平和外交研究所

中国

2023.11.16

EEZ内へのブイ設置

日本の排他的経済水域(EEZ)内(尖閣諸島の北西約80キロ)に中国当局が勝手に設置したブイの扱いが問題になっている。日本政府は中国政府に対し撤去を求めているが、中国は応じない。大きく見て、法的問題と政治的問題がある。

上川外相は、「国連海洋法条約には(沿岸国である日本が撤去できることを示す)明文規定がない。個別具体的な状況に応じた検討が必要で、(撤去の)可否を一概に答えるのは困難だ」と述べ、外交的に問題を解決する姿勢を示した。

この説明には若干問題がある。上川外相は、中国が日本の了解を得ないまま勝手に設置した海上ブイを日本が除去することは海洋法条約で許されないと答弁していると取る人が少なくないだろうが、同条約で許されるか否かは解釈次第である。

国連海洋法条約には次の規定がある。

第六十条 排他的経済水域における人工島、施設及び構築物
1 沿岸国は、排他的経済水域において、次のものを建設し並びにそれらの建設、運用及び利用を許可し及び規制する排他的権利を有する。
 (a)人工島
 (b)第五十六条に規定する目的その他の経済的な目的のための施設及び構築物
 (c)排他的経済水域における沿岸国の権利の行使を妨げ得る施設及び構築物
2 沿岸国は、1に規定する人工島、施設及び構築物に対して、通関上、財政上、保健上、安全上及び出入国管理上の法令に関する管轄権を念む排他的管轄権を有する。
3 1に規定する人工島、施設又は構築物の建設については、適当な通報を行わなければならず、また、その存在について注意を喚起するための恒常的な措置を維持しなければならない。放棄され又は利用されなくなった施設又は構築物は、権限のある国際機関がその除去に関して定める一般的に受け入れられている国際的基準を考慮して、航行の安全を確保するために除去する。その除去に当たっては、漁業、海洋環境の保護並びに他の国の権利及び義務に対しても妥当な考慮を払う。完全に除去されなかった施設又は構築物の水深、位置及び規模については、適当に公表する。
4 沿岸国は、必要な場合には、1に規定する人工島、施設及び構築物の周囲に適当な安全水域を設定することができるものとし、また、当該安全水域において、航行の安全並びに人工島、施設及び構築物の安全を確保するために適当な措置をとることができる。
5 沿岸国は、適用のある国際的基準を考慮して安全水域の幅を決定する。安全水域は、人工島、施設又は構築物の性質及び機能と合理的な関連を有するようなものとし、また、その幅は、一般的に受け入れられている国際的基準によって承認され又は権限のある国際機関によって勧告される場合を除くほか、当該人工島、施設又は構築物の外縁のいずれの点から測定した距離についても五百メートルを超えるものであってはならない。安全水域の範囲に関しては、適当な通報を行う。
6 すべての船舶は、4の安全水域を尊重しなければならず、また、人工島、施設、構築物及び安全水域の近傍における航行に関して一般的に受け入れられている国際的基準を遵守する。
7 人工島、施設及び構築物並びにそれらの周囲の安全水域は、国際航行に不可欠な認められた航路帯の使用の妨げとなるような場所に設けてはならない。
8 人工島、施設及び構築物は、島の地位を有しない。これらのものは、それ自体の領海を有せず、また、その存在は、領海、排他的経済水域又は大陸棚の境界画定に影響を及ぼすものではない。

海上ブイの撤去はどのように規定されているか、一つの解釈を示してみたい。
・海上ブイは「排他的経済水域における沿岸国の権利の行使を妨げ得る施設及び構築物(56条1(c))にあたる。
・沿岸国は「それらの建設、運用及び利用を許可し及び規制する排他的権利を有する」
・したがって日本は海上ブイを規制する権利を有する。

国連海洋法には「海上ブイ」という言葉は出てこないが、沿岸国である日本は規制する権利を持つということである。撤去してよいと条約には書いてないので撤去できないと考える人がいれば、それは違うといわざるを得ない。条約では日本ができることをいちいち書かない。一般的な表現で示されることはよくある。

逆の方向から見ておくと、日本が海上ブイを撤去すると国連海洋法に違反するか。これも直接的には書いてないが、違反しない。「権利」であることは前述した。上川外務大臣の答弁は、日本が撤去すると海洋法違反になると断定しているわけでないが、そのような意味合いで説明した感じがする。

