の撤退の可能性に言及したことは韓国や日本で強い関心を引き起こした。たしかに、トランプ氏の発言は時期尚早であったと思うが、トランプ氏は、米朝関係も南北関係も平和に向かって進み始めたからには現実の軍事情勢にも当然影響してくると考え、そのような発言になった可能性がある。
トランプ氏は取引にたけている、政治的効果を過度に考慮する、米国の財政負担軽減をあまりにも重視するなどの問題があるが、共同声明の第1及び第2項の重要性を見過ごすことはできない。
 
 「非核化」に関して北朝鮮の中央通信やポンペオ国務長官が、対外的に解説を加えているが、必ずしも正確でない。
 例えば、ポンペオ長官は、「米国はCVIDのない合意はしない」との趣旨を述べているが、CVIDは必要条件だが、十分条件ではない。必要なのはCVIDの具体的内容である。
 同長官は、また、「大規模な軍縮を2年半で達成できると希望する」とソウルで述べている。この言及は非核化の検討が進捗したことを物語っており、単に「完全な非核化」というより内容があるとみられる。ただし、2年半で十分か、もっと短くできるか、あるいは長くなるかは明確でない。その程度のことは斟酌しながら聞く必要がある。

 一方、北朝鮮からは、「段階的に核を廃棄することが合意された」との解説が聞こえてくる。しかし、このようなことは共同声明に盛り込まれていないし、トランプ大統領の説明にもなかった。真相はやぶの中だが、北朝鮮側の報道が正しいとも断定できない。最近、金委員長はじめ北朝鮮の指導者の行動や説明と北朝鮮の報道がずれることが起きている。なぜそのようになるのか興味をそそられる問題だが、今回の「段階」報道もはたして正確か慎重に見極める必要がある。

 首脳会談はトランプ大統領と金委員長のつよいリーダシップで実現しただけに、周囲がついていけていないこともありそうだ。

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