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2014.01.15

シャングリラ対話のシェルパ会合

1月12日~14日、シンガポールでThe Fullerton Forumが開催された。主催はシャングリラ対話と同じIISS(国際戦略研究所)である。今回のフォーラムに参加したのは50数名で、名簿に記載されている者だけで、中国は6名(筆頭はLi Ji 国防部外事弁公室副主任)、米国は3名(筆頭者Vikram Singh国防省南・南東アジア担当次官補代理)、日本は3名(筆頭は松村統合幕僚副長)であった。これらの国からはさらに随員が数名来ており、それを含めると、実際の参加者はざっと倍になる。
IISS側は、かねてから中国国防相の出席を確保したい考えであるが、実現した場合も代理の出席にとどまった場合もあった。今年のシャングリラ対話においては安倍首相に出席してもらいたいと要望している一方、もしそれが実現した場合中国がどのように対応するかも気にしていた。
このフォーラムはシャングリラ対話のシェルパ会合を兼ねると説明されている。首脳会議のシェルパ会合のように本番での議題やさらには議論の内容まで細かく準備するのではないが、数ヵ月後の大規模なシャングリラ対話で焦点となる論点を浮き彫りにする意味がある。
今回のフォーラムの焦点は東シナ海及び南シナ海にあり、当然のことながら中国と各国との対話という性格が強かった。IISS側は中国だけでなく北朝鮮の問題も大いに議論したいという考えであるが、今回のフォーラムでは北朝鮮への言及は散発的に出てきた程度であった。ただし今年が例外なのではなく、いつもそういう傾向のようである。韓国に対してはハイレベルの参加を呼び掛けているが、韓国政府も軍も腰が重いらしい。今次フォーラムには2名が参加していることになっており、うち1名はDr. Chung Min Lee安全保障問題担当大使の肩書を持つYonsei大学教授であるが、発言はなかったはずである。出席していたかどうかも定かでない。
個々の発言は引用しないことになっているので、全体の印象に過ぎないが、中国に関する議論が主であり、内容的にはあまりかみ合わず、発言者は自分の言いたいことを言っていた。アカデミックな議論としてはとても高い評価は与えられないが、しかし、中国の軍人が諸外国の関係者と意見交換する機会はほとんどないだけに、このフォーラムもシャングリラ対話も貴重である。また、形の上では議論はかみ合わないにしても中国からの出席者が各国の発言に注意しておりまた、一定程度それを意識した発言も行っているので、対話には意味があるとも考えられる。このような特徴は昨年のシャングリラ対話もほぼ同様であった。
とくに議論の中心となったのは昨年秋の中国によるADIZの設定であり、海南省の漁業に関する新措置についてもやりとりがあった。これについて中国代表は、内容的に新しいことではないとしきりに強調していた。
なお今年は第一次大戦勃発100周年に当たることから、今日の状況を分析するのに100年前のことが一つの話題となりそうである。

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2014.01.11

中国の巨大さ

中国が大国であることをあらためて見せつける事実が最近立て続けに起こっている。

○2013年の中国の貿易総額は米国を抜いて世界第1位になったことが、2014年1月10日発表された中国貿易統計から明らかとなった。前年比7.6%増で、4兆1603億ドルになったということである。米国の統計は未発表であるが、増加傾向から判断して中国に追い抜かれたのはほぼ確実だそうである。中国の貿易総額が日本を抜いたのが約10年前、中国がWTOに加盟した2001年の時点では、貿易総額は約5千億ドルで米国の4分の1であった。
○安倍首相は1月9日日本を出発し、オマーン、コートジボワール、モザンビーク、エチオピアの4カ国を歴訪中である(11日現在)。これに外国のメディアが注目しており、そのなかに中国の影響力との比較が出てくる。もちろん東アジア情勢を考慮しての評論家らしいコメントであるが、中国はすでにアフリカ諸国に進出してそのプレゼンスは巨大なものとなっており、日本の首相が歴訪しても効果は上がらないのではないかというようなことを言っている。
効果があるかどうかはもっと広い観点から見なければならず、首相の中東・アフリカ訪問は有意義であると思うが、中国の存在が日本や欧米諸国と比較にならないくらい大きくなっているのは事実である。たとえば、アフリカでは万の台の中国人が居留している国が多いが、日本はそれより二けた少ない百の台であり、旧宗主国の仏英などは日本より多少多いかもしれないが大した差ではない。これは居留民の数であるが、一事が万事。アフリカ諸国では、各国の大使がよるとさわると中国のことが話題になるそうである。
○済州島に移住した外国人は、2013年9436人から1万1935人と、26.5%増加した。済州島の人口は約55万人だから、まだ2%程度であるが、伸び率は高いので目につく。こうなったのは、済州島が2010年から投資目的の移民を受け入れるようになり、5億ウォン(約4600万円)以上の不動産を済州島で購入し、5年間売却しなければ永久居民権が得られるようになったからである。
なかでも中国人の移住者は急増しており、2013年の増加率は46.1%で4968人となった。ダントツである。当然中国人のプレゼンスが目立つようになり、島のあちこちに中国語の文字が現れている。
これに対して、環境破壊の観点からと、済州島固有の文化が影響され、消えてしまうのではないかという懸念からの反対が起こり、政府に対して投資移民受け入れ政策を再考するよう求める声が出ているが、政府当局は中国資本による経済効果は大きいと反論している。
○中国の人と資本による大規模な進出は他の地域でも起こっており、太平洋諸島などにも、またアイスランドにも中国パワーが押し寄せている。ほっておくと飲み込まれてしまうので、アイスランドは土地の売却を拒否した。
シベリアと中国の東北部が接する沿海地方では中国人が国境を越えてロシア領に入り、農業などに従事している。資本進出はまだ多くないようだが、いずれ増加してくるであろう。この一帯ではロシア側では人口希薄、中国側では労働力が豊富なるので、そのような傾向が出てくるのは合理的でもあるが、モスクワでは中国脅威論が高まっている。
土地を知的サービスに置き換えてみても、同様の傾向がうかがわれる。たとえばハーバード大学で多数の中国人留学生が学んでおり、「まるで中国共産党幹部養成の分校になっている」と揶揄されることもある。
医療サービスの面では、米国への出産ツアーが注目される。裕福な中国人女性が医療設備のよい米国の病院で出産すれば、米国籍も獲得できるので二重のメリットがあるということだ。まだ絶対数は小さいが、やはり急増しているようである。

