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2014.01.16

ロッテルダムが核攻撃されると

核兵器の危険性を訴え、その廃絶のために積極的な活動を行なっているPAX Christiが1月27日に予定している討論会で、欧州の交通の要所であるロッテルダムが核兵器で攻撃された場合どのような被害が生じるか、また、攻撃を未然に防ぐことはできるかなどをシミュレートした資料を用意しているそうである(その詳細はPAX Christiのホームページで閲覧可能)。
いくつか特徴があると思う。1つ目は、ロッテルダムという欧州の交通の要所を題材とすることにより、核攻撃の被害の甚大さと深刻さを分かりやすく示していることである。世界の大都市に対する核攻撃を想定することは以前からジュネーブやニューヨークについても行なわれ、被害が拡大する状況が同心円を使って図解されている。ジュネーブ郊外の資料館では、この資料は児童にはあまりにも刺激的なので見せていない。
もう1つの点は第1と関係するが、核攻撃で都市が全滅することを示すことにより多数の市民が犠牲となることをほぼ直接的に示せることである。広島と長崎での被爆体験は核兵器の非人道性を物語る証言であり、どのような人工的工夫も表現できないリアルさがあるが、大都市が一瞬の内に破壊されることは、当然のことであるが、証言の範囲を超えており、直接的には示せない。被爆証言と都市の被害について同心円を利用する工夫を結び付ければ、さらに強力な訴えになると思われる。
また、今回の討論会用の資料では、広島や長崎のように航空機から投下された場合だけでなく、テロリストが核兵器を入手してロッテルダムを攻撃する場合のことも想定されている。どれくらい現実的か議論の余地はあろうが、深刻に憂慮している人たちがいることは注目すべきであろう。

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2014.01.15

シャングリラ対話のシェルパ会合

1月12日~14日、シンガポールでThe Fullerton Forumが開催された。主催はシャングリラ対話と同じIISS(国際戦略研究所)である。今回のフォーラムに参加したのは50数名で、名簿に記載されている者だけで、中国は6名(筆頭はLi Ji 国防部外事弁公室副主任)、米国は3名(筆頭者Vikram Singh国防省南・南東アジア担当次官補代理)、日本は3名(筆頭は松村統合幕僚副長)であった。これらの国からはさらに随員が数名来ており、それを含めると、実際の参加者はざっと倍になる。
IISS側は、かねてから中国国防相の出席を確保したい考えであるが、実現した場合も代理の出席にとどまった場合もあった。今年のシャングリラ対話においては安倍首相に出席してもらいたいと要望している一方、もしそれが実現した場合中国がどのように対応するかも気にしていた。
このフォーラムはシャングリラ対話のシェルパ会合を兼ねると説明されている。首脳会議のシェルパ会合のように本番での議題やさらには議論の内容まで細かく準備するのではないが、数ヵ月後の大規模なシャングリラ対話で焦点となる論点を浮き彫りにする意味がある。
今回のフォーラムの焦点は東シナ海及び南シナ海にあり、当然のことながら中国と各国との対話という性格が強かった。IISS側は中国だけでなく北朝鮮の問題も大いに議論したいという考えであるが、今回のフォーラムでは北朝鮮への言及は散発的に出てきた程度であった。ただし今年が例外なのではなく、いつもそういう傾向のようである。韓国に対してはハイレベルの参加を呼び掛けているが、韓国政府も軍も腰が重いらしい。今次フォーラムには2名が参加していることになっており、うち1名はDr. Chung Min Lee安全保障問題担当大使の肩書を持つYonsei大学教授であるが、発言はなかったはずである。出席していたかどうかも定かでない。
個々の発言は引用しないことになっているので、全体の印象に過ぎないが、中国に関する議論が主であり、内容的にはあまりかみ合わず、発言者は自分の言いたいことを言っていた。アカデミックな議論としてはとても高い評価は与えられないが、しかし、中国の軍人が諸外国の関係者と意見交換する機会はほとんどないだけに、このフォーラムもシャングリラ対話も貴重である。また、形の上では議論はかみ合わないにしても中国からの出席者が各国の発言に注意しておりまた、一定程度それを意識した発言も行っているので、対話には意味があるとも考えられる。このような特徴は昨年のシャングリラ対話もほぼ同様であった。
とくに議論の中心となったのは昨年秋の中国によるADIZの設定であり、海南省の漁業に関する新措置についてもやりとりがあった。これについて中国代表は、内容的に新しいことではないとしきりに強調していた。
なお今年は第一次大戦勃発100周年に当たることから、今日の状況を分析するのに100年前のことが一つの話題となりそうである。

