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2023.04.18
バチカンは司教任命権を巡って1951年に中国と断交し、欧州で唯一、台湾と外交関係を持つ。バチカンは、カトリックの司教は教皇が任命するとの立場であるが、中国はこれを嫌い、独自に司教を任命し、バチカンが任命した司教を認めなかったので、バチカンと対立してきた。そのため中国内のカトリック教徒はバチカンの下にある派と、中国政府に忠誠を誓う派に分裂していた。
2018年、暫定合意が成立した背景には中国側にも、またバチカンの側にも事情があった。中国の習近平政権は2期目になるのに際して、宗教面での統制を以前にもまして強化し、2017年9月には、旧「宗教事務条例」を修正して新条例を制定した。これは、中国の宗教政策の基本である「国家による正常な宗教活動の保護」および「宗教团体は外国勢力の支配を受けてはならない」は旧条例のままであるが、実際の監督を強化したものであった。妥協が成立するとうわさが出たのは、2018年の2月1日に新条例が施行されたからだとも言われていた。
中国政府はその後態度を硬化させた。同年4月3日に発表された「中国の宗教政策に関する白書」の中では「宗教の中国化を堅持する」と異例の、反宗教的ともとれる言及をした。
また、「外国勢力が宗教を利用して中国に浸透するのを防御する」「カトリックとプロテスタントに基づき、植民地主義、帝国主義によって中国人民が長きにわたって統制・利用されてきた」「中国の宗教に関与し、はなはだしきは中国の政権と社会主義制度の転覆をはかるのに中国政府は決然と反対し法に基づき処理する」など、かねてからの主張ではあるが、共産主義歴史観をあらためて記載した。
一方、バチカン側では、妥協に賛成する人たちもいたが、あくまで反対の人もおり、意見統一は容易でなかった。反対派の主張は、中国政府に限らず、昔から各国の政府が司教の任命権を教皇から奪おうとするのにバチカンは戦い、多くの人が犠牲になってきた、そのカトリックの伝統と原則に反しているということであった。
しかし、2013年に就任した教皇フランシスコは中国との関係改善に意欲を示し、バチカンと中国政府は定期的に非公式交渉を行ってきた。その背景には、中国内に約1000万人のカトリック信者いる(推定)という事実があった。教皇の積極姿勢を支持する人たちは、これだけの数のカトリック信者にいつまでも背を向け続けるべきでない、中国政府と何の合意もないよりは一定の関係を作ったほうが彼らを保護することになるという考えだったと言う。
2018年、結ばれた暫定合意の内容は発表されていないが、バチカンは「中国政府の同意を条件として司教を任命する」ことにする一方、「中国政府が任命した司教をバチカンは認める」ことになったとも言われていた。暫定合意は20年10月に2年間延長され、さらに22年10月、再度延長された。
ところが、中国政府はバチカンに対して強い姿勢を取り始めた。このことと中国共産党全国代表大会において習近平氏が総書記に留任することが決定したことと関係があるか。わたくしはあると考えている。
11月、中国政府は江西省の補佐司教を任命した。バチカン側は合意に違反するとして「遺憾の意」を表明した。そして4月の一方的な上海司教の任命である。バチカンは、江蘇省海門の司教を上海教区に配置替えしたとの中国の決定を「数日前に」通知され、4日の中国メディアの報道で正式な就任を知ったという。バチカンの報道官は「現時点で何も言うことはない」とコメントした(共同2023年4月5日)。
司教の任命と並行して、教会が相次いで取り壊された。煙を上げ、崩れ落ちる様子がネット上で閲覧できる。場所は浙江省、江西省、湖南省などであり、市の政府は信者らと一切交渉することなく、住宅の建設のためとして一方的に解体した。聖書が焼却されることもあったといわれている。
なぜ中国政府はこのように強硬な態度を取り始めたのか。中国では近年キリスト教徒が増加しており、中国共産党の幹部クラス党員やその家族の間にもキリスト教入信が急増しているともいわれている。ブリタニカ国際年鑑の最新データによると中国のキリスト教徒は人口の7-7.5%で9100-9750万人程度とされている。もっと多いとする見方もある。ただし、この数字はキリスト教徒全体の数字である。カトリック教徒については約1千万人という数字を5年前に引用したが、それが増加しているか不明である。
