平和外交研究所

中国

2021.06.08

ハンガリーの中国寄り政権に対する反対運動

EU内でハンガリーと他の加盟国の不協和音が激しくなっている。さる4月中旬、EUは中国が香港の自由を強引に制限したことを非難する声明を発出しようとしたが、ハンガリーが反対したため、できなかった。

5月、ハンガリーは、EUとアフリカ、カリブ海および太平洋諸国との貿易協定批准にも反対した。また、イスラエルとパレスチナに停戦を求める声明にも反対した。

オルバン・ハンガリー首相はかねてより中国寄りの姿勢で知られ、EU内の団結を乱すとして警戒されていた。そして最近、その傾向が一段と強まったのである。独外務省のミグエル・ベルガー国務大臣は6月4日、1か国の反対ですべての案件が葬られる現状に危機感を示し、EUとしては多数決の導入を検討しなければならないと独仏など主要国の警戒心を代弁する発言を行った。

一方、オルバンはブダペストで中国の復旦大学の分校を建設する計画を進めようとしている。建設費は12億ユーロであり、資金の大部分は中国からの融資によって賄われる。2024年に完成の予定である。

しかし、これには多数のハンガリー国民が反対しており、Republikon Instituteによれば市民の3分の2が反対だという。

6月5日、ブダペスト市内で大規模な反対デモが発生した。

ブダペストのカラスコニィ市長は2022年の選挙で首相に立候補すると目されている反オルバン派であり、復旦大学の建設に反対して建設地付近の街路名を「ダライ・ラマ通り」、「ウイグル烈士通り」、「自由香港通り」と改名した。中国大使館は猛烈に反発した。

中国はハンガリーをはじめ東欧諸国を手なずけて影響力を高める方針である。一方、EUは中国とは価値を共有しないという認識を強め、外交面で対立的になることが目立っている。そんななか、オルバン首相はどこまで親中国路線を突っ走れるか注目される。

2021.05.31

セルビア-いつでも予約なしでワクチン接種を受けられる国

 セルビアは、テニスやサッカーなどは別として、日本ではよく知られていない国である。だが、コロナワクチンの関係では世界有数の先進国であることを5月30日の朝日新聞が伝えている。

 首都ベオグラードでは、たとえばショッピングモールで、予約なしでいつでも自由に、無料でワクチン接種を受けられる。ワクチンは中国シノファーム製と米ファイザー製、ロシア製スプートニクVから選べる。接種を待つ人の行列はなく、すぐに打ってもらえる。夢のような話である。

 セルビアがワクチンをこれほど潤沢に確保できたのは、ブチッチ大統領以下が早くから問題意識をもって取り組んできたからである。ブチッチ氏は「昨年7月末から米ファイザーと交渉を始め、中国の習近平(シーチンピン)国家主席のほかロシアのプーチン大統領や英国のジョンソン首相とも直接交渉した」と明かしている。

 その中で、最も多く供給したのが中国だ。ブチッチ氏は、「外交努力が報われた。中国がとても助けてくれた」と中国の「ワクチン外交」を評価している。EUは昨年3月、医療用品の域外輸出を禁止したが、同じころ、中国はマスクなど医療物資を大量に提供し、ブチッチ氏は空港に出向いて輸送してきた特別機を迎え、中国国旗にキスをした。一国の大統領が、どんな事情があるにせよ、他国の国旗にキスをするなど聞いたことがない。

 ワクチン確保がすべて順調だったわけでなく、苦労も大抵のことではなかったらしい。セルビア正教会の総主教といえばセルビア宗教界の頂点に立ち、国民の尊敬を一身に集めている人物であるが、2020年11月にコロナウイルスにかかって死亡した。政府は困難な立場に立たされたであろう。最近まで在セルビア大使を務めた丸山純一氏は、セルビアのワクチン確保のスピードと量は目覚ましいものであったと認めつつ、同国政府は必要な資金を確保するのに資金流用などもせざるを得なかったことをある会合で指摘していた。

 しかし、あまりに順調すぎると人はありがたさを忘れがちになるらしい。ワクチン効果もあり、セルビアの1日あたりの新規感染者数は、3月下旬から、多かった時の10分の1以下の300人ほどに減少しており、街中でマスク姿の人はほぼいない。レストランの店内営業も認められ、日常生活が戻りつつある。
だが、一方で接種への関心が低下して接種スピードが鈍化しており、「ワクチン余り」の状況になっている。
そのため政府は5月、接種した市民に3千ディナール(約3400円)の商品券を配ることを決めたという。

