中国
2023.06.20
係員の説明は、「この資料は政治的に重要な意義のある明代の資料であり、尖閣諸島と付近の島嶼が中国の版図に含まれていたことを記録しており、同文献には、『10日、平嘉山、魚釣島、黄毛島、赤島を過ぎる、、、11日夕、琉球に属する古米山(久米島のこと)が見えてくる』であった」というものであった。この時習氏がどんな反応を示したか、人民日報は何も伝えなかった。
習氏の発言として報道されたのは、「私が福州(福建省の省都)で働いていた頃(1990年から2002年)、福州には琉球館と琉球墓があり、(中国と)琉球との往来の歴史が深いことを知った。当時『閩人(びんじん)三十六姓』が琉球に行っている」と述べ、最後に「典籍や書籍の収集と整理の強化は、中国文明の継承と発展に重要」と述べたことだけであった。
人民日報の本件記事に政治的な意図が込められているのは明らかである。台湾、尖閣諸島、沖縄(本稿では「琉球」)と関係がありそうだが、『使琉球録』という古資料について事実関係を指摘しておきたい。詳しくは、THEPAGEに2015年3月28日掲載された「尖閣諸島の歴史的経緯ー古文献に見る」を参照願いたい。
中国は1971年から従来の態度を変更して尖閣諸島に対する領有権を主張するようになり、その根拠として、明国の海防を説明した書物『籌海圖編(ちゅうかいずへん)』、清国の使節(冊封使)であった汪楫(オウシュウ)の『使琉球録(しりゅうきゅうろく)』、それに西太后の詔書の3文献を引用していたが、最後の文献は偽造であることが判明しており、中国は使わなくなっている。残りの2文献のうち『籌海圖編』は中国の領域を示したものではなく、中国がそのように解釈しているにすぎない。『使琉球録』は「尖閣諸島と付近の島嶼が中国の版図に含まれていたことを記録していた」との文言が入っていたと読めるので、一見中国の領域を明示していたかに見える。
しかし、西方つまり中国大陸から琉球に向かって進んでくる場合、尖閣諸島を過ぎると琉球に入るという趣旨の説明したのは琉球人船員であり、権威のある説明ではありえなかった。
しかも、琉球の外側は明国の領域になるわけではない。そこは「公海」である。明朝の歴史書である『皇明実録』は、臺山、礵山、東湧、烏坵、彭湖、彭山(いずれも大陸に近接している島嶼)は明の庭の中としつつ、「この他の溟渤(大洋)は、華夷(明と諸外国)の共にする所なり」と記載していた。つまり、これらの島より東は公海だと言っているのである。
また、明代の勅撰書『大明一統志』も同様に明の領域は海岸までであると記載している。 要するに、中国の古文献、しかも公式の資料では、清や明の領域が海岸までであることが明記されていたのである。
これらの明清の公式文書を無視しておいて琉球の船員が述べたことを中国に都合がよいように解釈して習近平国家主席に説明するのは極めて問題である。
なお、人民日報の記事については、尖閣諸島に関する恣意的な記述もさることながら、台湾問題について中国が不満を募らせていることが背景にあると思われる。
最近、中国は台湾に対し、平和的に統一問題を解決しようとする姿勢を見せてきた。今年3月の全人代(全国人民代表大会 日本の国会に相当する)における政府活動報告で李克強は台湾について「平和統一への道を歩む」とした。さらに「両岸(中台)の経済と文化の交流、協力を促進し、台湾同胞の福祉増進のための制度と政策を充実させる」や「台湾同胞は血がつながっている」との言葉も加えた。
昨年10月の党大会における政治活動報告では、習近平が、「武力行使の放棄は決して約束しない」と強気の発言を行いつつも、台湾問題について「平和的統一に最大限努力する」と述べていた。また、中国がかねてから台湾に対する攻勢の足掛かりにしていた「一つの中国」に関する「92年合意」について、2017年の党大会では4回言及したが、2022年はわずか1回で、しかも、習氏はこの部分を読み飛ばした。習氏は過去10年間の台湾問題に満足しておらず、党大会のころから新しい台湾方針を模索しており、全人代でのソフトタッチの表明につながったのである。
中国が台湾に関する発言を和らげたのは、台湾の統一に関し方針を緩和させたからではない。来年1月、台湾で行われる総統選挙において国民党の候補が勝利するのを助けるため、国民党と近い関係にある中国は武力による統一を望んでおらず平和的に解決したいのだと台湾人に印象付けるためである。
しかしこの間、台湾の統一問題については目立った進展がなかったどころか、逆に中国にとって不愉快なことが発生した。外交関係樹立については3月、ホンジュラスと外交関係を樹立した。これは中国にとって利益であるが、ほぼ相前後してフィジーは「駐フィジー台北商務弁事処」から「中華民国(台湾)駐フィジー商務代表団」に変更した。これは中国との関係を格下げすることであり、台湾は感謝した。
韓国の尹錫悦大統領は前任の文在寅大統領と異なり、米日との安全保障面での協力を重視している。また、中国側が警戒する、在韓米軍への高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の追加配備問題について、「韓国の安保主権の事案」として韓国が自ら判断する姿勢を示している。尹氏はさらに「力による現状の変更には反対する」と発言したので中国は激しく反発した。韓中間では現在も外交当局同士が激しく言い争っている。
