平和外交研究所

中国

2020.10.24

ますます強気の中国外交

 中国の強気の外交姿勢が目立っている。米国と覇権争いをしているといっても過言でない。もっとも中国と米国はどちらが先に手を出したかははっきりしない。この状況に至った過程は複雑であり、簡単には決められないが、中国の姿勢には危うさを覚える。

〇米中双方はコロナ禍をめぐってさる1月末以来、激しく非難しあってきた。中国はコロナ禍への対処に成功し、新規感染は3月初め以来ゼロとなっている。また感染源問題についてはWHOのもとで各国が協力して調査することになったのだが、米国はそのような経緯を無視し、コロナウイルスの感染源は武漢だとし、中国の対応を一方的に非難し続けてきた。去る9月末の安保理テレビ首脳会議の際にも、中国は各国が協調すべきだと強調したが、米国は激しく中国を非難した。すると中国側では感情的な反発が起こった。コロナ禍は米中両国が争う舞台になった。

〇中国には、米国の大統領選挙結果を待つという姿勢は見られない。米国内の選挙キャンペーンでは、対中国政策が主要な争点の一つとなっているが、中国は大統領選の帰趨にはかまわず米国への反発を強めている。そんなことにかまっておられないと考えるほど切迫している問題なのかもしれない。

〇コロナ禍以外にも問題がある。中国は、安全保障を理由に輸出規制を厳しくする「輸出管理法」を制定しようとしており、すでに草案ができている。予定通りに運べば、同法は12月1日に施行される。
これによれば、中国から特定の材料や技術を輸出する際、事前に輸出先や使い道を政府へ申請し、許可を得なければならなくなる。規制の対象には中国国内にある外資企業が含まれるほか、中国国外であっても法に違反した場合には組織や個人の法的責任が追及される。
 この規制は、米国が華為技術(ファーウェイ)に対する、米国の技術に関連する半導体製品の供給を全面的に禁止するなどの措置を取ったことに対抗するものである。規制内容もよく似ている。日本の企業は米中双方の規制の影響を受けることになる。

〇香港に関して、中国は6月、「香港国家安全維持法」を制定し、同地での民主化活動を強権的に抑え込んだ。香港の現状を返還から50年間変えないとする国際約束を反故にし、各国の懸念や批判を振り切り、強引に制定したものである。この措置によって、中国は国際法や国際約束を尊重する姿勢が薄弱であることをあらためて示す結果となった。米国は対抗措置として、防衛装備品や軍事転用可能な先端技術の対香港輸出を規制した。米議会上院も「香港国家安全維持法」に関与した中国当局者らに制裁を科す法案を可決した。

〇中国は新疆自治区や内蒙古自治区においても少数民族の言語使用を抑制するなど中国化を進めている。米国は新疆問題に強い関心を持ち、新疆の綿を使ったアパレル製品は「強制労働で生産された」として一部の輸入を禁止している。

〇台湾では2020年1月、蔡英文総統が再選されて以来、中国は台湾への働きかけを強化してきた。台湾の統一は習近平政権が2012年に成立して以来、まったくと言ってよいほど進展しなかった問題である。現在も台湾と外交関係を維持している国々を台湾から引きはがし、国際機関では台湾を締め出している。

 しかし、蔡英文総統はひるむことなく、中国が望めば対話に応じるなど対等の姿勢を維持している。また、台湾はコロナ禍への対応において国際社会から称賛され、一部の国からは台湾との交流を深めていこうとする動きが出てきた。これは蔡英文政権にとって力強い後押しとなった。

 5月のWHO総会にはコロナ対策の関係もあり、西側諸国は台湾の参加を支持する表明を行った。結果は変わらず、台湾の参加は認められなかったが、台湾に声援を送ることはできた。一方、中国の強権的な対応には批判が高まった。

 米国はコロナ禍問題を契機に台湾との公式の交流をレベルアップし、アザール厚生長官やキース・クラック国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)が訪台し、蔡英文総統と会談した。米閣僚の台湾訪問は6年ぶりで、1979年の台湾断交以来、最高位の閣僚の訪問であった。クラック次官は国務省として最高位の訪台であった。
米国は台湾に対し武器を供与している。最近も大型誘導魚雷(5月)、M1A2エイブラムス戦車(7月)、無人機MQ―9B「リーパー」や対艦ミサイルなど7種類の兵器システムを売却する予定だと報道された。

 米国の艦船による台湾海峡通過は定期的に行われており、2020年には3月、6月、10月に行われた。

 中国はこのような米国の動きに毎回激しく反発した。中国の軍機は、台湾との境界線を越える飛行を毎月のように重ねている。6月には、台湾への上陸作戦が始まった場合、主力部隊となる第73集団軍の水陸両用戦車が、海上から実弾演習や上陸訓練を実施した。9月にも台湾海峡付近で実践演習を行った。

