平和外交研究所

中国

2013.11.28

習近平の歌舞団取り締まり

中国共産党三中全会での経済改革に関する決定ほど広く注目されてはいないが、習近平政権は軍についても改革を行なおうとしている。
中国には7つの軍区(瀋陽、北京、済南、南京、広州、蘭州、成都)が置かれており、地勢的な理由によると同時に、抗日戦争以来の歴史的経緯があり、軍区内では各種の軍を統一的に指揮する体制になっているが、7つの軍区間では、台湾における有事の際に備えた軍区をまたがる支援・協力態勢は例外として、協力体制が弱かった。
今回の三中全会決定では、連合作戦指揮を強化する方針が打ち出された。まだ正式の決定ではないが、7つの軍区を将来5つの「戦略区」に編成し直すことも考えられているそうである。
その背景には、従来陸軍が人民解放軍の中心であったが、環境が変化し、海空軍および第二砲兵部隊(ミサイル部隊)の重要性が高まっているという事情があり、今後の軍制改革ではこれまでの陸軍中心の体制、たとえば、人民解放軍の中枢である総参謀部、総政治部(党の関係)、総後勤部(後方)および総装備部は陸軍に置かれていたのを、他の軍種の地位向上に見合った形にあらためられる。
以上のような軍制改革は外から見ていても比較的理解しやすいことであるが、軍制改革の一環として非戦闘員の削減方針が謳われており、そのために「文工団」の整理が課題であると言われている。
「文工団」とは歌舞団であり、人民解放軍の内部に置かれている。かなり以前から人民解放軍兵士を慰問するために活動してきたが、それは表の姿で、裏では高級軍人の愛人になったり、特別の地位を利用して商売したりしてきたらしい。毛沢東にも文工団員の愛人がいたと侍医が暴露したのは有名な話である。このようなことから、心ある人は眉をひそめて見ていたが、長年続いてきた悪習はなかなか治らず、最近も、海軍のナンバー2が複数の文工団員を愛人にしていたのが暴露されるスキャンダルが起こった。今や、「文工団」には「悪名高い」という形容詞がつくようになっている。
「文工団」への厳しい取り組みは、習近平政権がハエ(小物)だけでなく虎(大物)も摘発するなど腐敗退治に熱心であることが背景にあるのはもちろんであろう。

2013.11.27

「東海防空識別圏」を設置した理由

中国による「東海防空識別区」の設置は、中国内部は別として、世界中で総スカンを食らっている。日本の6大新聞は、その主義主張が異なることは周知であるが、本件に関しては極めて例外的に、報道ぶりも論評もほぼ同じで、口をそろえて中国を非難している。また、日本政府の対応は、子細に確かめたわけではないが、全国民によって強く支持されているようである。まだこの問題に関して世論調査は行われていないが、日本政府の対応を支持する人の割合はきわめて高いだろう。
中国はなぜこのような挙に出たのか。もちろん尖閣諸島についての主張を実現するためであるが、それだけでは説明にならない。中国としても、目標達成のためにどのような手段を取ってもよいのでないこと、また今回の措置が中国に対する反発を招き、ひいては中国のイメージが悪くなることは当然承知していたはずである。
話は飛ぶが、中国が世界の世論に敏感に反応した事例が、今回の措置とほぼ相前後して起こっていた。台風で大きな被害を受けたフィリピンに対する援助である。当初、中国政府は中国赤十字会(紅十字会)とともにそれぞれ10万ドルの支援を発表したところ、それは世界第2の経済大国としてあまりに少なすぎると各国のメディアから批判された。米国は2千万ドル、日本は1千万ドルである。そこで中国政府は150万ドルの追加支援を行なった。世界の世論が中国を動かしたのである。
今回、フィリピン支援の時と違って、中国がイメージの悪化を顧みなかったのはいかなる理由によるか。一つの説明は、フィリピンに対する支援で問われたのはけち臭いかどうかということであったので、イメージを損なわないように努力できたが、防空識別圏は国防という主権にかかわる問題なのでイメージなど吹っ飛んでしまったということである。主権を理由に行動を正当化することはよく行われるし、分かりやすいかもしれないが、中国は国防にかかわる問題でもイメージの維持には非常に気を使っている。核兵器をできるだけ使用しない方針であるという説明などは、各国から宣伝に過ぎないと見られがちであるが、平和を愛好する国家であるという印象を植え付けようとしているのは明らかである。
もう一つの可能性は、これまで外交部が中心となって対応してきた尖閣諸島問題について、軍としての意見をこれまで以上に前面に押し出し、おそらく外交部の意見を押し切って今回の措置に踏み切ったということである。その背景には、中国の無人機が尖閣諸島海域に侵入すれば日本は撃墜も辞さないと言っていると中国内で伝えられ、軍がかなり刺激されていたという事情がある。菅官房長官が記者会見で述べたことは、「わが国の領土、領海、領空を守る観点から厳正な警戒態勢を敷いていきたい」ということであったが、中国では単純化されて「撃墜すると言った」というように伝えられ、中国軍は反発していた。そのように単純化された報道は中国の問題であり、日本の責任ではないが、ともかくそのようになっていたわけである。
中国政府が開いた10月末の外交関係会議において対日関係の改善が話題になったと伝えられている。また、尖閣諸島海域では侵入してくる船舶が減少していたようである。中国軍が政府、とくに外交部のそのような動向に不満であった可能性は否定できない。