南シナ海問題についてのG7広島サミットの首脳宣言は中国にとって特に刺激的であった。同宣言は「南シナ海における中国の拡張的な海洋権益に関する主張には法的根拠がなく、我々はこの地域における中国の軍事化の活動に反対する。我々は、UNCLOS(国連海洋法条約)の普遍的かつ統一的な性格を強調し、海洋における全ての活動を規律する法的枠組みを規定する上でのUNCLOSの重要な役割を再確認する。我々は、2016年7月12日の仲裁裁判所による仲裁判断が、仲裁手続の当事者を法的に拘束する重要なマイルストーンであり、当事者間の紛争を平和的に解決するための有用な基礎であることを改めて表明する」として明確に中国の主張を退けた。
仲裁判断は台湾には直接言及していないが、南シナ海は台湾、東シナ海とつながる海域であり、仲裁裁判の判断は台湾にも関係しうる。同判断は中国の台湾に対する主張を否定したことになりかねない。
G7広島サミットの首脳宣言に対し、孫衛東外務次官は5月21日、日本の垂秀夫駐中国大使を呼び、「中国の内政に乱暴に干渉し(中略)中国の主権、安全保障と発展上の利益を損なった」と、強く抗議した。これに対し、垂秀夫駐中国大使は「中国が行動を改めない限り、これまで同様にG7として共通の懸念事項に言及するのは当然」「まずは中国側が前向きな対応を行うべき」と反論したと伝えられた。立派な対応である。
中国はまた、南シナ海、台湾海峡、尖閣諸島などで艦艇や航空機による大胆な挑発的行動を再び増加させている。
中国は、日本で「台湾有事は日本有事」とする言説が増えていることにいら立ちを示している。
また、NATOの連絡事務所を東京に設置することを検討しているとの林芳正外相の5月10日の発言(CNNとの単独インタビューで語った)に強く刺激されているという。
中国の台湾に対するソフトタッチの姿勢は、総統選挙をあと半年後にひかえて国民党候補に有利に働いているか不明である。中国は今後どのような動きが出てくるか、注目が必要である。
習近平主席・『使琉球禄』・台湾
6月4日付の中国共産党機関紙「人民日報」は第一面で、習近平主席が6月1日と2日、中国国家版本館(北京郊外 共産党に付属)と中国歴史研究院(北京市内 社会科学院に付属)を視察したことを報道した。全体のトーンは、習氏がかかわった両施設の建設が昨年夏完成したのでもっと早く訪問したかったがようやく実現した、というものであるが、『使琉球録』という古資料について係員が行ったとされる説明には問題がある。係員の説明は、「この資料は政治的に重要な意義のある明代の資料であり、尖閣諸島と付近の島嶼が中国の版図に含まれていたことを記録しており、同文献には、『10日、平嘉山、魚釣島、黄毛島、赤島を過ぎる、、、11日夕、琉球に属する古米山(久米島のこと)が見えてくる』であった」というものであった。この時習氏がどんな反応を示したか、人民日報は何も伝えなかった。
習氏の発言として報道されたのは、「私が福州(福建省の省都)で働いていた頃(1990年から2002年)、福州には琉球館と琉球墓があり、(中国と)琉球との往来の歴史が深いことを知った。当時『閩人(びんじん)三十六姓』が琉球に行っている」と述べ、最後に「典籍や書籍の収集と整理の強化は、中国文明の継承と発展に重要」と述べたことだけであった。
人民日報の本件記事に政治的な意図が込められているのは明らかである。台湾、尖閣諸島、沖縄(本稿では「琉球」)と関係がありそうだが、『使琉球録』という古資料について事実関係を指摘しておきたい。詳しくは、THEPAGEに2015年3月28日掲載された「尖閣諸島の歴史的経緯ー古文献に見る」を参照願いたい。
中国は1971年から従来の態度を変更して尖閣諸島に対する領有権を主張するようになり、その根拠として、明国の海防を説明した書物『籌海圖編(ちゅうかいずへん)』、清国の使節(冊封使)であった汪楫(オウシュウ)の『使琉球録(しりゅうきゅうろく)』、それに西太后の詔書の3文献を引用していたが、最後の文献は偽造であることが判明しており、中国は使わなくなっている。残りの2文献のうち『籌海圖編』は中国の領域を示したものではなく、中国がそのように解釈しているにすぎない。『使琉球録』は「尖閣諸島と付近の島嶼が中国の版図に含まれていたことを記録していた」との文言が入っていたと読めるので、一見中国の領域を明示していたかに見える。
しかし、西方つまり中国大陸から琉球に向かって進んでくる場合、尖閣諸島を過ぎると琉球に入るという趣旨の説明したのは琉球人船員であり、権威のある説明ではありえなかった。
しかも、琉球の外側は明国の領域になるわけではない。そこは「公海」である。明朝の歴史書である『皇明実録』は、臺山、礵山、東湧、烏坵、彭湖、彭山(いずれも大陸に近接している島嶼)は明の庭の中としつつ、「この他の溟渤(大洋)は、華夷(明と諸外国)の共にする所なり」と記載していた。つまり、これらの島より東は公海だと言っているのである。
