中国
2023.09.11
インドのジャイシャンカル外相は9日午後の会見で今回の宣言で表現が変わった理由を問われ、「バリ(昨年のサミット開催地)はバリ。ニューデリーはニューデリーだ」と微妙な言い回しで対応した。一応突っぱねてはいたが、防戦に努めていたのは明らかであった。
しかし、議長国インドの努力を評価する国も少なくなかった。ロシアのラブロフ外相は、首脳会議閉幕後の記者会見で、「全加盟国にとって無条件の成功だ」と高く評価した。ロシアにとってロシア非難は弱ければ弱いほど良いので、ラブロフ外相のコメントはなんら驚きでなかった。
米国のサリバン大統領補佐官は、首脳宣言が「領土の保全や主権に反する領土の獲得のために武力を用いてはならない」「核兵器の使用や威嚇は許されない」といった原則に触れていると指摘しつつ、「(首脳宣言採択は)議長国のインドにとって重要で、画期的な出来事だ」「とてもよい仕事をしている」とも指摘したので誤解を招いた。サリバン氏としてはインドの長年にわたるロシアとの軍事面での協力がある一方、米国や日本との協力を深めつつあることに配慮した発言であったが、ウクライナ侵攻を強く批判する米国と侵攻の張本人であるロシアがともに首脳宣言を評価するという奇妙な形になった。だが、ウクライナ侵攻についての米ロ両国の立場が変わったわけではない。米ロがともに首脳宣言を評価したのは異なる解釈によることであり、深刻な問題でない。
今回のG20首脳会議に中国の習近平主席は欠席した。習氏はこれまでいつも出席しており、G20を評価する発言を行ったこともあるし、「小さい会議」の影響力は限られているという趣旨の発言をしたこともあった。先般開かれたBRICS(中、ロ、インド、ブラジルおよび南ア)では参加国を6か国増加することが合意されたが、中国はその旗振りを務めたといわれている。習主席がG7に対抗意識を抱いているのは明らかである。
G20はそのような姿勢を誇示する格好の機会である。それだけに習主席が今回の首脳会議に欠席したのは不可解といわざるをえなかった。今次会議の直前、中国は南シナ海、台湾、尖閣諸島など他国の領土を中国領とする地図(最新官製地図)を公表したので、関係各国は反発し、批判も行った。
また、日本による処理水の海洋放出について、多数の国は中国の立場を支持しない、日本を支持するとの表明を行った。そのようなことからG20首脳会議に出るとその場で、あるいはその際開かれる2国間会議において中国が批判される懸念があったので習主席は欠席することにしたという見方もあるようだが、そんなことでひるむような中国でない。
習主席がG20を欠席したのは、むしろ内政上の理由からではないかと思う。特に経済問題である。中国経済はコロナ禍以前から下降線をたどっており、2019年は 5.95%、22年は3・0%と、目標の「5・5%前後」に届かず、世界平均(3・4%)をも40年超ぶりに下回った。
2022年12月、中国政府は「ゼロコロナ」政策を突然打ち切ったが、経済は思ったほど回復しなかった。勢いがないことを示すデータが次々に公表され、「予想外の息切れ」ともいわれた。そして不動産業界の混乱が表面化した。不動産業はGDPの約10%を占めており、その混乱は中国経済に大きな影響を及ぼす。日本が20数年前に経験したよりひどいバブル崩壊が起こるともいわれている。もっとも中国政府は強権的手法を使ってでも混乱を防ぐだろうから直ちに数字になって表れることはないかもしれないが、中国経済の矛盾は今後増大していくだろう。経済は李克強前首相以下が担当していたが、習主席は関与しなかったわけでない。とくに不動産業の救済立て直しが国家的課題となると、習氏としても関与を強めていく必要が出てくるだろう。
それに7月末から8月初めにかけ北京市、天津市、河北省、福建省などで発生した集中豪雨と大洪水である。北京では過去140年間で最大の降水量であったという。習主席は7月末から水害対策の指示を出していたと抗弁したが、現地へ赴くことはなく、そのためネットで批判された。習近平氏が現地を視察したのは9月6~8日の黒竜江が初めてであったらしい。
