平和外交研究所

中国

2018.02.07

これからますます激しくなる反腐敗運動

 「国家監察委員会」は、2017年秋に開催された中国共産党第19回党大会で習近平主席が設置の方針を打ち出したものであり、近く開催される全国人民代表大会(日本の国会に相当)で改正される憲法に書き込む準備が進められている。

 なぜ「国家監察委員会」を新設することにしたのか。これがわかりにくい。
 これまで、反腐敗運動を強力に実施してきたのは「規律検査委員会」であり、これは共産党の機関であり、「監察委員会」は国務院の機関であると区別されている。そこまでははっきりしているが、「規律検査委員会」に加えてなぜ「国家監察委員会」を設置することにしたのかが問題である。「規律検査委員会」は党員を対象に、「国家監察委員会」は公務員を対象にするという説明はほとんど意味をなさない。中国ではほとんどすべての公務員は党員だからである。
 
 もし、「規律検査委員会」がよく機能しなかったのであれば、わからないでもない。しかし、「規律検査委員会」は非常によく機能し、その責任者であった王岐山は習近平によって功績を高く評価された。この「規律検査委員会」は地方にも支部があり、共産党の支部よりも恐れられるくらい強力であった。「規律検査委員会」は党の機関であるが、実際には各地で、本来の党支部と「規律検査委員会」の支部が並立していたのである。
 両方とも党の機関であるならば一緒にしてしまえばよいというのは日本的な発想と言わざるを得ない。日本でもよく探せば似たような現象があるかもしれない。
 ともかく、それほど強力であり、人々におそれられた「規律検査委員会」であったのだが、それでも「国家監察委員会」を設置することにしたのはそれなりに必要だったからであろう。

 国務院にはもともと「監察部」があり、いまでも存続しているが、実際の取り締まりはこれまで政府や検察内に分散して設けられていた複数の部門が担当していたのを、今後は統合して「国家監察委員会」とするようだ。これは単に技術的な問題でない。「監察部」では腐敗を十分取り締まることはできないので「国家監察委員会」を作り、憲法にも記載して強力な機関とすることにしたのだ(第19期中央委員会第2回全体会議(2中全会)の決定)。

 「規律検査委員会」との比較、および、この経緯からいえることは、腐敗があまりにも根が深く、かつ広範にはびこっており、今後の摘発は膨大な量に上るということである。「規律検査委員会」の発表によれば、習近平政権の第1期目において、件数にして13・9万件、人数にして18・7万人の国家工作人員(国家公務員など)が有罪となっている。これだけではまだまだ問題の一部に手を付けたに過ぎないのである。
 習近平政権の2期目(2017~21年)においては第1期目にもまして強力に反腐敗運動が展開されるのだろう。

 では、「規律検査委員会」と「国家監察委員会」の関係は今後どうなるか。これがまたわかりにくい。「国家監察委員会」を憲法上の機関にしてまで格上げしたことにかんがみると、むしろこちらのほうが上に立つ印象さえあるが、中国においては党の支配は絶対であり、習近平氏自身、党の指導を強化しなければならないと何回も強調している。
 習氏は「規律検査委員会」と「国家監察委員会」については、「根本目的は反腐敗運動における党の指導を強化することであり、そのもとで、両委員会が一体として業務を行う」との趣旨を述べているが、抽象的な説明である。実際にどうなるかは、今後の状況を見て判断していくしかない。これは法律にしたがった取り締まりを誰が行うかというような技術的問題ではすまない、権力闘争にかかわることである。
 
 現在、北京市、山西省、浙江省ではすでに試験的に監察委員会が導入されており、さらに28の省・自治区・直轄市で設立される予定であるという。公権力を行使する全ての公務員を監視する網が従来以上に広く、かつ厚くなりそうだが、中国での腐敗が半端でないことが今回の「国家監察委員会」の設置にともない改めて露呈される結果となった。

2018.01.31

河野外相の訪中―発表と報道から読み取れること

 河野外相は1月28日、北京で中国の王毅外相と会談した。日中両国間のハイレベル往来、経済関係の強化、国民交流の促進などを含め、日中関係の改善について有意義な話し合いが行われたのは、外務省の発表や報道で伝えられている通りであるが、いくつかさらに注目すべきことがある

 河野外相の訪中は、同外相が日本外務省の事務方に出した指示で中国側との話が始まり、実現したらしい。河野外相は昨年夏に王毅外相と会った後から、往来を積極的・機動的にしようと考えていたようだ。
 在米の華字紙『多維新聞』1月30日付は、「河野外相は、形式的には、中国側から招待を受けて訪中したことになっているが、実質的には河野氏が望んで中国に来たのだ」との趣旨を述べている。同紙は河野氏の訪中を冷ややかな目で見ている。