もう一つの疑問は、台湾との外交関係を断とうとしないバチカンに圧力を加えようとしているのではないかということである。台湾について習近平政権は党大会で「武力行使をしないとの約束はしない」と強硬策をちらつかせながら、来年の台湾における総統選挙で国民党に勝たせることを目標に、統一戦線工作を強化している。外交面では去る3月、中米のホンジュラスと国交を樹立するなど攻勢を強めており、その結果台湾と外交関係を維持する国は13か国となり、バチカンはそのなかでもっとも影響力が強い。習近平政権にとって台湾の統一は最大の念願であり、バチカンはその妨げになっているとみている可能性がある。
バチカンを締め上げる(?)中国
中国のバチカンに対する強硬姿勢が目立っている。最近、バチカンの同意を得ないで上海の教区に新しい司教を任命した。バチカンは司教任命権を巡って1951年に中国と断交し、欧州で唯一、台湾と外交関係を持つ。バチカンは、カトリックの司教は教皇が任命するとの立場であるが、中国はこれを嫌い、独自に司教を任命し、バチカンが任命した司教を認めなかったので、バチカンと対立してきた。そのため中国内のカトリック教徒はバチカンの下にある派と、中国政府に忠誠を誓う派に分裂していた。
2018年、暫定合意が成立した背景には中国側にも、またバチカンの側にも事情があった。中国の習近平政権は2期目になるのに際して、宗教面での統制を以前にもまして強化し、2017年9月には、旧「宗教事務条例」を修正して新条例を制定した。これは、中国の宗教政策の基本である「国家による正常な宗教活動の保護」および「宗教团体は外国勢力の支配を受けてはならない」は旧条例のままであるが、実際の監督を強化したものであった。妥協が成立するとうわさが出たのは、2018年の2月1日に新条例が施行されたからだとも言われていた。
中国政府はその後態度を硬化させた。同年4月3日に発表された「中国の宗教政策に関する白書」の中では「宗教の中国化を堅持する」と異例の、反宗教的ともとれる言及をした。
また、「外国勢力が宗教を利用して中国に浸透するのを防御する」「カトリックとプロテスタントに基づき、植民地主義、帝国主義によって中国人民が長きにわたって統制・利用されてきた」「中国の宗教に関与し、はなはだしきは中国の政権と社会主義制度の転覆をはかるのに中国政府は決然と反対し法に基づき処理する」など、かねてからの主張ではあるが、共産主義歴史観をあらためて記載した。
一方、バチカン側では、妥協に賛成する人たちもいたが、あくまで反対の人もおり、意見統一は容易でなかった。反対派の主張は、中国政府に限らず、昔から各国の政府が司教の任命権を教皇から奪おうとするのにバチカンは戦い、多くの人が犠牲になってきた、そのカトリックの伝統と原則に反しているということであった。
しかし、2013年に就任した教皇フランシスコは中国との関係改善に意欲を示し、バチカンと中国政府は定期的に非公式交渉を行ってきた。その背景には、中国内に約1000万人のカトリック信者いる(推定)という事実があった。教皇の積極姿勢を支持する人たちは、これだけの数のカトリック信者にいつまでも背を向け続けるべきでない、中国政府と何の合意もないよりは一定の関係を作ったほうが彼らを保護することになるという考えだったと言う。
2018年、結ばれた暫定合意の内容は発表されていないが、バチカンは「中国政府の同意を条件として司教を任命する」ことにする一方、「中国政府が任命した司教をバチカンは認める」ことになったとも言われていた。暫定合意は20年10月に2年間延長され、さらに22年10月、再度延長された。
ところが、中国政府はバチカンに対して強い姿勢を取り始めた。このことと中国共産党全国代表大会において習近平氏が総書記に留任することが決定したことと関係があるか。わたくしはあると考えている。
11月、中国政府は江西省の補佐司教を任命した。バチカン側は合意に違反するとして「遺憾の意」を表明した。そして4月の一方的な上海司教の任命である。バチカンは、江蘇省海門の司教を上海教区に配置替えしたとの中国の決定を「数日前に」通知され、4日の中国メディアの報道で正式な就任を知ったという。バチカンの報道官は「現時点で何も言うことはない」とコメントした(共同2023年4月5日)。
司教の任命と並行して、教会が相次いで取り壊された。煙を上げ、崩れ落ちる様子がネット上で閲覧できる。場所は浙江省、江西省、湖南省などであり、市の政府は信者らと一切交渉することなく、住宅の建設のためとして一方的に解体した。聖書が焼却されることもあったといわれている。