習近平政権は批判に対して敏感である。詳細は我々には不明であるが、洪水対策と復興支援の不調が政権の足を引っ張った可能性がある。中国メディアの報道からもそのような問題がうかがわれた。
おりしもコロナの蔓延はやはり武漢の研究所から始まったのだとする説が流れ始め、この問題に関連して習近平主席には誤算があったともいわれている。真偽のほどはわからないが、この問題も今後尾を引く危険がある。
習氏は今回のG20首脳会議を欠席したので、バイデン大統領と習主席が会う機会があるのは11月にバンコクで開かれるAPEC首脳会議である。ただし、習主席は出席を決めているわけでない。
また、米国は2026年のG20首脳会議を米国で開催したいとしているが、中国は反対している。APECは別の会議であるが、この問題についても話し合われるだろう。
G20ニューデリー首脳会議と習近平主席の立場
ニューデリーで開催されているG20首脳会議においてウクライナ侵略がどのように扱われるか、意見の対立が大きすぎて首脳宣言が出せなくなるのではないかと注目されていたが、モディ首相の手腕により首脳宣言が無事合意された。だが、昨年インドネシアのバリ島で採択された首脳宣言にあった、ウクライナ侵攻を「ロシアの侵略」とした表現や「ウクライナ領土からの完全かつ無条件の撤退を要求」との文言がなくなったので、今回は昨年より後退したと評された。インドのジャイシャンカル外相は9日午後の会見で今回の宣言で表現が変わった理由を問われ、「バリ(昨年のサミット開催地)はバリ。ニューデリーはニューデリーだ」と微妙な言い回しで対応した。一応突っぱねてはいたが、防戦に努めていたのは明らかであった。
しかし、議長国インドの努力を評価する国も少なくなかった。ロシアのラブロフ外相は、首脳会議閉幕後の記者会見で、「全加盟国にとって無条件の成功だ」と高く評価した。ロシアにとってロシア非難は弱ければ弱いほど良いので、ラブロフ外相のコメントはなんら驚きでなかった。
米国のサリバン大統領補佐官は、首脳宣言が「領土の保全や主権に反する領土の獲得のために武力を用いてはならない」「核兵器の使用や威嚇は許されない」といった原則に触れていると指摘しつつ、「(首脳宣言採択は)議長国のインドにとって重要で、画期的な出来事だ」「とてもよい仕事をしている」とも指摘したので誤解を招いた。サリバン氏としてはインドの長年にわたるロシアとの軍事面での協力がある一方、米国や日本との協力を深めつつあることに配慮した発言であったが、ウクライナ侵攻を強く批判する米国と侵攻の張本人であるロシアがともに首脳宣言を評価するという奇妙な形になった。だが、ウクライナ侵攻についての米ロ両国の立場が変わったわけではない。米ロがともに首脳宣言を評価したのは異なる解釈によることであり、深刻な問題でない。
今回のG20首脳会議に中国の習近平主席は欠席した。習氏はこれまでいつも出席しており、G20を評価する発言を行ったこともあるし、「小さい会議」の影響力は限られているという趣旨の発言をしたこともあった。先般開かれたBRICS(中、ロ、インド、ブラジルおよび南ア)では参加国を6か国増加することが合意されたが、中国はその旗振りを務めたといわれている。習主席がG7に対抗意識を抱いているのは明らかである。
G20はそのような姿勢を誇示する格好の機会である。それだけに習主席が今回の首脳会議に欠席したのは不可解といわざるをえなかった。今次会議の直前、中国は南シナ海、台湾、尖閣諸島など他国の領土を中国領とする地図(最新官製地図)を公表したので、関係各国は反発し、批判も行った。
また、日本による処理水の海洋放出について、多数の国は中国の立場を支持しない、日本を支持するとの表明を行った。そのようなことからG20首脳会議に出るとその場で、あるいはその際開かれる2国間会議において中国が批判される懸念があったので習主席は欠席することにしたという見方もあるようだが、そんなことでひるむような中国でない。
