平和外交研究所

中国

2013.12.01

中国によるスクランブル発進の発表

中国は新設した「東海防空識別区」に侵入してきた日本の自衛隊機と米軍機にスクランブル発進をかけたと発表したが、小野寺防衛相は11月30日、「中国機が以前と変わった飛行をしたとは認識していない」という趣旨のことを述べている。これだけでは少々わかりにくいが、「日本と米国の飛行機はこれまで通りの飛行を行なっている。これに対して中国機がスクランブル発進したのであれば、すぐ分かるが、そういうことはない。中国側の発表は事実でない」ということを言っているのであろう。
中国はそもそもなぜスクランブル発進の発表をしたのか。おそらく、新たに設置した「東海防空識別区」は単なる恰好だけでなく実体を伴うものであり、中国軍は必要な行動をとっていることを中国の内外、とくに一般の世論に対してアピールしようとしたのであろう。この発表を受けて、中国の新聞には今回の措置を支持し、日本に敵対的な感情を見せる論調が飛び交っている。
しかし、この発表は事実でないことが日本側によって暴露された。尖閣諸島付近の空域に今後中国の空軍機が侵入してくることはないか、現在の時点で断定することは早すぎるが、今回の中国側の発表は、いわゆる「東海防空識別区」において一種バーチャルな状況を描き出し、戦闘機がゲームのように雄々しく行動している姿を国民に対して示そうとした可能性がある。それはバーチャルな世界なので、日米などの航空機と直接衝突することにはならない。それは別問題なのである。
実は、尖閣諸島付近の海域においては以前からそのような傾向が現れており、中国側は、「中国の領海に侵入してくる日本の漁船を追い払った」という趣旨の報道を何回もしていた。中国が尖閣諸島を実効支配しているというバーチャル世界の創造である。日本人からは想像さえ困難なことであろう。
このようなことができるのは中国政府が言論を厳しくコントロールしているからであり、習近平政権は言論統制をさらに強めている。日本にも各種の偽装工作があるが、中国ではそれが政府の指示の下に行われているのである。
昨秋、中国は日米の艦隊が尖閣諸島に近い海域で合同演習を行なったと発表したが、その際に掲載した映像は他の海域での演習の映像を流用したものであった(『朝日新聞』12月1日)。今回新華社が報道しているのは、スクランブル発進の対象となった機種名と写真であるが、その写真は、左に日本から飛び立ったF-15、右にスクランブル発進したとされる殲11戦闘機の写真を並べただけのものである。かりに中国が今後、日中双方の航空機が接近した状況の写真を公表しても、子細に真贋を検討しなければならない。
日本では、今回の中国側の発表を「情報戦」と表現しており、それは間違いでないが、さらに「バーチャルな世界を作り出している」面に注目すべきである。