なぜ中国政府はこのように強硬な態度を取り始めたのか。中国では近年キリスト教徒が増加しており、中国共産党の幹部クラス党員やその家族の間にもキリスト教入信が急増しているともいわれている。ブリタニカ国際年鑑の最新データによると中国のキリスト教徒は人口の7-7.5%で9100-9750万人程度とされている。もっと多いとする見方もある。ただし、この数字はキリスト教徒全体の数字である。カトリック教徒については約1千万人という数字を5年前に引用したが、それが増加しているか不明である。
もう一つの疑問は、台湾との外交関係を断とうとしないバチカンに圧力を加えようとしているのではないかということである。台湾について習近平政権は党大会で「武力行使をしないとの約束はしない」と強硬策をちらつかせながら、来年の台湾における総統選挙で国民党に勝たせることを目標に、統一戦線工作を強化している。外交面では去る3月、中米のホンジュラスと国交を樹立するなど攻勢を強めており、その結果台湾と外交関係を維持する国は13か国となり、バチカンはそのなかでもっとも影響力が強い。習近平政権にとって台湾の統一は最大の念願であり、バチカンはその妨げになっているとみている可能性がある。
2023.03.30
NLDは、大勝した2020年総選挙の結果が正当だとしている。国軍側が定めた政党登録法は党員数や党事務所の設置数などの政党要件を定めており、多くの党員が国内外に逃れている現状ではNLDがこれを満たすのは難しいので登録しなかったのである。実質的には国軍側によるNLDの政党資格はく奪であった。
これに先立って、22年12月、国軍統制下の裁判所はスーチー氏に汚職などで計33年の刑期の有罪判決を下していた。国軍はやり直しの選挙を実施するとしているが、その前に国民からの絶大な支持を受けているスーチー氏とNLDを排除したのである。
国軍が2021年2月1日、クーデタにより非常事態を宣言して軍政を始めると、欧米各国は厳しく国軍を非難し、国軍幹部らの資産を凍結する制裁を課したが、日本政府はそれとは一線を画し、対話路線を継続してきた。
経済協力については、日本は西側で最大の供与国である。クーデタ後は途上国支援(ODA)の新規案件を見送ることとしたが、国際機関や非政府組織(NGO)を通した人道支援は続けてきた。
日本政府は「西側諸国で唯一、国軍とのパイプを持つのが強み」、「ミャンマーにも米欧にも、強力なカードとしてアピールできる」、「外交上のレバレッジ(テコ)になる」などと言ってきたが、日本の方針はミャンマーを民主政治に戻す目標とは矛盾が大きくなりつつある。
ミャンマーは少数民族が多く、しかもイスラム系のロヒンギャは国民と認められず難民として扱われてきたのが現実であり、そのような状況の中で国軍に頼らざるを得ないのもやむを得ない面がある。しかし、クーデタ以来多数の国民が犠牲になっている。国軍は選挙をやり直し、憲法を新たに制定するとの方針を立てているが、軍の権益が損なわれない内容にしようとしている。これまでの民主化努力に悖ることになっても国軍の利益を守ろうとしているのであり、このようなことは断じて認められない。しかも総選挙を公正に実施し、民主的な憲法を制定できるか見通しは立たなくなっている。
これまでミャンマーの国軍を支持しているのは中国であり、今後もその点は変わらないだろうが、国軍は急速にロシアとの関係を深めている。中国はミャンマーと国境を接しているだけに影響力は強いが、利害関係は複雑であり、中国の利益にならないことも認めざるを得ない。
一方、ロシアは中国と並んで国軍への二大武器供給国であり、しかも中国のような複雑な事情はない。特にクーデタ後はミャンマーはロシアにとって数少ない顧客になっている。ミンアウンフライン国軍最高司令官に対するロシアの厚遇ぶりは異常であり、国軍は中国もさることながら、いざとなればロシアに頼ろうとしているのではないか。
長引く国軍の支配と民主化勢力の弾圧は日本にとって新しい、かつ厄介な問題になりつつある。ミャンマーが今後も日本にとって重要な国であることに疑いはない。しかし、だからと言って、ミャンマーの国民を多数殺傷し、ウクライナを侵略しているロシアと結託する国軍に対してこれまでのような対話路線をとり続けるべきでない。日本は旧来からのミャンマー観を改め、真に必要な外交を展開することが必要になっている。
来る5月19~21日にはG7広島サミットが開催される。日本政府はミャンマーの軍政を一刻も早く終わらせるため、各国とともに最大限の努力を払わなければならない。