〇南シナ海について、ベトナム政府は4月3日、南シナ海のパラセル(西沙)諸島海域で2日、中国海警局の公船の体当たりを受けたベトナム漁船が沈没したと発表した。
 アメリカ国防総省は8月27日、声明を発表し「中国が南シナ海の軍事化と近隣諸国への干渉をやめることを期待してことし7月に警告を発して状況を見守ってきたが、中国は弾道ミサイルを発射し、軍事活動を活発化させる道を選んだ」と非難した。

 一方、中国軍の報道官も同日、「アメリカ軍の駆逐艦『マスティン』が、西沙諸島の中国の領海に無断で侵入し、『南部戦区』の海軍と空軍が警告を発して追い払った」との談話を発表した。

〇尖閣諸島についての状況は、2012年夏の国有化以来毎月5~10隻(延べ)の中国艦船が日本の領海に侵入するというパターンが続いている。一時的に頻度が多くなったりすることがあり、さる10月15日には、中国海警局の船2隻が日本の領海に侵入し、日本の漁船に接近する動きを見せた。

〇豪州は中国と長らく貿易を柱に良好な関係が続けてきたが、対中攻勢を強める米国と足並みをそろえるようになり、中国は反発した。対立は経済分野から人権や報道の自由、安全保障にも広がり、両国関係は「過去最悪」と言われる状態に陥った。中国が「香港国家安全維持法」を施行すると、豪州は香港との犯罪人引き渡し条約を停止した。

〇チェコの上院議長は8月、台湾を訪問。9月には、ソマリランドが台北市に代表機関の事務所を開いた。中国がこれまで経済協力を餌に引き付けてきた開発途上国の中に、一部であるが、疑問を呈したり、中国とは一線を画したりする行動が出てきたのである。

 中国は、台湾との関係を強化しようとする動きに対して、強く反発し、脅しともとれる非難を浴びせた。王毅外相はチェコに「深刻な代償を払わせる」などと述べて、対抗措置を示唆した。これに対し、ドイツのマース外相は1日、王外相との共同会見の場で、「われわれは国際的なパートナーに敬意をもって接する。相手にも同じことを期待する。脅迫はふさわしくない」といさめた。また、中国との貿易取引を一方的に取り消すのは中国の常とう手段であり、豪州に対しては牛肉と大麦の輸入に制限をかけ(5月)、豪州産ワインにダンピング(不当廉売)の疑いがあるとして調査を始めた(8月)。さらに、石炭輸入にも支障が生じているという。露骨な制裁であり、また、脅迫には各国から反発を受けている。このような中国の行動が中国の利益になるか、疑問である。
 
 〇10月末、中国は国防法の改正案を作成した。1か月後に施行されることになっている。問題は国家動員を発動する要件として、従来の「中華人民共和国の主権、統一、領土保全、安全が脅かされた時」に「発展利益」を追加した。これでは「中国の利益増大が脅かされた場合」国家動員をかけられることになる。つまり、全国民をそのために強制的に駆り出すことが可能になるのである。そんなことで国家動員をかけられるのは、近隣国としてたまらない。このような改正は、自己の利益を擁護するためには、国際慣習に違背してでもあらゆる手段を取ることを意味しており、中国はますます国際性を失っていくのではないかと危惧される。

〇総括
 中国の強硬な外交姿勢は、自信を深めた結果と見るべきか、それとも思い通りにはいかないのでフラストレーションが募ったためとみるべきか。現段階ではどちらともいえない。即断は禁物だが、これまでは経済力、資金力を活用して各国を味方につけつつ、場合によっては「中国にたてつく国には代償を払わせる」といわんばかりの強圧的な方法で、影響力を拡大してきたが、今後はそのような方法は困難になるのではないかと思われる。

 朝鮮戦争(1950~53年)に中国が参戦して70年となるのを前にした10月23日、北京の人民大会堂で記念大会が開かれ、習近平(シーチンピン)国家主席は演説で、「いかに国家が強大であっても、世界の潮流に逆らえば、必ずさんざんな目に遭う」、「中国人民はやっかいごとを起こさないが、恐れない」、「いかに発展を遂げようと、我々は強権に反抗する気骨を磨かなくてはならない」などと述べた。習主席は米国に照準を当てていたのであろうが、演説の半分は中国自身に向けられるべきだったのではないか。
2020.09.26