 セルビアは、かつてコソボ紛争が原因で欧米諸国と対立し、1999年にNATOの爆撃を受けボコボコにされたが、国連などでセルビアを擁護してくれたのが中国とロシアであり、それ以来セルビアにとって中国は特別の存在となっていた。

 2010年ごろから中国のセルビアへの進出が目立つようになり、鉄道、道路などの投資が急増した。中国はギリシャからハンガリーへ伸びる一大交通路の建設をも持ち掛けた。ギリシャのピレウス港は「一帯一路」の欧州第1号プロジェクトであり、またハンガリーはEUの中にあって中国寄りの立場が色濃い国である。この中間に位置しているのがセルビアなので、この輸送・交通路が完成すると、「一帯一路」は大きくと進むことになる。

 セルビアと中国の関係はコロナ禍を通じていっそう緊密化したようだ。今後もセルビアにとって中国が特別に重要な国であることに変わりはないだろうが、一方でセルビアはEUへの加盟を長らく渇望してきた。地政学的にセルビアは欧州の一部であり、EUとの友好関係なくしては国家として立ちいかない。

 しかるに、中国とEUは最近対立する場面が増しており、その傾向は今後容易に解消されそうにない。セルビアが今後中国との関係をさらに緊密化していくと、EUは警戒し、その結果、加盟問題にも悪影響が及ぶ可能性がある。

 セルビア国内でも、中国やロシアとの関係を重視する派(保守派)と欧米派(経済重視派)が併存しており、両者の関係は微妙である。セルビアはコロナワクチンの接種問題で各国から注目される成果を上げたが、内政・外交のかじ取りは逆に困難になっていくのではないか。

2021.05.21

中国・EU投資協定と米欧中関係

 中国とEUが投資協定(CAI Comprehensive Agreement on Investment)の交渉を開始したのは2014年。35回の交渉を経て、2020年12月に原則合意された。中国側が、新疆ウイグル自治区の人権問題などに関する欧米の批判をやわらげ、また2020年内合意の目標を実現するために譲歩し、またEU側ではコロナ禍の中で経営難に陥っている欧州企業が中国市場でのビジネス機会の拡大を求めたことなどが背景として指摘されている。EUの閣僚理事会議長国が中国との経済関係促進に熱心なドイツであったことが大きな要因であったと見る向きもある。

 協定が発効すれば、EU側が問題視していた中国の国有企業や強制的な技術移転などについての規律が盛り込まれるなど、中国市場への参入障壁が一部緩和されることになる。今後の中国・EU経済関係の礎石となるとも言われていた。

 バイデン政権は成立前だったが、CAIの原則合意を止めようとしたとみられていた。国家安全保障担当補佐官に指名されていたジェイク・サリバンは、「バイデン・ハリス政権は、欧州のパートナーとの間で共通の関心である中国の経済慣行に関して、早い段階での協議に喜んで応じるだろう」とのコメントを発表したのだ。だがEUは交渉を止めず、合意にまで進んだという。CAIについて、米国内では肯定的な意見もないではなかったが、批判的な見方が多かった。

 3月22日、EUと英国、米国、カナダは、中国が新疆ウイグル自治区で重大な人権侵害を行っているとして、中国政府当局者に対する制裁措置を発表した。1月にバイデン米政権が発足してから初めての米欧協調行動であり、これら諸国はウイグル族の扱いに関する中国政府の責任を追及する姿勢を鮮明にしたのであった。

 これに対し、中国は報復措置として米国、EUなどに対して制裁を発動し、CAIは進まなくなった。

 5月20日、欧州議会は中国との交渉を再開する条件として、中国が対EU制裁を撤回することを求める決議を行った。中国の制裁は国際法に基づいていないとも主張した。

 しかしCAIは中国・EU関係にとどまらず、中国と米欧の問題になっている。中国はメンツにかけても応じないだろう。

 一方で中国は、EUの中でも関係が深いイタリアなどに、協定発効の必要性を説得しているが、それで事態が打開されることはありえない。ティエリ・ブルトン(Thierry Breton)欧州委員(域内市場担当)は5月6日、昨年末の「原則合意」は「合意」というより「方針」のようなものであり、CAIは当面実現しないだろうとの見解を示したという(AFP2021年5月7日付)。

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