ミャンマーにおける民主政党の登録抹消
ミャンマーで3月28日、アウンサンスーチー氏が率いる政党「国民民主連盟」(NLD)が政党資格を失った。形式的には、国軍が今年1月26日、党員数などを定めた政党登録法を発表し、申請しない政党は資格を抹消するとしていたのに対し、NLDなど約40の政党は政党登録を申請しなかったので政党資格を失ったのである。NLDは、大勝した2020年総選挙の結果が正当だとしている。国軍側が定めた政党登録法は党員数や党事務所の設置数などの政党要件を定めており、多くの党員が国内外に逃れている現状ではNLDがこれを満たすのは難しいので登録しなかったのである。実質的には国軍側によるNLDの政党資格はく奪であった。
これに先立って、22年12月、国軍統制下の裁判所はスーチー氏に汚職などで計33年の刑期の有罪判決を下していた。国軍はやり直しの選挙を実施するとしているが、その前に国民からの絶大な支持を受けているスーチー氏とNLDを排除したのである。
国軍が2021年2月1日、クーデタにより非常事態を宣言して軍政を始めると、欧米各国は厳しく国軍を非難し、国軍幹部らの資産を凍結する制裁を課したが、日本政府はそれとは一線を画し、対話路線を継続してきた。
経済協力については、日本は西側で最大の供与国である。クーデタ後は途上国支援(ODA)の新規案件を見送ることとしたが、国際機関や非政府組織(NGO)を通した人道支援は続けてきた。
日本政府は「西側諸国で唯一、国軍とのパイプを持つのが強み」、「ミャンマーにも米欧にも、強力なカードとしてアピールできる」、「外交上のレバレッジ(テコ)になる」などと言ってきたが、日本の方針はミャンマーを民主政治に戻す目標とは矛盾が大きくなりつつある。
ミャンマーは少数民族が多く、しかもイスラム系のロヒンギャは国民と認められず難民として扱われてきたのが現実であり、そのような状況の中で国軍に頼らざるを得ないのもやむを得ない面がある。しかし、クーデタ以来多数の国民が犠牲になっている。国軍は選挙をやり直し、憲法を新たに制定するとの方針を立てているが、軍の権益が損なわれない内容にしようとしている。これまでの民主化努力に悖ることになっても国軍の利益を守ろうとしているのであり、このようなことは断じて認められない。しかも総選挙を公正に実施し、民主的な憲法を制定できるか見通しは立たなくなっている。
これまでミャンマーの国軍を支持しているのは中国であり、今後もその点は変わらないだろうが、国軍は急速にロシアとの関係を深めている。中国はミャンマーと国境を接しているだけに影響力は強いが、利害関係は複雑であり、中国の利益にならないことも認めざるを得ない。
一方、ロシアは中国と並んで国軍への二大武器供給国であり、しかも中国のような複雑な事情はない。特にクーデタ後はミャンマーはロシアにとって数少ない顧客になっている。ミンアウンフライン国軍最高司令官に対するロシアの厚遇ぶりは異常であり、国軍は中国もさることながら、いざとなればロシアに頼ろうとしているのではないか。
長引く国軍の支配と民主化勢力の弾圧は日本にとって新しい、かつ厄介な問題になりつつある。ミャンマーが今後も日本にとって重要な国であることに疑いはない。しかし、だからと言って、ミャンマーの国民を多数殺傷し、ウクライナを侵略しているロシアと結託する国軍に対してこれまでのような対話路線をとり続けるべきでない。日本は旧来からのミャンマー観を改め、真に必要な外交を展開することが必要になっている。
来る5月19~21日にはG7広島サミットが開催される。日本政府はミャンマーの軍政を一刻も早く終わらせるため、各国とともに最大限の努力を払わなければならない。
2023.03.23
ロシアはかねてから中国に武器供与を求めていたが、中国は断ってきた。米国のブリンケン国務長官はさる3月19日、中国がロシアに対して「殺傷力のある」兵器と弾薬の提供を検討しているとの見方を示したが、中国政府はこの主張を強く否定した経緯がある。とはいえ、今回習主席がロシアを訪問したからには武器の供与についてなにがしかの肯定的回答をするのではないかと世界中が懸念していたが、この問題について変化があった兆候はない。
共同声明において明確になったのは、中ロ両国がウクライナに対し一方的に「対話」を迫ったことだけである。ウクライナに侵攻したロシア軍の撤退問題については一言も触れなかった。これでは共同声明で言及しなくてもロシアだけを利することになる。
