平和外交研究所

2015 - 平和外交研究所 - Page 45

2015.04.25

ドローンの首相官邸への侵入と原発の安全性

 首相官邸の屋上に無人小型飛行機ドローンが侵入、着陸した事件で、今、日本は大騒ぎになっている。従来の警備体制の盲点が突かれたこと、ドローンの取得、運用が野放しになっているので早急な対応が必要なこと、米国でも類似の事件が起こっていることなど検討すべき問題は多々あり、すでに対策が講じられているようであるが、原発の安全性が著しく損なわれる恐れがあることについてはどのような分析が行なわれ、対策が講じられているのか見えてこない。
 しかし、原発へのテロ攻撃の脅威は、首相官邸など政府の中枢への攻撃とともにもっとも深刻な問題の一つであり、従来から特別の対策を講じていたが、今回のような事件が起こるとこれまでの対策は影響を受けるはずである。原発の安全性への影響を口にすること自体憚るべきであるというような、従来型の、事実隠蔽型の対応が繰り返されるとは思いたくないが、正直言って心配である。
 そのような考えから、3月14日に本HPにアップした一文を再掲した。

「原発を危険にさらす無人飛行機ドローン
 無人飛行機ドローンが原発にとって危険なものとなりつつあるが、日本でそのことが十分伝えられているか疑問がある。
 2014年10月、フランスで原発の上空にドローンが侵入する事件が相次いで発生した。昨年12月21日付のThe Independent通信や2月24日付のニューズウィーク誌は、この事件を調べた英国の原子力専門家John Largeがつぎのように説明したと報道している。
○侵入事件は合計で13回あったが、そのうち5回は大西洋海岸からドイツとの国境の間の地域に広範囲に散在している原発において、数時間の間に一斉に起こっており、何らかの意図をもって計画的に行われた。
○この時使われたドローンは民間機だが、テロリストが試験的に使っている恐れは排除できない。事件に使われたドローンはヘリコプター式で、数十キロ飛行可能な強力なエンジンを搭載し、原発を照射する強い光線を発射する機会も積んでいた。カメラも装備していたと推定される。
○この他、パリでも正体不明のドローンが飛行しているのが目撃されている。また、同時飛行事件に先立って、Belleville-sur-Loireでは3人の男女が、インターネットで入手可能な、比較的簡単で100ユーロくらいのドローンを飛ばそうとして逮捕されたが、政治的意図はないことが判明し釈放された。Flamanvilleではアレーバ社の再処理施設の上空にもドローンが侵入した。
○英国でも電力需要の18%を賄っている16の稼働中原発が危険にさらされている。現存の原発はサイボーグ攻撃を想定していない。2014年中、英国の原子力施設で37件の警備ミスが起きており、抜本的な警備強化と原発の安全性診断を早急に行うよう求めたが、英政府は規制当局the Office for Nuclear Regulationに回しただけで自分たちで真剣に検討しようとしない。
○グリーンピース・フランスの要請で報告書はまとめ提出した。グリーンピースはこの報告書を公表していないが、政府は入手可能である(なお、Large 自身はグリーンピースの支持者でないと説明されている)。
○1月にフランスの原子力安全・規制局、仏防衛省と会う予定である。
○ドローンによるテロ攻撃のシナリオとしては、「まず、ドローンが外部電源を破壊し、次に緊急用ディーゼル発電機を破壊する。冷却電源を失った原子炉は30秒で炉心溶融を始め、放射性核分裂生成物が飛散する」ことが考えられる。また、内部の仲間と連携すれば、ドローンが爆弾を運ぶ必要はない。

 日本の原発も同様の危険にさらされているはずである。対策を強化する必要があるのはもちろんであるが、原発の脆弱性にかんがみると完全に防ぐことは可能か、大いに疑問である。
一方、ドローンの性能は急速に向上しており、今や高度1万フィート(約3千メートル)を飛行できるもの、映画ジュラシック・パークに出てくる翼竜ほど大きいものも出現している。コンピュータ制御も行われている。
 ドローンに対する需要は急増しており、日本政府はその普及に向けた特区を設ける検討を進めている。また、早急に強い規制を導入する必要性も認識されている。これら、比較的技術的な面では日本はよく対策を講じるであろう。
 しかし、問題はドローンを使用したテロ攻撃である。わずかな間違いも許されない原発においては違法に侵入してくるドローンは即座に撃ち落さなければならないが、それは可能か。有効な対策はほかにあるか。今後、従来に増してドローンの危険性に注意していく必要がある。
 なお、前述のニューズウィーク誌は、現状では、フランスのほとんどの原発はドローンを利用した攻撃に耐えられないので、閉鎖されるべきだと述べている。これは常識的には極論であろうが、問題意識の高さを表している。」
2015.04.23