以上が法的解釈だが、実際にブイを撤去したほうがよいかというと、そうは思わない。法的立場は明確にしつつも、政治的考慮を加えることは、これまたいくらもあることであり、海上ブイについては「沿岸国の権利の行使を妨げ得る」という条件にあたるか。自明でないかぎり実力行使には慎重でなければならない。

わが国会では、海上ブイに強い不快感を抱いていることを示す発言が行われている。心情的にはそれもわかるが、実力行使はしないほうがよいと考える。日中間では日本産水産物の輸入規制の方がはるかに深刻である。もちろん、海上ブイも危険になることはありうるが、今のところそのようなものでないと認識されている。

国会の一部には、「ブイは日本の主権、尊厳、国益を侵すものだ。海のゴミとして考えれば、撤去はできる。要は、総理に覚悟があるか、ということだ」というような意見があるが、そのような粗雑な論理は百害あって一利なし、である。

 結論としては、外交交渉で撤去を求めるのが妥当であろう。

 そして、どうしてもらちが明かない場合、国際海洋裁判所に訴え出るべきである。裁判が成立するには両当事者の同意が必要であり、中国が応じるか疑問だが、訴え出ることに意味がある。
2023.11.04

中国におけるハロウィンと愛国主義教育法

中国でも仮装してハロウィンを祝う。11月1日が全ての聖人と殉教者を記念するキリスト教の「万聖節」であり、人々はその前夜からさまざまに仮装して楽しむ。今年はゼロコロナが終わって初めてなので、人手が特に多かったらしい。

ゾンビ、キョンシー(死体妖怪)、お化けかぼちゃ、コスプレなどで仮装するのは日本や韓国と同様だが、中国では「ハロウィン」と言ってはいけないことになっている。当局が西洋の文化だとしてその文字を使わないよう指示しているからだという。お化けも中国風のものが混じっており、中国皇帝や皇女などの仮装も多いそうだ。

中国が日本と同様、あるいは日本以上に自国の文化を大切にするのはよくわかる。日本でもハロウィンの楽しみが行き過ぎになり、暴力沙汰も起こるので規制しはじめている。人々に親しまれている「ハチ公」もハロウィンの時は覆いで囲って見えなくした。

しかし、「ハロウィン」という言葉を使わないよう、あるいは中華を称揚する仮装をするよう当局が指示することはよいことか。中国人でないものが余計なおせっかいを焼くべきでないのはもちろんだが、この問題は、間接的には中国以外にも影響が及んでくる可能性がある。

これはハロウィンと全く関係ないことであるが、中国では若者が日本の和装をしていると、それだけで注意されることがあるという。ある映像では、注意した中年の女性と和装をした若い女性が路上で激しく言い争っていた。

中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会がさる10月24日に可決した愛国主義教育法という新法は、当局による愛国主義的指導の法的基礎である。例えば、「中華民族と偉大な祖国への思い入れを育み、愛国の力を結集させる」などと中華の伝統を称揚し、国民はそれに沿って行動するよう求めている。

習近平主席がことあるごとに「大国意識」を強調し、また共産党の一党独裁体制が揺るがないよう努めてきたことは広く知られているが、愛国主義教育にもその考えが表れている。習氏は今年(2023年)6月の重要会議で「中華文明は突出した統一性を備えている。国土は分割されてはならず、民族がバラバラになってはならないという共通の信念を抱いている」などと強調した。習氏のこうした考えは、「習近平文化思想」と位置づけられ、宣伝されるようになっている。当局が若者の西洋かぶれ的な風潮を戒め、中華の伝統を尊重するよう求めるのも同じ傾向の表れであろう。

しかし若者はどのように考えているか。たしかに若者の中にも中国人であることに誇りを持ち、中国文化の発揚に努めたいと考えている人は少なくない。

他方、世界の流行をフォローし、日本のアニメなどに強い関心を抱く若者も少なくない。最近話題になったアニメの「スラムダンク」は、中国でも韓国でも圧倒的な人気を博した。中国人の若者は日本人や韓国人と同様、「面白いものは楽しむ」という国際的な感覚で行動しているのである。

若者に対し、中華の伝統を強調し、尊重するよう求めるのがよいか、それとも面白いことはどの国の文化であろうと楽しむことを認めるのがよいか。難しいところであるが、若者が自己の判断で創意工夫することを政府が抑制すると、彼らの不満が高じる。

