平和外交研究所

中国

2023.12.27

南シナ海をめぐる中比紛争

 2022年末以降、南シナ海において、フィリピン補給船に対するハラスメントや新たな埋め立てなど、中国の動きが活発化している。

 23年早々マルコス・フィリピン大統領が訪中し、習近平中国主席と南シナ海問題について対話重視の方針を確認しあったが、何ら効果はなかった。フィリピン側によれば、中国側は強硬な姿勢を続け、フィリピン船に対する放水、体当たり、レーザー照射を行い、また100隻を超える「海上民兵」船団を派遣している。8月には中国側の一方的主張を記した「標準地図」の最新版を公表した。

 フィリピン側はこれらの状況をほぼすべて映像に収めており、また、中国側が敷設した「障害物」を除去するなどの行動もとっているが、攻勢はほとんどすべて中国側によるものだという。

 5月20日のG7広島首脳コミュニケでは次のように謳われた(第52項)。
「 南シナ海における中国の拡張的な海洋権益に関する主張には法的根拠がなく、我々はこの地域における中国の軍事化の活動に反対する。我々は、UNCLOS(国連海洋法条約)の普遍的かつ統一的な性格を強調し、海洋における全ての活動を規律する法的枠組みを規定する上でのUNCLOSの重要な役割を再確認する。我々は、2016年7月12 日の仲裁裁判所による仲裁判断が、仲裁手続の当事者を法的に拘束する重要なマイルストーンであり、当事者間の紛争を平和的に解決するための有用な基礎であることを改めて表明する。」

 また日米比などの安全保障担当高官による協議も行われている。12月13日にはオースティン米国防長官とテオドロ比国防相が電話協議を実施した。

 中国はこのような状況に不満なのであろう。王毅外相は12月20日、フィリピンのマナロ外相と電話会談し、南シナ海情勢を巡りフィリピンが判断を誤れば中国は断固として対応すると警告した。

 また中国共産党機関紙、人民日報は12月25日、フィリピンが南シナ海で中国の領土を繰り返し侵害しているほか、偽情報を拡散し、米国の支持を頼みにして中国を挑発し続けており、そのような「極めて危険」な行動は地域の平和と安定に深刻な害を与えているとする論評を掲載した。

 このような中国側の姿勢は、国際仲裁裁判の判断をはじめ、日米比、G7サミット諸国など世界の大多数の諸国の立場とあまりに異なっている。それは一方的であり、かつ恐ろしいものである。本稿では、これ以上どちらに、どんな非があるかは論じないが、中国が国際仲裁裁判所の判断を尊重し、またわれわれを脅すのをやめることを切に要望する。

(The following was translated automatically)
China-Philippines dispute over the South China Sea
China has become increasingly active in the South China Sea, harassing Philippine ships and conducting new land reclamation.
Early in 2023 , Philippine President Marcos visited China and agreed with Chinese President Xi Jinping to emphasize dialogue regarding the South China Sea issue, but this had no effect. According to the Philippines, China has continued to take a tough stance, spraying with water , ramming and irradiating Philippine ships and sent a fleet of more than 100 “maritime militia” vessels. In August, the latest version of the “Standard Map,” which describes China’s unilateral claims, was released.
The Philippine side has captured almost all of these situations on video, and has also taken actions such as removing “obstacles” set up by the Chinese side, but almost all of the offensives are said to have been carried out by the Chinese side.
G7 summit held at Hiroshima last May 20 stated the following (paragraph 52 ):
“ China’s claims of expansive maritime interests in the South China Sea have no legal basis and we oppose China’s militarized activities in the region. We reiterate the important role of UNCLOS in defining the legal framework that governs all activities at sea. We reiterate that this is an important milestone in legally binding the parties to an arbitration proceeding and a useful basis for peacefully resolving disputes between the parties. ”
Discussions are also being held between senior security officials from Japan, the United States, and the Philippines. On December 13, U.S. Secretary of Defense Austin and Philippine Defense Minister Teodoro held a telephone conversation .
China seems dissatisfied with this situation. Foreign Minister Wang Yi spoke by phone with Philippine Foreign Minister Manalo on December 20, warning that China would respond decisively if the Philippines misjudged the situation in the South China Sea.
The Chinese Communist Party’s official newspaper People’s Daily reported on December 25 that the Philippines has repeatedly violated Chinese territory in the South China Sea, spread disinformation, and continues to provoke China by relying on support from the United States. The paper published a commentary stating that such “extremely dangerous” actions are causing serious harm to regional peace and stability.
This attitude of China is so contrary to the international arbitration court decisions, and also to the position of the majority of countries in the world, including Japan, the United States, the Philippines, and the G7 summit countries. Chinese unilateral behavior is frightening. In this article, I will not discuss which party is at fault any further, but I sincerely request that China respect the judgment of the International Court of Arbitration and stop threatening us.
2023.12.24