また、明代の勅撰書『大明一統志』も同様に明の領域は海岸までであると記載している。 要するに、中国の古文献、しかも公式の資料では、清や明の領域が海岸までであることが明記されていたのである。
これらの明清の公式文書を無視しておいて琉球の船員が述べたことを中国に都合がよいように解釈して習近平国家主席に説明するのは極めて問題である。
なお、人民日報の記事については、尖閣諸島に関する恣意的な記述もさることながら、台湾問題について中国が不満を募らせていることが背景にあると思われる。
最近、中国は台湾に対し、平和的に統一問題を解決しようとする姿勢を見せてきた。今年3月の全人代(全国人民代表大会 日本の国会に相当する)における政府活動報告で李克強は台湾について「平和統一への道を歩む」とした。さらに「両岸(中台)の経済と文化の交流、協力を促進し、台湾同胞の福祉増進のための制度と政策を充実させる」や「台湾同胞は血がつながっている」との言葉も加えた。
昨年10月の党大会における政治活動報告では、習近平が、「武力行使の放棄は決して約束しない」と強気の発言を行いつつも、台湾問題について「平和的統一に最大限努力する」と述べていた。また、中国がかねてから台湾に対する攻勢の足掛かりにしていた「一つの中国」に関する「92年合意」について、2017年の党大会では4回言及したが、2022年はわずか1回で、しかも、習氏はこの部分を読み飛ばした。習氏は過去10年間の台湾問題に満足しておらず、党大会のころから新しい台湾方針を模索しており、全人代でのソフトタッチの表明につながったのである。
中国が台湾に関する発言を和らげたのは、台湾の統一に関し方針を緩和させたからではない。来年1月、台湾で行われる総統選挙において国民党の候補が勝利するのを助けるため、国民党と近い関係にある中国は武力による統一を望んでおらず平和的に解決したいのだと台湾人に印象付けるためである。
しかしこの間、台湾の統一問題については目立った進展がなかったどころか、逆に中国にとって不愉快なことが発生した。外交関係樹立については3月、ホンジュラスと外交関係を樹立した。これは中国にとって利益であるが、ほぼ相前後してフィジーは「駐フィジー台北商務弁事処」から「中華民国(台湾)駐フィジー商務代表団」に変更した。これは中国との関係を格下げすることであり、台湾は感謝した。
韓国の尹錫悦大統領は前任の文在寅大統領と異なり、米日との安全保障面での協力を重視している。また、中国側が警戒する、在韓米軍への高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の追加配備問題について、「韓国の安保主権の事案」として韓国が自ら判断する姿勢を示している。尹氏はさらに「力による現状の変更には反対する」と発言したので中国は激しく反発した。韓中間では現在も外交当局同士が激しく言い争っている。
南シナ海問題についてのG7広島サミットの首脳宣言は中国にとって特に刺激的であった。同宣言は「南シナ海における中国の拡張的な海洋権益に関する主張には法的根拠がなく、我々はこの地域における中国の軍事化の活動に反対する。我々は、UNCLOS(国連海洋法条約)の普遍的かつ統一的な性格を強調し、海洋における全ての活動を規律する法的枠組みを規定する上でのUNCLOSの重要な役割を再確認する。我々は、2016年7月12日の仲裁裁判所による仲裁判断が、仲裁手続の当事者を法的に拘束する重要なマイルストーンであり、当事者間の紛争を平和的に解決するための有用な基礎であることを改めて表明する」として明確に中国の主張を退けた。
仲裁判断は台湾には直接言及していないが、南シナ海は台湾、東シナ海とつながる海域であり、仲裁裁判の判断は台湾にも関係しうる。同判断は中国の台湾に対する主張を否定したことになりかねない。
G7広島サミットの首脳宣言に対し、孫衛東外務次官は5月21日、日本の垂秀夫駐中国大使を呼び、「中国の内政に乱暴に干渉し(中略)中国の主権、安全保障と発展上の利益を損なった」と、強く抗議した。これに対し、垂秀夫駐中国大使は「中国が行動を改めない限り、これまで同様にG7として共通の懸念事項に言及するのは当然」「まずは中国側が前向きな対応を行うべき」と反論したと伝えられた。立派な対応である。
中国はまた、南シナ海、台湾海峡、尖閣諸島などで艦艇や航空機による大胆な挑発的行動を再び増加させている。
中国は、日本で「台湾有事は日本有事」とする言説が増えていることにいら立ちを示している。
また、NATOの連絡事務所を東京に設置することを検討しているとの林芳正外相の5月10日の発言(CNNとの単独インタビューで語った)に強く刺激されているという。
中国の台湾に対するソフトタッチの姿勢は、総統選挙をあと半年後にひかえて国民党候補に有利に働いているか不明である。中国は今後どのような動きが出てくるか、注目が必要である。
2023.05.05