習主席がG20を欠席したのは、むしろ内政上の理由からではないかと思う。特に経済問題である。中国経済はコロナ禍以前から下降線をたどっており、2019年は 5.95%、22年は3・0%と、目標の「5・5%前後」に届かず、世界平均(3・4%)をも40年超ぶりに下回った。
2022年12月、中国政府は「ゼロコロナ」政策を突然打ち切ったが、経済は思ったほど回復しなかった。勢いがないことを示すデータが次々に公表され、「予想外の息切れ」ともいわれた。そして不動産業界の混乱が表面化した。不動産業はGDPの約10%を占めており、その混乱は中国経済に大きな影響を及ぼす。日本が20数年前に経験したよりひどいバブル崩壊が起こるともいわれている。もっとも中国政府は強権的手法を使ってでも混乱を防ぐだろうから直ちに数字になって表れることはないかもしれないが、中国経済の矛盾は今後増大していくだろう。経済は李克強前首相以下が担当していたが、習主席は関与しなかったわけでない。とくに不動産業の救済立て直しが国家的課題となると、習氏としても関与を強めていく必要が出てくるだろう。
それに7月末から8月初めにかけ北京市、天津市、河北省、福建省などで発生した集中豪雨と大洪水である。北京では過去140年間で最大の降水量であったという。習主席は7月末から水害対策の指示を出していたと抗弁したが、現地へ赴くことはなく、そのためネットで批判された。習近平氏が現地を視察したのは9月6~8日の黒竜江が初めてであったらしい。
習近平政権は批判に対して敏感である。詳細は我々には不明であるが、洪水対策と復興支援の不調が政権の足を引っ張った可能性がある。中国メディアの報道からもそのような問題がうかがわれた。
おりしもコロナの蔓延はやはり武漢の研究所から始まったのだとする説が流れ始め、この問題に関連して習近平主席には誤算があったともいわれている。真偽のほどはわからないが、この問題も今後尾を引く危険がある。
習氏は今回のG20首脳会議を欠席したので、バイデン大統領と習主席が会う機会があるのは11月にバンコクで開かれるAPEC首脳会議である。ただし、習主席は出席を決めているわけでない。
また、米国は2026年のG20首脳会議を米国で開催したいとしているが、中国は反対している。APECは別の会議であるが、この問題についても話し合われるだろう。
2023.09.05
中国では定年に関し、「七上八下」という了解が作られている。「党大会時の年齢が67歳以下であれば引き続き現役として活動する(留任する)が、68歳以上であれば退任する」という意味である。この了解は党規約に記載されていないが、党の新陳代謝のために必要であると考えられ、受け入れられてきた。
江沢民氏と胡錦涛氏はこの了解に従った。習近平氏も第20回共産党大会開催の時点ですでに69歳になっており、後継者にバトンを渡すものと思われてきたが、総書記の地位にとどまることとなった。
10月22日、同大会の閉幕式で奇妙なことが起こった。習近平総書記の隣に座っていた胡錦濤・前総書記(79)が改正党規約の採択に入る直前、関係者に促され、途中退席した。その理由については胡錦涛氏を外すためであったといわれた。
時間的に順序が逆になるが、大会開催前の13日、北京市内の高架橋に「独裁の国賊、習近平(国家主席)を罷免せよ」と書かれた巨大な横断幕が掲げられるという異例の事態が起こった。それには「封鎖は要らない、自由が欲しい」「領袖(りょうしゅう)は要らない、投票が欲しい」などとも書かれていた。封鎖はゼロコロナのことである。この横断幕はすぐ撤去されたが、SNSで拡大した。
2022年11月26日から12月頃まで、中国各地で共産党のゼロコロナ政策を批判する一連の抗議運動が起こった。ゼロコロナ政策とは都市封鎖など強権的な手法によって市中感染を徹底的に抑え込もうとする政策である。しかし、このため困窮する人が続出し、抗議運動が起こった。参加者は白い紙などを持って集まったので「白紙革命」、「白紙運動」、「白紙デモ」などと呼ばれた。