毛沢東像の撤去

 毛沢東生誕から130周年になる12月26日を目前にして、生まれ故郷に近い湖南省省都の長沙市で奇妙な事件が起こった。この銅像はさる10月ごろ国慶節の記念として、長沙市の中心部から車で1時間程度の花実村の広場に住民らが集めた資金で建てられたのもつかの間、11月のはじめ何者かによって撤去されてしまったのである。
 
 中国のネット上では、誰が、どんな権限で撤去したのか訝る声が流れている。ある人は長沙市に電話をかけ、事件について質問した。これに対し同市の係官は、「事件については上級部署に報告済である。事件の真相はわからない。自分にはそれ以上こたえる権限がない」などという説明であった。質問した人は、「中国建国の父である毛沢東の銅像は誰にでも壊せるものでなく、政府当局でなければできないことである。政府はことの始末を全国民に説明する義務がある」と厳しく指摘し、さらに、「銅像は再建するのだろうな。また電話する」といって切ったという。

 この事件は日本のメディアだけでなく中国でもネットで報道された。報道したのは「紅歌会網」、すなわち「赤い歌を歌う会」であり、「文化革命の精神を想起する会」という意味である。

 この事件には単に公の銅像が壊されたというだけでは済まない面がありうる。常識的には、毛沢東像の撤去を指示できるのは最高の指導者でしかありえないからである。ただし、どのような事情が隠れているかわからない現時点で、この事件に高度の政治性があるか、軽々に結論を下すことはできない。さる9月16日、当研究所のHPに掲載した「習近平政権において何が起こっているか」で指摘した諸事情、さらには李国強首相死亡(10月27日)の影響などとともによくみていく必要がある。

(The following was translated automatically.)
Mao Zedong statue removal
On December 26, the 130th anniversary of Mao Zedong’s birth , a strange incident occurred in Changsha, the capital of Hunan province, near his hometown. This bronze statue was erected around October as a commemoration of National Day in the square of Huami Village, about an hour’s drive from the center of Changsha, with funds collected by residents . It was unfortunately removed for some reason .
 
There are voices on the Chinese internet wondering who removed it and with what authority. One person called the city of Changsha and asked about the incident. In response, a city official said, “The incident has been reported to a higher department. We do not know the truth of the incident. I do not have the authority to respond further.” The person who asked the question further said, “The statue of Mao Zedong, the founding father of China, cannot be destroyed by anyone, but only the government authorities can do it. The government has an obligation to explain to all the people what happened.” He then said, “I guess the statue will be rebuilt. I’ll call you again,” and hung up.
This incident was reported not only in Japanese media but also online in China. What was reported was the “Red Song Association Network,” or “Red Song Singing Association,” which means “An Association to Remember the Spirit of the Cultural Revolution.”
There may be more to this incident than just the destruction of a public statue. Common sense dictates that only the highest leader can order the removal of Mao Zedong statues. However, at this point in time, we do not know what the underlying circumstances are, so we cannot lightly conclude whether or not this incident has a highly political nature. We must take a closer look at the following development of this incidenta, various circumstances pointed out in the article “What’s Happening in the Xi Jinping Administration” posted on our website on September 16th , as well as the effects of Prime Minister Li Guoqiang’s death ( October 27th ).
2023.11.16

EEZ内へのブイ設置

日本の排他的経済水域(EEZ)内(尖閣諸島の北西約80キロ)に中国当局が勝手に設置したブイの扱いが問題になっている。日本政府は中国政府に対し撤去を求めているが、中国は応じない。大きく見て、法的問題と政治的問題がある。

上川外相は、「国連海洋法条約には(沿岸国である日本が撤去できることを示す)明文規定がない。個別具体的な状況に応じた検討が必要で、(撤去の)可否を一概に答えるのは困難だ」と述べ、外交的に問題を解決する姿勢を示した。

この説明には若干問題がある。上川外相は、中国が日本の了解を得ないまま勝手に設置した海上ブイを日本が除去することは海洋法条約で許されないと答弁していると取る人が少なくないだろうが、同条約で許されるか否かは解釈次第である。