フェルディナンド・マルコス大統領は2022年6月30日、就任した。故マルコス元大統領の長男で元上院議員であり、子供の時から「ボンボン」の愛称で呼ばれてきた。ドゥテルテ前大統領から「英語はできるが、中身は甘やかされた弱虫。危機の時にリーダーシップを発揮できず、お荷物になる」と酷評されたこともあった。大統領選で有権者が選んだのはフェルディナンド・マルコスという個人ではなく、父マルコス元大統領から連なる一家のブランドであり、マルコス氏は一家の代理に過ぎず、政権運営には姉のアイミー上院議員らが関わるだろうともいわれていた。
フィリピンの外交においては日米中との関係が大きな比重を占めており、マルコス大統領は2023年1月に中国、2月に日本、5月に米国と立て続けに訪問した。様々な問題がある中で南シナ海、特に南沙諸島がもっとも厄介なので、本稿においてはこの問題を中心に論じていきたい。
中国が南沙諸島を始め南シナ海全域に対して一方的に領有権を主張し、いくつかの島嶼で埋め立て工事を行い、軍用基地などの建設を強行してきたことが事の発端であった。周辺の諸国のみならず米国や日本は、そのような主張・行動は国際法に違反する一方的なこととして認めていない。
マルコス大統領の前前任のアキノ3世大統領は米国や日本との関係を重視する人物であり、中国を相手に常設仲裁裁判所に訴え、2016年7月、裁判所は中国の主張を完全に否定し、中国には権利はないとする判断を下した。
この判決と相前後して新大統領に就任したロドリゴ・ドゥテルテ氏は、仲裁裁判を認めず「ただの紙切れに過ぎない」とする中国の主張に融和的であり、中国を非難しなかった。事実上の棚上にしたのであった。2021年5月にはドゥテルテ氏自身中国と同じ言い回しをしたこともあった。フィリピン大統領の中国寄りの姿勢は中国を喜ばせ、中比間の観光、貿易、援助は盛んにおこなわれた。
しかし、中国による南沙諸島での拡張工事は継続された。またフィリピンの漁船に対するハラスメントはその後も継続し、以前よりひどくなった面もあった。フィリピン国内からの突き上げを受けてドゥテルテ大統領も揺れ動いた。2021年11月、中国とASEAN首脳が開いたオンライン特別会議では、南シナ海を巡る中国とフィリピンの対立が表面化し、ドゥテルテ氏は中国海警局の行動を「嫌悪する」と非難し、中国海警局によるフィリピン民間船への妨害行為についても「他の同じような出来事にも重大な懸念を持っている」と非難した。
マルコス政権になってからもハラスメントは続き、2023年2月、南沙諸島のアユンギン礁付近で、海軍拠点への補給活動を支援していたフィリピンの巡視船が、中国海警局の艦船から軍事用レーザー光線の照射を受けたこともあった。
マルコス氏は、大統領選ではドゥテルテ氏と同様の融和姿勢を示したことがあったが、当選後に態度を一変させて仲裁裁判所の判決を支持し、排他的経済水域(EEZ)内に「1ミリも侵入させない」と強調した。そのため、一貫性を問われることもあったが、南シナ海問題を含む安全保障については明らかにドゥテルテ政権の方針を修正し、米国との同盟にふさわしい形に引き戻した。
5月1日の米比首脳会談において、バイデン氏は冒頭「南シナ海を含めフィリピン防衛に対するわれわれの決意は固い」と発言。マルコス氏も「南シナ海や太平洋での緊張の高まりに直面し、条約締結国(米国)との関係や果たすべき役割を強化し、再定義するのは当然だ」と応じた。共同声明では、中国を名指しはしなかったが、台湾や南シナ海周辺で軍事的圧力を強める中国を念頭に防衛協力を深化させる方針を示し、「台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を確認する」も明記した。
また、南シナ海や太平洋におけるフィリピンの艦船、航空機などへの武力攻撃には、米比の相互防衛条約(1951年締結)が発動されることを改めて確認した。さらに、米国とフィリピンは、米軍が使えるフィリピン内の軍事拠点を現在の5カ所からさらに4カ所増やすことで合意した。両国は4月11日、外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)を7年ぶりに開き、合同軍事演習など安全保障上の協力を深めた。
しかし、マルコス氏は反中になったのではない。フィリピンにとって中国との関係が重要であることに変わりはない。大統領就任直後には中国を「友人」と呼び、「関係をより強く深くし、偉大な両国の利益を図る」と発言した。就任式の後に組まれた各国代表団との会談も中国が最初で、米国と日本はその次であった。
マルコス大統領は1月3日から日本や米国に先立って中国を公式訪問し、習近平国家主席と首脳会談を行った。ただ、中国との間で懸案事項であった南シナ海を巡る問題、中国船舶のフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内での航行や集結などに関して、訪中前には中国批判を強めていたが、首脳会談では強い姿勢を直接示すことはなかったと伝えられている。わずかにホットラインを比外務省海洋局と中国外務省境界海洋局の間で設置することには合意が成立した。