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2014.01.11

中国の巨大さ

中国が大国であることをあらためて見せつける事実が最近立て続けに起こっている。

○2013年の中国の貿易総額は米国を抜いて世界第1位になったことが、2014年1月10日発表された中国貿易統計から明らかとなった。前年比7.6%増で、4兆1603億ドルになったということである。米国の統計は未発表であるが、増加傾向から判断して中国に追い抜かれたのはほぼ確実だそうである。中国の貿易総額が日本を抜いたのが約10年前、中国がWTOに加盟した2001年の時点では、貿易総額は約5千億ドルで米国の4分の1であった。
○安倍首相は1月9日日本を出発し、オマーン、コートジボワール、モザンビーク、エチオピアの4カ国を歴訪中である(11日現在)。これに外国のメディアが注目しており、そのなかに中国の影響力との比較が出てくる。もちろん東アジア情勢を考慮しての評論家らしいコメントであるが、中国はすでにアフリカ諸国に進出してそのプレゼンスは巨大なものとなっており、日本の首相が歴訪しても効果は上がらないのではないかというようなことを言っている。
効果があるかどうかはもっと広い観点から見なければならず、首相の中東・アフリカ訪問は有意義であると思うが、中国の存在が日本や欧米諸国と比較にならないくらい大きくなっているのは事実である。たとえば、アフリカでは万の台の中国人が居留している国が多いが、日本はそれより二けた少ない百の台であり、旧宗主国の仏英などは日本より多少多いかもしれないが大した差ではない。これは居留民の数であるが、一事が万事。アフリカ諸国では、各国の大使がよるとさわると中国のことが話題になるそうである。
○済州島に移住した外国人は、2013年9436人から1万1935人と、26.5%増加した。済州島の人口は約55万人だから、まだ2%程度であるが、伸び率は高いので目につく。こうなったのは、済州島が2010年から投資目的の移民を受け入れるようになり、5億ウォン(約4600万円)以上の不動産を済州島で購入し、5年間売却しなければ永久居民権が得られるようになったからである。
なかでも中国人の移住者は急増しており、2013年の増加率は46.1%で4968人となった。ダントツである。当然中国人のプレゼンスが目立つようになり、島のあちこちに中国語の文字が現れている。
これに対して、環境破壊の観点からと、済州島固有の文化が影響され、消えてしまうのではないかという懸念からの反対が起こり、政府に対して投資移民受け入れ政策を再考するよう求める声が出ているが、政府当局は中国資本による経済効果は大きいと反論している。
○中国の人と資本による大規模な進出は他の地域でも起こっており、太平洋諸島などにも、またアイスランドにも中国パワーが押し寄せている。ほっておくと飲み込まれてしまうので、アイスランドは土地の売却を拒否した。
シベリアと中国の東北部が接する沿海地方では中国人が国境を越えてロシア領に入り、農業などに従事している。資本進出はまだ多くないようだが、いずれ増加してくるであろう。この一帯ではロシア側では人口希薄、中国側では労働力が豊富なるので、そのような傾向が出てくるのは合理的でもあるが、モスクワでは中国脅威論が高まっている。
土地を知的サービスに置き換えてみても、同様の傾向がうかがわれる。たとえばハーバード大学で多数の中国人留学生が学んでおり、「まるで中国共産党幹部養成の分校になっている」と揶揄されることもある。
医療サービスの面では、米国への出産ツアーが注目される。裕福な中国人女性が医療設備のよい米国の病院で出産すれば、米国籍も獲得できるので二重のメリットがあるということだ。まだ絶対数は小さいが、やはり急増しているようである。

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