平和外交研究所

中国

2023.12.28

習近平政権に何が起こっているのか

 あと数日で2023年が終了するというタイミングだが、どうしても書きとめておきたいことが起こった。

 『財新』は中国では珍しい、れっきとした独立系の新聞である。これまで経済問題を主として報道しており、政治には深く立ち入らないできた。しかし、このスタンスでは済まなくなったらしい。

 最近、『財新』の社説が2本立て続けに削除されたのである。第1は、12月18日に甘粛省で大地震が発生し、多数の死者が出たことを論じたものである。「被災家屋は外見は新しいが、内部はひどい状況であったことが地震で露呈した。そうなった原因は貧困のため建物の修繕などできなかったからである」とし、またそれに関連して、国民経済はコロナ禍から回復せず、人々の収入は減少したままであることなども論じた。

 第2は、「実事求是思想路線を学習しなおそう」と題するもので、現在の経済状況を批判し、政府は「形勢はよい」とお決まりのことを言うが、実際には民生は疲れおとろえている、立て直すには鄧小平が述べたように「実践と実事求是」を重視していかなければならないと論じ、習近平主席は中国経済を後退させ、国民生活を貧しくしたと批判する内容であった。「実事求是」とは「事実の実証に基づいて、物事の真理を追求すること」である。

 この2本の社説が1週間のうちに立て続けに撤回させられたのは重大なことであった。

 習近平主席は元来経済問題で采配を振るうことはあまりなかったが、2021年「貧困脱却の闘いに全面的に勝利した」と宣言しつつ、すべての人が豊かになるという「共同富裕」の目標を打ち出した。習主席は2012年の就任に際し「適度に豊かな社会」を目指すとしていたので10年弱の間に長足の進歩を遂げることになっていたのである。また、「習近平主席の経済思想」の学習会なるものも開催されている。

 ところが習主席の言葉とは真逆に、中国の不動産業界は低迷し、トップ企業のデフォルトの危険が高まった。中国では不動産業がGDPの約11%を占めており、その不振の影響は大きい。

 そして『財新』は中国経済の現況を厳しくみつめる社説を掲げた。いままでは政治へはあまり関与してこなかったが、経済と政治が結びついてきた今日、黙ってみておれなくなったのである。経済状況が悪いこと、建前と実態がかけ離れてきたのは習主席に責任があるという指摘だととられてもしかたない内容であり、ただちに削除された。

 過去1年、秦剛外相の突然の解任、李尚福国防相の解任、北部地域の大洪水、G20首脳会議への欠席、南シナ海の新版地図の発表、福島第一原子力発電所の放射能処理水の海洋放出への反発と日本からの水産物輸入の完全停止、台湾での総統選挙(来年1月)、湖南省での毛沢東像の撤去に続いて起こった『財新』社説の削除である。直ちに大事に至ることはないだろうが、習主席に批判的な声が増えつつあるのではないかと思われてならない。
2023.12.27

南シナ海をめぐる中比紛争

 2022年末以降、南シナ海において、フィリピン補給船に対するハラスメントや新たな埋め立てなど、中国の動きが活発化している。

 23年早々マルコス・フィリピン大統領が訪中し、習近平中国主席と南シナ海問題について対話重視の方針を確認しあったが、何ら効果はなかった。フィリピン側によれば、中国側は強硬な姿勢を続け、フィリピン船に対する放水、体当たり、レーザー照射を行い、また100隻を超える「海上民兵」船団を派遣している。8月には中国側の一方的主張を記した「標準地図」の最新版を公表した。

 フィリピン側はこれらの状況をほぼすべて映像に収めており、また、中国側が敷設した「障害物」を除去するなどの行動もとっているが、攻勢はほとんどすべて中国側によるものだという。

 5月20日のG7広島首脳コミュニケでは次のように謳われた(第52項)。
「 南シナ海における中国の拡張的な海洋権益に関する主張には法的根拠がなく、我々はこの地域における中国の軍事化の活動に反対する。我々は、UNCLOS(国連海洋法条約)の普遍的かつ統一的な性格を強調し、海洋における全ての活動を規律する法的枠組みを規定する上でのUNCLOSの重要な役割を再確認する。我々は、2016年7月12 日の仲裁裁判所による仲裁判断が、仲裁手続の当事者を法的に拘束する重要なマイルストーンであり、当事者間の紛争を平和的に解決するための有用な基礎であることを改めて表明する。」

 また日米比などの安全保障担当高官による協議も行われている。12月13日にはオースティン米国防長官とテオドロ比国防相が電話協議を実施した。

 中国はこのような状況に不満なのであろう。王毅外相は12月20日、フィリピンのマナロ外相と電話会談し、南シナ海情勢を巡りフィリピンが判断を誤れば中国は断固として対応すると警告した。

 また中国共産党機関紙、人民日報は12月25日、フィリピンが南シナ海で中国の領土を繰り返し侵害しているほか、偽情報を拡散し、米国の支持を頼みにして中国を挑発し続けており、そのような「極めて危険」な行動は地域の平和と安定に深刻な害を与えているとする論評を掲載した。

 このような中国側の姿勢は、国際仲裁裁判の判断をはじめ、日米比、G7サミット諸国など世界の大多数の諸国の立場とあまりに異なっている。それは一方的であり、かつ恐ろしいものである。本稿では、これ以上どちらに、どんな非があるかは論じないが、中国が国際仲裁裁判所の判断を尊重し、またわれわれを脅すのをやめることを切に要望する。