 しかし、中国政府は河野外相を歓待した。王毅外相のみならず、李克強首相も楊潔篪国務委員(王毅外相よりシニア、元外相)も会見なり表敬なりに応じた。河野外相は、「中国側から関係改善への強い意思を感じた」と手応えを語っている。
 ただ、王毅外相は河野外相を待つ間不機嫌そうな顔つきだったと一部で報道された。中国の指導者は時折このような表情を示すが、王毅外相がこのような表情であった理由はよくわからない。王毅氏は日本通で知られ、また、合理的な考えの人物であり、それだけに日本人に甘い顔を見せるのではないかと中国内で警戒されている。そのため、メディアにはことさら厳しい表情を見せたのかもしれない。

 両外相は両国政府の意見が違う問題についても話し合った。
 東シナ海については、河野大臣から,東シナ海は「平和・協力・友好の海」とすべきであり,日中関係の改善を阻害しかねない事態を引き起こすべきではない旨述べ,また、1月11日に中国海軍の潜水艦及び水上艦艇が尖閣諸島周辺の接続水域に入域した事案についても改めて再発防止を強く求めた。
 これに対し、王毅外相は強く反発したものと推測されるが、発表されていない。日本外務省の発表が河野大臣の発言だけでおわっているのは、王毅外相の発言がかなりひどかったからだろう。
 
 「中国側の発表によると、王氏は会談で、中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」原則を維持するよう求め、歴史認識でもクギを刺した。さらに「日本は中国を競合相手ではなくパートナーとし、中国の発展を脅威ではなくチャンスとして見てほしい」と指摘。日本の出方を注視していく考えを示した」とも報道された。これだけであれば、日本外務省がこの点を発表しなかったのは不可解であるが、これは尖閣諸島に関する発言の一部であったために発表に入れられなかったのかもしれない。

 一方、東シナ海に関係する防衛当局間の海空連絡メカニズムについては、早期運用開始に向けて日中双方で努力していくことを再確認した。
 また,東シナ海の資源開発については、「2008年合意」に従い具体的進展を得るよう引き続き共に努力していくことを確認した。
 この二つの問題については、両外相の意見が一致したのである。

 全体を通して見て、重要な諸問題について積極的な話し合いが行われ、意見が一致した点も少なくない。今後の日中関係の改善に資する会談であったと思うが、王毅外相が「言葉で表したことを実際の行動に移すよう望む」と注文したことについては懸念がある。日中関係が悪化したのは日本側の責任だと直瀬的に批判する直前で止めているのだが、間接的に批判している。
 しかし、そのような一方的な観念こそ日中関係の円滑な発展を妨げる要因になっているのではないか。中国のネットに「日本は信じられない」といった書き込みが続いているが、中国政府の立場を見ての言説ではないか。
売り言葉に買い言葉になってはいけないが、日本側としても巧みに反論することが期待される。

2018.01.30

中国軍機による我が国の防空識別圏への進入

 中国軍機が1月29日、対馬海峡を北上して日本海に入った後、折り返して東シナ海方面へ飛び去った。機種はY9情報収集機。日本の領空には侵入しなかったが、日韓両国それぞれの防空識別圏内を飛行した。
 これは、昨年12月18日に起こった、中国軍機による日本と韓国の防空識別圏への進入に引き続く問題行動であった。
 また、1月11日には、中国海軍の潜水艦と艦艇が尖閣諸島周辺の日本の接続水域に入った。小野寺防衛相が、「両艦が同時に尖閣の接続水域を航行するのを確認したのは初めて」と述べた悪質な行動であった。
 
 29日の中国軍機の飛行をどう見るか。

 中国軍機の飛行をモニターしていた日本の航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させた。これは中国軍機の飛行が我が国に対して脅威でないことを確かめることが目的であった。中国やロシアの軍機が日本の防空識別圏へ進入するのはこれまでに何回もあったことである。
中国機が日本海に飛行するのは国際法的には問題ないが、友好的な行動ではない。

 また、今回の飛行は、河野外相が李克強中国首相および王毅外相と会談した日(1月28日)の翌日のことであり、微妙なタイミングであった。この二つの出来事が関連している証拠はないが、これまでの中国軍の行動から推測して、日本との関係改善をけん制しようとした可能性は排除できない。
 なお、日本では、政府がそのような重要な会談を行っているときに、自衛隊機が相手方の嫌がる飛行をすることはあり得ない。

 当研究所は、1月15日、「中国は日本に何をしようとしているのか」と題して、中国海軍はなぜ問題の行動に出たのか。台湾問題と関連があるかもしれないという仮説を交えて論評した。今回の飛行は台湾問題と関連はなさそうだが、中国軍が政府とどのような関係にあり、どのような行動をとろうとしているかは、今後も引き続き注目すべきであろう。

 なお、日本では、北朝鮮に関しては、指導者の発言や軍の行動を事細かく取り上げ、かつ、その背景にある政治的意図を探ろうとする傾向があるが、中国軍については、政治的意図の推測はほとんど行われない。今回の飛行の報道も事実関係中心の、たんたんとしたものであった。
しかし、中国軍の非友好的行動はまけずおとらず危険なものである。

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