日本にとっても他人事でない。学術会議の任命問題など、学術研究に政府の方針を強要していることにならないか。中国においても日本においても思想・文化への過度の公的介入は碌な結果にならない。


2023.10.16

中国で外国人に対する規制が強くなっている

最近中国への渡航が困難になっているということが頻繁に聞こえてくる。日本人だけでなく、すべての外国人にとっての問題である。コロナ禍の時には防疫の観点からどの国も厳しい入国規制を敷いた。細部については国によって違いはあったが、大筋はどの国も同様であり、さまざまな不便や苦しみを何とか乗り越えてきた。現在、コロナ禍が完全に収まったわけでないが、強い入国規制は必要でなくなり、常態に復しつつある。このような傾向は中国でも認められる。

しかし、それから1年もたたないうちに、コロナ禍とは全く関係ない理由で中国への渡航が困難になってきているという。もちろん、中国政府が外国人の中国への渡航を制限しているのではないだろうが、現実に問題が発生している。

たとえば、外国人が支払いをするのが困難になっている。中国ではいち早くキャッシュレス化が進んでおり、カードがないと日常生活も困難であるが、中国を訪問した外国人はカード支払いができなくなっているという。

たとえば、中国の空港に降り立ったばかりの外国人が買い物をしようにも支払いに困るはずである。しかし、たいがいの人は飛行機に乗る前から用心するだろうから特に大騒ぎすることはないかもしれない。

しかし最近は、中国の事情に通じているビジネスマンも困っている。かれらは中国でも使えるカードを持っているのでキャッシュレス化の恩恵を受けることができるはずであるが、実際には使えなくなっているという。

外国人が支払いできないなどにわかには信じがたいことであるが、実際に起こっていることらしい。例えば、2010年代に上海の現地法人で総経理を務めた経験のある某氏は、「中国はもう外国人が生活できる場所ではありません。現地に信頼できる中国人がいなければ、外国人は“行き倒れ”になるリスクさえあります」と、中国出張を振り返ったそうだ(ダイヤモンド・オンライン 2023年10月14日)。コロナ前まで、この人は中国の決済アプリでキャッシュレス決済を行っていたが、今回の渡航では銀行認証が厳格化されて使えなくなっていたので、中国人の知人に立て替えてもらったそうだ。
 
出張者だけでない。中国で事業を行っている外国人も厳しい規制にさらされている。さる3月、北京で拘束された日本のアステラス製薬の日本人男性社員は10月20日、正式に逮捕された。日本政府は男性の早期解放を求めているが、中国側は応じていない。拘束は長期化するのではないかと懸念されている。

また、レアメタル(希少金属)などを扱っている中国の日系非鉄専門商社や取引先中国企業の中国人社員も今年3月、北京と上海でそれぞれ拘束された。判明したのは最近である。
 
これらを含め、15年以降に拘束された邦人は少なくとも計17人にのぼる。

日本人や日系企業だけでない。台湾の世界的企業である鴻海の中国子会社の一部は税務調査を受けており、河南省や湖北省などにおける系列企業の土地使用について、中国の自然資源省の立ち入り調査を受けている。鴻海は10月22日の声明で「事業展開先の法令を順守することは、当社の基本原則だ」と表明しているが詳細は不明である。

カード利用が困難になっていることと言い、拘束されるケースが増えていることと言い、外国人にとっては大問題である。中国に来る外国人は減少するだろうし、中国で事業を行っている外資系企業は困難に逢着する。

このような規制は中国の本来の方針にもとるのではないか。例えば中国では外国の投資を歓迎しており、奨励策も取っている。にもかかわらず、結果的には外国人が中国に来にくくしているのであり、これは明らかな矛盾である。中国の駐日大使は対中投資を奨励しているが、日本人の投資家が中国を訪れるのを妨げる環境を改めるのが先ではないか。日本人が簡単な支払いさえできなくなるような状況をほっておいて投資を進めようとしてもことは動かない。

なぜこのような極端なことが許容(あるいは放任?)されているのか。その問題を追及するのは本稿の手に余る。我々の想像をはるかに超える複雑な事情があるのかもしれないが、だからと言って外国人の排除につながること、中国への投資奨励という国策を無視する結果になることは即刻改めてもらいたい。


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