菅首相と中韓首脳との電話会談

 菅義偉首相は、韓国の文在寅大統領および中国の習近平国家主席とそれぞれ電話会談を行った。菅氏の首相就任後初の、儀礼的は性格が強い会談であり、1回の電話会談で両国との関係が大きく変化することはあり得ないが、今後の関係にどのようにつながっていきそうか、考えてみた。

 日本から会談を求めるか、相手から先に会談を求めてくるか。本来どちらでも構わないことだが、時と場合によっては微妙な外交的意味合いがある。だから各メディアは、韓国からは会談を求めて来、中国については日本から求めたことを報道している。ただし、具体的な状況が分からないので、それ以上のことについては推測になるが、韓国についても菅新首相から会談を求めたほうがよかったのではないか。

 韓国との会談においては、韓国側に要求したことが特に目立っていた。日本政府の説明ぶりのせいかもしれないが、菅首相は文大統領に対し、「日韓関係をこのまま放置してはならない」とか、「今後とも韓国に適切な対応を強く求めていきたい」とか、「日韓関係を健全な関係に戻していくきっかけを韓国側がつくるよう」求めている。一つ一つの発言内容に問題があるわけではないが、「上からの目線」的な姿勢が目立っている。

 日本政府の中には、日韓関係が悪化したのは韓国側の責任だから、菅首相がそのような姿勢で韓国側に行動を促すのは当然だという考えがあるのだろうか。特に徴用工問題について、韓国側が日韓基本条約と請求権協定、それに国際法に違反した行動を取っているので日本が高圧的姿勢を取るのは当然だと考えているならば問題である。条約と国際法に違反していることを指摘し、違反状態をなくすよう求めるのは当然だが、上からの目線で要求するのは建設的でない。日本としては、相手国の行動いかんにかかわらず、つねに正しい態度で臨むべきである。

 一方、文在寅大統領は「両国政府とすべての当事者が受け入れ可能な、最適な解決策を一緒に探したい」とする従来の立場を強調したという。今後、菅首相は機会があるごとに、「すべての当事者が受け入れ可能な解決策」というだけでは問題は解決しないことをあらゆる方法で説得する必要がある。そのためにも主権国家どうしの関係は尊重するとの姿勢を示していくべきである。

 中国の習近平主席との会談では、習氏の国賓訪日について「特にやりとりはなかった」と菅首相は記者団に説明した。日本側では習氏の訪日に焦点を当てがちだが、今後日本としては戦略的に対中外交を進めていく必要がある。そのなかには、中国は国際的に真の友好国がいないこと、台湾問題、香港問題、南シナ海および東シナ海など日中両国の立場が対立しがちな問題があることなどが含まれている。習氏の訪日はその中の一案件に過ぎない。

 いずれにしても、対中外交は日米関係と両立するものでなければならない。米国はすでに中国共産党政権とは対決するも辞さないとの方針で臨んでいる。菅政権としては、米国の大統領選挙後にあらためて日本外交の基本を再構築する必要がある。
2020.09.17

中国外交に困難な状況が増えている?

 中国政府は9月8日、新型コロナウイルスとの闘いで貢献した科学者らを表彰した。その際、習近平主席は「完全勝利までにはさらなる努力が必要だが、この8カ月間、我々は努力して重大な戦略的成果を得た。人類と疾病との闘いの歴史における英雄的壮挙を成し遂げた。」と成果を強調した。中国では、新たな感染の発生は3月10日頃から1日当たり2桁、あるいは1桁に低下しており、9月中旬の感染者総数はその頃からあまり増えておらず、8万5千人強である。毎日3桁で感染が増えている日本はすでに7万6千人をこえており、このままで推移すると10月中には日本の感染者のほうが中国を上回るという恐ろしい事態になる。

 しかし対外面では、中国をめぐる状況は全般的には悪化しつつある。
 
 台湾の統一問題は、習近平政権が2012年に成立して以来、もっとも進展しなかったことである。昨年も経済協力をはじめあらゆる手段を使って、台湾の孤立化を図った。2016年に蔡英文政権が発足して以降、7カ国を台湾との外交関係断絶に追い込んでいる。
 
 にもかかわらず、台湾の統一問題は進展しなかった。去る8月、台湾では高雄市の市長選挙が行われ、与党民進党の陳其邁候補が勝利を収めた。2年前の市長選では国民党の韓国瑜氏に完敗した陳氏であるが、今回は韓氏の支援を受けた国民党の李眉蓁候補の3倍近い票を得て大勝した。
 
 このような結果となったのは、香港において国際約束を無視して民主化デモを強制的に排除するとともに、「国家安全維持法」を強引に成立させ、さらに今秋に予定されていた立法会(香港の議会)の選挙を恣意的に延期するなどしたためであろう。習近平政権としては、香港の扱いを誤ると中国全土で民主化を求める行動が強くなることを恐れているので、香港が国際的に問題になるたびに、「中国の主権にかかわることであり、他国は介入すべきでない」と力みかえるのである。
 