中国経済はコロナ禍以前から下降線をたどっており、2019年は 5.95%、22年は3・0%と、目標の「5・5%前後」に届かず、世界平均(3・4%)をも40年超ぶりに下回った。2022年12月、中国政府は「ゼロコロナ」政策を突然打ち切ったが、経済は思ったほど回復しなかった。勢いがないことを示すデータが次々に公表され、「予想外の息切れ」ともいわれた。その原因として、消費、生産の落ち込み、雇用の悪化に加え、不動産業界が抱える構造問題と、それが招いた投資の減少が指摘された。日本が20数年前に経験したよりひどいバブル崩壊が起こるといわれている。もっとも中国政府はなんとしても、強権的手法を使ってでも混乱に陥るのを防ぐだろうから直ちに数字になって表れることはないだろうが、中国経済の矛盾は今後増大するだろう。
さらに統計が正確でないことや人口が減少トレンドに入っていることなどの大問題もある。
このような経済問題に習近平主席はどのようにかかわっているか。習氏が経済問題で采配を振るうことはあまり報道されないが、節目節目で自ら大方針を打ち出しており、2021年には、「貧困脱却の闘いに全面的に勝利した」と宣言しつつ、すべての人が豊かになるという「共同富裕」の目標を打ち出した。習主席は2012年の就任以来、「適度に豊かな社会」を目指していたのでそれ以来長足の進歩を遂げたのであった。
8月22~24日、南アフリカで開かれたBRICS首脳会議に際しては、中国の国営通信社の新華社が現地で「習近平主席の経済思想」の学習会を開催した。
ところがそれと並行する形で中国不動産業界の低迷が表面化し、トップ企業のデフォルト危機が世界に不安を与え始めた。GDPの約11%を占める不動産業が深刻な不振に落ちったためGDPは5~10%マイナスの影響を受けるともいわれている。不動産業の立て直しは急務であり、習氏としても対応に苦慮しているのではないか。
この間、習近平主席自らが外相に登用したといわれていた秦剛外相が突如解任(7月25日)されるという事態が起こった。同外相は6月26日以降、一切の動静が伝えられていなかった。秦氏はまさに共産党が必要としていた、現代的で洗練された官吏のようだったとも評されていた。だが、秦氏の命運はまったく分からなくなっている。
7月末から8月初めにかけ北京市、天津市、河北省、福建省が集中豪雨に見舞われ大洪水が発生した。北京では過去140年間で最大の降水量であった。習主席は指示を出したが、現地へ赴くことはなかった。
9月5~7日に開催されるASEAN首脳会議と直後にニューデリーで開かれるG20首脳会議に習主席は出席せず、代わりに李強首相が出席することとなった。習近平主席にふさわしい華々しい出番はないと考えられたのか。
関係があるかわからないが、中国政府は8月28日に新版の地図を発表した。南シナ海など中国の周辺の海域を中国領としており、関係の諸国(もちろんASEANの国)は強く反発した。
8月24日に始まった福島第一原子力発電所の放射能処理水の海洋放出について、中国は激烈に反発し、一方的かつ誤りに満ちた非難を行うとともに、日本からの水産物輸入を完全に停止してしまった。日本人の中には日本政府の決めたことについて疑問を抱いたり、決める過程に瑕疵があったと考えている人もいるが、そういう人も含め、中国の反応は理解困難である。しかも、中国政府は日本の処理水だけが危険なのではないことを知っているはずである。
中国の対日非難は台湾向けである可能性もある。来年1月の台湾における総統選挙において中国の立場に近い国民党候補を当選させるため、日本に親近感が強い野党に日本非難を吹き込んでいる。中国の対日非難の多くは中国語で書かれており、日本人には翻訳しないとわからないが台湾人にとっては母国語である。
習近平主席は3選されてから1年になる
来月で習近平氏が中国共産党の総書記に再選(3選)されてから1年となる。習近平総書記はゆるぎない地位を築いたかに見えたが、それだけでは割り切れないこともいくつかあった。中国では定年に関し、「七上八下」という了解が作られている。「党大会時の年齢が67歳以下であれば引き続き現役として活動する(留任する)が、68歳以上であれば退任する」という意味である。この了解は党規約に記載されていないが、党の新陳代謝のために必要であると考えられ、受け入れられてきた。