国連海洋法条約には次の規定がある。

第六十条 排他的経済水域における人工島、施設及び構築物
1 沿岸国は、排他的経済水域において、次のものを建設し並びにそれらの建設、運用及び利用を許可し及び規制する排他的権利を有する。
 (a)人工島
 (b)第五十六条に規定する目的その他の経済的な目的のための施設及び構築物
 (c)排他的経済水域における沿岸国の権利の行使を妨げ得る施設及び構築物
2 沿岸国は、1に規定する人工島、施設及び構築物に対して、通関上、財政上、保健上、安全上及び出入国管理上の法令に関する管轄権を念む排他的管轄権を有する。
3 1に規定する人工島、施設又は構築物の建設については、適当な通報を行わなければならず、また、その存在について注意を喚起するための恒常的な措置を維持しなければならない。放棄され又は利用されなくなった施設又は構築物は、権限のある国際機関がその除去に関して定める一般的に受け入れられている国際的基準を考慮して、航行の安全を確保するために除去する。その除去に当たっては、漁業、海洋環境の保護並びに他の国の権利及び義務に対しても妥当な考慮を払う。完全に除去されなかった施設又は構築物の水深、位置及び規模については、適当に公表する。
4 沿岸国は、必要な場合には、1に規定する人工島、施設及び構築物の周囲に適当な安全水域を設定することができるものとし、また、当該安全水域において、航行の安全並びに人工島、施設及び構築物の安全を確保するために適当な措置をとることができる。
5 沿岸国は、適用のある国際的基準を考慮して安全水域の幅を決定する。安全水域は、人工島、施設又は構築物の性質及び機能と合理的な関連を有するようなものとし、また、その幅は、一般的に受け入れられている国際的基準によって承認され又は権限のある国際機関によって勧告される場合を除くほか、当該人工島、施設又は構築物の外縁のいずれの点から測定した距離についても五百メートルを超えるものであってはならない。安全水域の範囲に関しては、適当な通報を行う。
6 すべての船舶は、4の安全水域を尊重しなければならず、また、人工島、施設、構築物及び安全水域の近傍における航行に関して一般的に受け入れられている国際的基準を遵守する。
7 人工島、施設及び構築物並びにそれらの周囲の安全水域は、国際航行に不可欠な認められた航路帯の使用の妨げとなるような場所に設けてはならない。
8 人工島、施設及び構築物は、島の地位を有しない。これらのものは、それ自体の領海を有せず、また、その存在は、領海、排他的経済水域又は大陸棚の境界画定に影響を及ぼすものではない。

海上ブイの撤去はどのように規定されているか、一つの解釈を示してみたい。
・海上ブイは「排他的経済水域における沿岸国の権利の行使を妨げ得る施設及び構築物(56条1(c))にあたる。
・沿岸国は「それらの建設、運用及び利用を許可し及び規制する排他的権利を有する」
・したがって日本は海上ブイを規制する権利を有する。

国連海洋法には「海上ブイ」という言葉は出てこないが、沿岸国である日本は規制する権利を持つということである。撤去してよいと条約には書いてないので撤去できないと考える人がいれば、それは違うといわざるを得ない。条約では日本ができることをいちいち書かない。一般的な表現で示されることはよくある。

逆の方向から見ておくと、日本が海上ブイを撤去すると国連海洋法に違反するか。これも直接的には書いてないが、違反しない。「権利」であることは前述した。上川外務大臣の答弁は、日本が撤去すると海洋法違反になると断定しているわけでないが、そのような意味合いで説明した感じがする。

以上が法的解釈だが、実際にブイを撤去したほうがよいかというと、そうは思わない。法的立場は明確にしつつも、政治的考慮を加えることは、これまたいくらもあることであり、海上ブイについては「沿岸国の権利の行使を妨げ得る」という条件にあたるか。自明でないかぎり実力行使には慎重でなければならない。

わが国会では、海上ブイに強い不快感を抱いていることを示す発言が行われている。心情的にはそれもわかるが、実力行使はしないほうがよいと考える。日中間では日本産水産物の輸入規制の方がはるかに深刻である。もちろん、海上ブイも危険になることはありうるが、今のところそのようなものでないと認識されている。

国会の一部には、「ブイは日本の主権、尊厳、国益を侵すものだ。海のゴミとして考えれば、撤去はできる。要は、総理に覚悟があるか、ということだ」というような意見があるが、そのような粗雑な論理は百害あって一利なし、である。

 結論としては、外交交渉で撤去を求めるのが妥当であろう。

 そして、どうしてもらちが明かない場合、国際海洋裁判所に訴え出るべきである。裁判が成立するには両当事者の同意が必要であり、中国が応じるか疑問だが、訴え出ることに意味がある。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.