習主席とプーチン大統領の会談結果は、同じ日にウクライナの首都キーウで行われた岸田首相とゼレンスキー大統領の会談で、ロシアの侵攻を「違法で不当でいわれのない侵略」と指摘し、「ロシアは、直ちに敵対行為を停止し、ウクライナ全土から全ての軍および装備を即時かつ無条件に撤退させなければならない」と強調したことと対照的であった。
しかし、プーチン氏が傲慢な態度をとり続けることは誰もが予想できたことであり、この点では習主席とプーチン大統領の会談は何ら驚きでなかった。
一方、習主席の考えについては不可解な点があった。中国の外務省は今回の首脳会談に先立つ2月24日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」を発表していた。その時もウクライナへ侵攻した軍については何も触れず、ウクライナのみに停戦と和平交渉の開始を要求していた。
習近平主席とプーチン大統領は約3時間も会談し、各国はかたずをのんで見守っていたが、基本的には中国外務省の和平案から一歩も出なかった。まさか習主席としてはその案をプーチン大統領に伝えに行ったのではあるまい。これが第一の疑問点であった。
中国がロシアとウクライナの間を仲介したいという考えであるのははっきりしている。それなら、ウクライナがロシアとの話し合いに応じることはまず無理としても、今後につながる何らかの糸口でも示すべきであった。だが、それもせず、ウクライナに和平交渉に応じるよう一方的に求めただけであった。これが第二の疑問点である。
そして推測を重ねることになるが、中国としては、ロシア軍の撤退といっても方法は一つでない。中間案、つまり、ロシアの顔も立てつつウクライナの要求を一定程度満たす方策はありうると考えているのではないか。もちろんそんなことはロシアの侵攻を非難する多数の国は考えもしないことだろうが、中国だけは中間案の内容を当面明確にしない、あいまいな形にしておくのが現実的だと考えていてもおかしくない。そのようなあいまい方式は中国として得意とするところである。習主席がロシアまで行ってプーチン大統領と話し合いをしたのはそのような可能性を探るためだったのではないか。
ゼレンスキー大統領は中国の考えにどう対応するか。軍事侵攻開始から1年になる際の記者会見で、戦争終結に関する中国の提案(外務省の和平案のことと思われる)について協議するため、習近平主席との会談を計画していると述べたが、ロシア軍の撤退に触れない和平案であれば、習氏との会談も実現しないだろう。かりに何らかの形で実現したとしてもあまり突っ込んだ話し合いにはなりえない。ウクライナにとって多数の国民を殺戮したロシア軍を撤退させない和平案などはありえない。
米国は3月17日、中国外務省の和平案は「時間稼ぎ作戦」の可能性があると警告した。ブリンケン米国務長官は、「中国やその他の国に支えられてロシアが行う戦術的な動きに、世界はだまされてはならない。ロシアは自分たちに都合の良い条件で、戦争を凍結させようとしている」と指摘し、「ウクライナの領土からロシア軍を排除するという条件を含まない停戦の呼びかけは、事実上、ロシアによる征服の承認支持を意味する」と付け加えた。ロシアの武力侵攻を非難するすべての国の考えを明解に述べている。
中国がロシアとウクライナの間を取り持とうとしている背景も注意しておく必要がある。米中関係と台湾問題であり、ウクライナとはあまりに遠くかけ離れているが、中国は台湾について次期総統選を見据えて平和攻勢を強めようとしている。ウクライナ問題について平和の実現に努力する姿勢は、台湾における中国のイメージ改善にも役立つ。
また、ロシアの中国にとっての意味を習氏が見極めようとしている点も見逃せない。中長期的に見れば、ロシアとの友好関係は中国の利益になる面と、必ずしもそうでない面があるはずである。習主席がさる3月1日、ベラルーシのルカシェンコ大統領と北京で会談したのもロシアをトータルに見る一環だったのではないか。
習近平主席のウクライナ問題についての考え
中国の習近平主席は3月20日からロシアを訪問。21日プーチン大統領と会談し、共同声明が発表された。ロシアはかねてから中国に武器供与を求めていたが、中国は断ってきた。米国のブリンケン国務長官はさる3月19日、中国がロシアに対して「殺傷力のある」兵器と弾薬の提供を検討しているとの見方を示したが、中国政府はこの主張を強く否定した経緯がある。とはいえ、今回習主席がロシアを訪問したからには武器の供与についてなにがしかの肯定的回答をするのではないかと世界中が懸念していたが、この問題について変化があった兆候はない。