マルコス氏としては訪中を成功させなければならなかった。ホットラインの設置だけではあまりに乏しいが、安全保障面以外では目立った成果が得られた。1月5日に発表された中比共同声明では14項目について合意し、その大半は経済、農業、貿易問題であったが訪中は成功であった。
マルコス氏は3か国歴訪を通じて、南シナ海問題では日米と協調して対処する姿勢を改めて確認する一方、中国とは観光、貿易などの分野で協力し合う方針のように思われる。
これに対し中国は、フィリピンのそのような方針は理想的ではないが、一見受け入れたかにみられる。南シナ海問題についてはフィリピン側の主張を聞くだけである。マルコス氏訪中の際も、また、秦剛外相が4月にフィリピンを訪れ、マナロ外相と会談した際もそのような姿勢であった。マナロ外相が「南シナ海では、フィリピン国民、とりわけ漁業者の生活の糧と安心が損なわれている」と述べ、中国の船舶によるハラスメントに抗議する気持ちを表明したのに対し、秦外相は南シナ海には何ら言及しなかった。
中国としては南沙諸島での領土拡張、基地建設工事は基本的に終わっており、フィリピンが抗議を表明しても相手にしないのが最善と考えている可能性がある。中国らしい対処の仕方である。
しかし、問題が解消されたわけではない。マルコス政権の外交方針を揺るがす問題が表面化する危険は残っている。
中国船によるフィリピン船に対するハラスメントは、残念ながら、今後も起こるだろう。フィリピン船へのレーザー光線の照射、フィリピン漁船の活動制限や拿捕、建設した基地の軍事利用なども考えられる。これらはどこまで中国政府がコントロールしているか、一定程度は現場限りで行動している可能性がある。
中国側の出方いかんで今後フィリピン議会や南シナ海を漁場とする漁業従事者から反発が再び高まることも予想される。ロイターは、マルコス大統領にとっては今回の訪中首脳会談は、今後後味の悪い思い出となりそうだと伝えている(2023年1月6日)。
とはいえ、中国との友好関係を壊すことなく、米日と安全保障の方策について合意できたことはマルコス政権の大きな成果とみてよいだろう。南シナ海と台湾はつながっており、フィリピンと中国との間の南シナ海問題は台湾の統一問題とも関連している。この関係が今後どのように展開するかは見通せないなかで、マルコス政権の日米との友好協力関係は重要性を増している。
マルコス大統領はただのボンボンでない
フェルディナンド・マルコス大統領は2022年6月30日、就任した。故マルコス元大統領の長男で元上院議員であり、子供の時から「ボンボン」の愛称で呼ばれてきた。ドゥテルテ前大統領から「英語はできるが、中身は甘やかされた弱虫。危機の時にリーダーシップを発揮できず、お荷物になる」と酷評されたこともあった。大統領選で有権者が選んだのはフェルディナンド・マルコスという個人ではなく、父マルコス元大統領から連なる一家のブランドであり、マルコス氏は一家の代理に過ぎず、政権運営には姉のアイミー上院議員らが関わるだろうともいわれていた。
フィリピンの外交においては日米中との関係が大きな比重を占めており、マルコス大統領は2023年1月に中国、2月に日本、5月に米国と立て続けに訪問した。様々な問題がある中で南シナ海、特に南沙諸島がもっとも厄介なので、本稿においてはこの問題を中心に論じていきたい。
中国が南沙諸島を始め南シナ海全域に対して一方的に領有権を主張し、いくつかの島嶼で埋め立て工事を行い、軍用基地などの建設を強行してきたことが事の発端であった。周辺の諸国のみならず米国や日本は、そのような主張・行動は国際法に違反する一方的なこととして認めていない。
マルコス大統領の前前任のアキノ3世大統領は米国や日本との関係を重視する人物であり、中国を相手に常設仲裁裁判所に訴え、2016年7月、裁判所は中国の主張を完全に否定し、中国には権利はないとする判断を下した。
この判決と相前後して新大統領に就任したロドリゴ・ドゥテルテ氏は、仲裁裁判を認めず「ただの紙切れに過ぎない」とする中国の主張に融和的であり、中国を非難しなかった。事実上の棚上にしたのであった。2021年5月にはドゥテルテ氏自身中国と同じ言い回しをしたこともあった。フィリピン大統領の中国寄りの姿勢は中国を喜ばせ、中比間の観光、貿易、援助は盛んにおこなわれた。
しかし、中国による南沙諸島での拡張工事は継続された。またフィリピンの漁船に対するハラスメントはその後も継続し、以前よりひどくなった面もあった。フィリピン国内からの突き上げを受けてドゥテルテ大統領も揺れ動いた。2021年11月、中国とASEAN首脳が開いたオンライン特別会議では、南シナ海を巡る中国とフィリピンの対立が表面化し、ドゥテルテ氏は中国海警局の行動を「嫌悪する」と非難し、中国海警局によるフィリピン民間船への妨害行為についても「他の同じような出来事にも重大な懸念を持っている」と非難した。
マルコス政権になってからもハラスメントは続き、2023年2月、南沙諸島のアユンギン礁付近で、海軍拠点への補給活動を支援していたフィリピンの巡視船が、中国海警局の艦船から軍事用レーザー光線の照射を受けたこともあった。