江沢民氏と胡錦涛氏はこの了解に従った。習近平氏も第20回共産党大会開催の時点ですでに69歳になっており、後継者にバトンを渡すものと思われてきたが、総書記の地位にとどまることとなった。
10月22日、同大会の閉幕式で奇妙なことが起こった。習近平総書記の隣に座っていた胡錦濤・前総書記(79)が改正党規約の採択に入る直前、関係者に促され、途中退席した。その理由については胡錦涛氏を外すためであったといわれた。
時間的に順序が逆になるが、大会開催前の13日、北京市内の高架橋に「独裁の国賊、習近平(国家主席)を罷免せよ」と書かれた巨大な横断幕が掲げられるという異例の事態が起こった。それには「封鎖は要らない、自由が欲しい」「領袖(りょうしゅう)は要らない、投票が欲しい」などとも書かれていた。封鎖はゼロコロナのことである。この横断幕はすぐ撤去されたが、SNSで拡大した。
2022年11月26日から12月頃まで、中国各地で共産党のゼロコロナ政策を批判する一連の抗議運動が起こった。ゼロコロナ政策とは都市封鎖など強権的な手法によって市中感染を徹底的に抑え込もうとする政策である。しかし、このため困窮する人が続出し、抗議運動が起こった。参加者は白い紙などを持って集まったので「白紙革命」、「白紙運動」、「白紙デモ」などと呼ばれた。
中国経済はコロナ禍以前から下降線をたどっており、2019年は 5.95%、22年は3・0%と、目標の「5・5%前後」に届かず、世界平均(3・4%)をも40年超ぶりに下回った。2022年12月、中国政府は「ゼロコロナ」政策を突然打ち切ったが、経済は思ったほど回復しなかった。勢いがないことを示すデータが次々に公表され、「予想外の息切れ」ともいわれた。その原因として、消費、生産の落ち込み、雇用の悪化に加え、不動産業界が抱える構造問題と、それが招いた投資の減少が指摘された。日本が20数年前に経験したよりひどいバブル崩壊が起こるといわれている。もっとも中国政府はなんとしても、強権的手法を使ってでも混乱に陥るのを防ぐだろうから直ちに数字になって表れることはないだろうが、中国経済の矛盾は今後増大するだろう。
さらに統計が正確でないことや人口が減少トレンドに入っていることなどの大問題もある。
このような経済問題に習近平主席はどのようにかかわっているか。習氏が経済問題で采配を振るうことはあまり報道されないが、節目節目で自ら大方針を打ち出しており、2021年には、「貧困脱却の闘いに全面的に勝利した」と宣言しつつ、すべての人が豊かになるという「共同富裕」の目標を打ち出した。習主席は2012年の就任以来、「適度に豊かな社会」を目指していたのでそれ以来長足の進歩を遂げたのであった。
8月22~24日、南アフリカで開かれたBRICS首脳会議に際しては、中国の国営通信社の新華社が現地で「習近平主席の経済思想」の学習会を開催した。
ところがそれと並行する形で中国不動産業界の低迷が表面化し、トップ企業のデフォルト危機が世界に不安を与え始めた。GDPの約11%を占める不動産業が深刻な不振に落ちったためGDPは5~10%マイナスの影響を受けるともいわれている。不動産業の立て直しは急務であり、習氏としても対応に苦慮しているのではないか。
この間、習近平主席自らが外相に登用したといわれていた秦剛外相が突如解任(7月25日)されるという事態が起こった。同外相は6月26日以降、一切の動静が伝えられていなかった。秦氏はまさに共産党が必要としていた、現代的で洗練された官吏のようだったとも評されていた。だが、秦氏の命運はまったく分からなくなっている。
7月末から8月初めにかけ北京市、天津市、河北省、福建省が集中豪雨に見舞われ大洪水が発生した。北京では過去140年間で最大の降水量であった。習主席は指示を出したが、現地へ赴くことはなかった。
9月5~7日に開催されるASEAN首脳会議と直後にニューデリーで開かれるG20首脳会議に習主席は出席せず、代わりに李強首相が出席することとなった。習近平主席にふさわしい華々しい出番はないと考えられたのか。