(The following was translated automatically)
China-Philippines dispute over the South China Sea
China has become increasingly active in the South China Sea, harassing Philippine ships and conducting new land reclamation.
Early in 2023 , Philippine President Marcos visited China and agreed with Chinese President Xi Jinping to emphasize dialogue regarding the South China Sea issue, but this had no effect. According to the Philippines, China has continued to take a tough stance, spraying with water , ramming and irradiating Philippine ships and sent a fleet of more than 100 “maritime militia” vessels. In August, the latest version of the “Standard Map,” which describes China’s unilateral claims, was released.
The Philippine side has captured almost all of these situations on video, and has also taken actions such as removing “obstacles” set up by the Chinese side, but almost all of the offensives are said to have been carried out by the Chinese side.
G7 summit held at Hiroshima last May 20 stated the following (paragraph 52 ):
“ China’s claims of expansive maritime interests in the South China Sea have no legal basis and we oppose China’s militarized activities in the region. We reiterate the important role of UNCLOS in defining the legal framework that governs all activities at sea. We reiterate that this is an important milestone in legally binding the parties to an arbitration proceeding and a useful basis for peacefully resolving disputes between the parties. ”
Discussions are also being held between senior security officials from Japan, the United States, and the Philippines. On December 13, U.S. Secretary of Defense Austin and Philippine Defense Minister Teodoro held a telephone conversation .
China seems dissatisfied with this situation. Foreign Minister Wang Yi spoke by phone with Philippine Foreign Minister Manalo on December 20, warning that China would respond decisively if the Philippines misjudged the situation in the South China Sea.
The Chinese Communist Party’s official newspaper People’s Daily reported on December 25 that the Philippines has repeatedly violated Chinese territory in the South China Sea, spread disinformation, and continues to provoke China by relying on support from the United States. The paper published a commentary stating that such “extremely dangerous” actions are causing serious harm to regional peace and stability.
This attitude of China is so contrary to the international arbitration court decisions, and also to the position of the majority of countries in the world, including Japan, the United States, the Philippines, and the G7 summit countries. Chinese unilateral behavior is frightening. In this article, I will not discuss which party is at fault any further, but I sincerely request that China respect the judgment of the International Court of Arbitration and stop threatening us.
2023.12.24

毛沢東像の撤去

 毛沢東生誕から130周年になる12月26日を目前にして、生まれ故郷に近い湖南省省都の長沙市で奇妙な事件が起こった。この銅像はさる10月ごろ国慶節の記念として、長沙市の中心部から車で1時間程度の花実村の広場に住民らが集めた資金で建てられたのもつかの間、11月のはじめ何者かによって撤去されてしまったのである。
 
 中国のネット上では、誰が、どんな権限で撤去したのか訝る声が流れている。ある人は長沙市に電話をかけ、事件について質問した。これに対し同市の係官は、「事件については上級部署に報告済である。事件の真相はわからない。自分にはそれ以上こたえる権限がない」などという説明であった。質問した人は、「中国建国の父である毛沢東の銅像は誰にでも壊せるものでなく、政府当局でなければできないことである。政府はことの始末を全国民に説明する義務がある」と厳しく指摘し、さらに、「銅像は再建するのだろうな。また電話する」といって切ったという。

 この事件は日本のメディアだけでなく中国でもネットで報道された。報道したのは「紅歌会網」、すなわち「赤い歌を歌う会」であり、「文化革命の精神を想起する会」という意味である。

 この事件には単に公の銅像が壊されたというだけでは済まない面がありうる。常識的には、毛沢東像の撤去を指示できるのは最高の指導者でしかありえないからである。ただし、どのような事情が隠れているかわからない現時点で、この事件に高度の政治性があるか、軽々に結論を下すことはできない。さる9月16日、当研究所のHPに掲載した「習近平政権において何が起こっているか」で指摘した諸事情、さらには李国強首相死亡(10月27日)の影響などとともによくみていく必要がある。

(The following was translated automatically.)
Mao Zedong statue removal
On December 26, the 130th anniversary of Mao Zedong’s birth , a strange incident occurred in Changsha, the capital of Hunan province, near his hometown. This bronze statue was erected around October as a commemoration of National Day in the square of Huami Village, about an hour’s drive from the center of Changsha, with funds collected by residents . It was unfortunately removed for some reason .
 
There are voices on the Chinese internet wondering who removed it and with what authority. One person called the city of Changsha and asked about the incident. In response, a city official said, “The incident has been reported to a higher department. We do not know the truth of the incident. I do not have the authority to respond further.” The person who asked the question further said, “The statue of Mao Zedong, the founding father of China, cannot be destroyed by anyone, but only the government authorities can do it. The government has an obligation to explain to all the people what happened.” He then said, “I guess the statue will be rebuilt. I’ll call you again,” and hung up.
This incident was reported not only in Japanese media but also online in China. What was reported was the “Red Song Association Network,” or “Red Song Singing Association,” which means “An Association to Remember the Spirit of the Cultural Revolution.”
There may be more to this incident than just the destruction of a public statue. Common sense dictates that only the highest leader can order the removal of Mao Zedong statues. However, at this point in time, we do not know what the underlying circumstances are, so we cannot lightly conclude whether or not this incident has a highly political nature. We must take a closer look at the following development of this incidenta, various circumstances pointed out in the article “What’s Happening in the Xi Jinping Administration” posted on our website on September 16th , as well as the effects of Prime Minister Li Guoqiang’s death ( October 27th ).

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