マルコス氏は、大統領選ではドゥテルテ氏と同様の融和姿勢を示したことがあったが、当選後に態度を一変させて仲裁裁判所の判決を支持し、排他的経済水域(EEZ)内に「1ミリも侵入させない」と強調した。そのため、一貫性を問われることもあったが、南シナ海問題を含む安全保障については明らかにドゥテルテ政権の方針を修正し、米国との同盟にふさわしい形に引き戻した。
5月1日の米比首脳会談において、バイデン氏は冒頭「南シナ海を含めフィリピン防衛に対するわれわれの決意は固い」と発言。マルコス氏も「南シナ海や太平洋での緊張の高まりに直面し、条約締結国(米国)との関係や果たすべき役割を強化し、再定義するのは当然だ」と応じた。共同声明では、中国を名指しはしなかったが、台湾や南シナ海周辺で軍事的圧力を強める中国を念頭に防衛協力を深化させる方針を示し、「台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を確認する」も明記した。
また、南シナ海や太平洋におけるフィリピンの艦船、航空機などへの武力攻撃には、米比の相互防衛条約(1951年締結)が発動されることを改めて確認した。さらに、米国とフィリピンは、米軍が使えるフィリピン内の軍事拠点を現在の5カ所からさらに4カ所増やすことで合意した。両国は4月11日、外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)を7年ぶりに開き、合同軍事演習など安全保障上の協力を深めた。
しかし、マルコス氏は反中になったのではない。フィリピンにとって中国との関係が重要であることに変わりはない。大統領就任直後には中国を「友人」と呼び、「関係をより強く深くし、偉大な両国の利益を図る」と発言した。就任式の後に組まれた各国代表団との会談も中国が最初で、米国と日本はその次であった。
マルコス大統領は1月3日から日本や米国に先立って中国を公式訪問し、習近平国家主席と首脳会談を行った。ただ、中国との間で懸案事項であった南シナ海を巡る問題、中国船舶のフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内での航行や集結などに関して、訪中前には中国批判を強めていたが、首脳会談では強い姿勢を直接示すことはなかったと伝えられている。わずかにホットラインを比外務省海洋局と中国外務省境界海洋局の間で設置することには合意が成立した。
マルコス氏としては訪中を成功させなければならなかった。ホットラインの設置だけではあまりに乏しいが、安全保障面以外では目立った成果が得られた。1月5日に発表された中比共同声明では14項目について合意し、その大半は経済、農業、貿易問題であったが訪中は成功であった。
マルコス氏は3か国歴訪を通じて、南シナ海問題では日米と協調して対処する姿勢を改めて確認する一方、中国とは観光、貿易などの分野で協力し合う方針のように思われる。
これに対し中国は、フィリピンのそのような方針は理想的ではないが、一見受け入れたかにみられる。南シナ海問題についてはフィリピン側の主張を聞くだけである。マルコス氏訪中の際も、また、秦剛外相が4月にフィリピンを訪れ、マナロ外相と会談した際もそのような姿勢であった。マナロ外相が「南シナ海では、フィリピン国民、とりわけ漁業者の生活の糧と安心が損なわれている」と述べ、中国の船舶によるハラスメントに抗議する気持ちを表明したのに対し、秦外相は南シナ海には何ら言及しなかった。
中国としては南沙諸島での領土拡張、基地建設工事は基本的に終わっており、フィリピンが抗議を表明しても相手にしないのが最善と考えている可能性がある。中国らしい対処の仕方である。
しかし、問題が解消されたわけではない。マルコス政権の外交方針を揺るがす問題が表面化する危険は残っている。
中国船によるフィリピン船に対するハラスメントは、残念ながら、今後も起こるだろう。フィリピン船へのレーザー光線の照射、フィリピン漁船の活動制限や拿捕、建設した基地の軍事利用なども考えられる。これらはどこまで中国政府がコントロールしているか、一定程度は現場限りで行動している可能性がある。
中国側の出方いかんで今後フィリピン議会や南シナ海を漁場とする漁業従事者から反発が再び高まることも予想される。ロイターは、マルコス大統領にとっては今回の訪中首脳会談は、今後後味の悪い思い出となりそうだと伝えている(2023年1月6日)。
とはいえ、中国との友好関係を壊すことなく、米日と安全保障の方策について合意できたことはマルコス政権の大きな成果とみてよいだろう。南シナ海と台湾はつながっており、フィリピンと中国との間の南シナ海問題は台湾の統一問題とも関連している。この関係が今後どのように展開するかは見通せないなかで、マルコス政権の日米との友好協力関係は重要性を増している。
2023.04.19
ロシア側の歓待ぶりは異例であった。プーチン大統領は李国防相がモスクワに到着したその日にクレムリンで会談した。ショイグ・ロシア国防相が同席した。しかもプーチン大統領にとって中国の国防相は2段階くらい格下である。プーチン大統領は異常なほど気を使っていた。
プーチン大統領は李国防相だけを歓待したのではない。さる2月には王毅外務委員が訪ロした際も同様に対応・歓待した。