2013.11.29

琉球諸島をいらないと言った蒋介石

11月28日付の『多維新聞』(海外に本拠地がある中国語新聞。中国に詳しいが台湾でも引用される)が、今から8年以上も前の2005年7月22日に『環球時報』(人民日報の傘下にあるがより激しい論調で知られている)が掲載した「第二次大戦中のカイロ会議で蒋介石が琉球諸島を2回断ったことが尖閣諸島に関する紛争の種であった」と題する記事を紹介する記事を掲載した。なぜ多維新聞はそのようなことをしたのか。。
カイロ会議は1943年、ローズベルト米大統領、チャーチル英首相および中国からは蒋介石総統が出席し、第二次大戦終結後、日本から台湾や朝鮮半島などを取り上げることを話しあった会議であり、ポツダム宣言を経て、サンフランシスコ平和条約で法的に決着する領土問題解決の第1歩であった。
多維新聞の記事はカイロ会議をおおむね客観的に説明しており、そのなかには次のような言及がある。
「不可解なのは、蒋介石が同会議において2回にわたりローズベルト米大統領の、日本により武力で奪われた琉球諸島を回復してあげるという好意を断ったことである。この結果、日本は大助かりとなり、米国は大きな利益を獲得し、中国は尖閣諸島に関する紛争において不利な立場に置かれた(処于下風的局面)」
「蒋介石はローズベルトと4回会談した。11月23日夜、(中略)ローズベルトは、「日本は不正な手段で琉球諸島を奪ったのであり、これを日本からはく奪すべきである。琉球は地理的に貴国(注 台湾のこと)に近接しており、歴史的にも貴国と緊密な関係がある。貴国が琉球諸島を望むなら貴国の管理に委ねても与えてもよい(可以交給貴国管理)」と述べた。これは突然の話であり、蒋介石は全く予想しておらず、何と答えてよいか分からなかった。長い間黙っていたが、最後に「これらの諸島は中米両国が占領し、その後国際的信託により中米両国が管理するのがよいと思う」と述べたので、ローズベルトはそれ以上何もいわなかった」。
多維新聞は、25日にも、ローズベルトが同じ話をしたことを紹介しており、「ローズベルトは蒋介石が沈黙してしまった(注 この時も23日と同様沈黙したらしい)ので、よく聞こえなかったのかと思い、「貴国は琉球を欲しいか(要不要)。もし欲しいのであれば、戦争終了後貴国にあげる(就将琉球群岛交给贵国)」と言ったが、蒋介石は何回もためらいながら、最後に「琉球問題は複雑であり、私はやはり中米の共同管理がよいと思う」と述べ、ローズベルトは蒋介石がほんとうに琉球諸島を欲していないことが分かった」と解説している。
さらに多維新聞は、蒋介石が琉球諸島を要らないと言ったのは、東北地方(注 満州)、台湾および澎湖諸島を取り戻すことを最重要目標としていたからであること、また、中国が琉球を獲得すると将来日本との間で問題が残ることを恐れたためであること、しかし、後になって蒋介石は、カイロで琉球を獲得しなかったことを後悔するようになったことなども紹介している。
このような多維新聞および環球時報の記事が6カイロ会議を正確に伝えているか保証の限りでないが、琉球諸島を中国の代表が要らないという立場を取ったこと、およびそのために尖閣諸島に関する中国の立場が弱くなったと中国(の一部?)が自認していることが示されている。

2013.11.28

習近平の歌舞団取り締まり

中国共産党三中全会での経済改革に関する決定ほど広く注目されてはいないが、習近平政権は軍についても改革を行なおうとしている。
中国には7つの軍区(瀋陽、北京、済南、南京、広州、蘭州、成都)が置かれており、地勢的な理由によると同時に、抗日戦争以来の歴史的経緯があり、軍区内では各種の軍を統一的に指揮する体制になっているが、7つの軍区間では、台湾における有事の際に備えた軍区をまたがる支援・協力態勢は例外として、協力体制が弱かった。
今回の三中全会決定では、連合作戦指揮を強化する方針が打ち出された。まだ正式の決定ではないが、7つの軍区を将来5つの「戦略区」に編成し直すことも考えられているそうである。
その背景には、従来陸軍が人民解放軍の中心であったが、環境が変化し、海空軍および第二砲兵部隊(ミサイル部隊)の重要性が高まっているという事情があり、今後の軍制改革ではこれまでの陸軍中心の体制、たとえば、人民解放軍の中枢である総参謀部、総政治部(党の関係)、総後勤部(後方)および総装備部は陸軍に置かれていたのを、他の軍種の地位向上に見合った形にあらためられる。
以上のような軍制改革は外から見ていても比較的理解しやすいことであるが、軍制改革の一環として非戦闘員の削減方針が謳われており、そのために「文工団」の整理が課題であると言われている。
「文工団」とは歌舞団であり、人民解放軍の内部に置かれている。かなり以前から人民解放軍兵士を慰問するために活動してきたが、それは表の姿で、裏では高級軍人の愛人になったり、特別の地位を利用して商売したりしてきたらしい。毛沢東にも文工団員の愛人がいたと侍医が暴露したのは有名な話である。このようなことから、心ある人は眉をひそめて見ていたが、長年続いてきた悪習はなかなか治らず、最近も、海軍のナンバー2が複数の文工団員を愛人にしていたのが暴露されるスキャンダルが起こった。今や、「文工団」には「悪名高い」という形容詞がつくようになっている。
「文工団」への厳しい取り組みは、習近平政権がハエ(小物)だけでなく虎(大物)も摘発するなど腐敗退治に熱心であることが背景にあるのはもちろんであろう。

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