共同声明において明確になったのは、中ロ両国がウクライナに対し一方的に「対話」を迫ったことだけである。ウクライナに侵攻したロシア軍の撤退問題については一言も触れなかった。これでは共同声明で言及しなくてもロシアだけを利することになる。
習主席とプーチン大統領の会談結果は、同じ日にウクライナの首都キーウで行われた岸田首相とゼレンスキー大統領の会談で、ロシアの侵攻を「違法で不当でいわれのない侵略」と指摘し、「ロシアは、直ちに敵対行為を停止し、ウクライナ全土から全ての軍および装備を即時かつ無条件に撤退させなければならない」と強調したことと対照的であった。
しかし、プーチン氏が傲慢な態度をとり続けることは誰もが予想できたことであり、この点では習主席とプーチン大統領の会談は何ら驚きでなかった。
一方、習主席の考えについては不可解な点があった。中国の外務省は今回の首脳会談に先立つ2月24日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」を発表していた。その時もウクライナへ侵攻した軍については何も触れず、ウクライナのみに停戦と和平交渉の開始を要求していた。
習近平主席とプーチン大統領は約3時間も会談し、各国はかたずをのんで見守っていたが、基本的には中国外務省の和平案から一歩も出なかった。まさか習主席としてはその案をプーチン大統領に伝えに行ったのではあるまい。これが第一の疑問点であった。
中国がロシアとウクライナの間を仲介したいという考えであるのははっきりしている。それなら、ウクライナがロシアとの話し合いに応じることはまず無理としても、今後につながる何らかの糸口でも示すべきであった。だが、それもせず、ウクライナに和平交渉に応じるよう一方的に求めただけであった。これが第二の疑問点である。
そして推測を重ねることになるが、中国としては、ロシア軍の撤退といっても方法は一つでない。中間案、つまり、ロシアの顔も立てつつウクライナの要求を一定程度満たす方策はありうると考えているのではないか。もちろんそんなことはロシアの侵攻を非難する多数の国は考えもしないことだろうが、中国だけは中間案の内容を当面明確にしない、あいまいな形にしておくのが現実的だと考えていてもおかしくない。そのようなあいまい方式は中国として得意とするところである。習主席がロシアまで行ってプーチン大統領と話し合いをしたのはそのような可能性を探るためだったのではないか。
ゼレンスキー大統領は中国の考えにどう対応するか。軍事侵攻開始から1年になる際の記者会見で、戦争終結に関する中国の提案(外務省の和平案のことと思われる)について協議するため、習近平主席との会談を計画していると述べたが、ロシア軍の撤退に触れない和平案であれば、習氏との会談も実現しないだろう。かりに何らかの形で実現したとしてもあまり突っ込んだ話し合いにはなりえない。ウクライナにとって多数の国民を殺戮したロシア軍を撤退させない和平案などはありえない。
米国は3月17日、中国外務省の和平案は「時間稼ぎ作戦」の可能性があると警告した。ブリンケン米国務長官は、「中国やその他の国に支えられてロシアが行う戦術的な動きに、世界はだまされてはならない。ロシアは自分たちに都合の良い条件で、戦争を凍結させようとしている」と指摘し、「ウクライナの領土からロシア軍を排除するという条件を含まない停戦の呼びかけは、事実上、ロシアによる征服の承認支持を意味する」と付け加えた。ロシアの武力侵攻を非難するすべての国の考えを明解に述べている。
中国がロシアとウクライナの間を取り持とうとしている背景も注意しておく必要がある。米中関係と台湾問題であり、ウクライナとはあまりに遠くかけ離れているが、中国は台湾について次期総統選を見据えて平和攻勢を強めようとしている。ウクライナ問題について平和の実現に努力する姿勢は、台湾における中国のイメージ改善にも役立つ。
また、ロシアの中国にとっての意味を習氏が見極めようとしている点も見逃せない。中長期的に見れば、ロシアとの友好関係は中国の利益になる面と、必ずしもそうでない面があるはずである。習主席がさる3月1日、ベラルーシのルカシェンコ大統領と北京で会談したのもロシアをトータルに見る一環だったのではないか。
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