3月20~22日には習近平国家主席がロシアを訪問した。この時も、中国がロシアに武器などを供与するのではないかと注目されたが、その合意はなかったらしい。中ロ両国はウクライナに一方的に対話を迫ったにとどまった。
それから1か月もたたないうちに李国防相がロシアを訪問したのである。王毅国務委員、習近平主席、それに今回の李尚福国防相と、中国外交のトップスリーが相次いで訪ロしたのであり、中国側の行動も異例であった。
この事実をどう読むべきか。中国がロシアに武器等供与を決定したからでない。事実は逆であって、中国は武器・弾薬は供与しないという立場を維持しているからこそ、ロシアに気を使っているのではないか。ロシアとの軍事協力はこれからも重視し、継続していく。合同軍事演習も行う。これらであればウクライナを支援する各国を過度に刺激しないで済む。両国はクレムリンでの会談で話し合ったであろう。軍事技術についての協力も進めていくことにしたのではないか。
中国の立場は2月24日に公表された「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」であり、習近平主席の訪ロの際も変わっておらず、また李国防相の訪ロにおいても変わっていなかったことが読み取れる。その要旨を念のため再掲しておこう。
(1)各国の主権の尊重。国連憲章の趣旨と原則を含む、広く認められた国際法は厳格に遵守されるべきであり、各国の主権、独立、及び領土的一体性はいずれも適切に保障されるべきだ。
(2)冷戦思考の放棄。一国の安全が他国の安全を損なうことを代償とすることがあってはならず、地域の安全が軍事ブロックの強化、さらには拡張によって保障されることはない。各国の安全保障上の理にかなった利益と懸念は、いずれも重視され、適切に解決されるべきだ。
(3)停戦。各国は理性と自制を保ち、火に油を注がず、対立を激化させず、ウクライナ危機の一層の悪化、さらには制御不能化を回避し、ロシアとウクライナが向き合って進み、早急に直接対話を再開し、情勢の緩和を一歩一歩推し進め、最終的に全面的な停戦を達成することを支持するべきだ。
(4)和平交渉の開始。対話と交渉はウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な道だ。
(5)人道的危機の解消。人道的危機の緩和に資する全ての措置は、いずれも奨励され、支持されるべきだ。
(6)民間人や捕虜の保護。紛争当事国は国際人道法を厳格に遵守し、民間人及び民生用施設への攻撃を避け、女性や子どもなど紛争の被害者を保護し、捕虜の基本的権利を尊重するべきだ。
(7)原子力発電所の安全確保。原子力発電所など平和的原子力施設への武力攻撃に反対する。
(8)戦略的リスクの低減。核兵器の使用及び使用の威嚇に反対するべきだ。
(9)食糧の外国への輸送の保障。各国はロシア、トルコ、ウクライナ、国連の署名した、黒海を通じた穀物輸出に関する合意を均衡ある、全面的かつ有効な形で履行し、国連がこのために重要な役割を果たすことを支持するべきだ。
(10)一方的制裁の停止。国連安保理の承認を経ていないいかなる一方的制裁にも反対する。
(11)産業チェーンとサプライチェーンの安定確保。各国は既存の世界経済体制をしっかりと維持し、世界経済の政治化、道具化、武器化に反対するべきだ。
(12)戦後復興の推進。国際社会は紛争地域の戦後復興への支援措置を講じるべきだ。中国はこれに助力し、建設的役割を果たすことを望んでいる。
「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」は中国の隠れ蓑として使われるかもしれないが、ロシアとの駆け引きなどにおいても役立つであろう。
一方、ロシアとして武器・弾薬の供与を中国に求めているならば、中国側にロシアに来させたのは賢明でなかった。もっとも中露間でどのようなやり取りがあったか我々には分からない。ロシア側から「中国へ行く、受け入れてほしい」と要請したが、中国はことわり、「こちらか行く」として相次ぐ訪ロになったのかもしれない。中国としてはロシアが100%満足する回答を与えることはできないからである。
なお、米国は中国製の武器・弾薬が一部すでにロシアにわたっており、今後もさらに供与される可能性があると認識していることが最近の情報漏洩の中で伝えられている。だが、我々が承知している限り、米国の見解も明確でないところがあり、中国は大規模な武器・弾薬の供与を決断するに至っていないと考えているのではないか。
以上の解釈には推測が混じるが、今後もこれまでの経緯を踏まえつつ中ロ関係、とくに武器・弾薬の供与問題を見ていく必要がある。
中国国防相のロシア訪問
中国の李尚福国務委員兼国防相は4月16日から19日までロシアを訪問した。ロシア側との間でどのような会談が行われ、また合意されたか。特に、中国はロシアに対し武器・弾薬の供与に合意したか。信頼できる情報は乏しいが、注目すべき点が二、三ある。ロシア側の歓待ぶりは異例であった。プーチン大統領は李国防相がモスクワに到着したその日にクレムリンで会談した。ショイグ・ロシア国防相が同席した。しかもプーチン大統領にとって中国の国防相は2段階くらい格下である。プーチン大統領は異常なほど気を使っていた。