関係があるかわからないが、中国政府は8月28日に新版の地図を発表した。南シナ海など中国の周辺の海域を中国領としており、関係の諸国(もちろんASEANの国)は強く反発した。
8月24日に始まった福島第一原子力発電所の放射能処理水の海洋放出について、中国は激烈に反発し、一方的かつ誤りに満ちた非難を行うとともに、日本からの水産物輸入を完全に停止してしまった。日本人の中には日本政府の決めたことについて疑問を抱いたり、決める過程に瑕疵があったと考えている人もいるが、そういう人も含め、中国の反応は理解困難である。しかも、中国政府は日本の処理水だけが危険なのではないことを知っているはずである。
中国の対日非難は台湾向けである可能性もある。来年1月の台湾における総統選挙において中国の立場に近い国民党候補を当選させるため、日本に親近感が強い野党に日本非難を吹き込んでいる。中国の対日非難の多くは中国語で書かれており、日本人には翻訳しないとわからないが台湾人にとっては母国語である。
2023.08.28
BRICSの加盟国はこれまでブラジル、ロシア、インド、中国、南アであったが、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6か国の加盟が認められ、BRICSは2024年1月1日から11か国体制となる。今回加盟が決まった6か国以外にも約40か国が公式に、あるいは非公式に加盟を希望しているという。
6か国の加盟後、BRICSは世界人口の46%、国内総生産(GDP)の28%を占めることとなる。たしかに大きなフォーラムとなるが、これらは各国の統計を合算した結果であり、世界における影響力を示すわけではない。
BRICSは国際機関でなく、その都度加盟国間の協議で首脳会議の開催地と開催時期が決定されるが、最近はG7主要国首脳会議のように順番の開催になっていたようだ。今年の南アからさかのぼると、中国、インド、ロシア、ブラジルであった。昨年までコロナ禍の影響でオンライン会議であったが、今年は4年ぶりに加盟国が一堂に会した。
問題は11か国の経済規模も政治体制も様々なことである。文化や宗教も大きく異なる。イランのライシ大統領は米国に対抗する姿勢を鮮明にする一方、ブラジルのルラ大統領は米国に対抗するものではないと強調したという。サウジのファイサル外相はBRICSの性格や構成など詳細が判明してから加盟の招待を受けるかどうか判断すると表明している。
ロシアによるウクライナ侵攻については、大多数の加盟国はロシア非難を控えているが、ブラジルは2022年3月3日の国連総会決議において、他のBRICS諸国が棄権するのと違って賛成に回った。
インドの動きは複雑である。ロシア非難は避け、国連総会でも決議には棄権し、ロシア寄りだとみられていた。しかし2022年9月16日、ウズベキスタンのサマルカンドで上海協力機構の首脳会議が開かれた際、インドのモディ首相はプーチン大統領と会談し、「今は戦争の時ではない」と述べ、ウクライナ侵攻について公に批判した。モディ首相の発言はそれまでのインドの姿勢とはかなり趣が異なっていたが、インドとロシアとの軍事関係は歴史的に深く、その後もインドはロシア批判になるのを控えている。
一方、インドと中国は安全保障面で利害が一致しておらず、インドは中国軍の艦艇がインド洋へ進出するのを警戒している。また、両国軍はカシミール問題をめぐって武力衝突を繰り返している。さらにインドは日米豪印によるQUAD(日米豪印戦略対話)の一員になっている。
このように加盟国の利益が一致しないことがあるが、それでもBRICSとして連携するのは、利害の違いを上回る利益があるとみているからであろう。それは自由や民主主義といった価値観を重視する米欧への対抗軸とも、また、米欧中心の国際秩序からの脱却ともいわれる。いずれもそれなりに正しい指摘であるが、中心の狙いはやはり米欧、特に米国との関係においてBRICS諸国の立場を強くすることにある。つまり、BRICS諸国はそれぞれ米国との関係を自国に有利に運ぶためにBRICSとしての連帯が有利に働くと考えているのである。BRICSが拡大するのは明らかだが、新しい国際秩序というより、BRICS加盟国の利益を優先させるための緩やかな連携が広がることとなったとみるべきではないか。