2013.11.26

中国の東海防空識別区に関する中立的新聞の報道

11月23日に中国が発表した「東海防空識別区」(注 東海は東シナ海のこと)について日米両国などが強く反発し、その撤回を求めていることに関し、中国のメディアは中国政府および国防部の発表を中心にその正当性を主張する趣旨の報道や論評を掲げている。これはいつものことであるが、香港の明報紙は、台湾中央研究院近代史研究所の林泉忠副研究員による次の論評を掲載した。微妙な言い回しであるが、中国の行動に批判的であると見られる可能性がある内容であり、台湾の研究者の論評としてはなんらめずらしくないが、明報は、中国政府とつかず離れずの関係を維持しながらしばしば中国寄りの報道を行なうことで知られており、このような論評を掲載したことは興味深い。

「中国国防部が発表した東海防空識別区の設置は釣魚台(注 尖閣諸島のこと)の上空をそのなかに含んでおり、日本の防空識別圏と重複していることから日本の抗議を惹起し、また、台湾国防部も遺憾であるとし、さらに、米国は中国のこの行為は東海の緊張を高める恐れがあると非難した。
釣魚台海域での中日両政府の船舶による衝突の危機がまだ解消されていない状況の下で、中国が防空識別区を新設した。今後東海での軍事衝突が起こる可能性についてどのように解釈すべきか。(中略)
この識別区において中国側が言うように、防御のため中国の武装力が緊急措置を取れば、東海において中日双方の武力が接触し火が散る(「擦槍走火」)の危険が高まる。
現在、釣魚台の上空は基本的に日本がコントロールしている。中国の軍機はその空域に侵入したことが一回あった。これまでは、中国機がその付近に近づくたびに日本の航空自衛隊機がスクランブル発進し、阻止していた。
中日の軍事衝突が起こる可能性は簡単に消し去ることができないが、そのこと以外に、中米が軍事衝突するのをいかに避けるかということも一大課題である。過去数十年来、米国の偵察機は常態的に東海を飛行している。今後、米軍機がこの空域に進入すると中国側から識別を求められ、双方の間で相互に行動を抑制することについてしっかりとした合意がなければ、かつて起こったEP-3機のような事件が再発する可能性がある。」
EP-3機事件とは、2001年、海南島付近で米国の偵察機EP-3機に中国の戦闘機が体当たりした事件である。

明報の他、海外に拠点があり、中国にもよく通じている多維新聞の11月25日付報道も興味深い。次のように述べている
「中国が東海防空識別区を発表したのに対し、日本は抗議し、米国国防部は中国の一方的な行動はこの地域の現状の破壊を企てるものであると強い言葉で非難した。
(この後、中国が強く米日に反撃して抗議したことを紹介しているが、公知のことなので省略)
23日、中国国防部のスポークスマンはこの識別区に関する各種の質問に詳しく答えるなかで、2機の偵察機がすでに空中警邏任務についていると述べていた。このような中国の対応を見ると、これまでの外交部主導の米日批判とは異なり、解放軍が徐々に前面に出てきて、米日に反撃する主導的地位を占めつつあるようである。」

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