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2014.01.10

米国と各国の原子力協定

米国と各国との原子力協力協定に関する日本原子力研究開発機構(JAEA)の核不拡散ニュースNo.202の関連資料を若干手直しした。

2013 年10 月10 日、米国のジョン・ケリー国務長官とベトナムのファム・ビン・ミン外相が両国間の原子力協力協定に仮署名した。この協定には、ベトナムは国内で濃縮・再処理活動を行わないとの法的拘束力のある約束(いわゆる「ゴールド・スタンダード」)が含まれておらず、米国内で論議を呼んでいる。
上院外交委員会のボブ・コーカー議員(共和党、テネシー)はジョン・ケリー国務長官に宛てた10 月28 日付の書簡で、「濃縮・再処理能力を現在保有していない諸国との新たな協定において濃縮・再処理能力を容認することは、米国の核不拡散政策目標とは相容れず、一貫した政策の欠如はこれら能力の獲得・増強を米国が防止しようとしている諸国に対して矛盾したメッセージを送ることになり、相手国にゴールド・スタンダードが標準でないと思わせる」と批判した。
2009 年12 月に発効した米・UAE 協定においては、米国はUAE にゴールド・スタンダードを受け入れさせたが、その時もこれを義務付けたいとする国務省と、原子力輸出への影響に鑑みてケースバイケースでの適用を考えたいエネルギー省(DOE)の間で意見の対立があった。この時、一旦はケースバイケースでの適用が行政府の方針として打ち出されたが、当時下院外交委員長だったイレーナ・ロスレーティネン下院議員(共和党、フロリダ)を中心とした下院の超党派議員により提案された、「ゴールド・スタンダードを満足しない123協定に対して議会の承認権限を強化するための法案(H.R.1280)に関する報告書」
(Report No. 112–507)が2012 年5 月30 日に下院外交委員会で作成され、本会議へ上程される可能性があったこともあり、クリントン国務長官(当時)は省庁間でのゴールド・スタンダード適用の可否について再検討するよう指示していた。見直しの結果はこれまで公表されていない。
米国の産業界には他国との原子力協力を進めようとする強いロビーがあり、米国が不拡散のため厳しい条件を要求し続けると、米国ほどには協定中の核不拡散条件が厳しくないロシアやフランスなどに取引を持っていかれるという懸念がある。米原子力エネルギー協会(NEI)、全米製造業協会(NAM)、米国商工会議所(USCC)はケリー国務長官、モニーツDOE 長官に宛てた書簡(2013 年7 月12 日付)で、「いまだに米国が協定内容に合意できていないヨルダン、ベトナム、サウジアラビアなどは、原子力発電計画を推進するに当たり、米国との 協定締結を待ってくれない」として、濃縮・再処理に対する“実際的なアプローチ(a pragmatic approach)”の採用と迅速な協定締結を促していた。要するに、難しいことを言わずに協定を早く締結すべきであると促していたのである。
冒頭のコーカー書簡によると、まもなく纏まる台湾との 協定には法的拘束力のあるゴールド・スタンダードが含まれているそうである。
一方、韓国との協定交渉ではゴールド・スタンダードの話は全く行われていないとし、こうした一貫性のない政策は米国の核不拡散の取組みを弱体化させると指摘している。
米・韓の現行協定では韓国における米国起源の核物質の再処理には米国との共同決定が必
要であり、更に1992 年の朝鮮半島非核化共同宣言において濃縮・再処理施設の不保有が宣言されているが、2014 年に期限を迎える協定改定交渉において韓国は再処理について日米協定と同様の包括同意を主張している。しかし、米国には応じる用意はなく、とりあえず現行協定を2 年間延長する方向で交渉を継続中である。

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