中でも際立っているのは中国の積極姿勢であり、加盟国拡大の旗を振ったのも中国であった。最終日の記者会見で習近平国家主席は「今回の拡大は歴史的だ」と強調し、また「BRICSは国際情勢を形成する重要な力となっている。新興市場・途上国の共通の利益にも合致する。互いに助け合う大家族だ」と胸を張る一方、主要7か国(G7)などの枠組みを「排他的な小グループ」と嘲笑した。
中国の動きについては2つの点が注目される。その1つは、BRICSは中国の戦略重視と実行力を象徴する場であったことであるが、米欧に対抗するという政治目標に向かって進むことができるか、現段階では何とも言えない感じである。
他の1つは、中国経済が過去30数年間と違って下降傾向に入り、一昔前の日本のようにバブルがはじける危険に直面していることである。中国が大ぶろしきを広げて世界を驚かせた「一帯一路」についても問題は増大しており、イタリアなどは脱退する意向である。中国内の経済はさらに危険が大きいかもしれない。
前述した上海協力機構(SCO)は冷戦終了後、特に中央アジアの安全保障の立て直しを図って2001年に中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンおよびウズベキスタンの6カ国によって設立された。BRICS4か国が首脳会議を開催したのは2009年であり、ざっと比較してSCOが数年早かったが、最近は非国連・非欧米の地域協力として併存してきた。しかし、ウクライナ侵攻が始まるとSCO内の協力にはほころびが生じ、プーチン大統領の中央アジア諸国に対する姿勢も顕著に変わってきたといわれる。
BRICSは前述したように、初めから加盟国間の利害の不一致を内包しており、今後のBRICSがどうなるか。予定通りに拡大を続けるか、共通通貨の議論は進むかなど見通すのは困難であるが、首脳会議以外にもいくつもの会議があり、BRICSは「実体化」してきた面もある。BRICSには明るい将来がないと決めつけるのは危険であり、長い目で、幅広く、柔軟に見ていくことが必要であろう。
BRICS首脳会議
南アフリカ・ヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議が8月24日、閉幕した。ウクライナ侵攻をめぐって国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領はオンライン参加した。BRICSの加盟国はこれまでブラジル、ロシア、インド、中国、南アであったが、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6か国の加盟が認められ、BRICSは2024年1月1日から11か国体制となる。今回加盟が決まった6か国以外にも約40か国が公式に、あるいは非公式に加盟を希望しているという。
6か国の加盟後、BRICSは世界人口の46%、国内総生産(GDP)の28%を占めることとなる。たしかに大きなフォーラムとなるが、これらは各国の統計を合算した結果であり、世界における影響力を示すわけではない。
BRICSは国際機関でなく、その都度加盟国間の協議で首脳会議の開催地と開催時期が決定されるが、最近はG7主要国首脳会議のように順番の開催になっていたようだ。今年の南アからさかのぼると、中国、インド、ロシア、ブラジルであった。昨年までコロナ禍の影響でオンライン会議であったが、今年は4年ぶりに加盟国が一堂に会した。
問題は11か国の経済規模も政治体制も様々なことである。文化や宗教も大きく異なる。イランのライシ大統領は米国に対抗する姿勢を鮮明にする一方、ブラジルのルラ大統領は米国に対抗するものではないと強調したという。サウジのファイサル外相はBRICSの性格や構成など詳細が判明してから加盟の招待を受けるかどうか判断すると表明している。