プーチン大統領は李国防相だけを歓待したのではない。さる2月には王毅外務委員が訪ロした際も同様に対応・歓待した。
3月20~22日には習近平国家主席がロシアを訪問した。この時も、中国がロシアに武器などを供与するのではないかと注目されたが、その合意はなかったらしい。中ロ両国はウクライナに一方的に対話を迫ったにとどまった。
それから1か月もたたないうちに李国防相がロシアを訪問したのである。王毅国務委員、習近平主席、それに今回の李尚福国防相と、中国外交のトップスリーが相次いで訪ロしたのであり、中国側の行動も異例であった。
この事実をどう読むべきか。中国がロシアに武器等供与を決定したからでない。事実は逆であって、中国は武器・弾薬は供与しないという立場を維持しているからこそ、ロシアに気を使っているのではないか。ロシアとの軍事協力はこれからも重視し、継続していく。合同軍事演習も行う。これらであればウクライナを支援する各国を過度に刺激しないで済む。両国はクレムリンでの会談で話し合ったであろう。軍事技術についての協力も進めていくことにしたのではないか。
中国の立場は2月24日に公表された「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」であり、習近平主席の訪ロの際も変わっておらず、また李国防相の訪ロにおいても変わっていなかったことが読み取れる。その要旨を念のため再掲しておこう。
(1)各国の主権の尊重。国連憲章の趣旨と原則を含む、広く認められた国際法は厳格に遵守されるべきであり、各国の主権、独立、及び領土的一体性はいずれも適切に保障されるべきだ。
(2)冷戦思考の放棄。一国の安全が他国の安全を損なうことを代償とすることがあってはならず、地域の安全が軍事ブロックの強化、さらには拡張によって保障されることはない。各国の安全保障上の理にかなった利益と懸念は、いずれも重視され、適切に解決されるべきだ。
(3)停戦。各国は理性と自制を保ち、火に油を注がず、対立を激化させず、ウクライナ危機の一層の悪化、さらには制御不能化を回避し、ロシアとウクライナが向き合って進み、早急に直接対話を再開し、情勢の緩和を一歩一歩推し進め、最終的に全面的な停戦を達成することを支持するべきだ。
(4)和平交渉の開始。対話と交渉はウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な道だ。
(5)人道的危機の解消。人道的危機の緩和に資する全ての措置は、いずれも奨励され、支持されるべきだ。
(6)民間人や捕虜の保護。紛争当事国は国際人道法を厳格に遵守し、民間人及び民生用施設への攻撃を避け、女性や子どもなど紛争の被害者を保護し、捕虜の基本的権利を尊重するべきだ。
(7)原子力発電所の安全確保。原子力発電所など平和的原子力施設への武力攻撃に反対する。
(8)戦略的リスクの低減。核兵器の使用及び使用の威嚇に反対するべきだ。
(9)食糧の外国への輸送の保障。各国はロシア、トルコ、ウクライナ、国連の署名した、黒海を通じた穀物輸出に関する合意を均衡ある、全面的かつ有効な形で履行し、国連がこのために重要な役割を果たすことを支持するべきだ。
(10)一方的制裁の停止。国連安保理の承認を経ていないいかなる一方的制裁にも反対する。
(11)産業チェーンとサプライチェーンの安定確保。各国は既存の世界経済体制をしっかりと維持し、世界経済の政治化、道具化、武器化に反対するべきだ。
(12)戦後復興の推進。国際社会は紛争地域の戦後復興への支援措置を講じるべきだ。中国はこれに助力し、建設的役割を果たすことを望んでいる。
「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」は中国の隠れ蓑として使われるかもしれないが、ロシアとの駆け引きなどにおいても役立つであろう。
一方、ロシアとして武器・弾薬の供与を中国に求めているならば、中国側にロシアに来させたのは賢明でなかった。もっとも中露間でどのようなやり取りがあったか我々には分からない。ロシア側から「中国へ行く、受け入れてほしい」と要請したが、中国はことわり、「こちらか行く」として相次ぐ訪ロになったのかもしれない。中国としてはロシアが100%満足する回答を与えることはできないからである。
なお、米国は中国製の武器・弾薬が一部すでにロシアにわたっており、今後もさらに供与される可能性があると認識していることが最近の情報漏洩の中で伝えられている。だが、我々が承知している限り、米国の見解も明確でないところがあり、中国は大規模な武器・弾薬の供与を決断するに至っていないと考えているのではないか。
以上の解釈には推測が混じるが、今後もこれまでの経緯を踏まえつつ中ロ関係、とくに武器・弾薬の供与問題を見ていく必要がある。
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