 そんな中、チェコのビストルチル上院議長一行が8月末、台湾を訪問した。ビストルチル氏は蔡英文総統と会談し、台湾の立法院で「私は台湾人です」と、1963年に米国のケネディ大統領が冷戦下の西ベルリンを訪れて「私はベルリン市民だ」と語ったことにならい、中国から圧力を受ける台湾への連帯を表明した。チェコの上院議長が訪台したのは、中国が約束通り投資事業を進めないことなどが理由であり、チェコでは中国への失望が拡大しているという。
 
 チェコの上院議長の訪台は習近平政権にとってきわめて不愉快な行動だったであろう。中国の王毅外相は8月31日、訪問先のドイツから「14億人の人民を敵に回すものだ。必ず大きな代価を払わせる」との談話を発表した。これは国際社会の常識として、恫喝に近いものである。ドイツのマース外相は1日、王毅外相との共同会見で、ビストルチル氏らの訪台を擁護する立場を表明したうえ、「脅しは適当ではない」と述べた。あきらかに王毅外相をたしなめたのであった。
 
 ドイツはEUの中にあって中国に強い関心を示し、メルケル首相は十数回訪中している。経済的にもドイツ企業は中国で非常に活発に行動している。自動車製造業においては日本よりも早く中国に進出するなど中国における外資系企業の進出のモデルとなった経緯もある。
 しかし、香港問題などが原因で、ドイツはこれまでのような友好的姿勢を継続しにくくなっているのである。

 台湾問題では、ほかにも習近平政権を刺激するあらたな状況が生まれつつある。時期的にはチェコ上院議長の訪台より以前の8月10日、米国のアザール厚生長官が訪台し、蔡英文総統と会談した。これも習近平政権にとってはきわめて不愉快なことであっただろう。

 9月1日には、ソロモン諸島で、人口最多のマライタ州が「中央政府が人々の声を聞かずに中国と国交を結んだ」として、独立の是非を問う住民投票を今月実施すると発表した。

 9日には、ソマリランドが台湾の台北市に代表機関の事務所を開いた。中国がこれまで経済協力を餌に引き付けてきた開発途上国の中に、一部であるが、疑問を呈したり、中国とは一線を画したりする行動が出てきたのである。
 
 米国からは7月末、ポンペオ国務長官に中国共産党政権を真っ向から批判され、9月15日にはファーウェイに対する規制が全面的に実施されることになり、EUからも批判的な見方が強まっている。そんな中、中国はロシアとの関係強化により、窮状の打開を図ったとみられる。

 9月11日、中ロ両国はモスクワで共同声明を発表した。この声明は形式的には、世界大戦終結75周年記念であり、5年前と異なり、今年は中ロの国境であるアムール川で合同の戦勝記念式典を行っただけであった。そのためか、この共同声明は日本でほとんど注目されなかった。だが、その内容を見ると、中国が置かれている困難な状況がにじみ出ていた。

 両国は人権を国際的な問題とすることに反対した。両国とも人権の擁護が十分でなく、ひどい状況もあると批判されているからである。中国が香港の問題について国際社会の反応を強く警戒していることは周知である。

 さらに両国は、インターネットに関する規則を国連主導で定めるとの考えを支持した。米国などの主導でなく、中国が影響力を行使しやすい開発途上国が多数を占める国連で規則を作成するのが中国にとって有利なのである。

 また、共同声明は、「グローバルなデータの安全」にも言及した。しかし、ロシアは中国による提案を「重視する」と述べるにとどまった。「合意」したのでも、「支持」したのでもなかったのである。
 中国では「グローバルなデータの安全の保護」に関する法律案が作成されており、現在関係者からコメントを集めている。ロシアが重視したのはこの法律のことであり、中国はこの安全を国際的に広げたいが、ロシアはまだ自信が持てないのであろう。

 この法律は慎重に分析しなければならないが、たとえば、中国企業が保持している「データ」が中国の安全とかかわりがありうるとの認識に立っており、中国の安全保障のためには企業のデータが保護されなければならないという趣旨にも読める条文案が盛り込まれている(例えば第2条)。つまり、中国の企業が米国で上場する場合、情報の開示が求められるが、中国の安全保障に差しさわりがある場合は拒否できるようにするのが法律の主旨ではないか。

 中国が「データの安全を確保する」という構想を国際的に広めようとしているのは、中国の安全のためにもファーウェイなど中国企業を保護しなければならないという狙いからでないかと思われる。

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