ロシアによるウクライナ侵攻については、大多数の加盟国はロシア非難を控えているが、ブラジルは2022年3月3日の国連総会決議において、他のBRICS諸国が棄権するのと違って賛成に回った。
インドの動きは複雑である。ロシア非難は避け、国連総会でも決議には棄権し、ロシア寄りだとみられていた。しかし2022年9月16日、ウズベキスタンのサマルカンドで上海協力機構の首脳会議が開かれた際、インドのモディ首相はプーチン大統領と会談し、「今は戦争の時ではない」と述べ、ウクライナ侵攻について公に批判した。モディ首相の発言はそれまでのインドの姿勢とはかなり趣が異なっていたが、インドとロシアとの軍事関係は歴史的に深く、その後もインドはロシア批判になるのを控えている。
一方、インドと中国は安全保障面で利害が一致しておらず、インドは中国軍の艦艇がインド洋へ進出するのを警戒している。また、両国軍はカシミール問題をめぐって武力衝突を繰り返している。さらにインドは日米豪印によるQUAD(日米豪印戦略対話)の一員になっている。
このように加盟国の利益が一致しないことがあるが、それでもBRICSとして連携するのは、利害の違いを上回る利益があるとみているからであろう。それは自由や民主主義といった価値観を重視する米欧への対抗軸とも、また、米欧中心の国際秩序からの脱却ともいわれる。いずれもそれなりに正しい指摘であるが、中心の狙いはやはり米欧、特に米国との関係においてBRICS諸国の立場を強くすることにある。つまり、BRICS諸国はそれぞれ米国との関係を自国に有利に運ぶためにBRICSとしての連帯が有利に働くと考えているのである。BRICSが拡大するのは明らかだが、新しい国際秩序というより、BRICS加盟国の利益を優先させるための緩やかな連携が広がることとなったとみるべきではないか。
中でも際立っているのは中国の積極姿勢であり、加盟国拡大の旗を振ったのも中国であった。最終日の記者会見で習近平国家主席は「今回の拡大は歴史的だ」と強調し、また「BRICSは国際情勢を形成する重要な力となっている。新興市場・途上国の共通の利益にも合致する。互いに助け合う大家族だ」と胸を張る一方、主要7か国(G7)などの枠組みを「排他的な小グループ」と嘲笑した。
中国の動きについては2つの点が注目される。その1つは、BRICSは中国の戦略重視と実行力を象徴する場であったことであるが、米欧に対抗するという政治目標に向かって進むことができるか、現段階では何とも言えない感じである。
他の1つは、中国経済が過去30数年間と違って下降傾向に入り、一昔前の日本のようにバブルがはじける危険に直面していることである。中国が大ぶろしきを広げて世界を驚かせた「一帯一路」についても問題は増大しており、イタリアなどは脱退する意向である。中国内の経済はさらに危険が大きいかもしれない。
前述した上海協力機構(SCO)は冷戦終了後、特に中央アジアの安全保障の立て直しを図って2001年に中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンおよびウズベキスタンの6カ国によって設立された。BRICS4か国が首脳会議を開催したのは2009年であり、ざっと比較してSCOが数年早かったが、最近は非国連・非欧米の地域協力として併存してきた。しかし、ウクライナ侵攻が始まるとSCO内の協力にはほころびが生じ、プーチン大統領の中央アジア諸国に対する姿勢も顕著に変わってきたといわれる。
BRICSは前述したように、初めから加盟国間の利害の不一致を内包しており、今後のBRICSがどうなるか。予定通りに拡大を続けるか、共通通貨の議論は進むかなど見通すのは困難であるが、首脳会議以外にもいくつもの会議があり、BRICSは「実体化」してきた面もある。BRICSには明るい将来がないと決めつけるのは危険であり、長い目で、幅広く、柔軟に見ていくことが必要であろう。
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