南シナ海・東シナ海の問題に国際社会の注目が集まった

 南シナ海をめぐって中国の行動が再び注目を浴びている。とくに、ファイアリー・クロス礁(中国名は「永暑礁」)で数カ月前から大規模な埋立工事を行ない飛行場などを建設したからである。この岩礁はかねてからベトナムと争いになっていたが、中国はファイアリー・クロスを南海艦隊の拠点として重視し、今回の大規模工事を行なう前から通信基地を置き、要員を常駐させるなどして実効支配していた。
 しかし、ファイアリー・クロスはその名が示す通り岩礁であり、全体が常時海面より出ているのではなく、領有権を主張できるか疑義があったので、中国はこの度このような工事を行ない、曲がりなりにも島の形にしたのであろう。この工事の模様は衛星写真で鮮明に映し出され世界中に伝えられた。

 来日したカーター国防長官は4月8日、安倍首相をはじめ中谷防衛大臣、岸田外務大臣と会談し、尖閣諸島は日米安保条約の適用を受けることを再確認するとともに南シナ海での中国の行動に懸念を示した。公式の発表では「東シナ海等における力による現状変更の試みには明確に反対した」となっていた(これは岸田外務大臣との会談概要)だけで、具体的にどのような発言をしたか明確でなかったが、カーター長官は訪日前のプレスとのインタビューでも、中国が南シナ海で力により現状変更しようとしていることに懸念を表明するなど同様の発言を繰り返し行なっていた。
 中国側は同長官が余計な発言をすると反発する姿勢を見せ、「中国は自国の領土において海を埋め立て陸地を作って、民間用の施設を構築しているのであり、何が悪い」と外交部のスポークスマンは開き直った。もっとも中国のこのような反発はこれまで何回か繰り返してきたことであり、特に新味があるわけではない。
 
 しかるに、カーター長官訪日と同じときに(4月7~10日)、ベトナム共産党のグエン・フーチョン書記長が訪中し熱烈に歓待された。ベトナムは昨年西沙諸島での中国による石油探査をめぐって中国と鋭く対立したばかりであり、同書記長の訪中を実現させたこと自体は中国外交の成功だったのであろう。海外に拠点がある中国紙『多維新聞』などは、これは内外の注目を集めた「大事件」であると誇らしげに報道していた。つまり、昨年は激しく対立した両国がここまで和解するとは各国は思わなかったであろうが、実現したというわけである。
 今次中越会談の結果はどうであったか。中越共同声明では、「海上の問題について双方は率直な意見交換を行なった」「中越政府の国境交渉に関する仕組みを活用する」「それぞれの立場主張の「過渡性」に影響しない解決方法を積極的に探究する(注 必ずしも意味は明らかでないが、当面は中越双方ともそれぞれの主張を維持することはやむをえないが、将来的には積極的に解決していこうという意味かと思われる)」「その中には共同開発に関する積極的な研究と商談が含まれる」「共同で海上での意見不一致をよく管理する」「争いを複雑化、拡大させる行動はとらない」などの言葉が含まれている(香港紙『明報』4月13日付)。
 これらの言葉は交渉のデリケートさを反映しているが、一部に報道されたように、中越両国は南シナ海の問題を話し合いで解決することとしたのか。そうは思わない。鍵となるのは、「主権に関する争いが拡大するのを避ける」であり、中国側はこの言葉をもって、ベトナムが国際司法裁判所での解決を求めることはしないことに合意したと主張するかもしれない。
 しかし、ベトナム側はそのような解釈をとらず、石油の探査を避けるという意味であると主張するのではないか。今回の共同声明は玉虫色になっているのである。この問題が簡単に解決することは考えられないのでこのような文言になったのは自然なことである。
 ちなみに、中国中央テレビ(CCTV)は、「双方は南シナ海の安定維持に努力することで合意した」と報道した。これも同じことで双方はそれぞれの主張をできそうである。
 なお、習近平主席は「海上のシルクロード」へのベトナムの参加を呼びかけ、チョン書記長は「積極的に検討している」と応じたとも伝えた。

 4月15日、ドイツのリューベックで開催されたG7の外相会議で、「海上の安全保障についての宣言」が採択された。このような宣言が採択されたのは初めてのことであり、その中では、「国際法に基づく海洋秩序を維持する」「我々は引き続き東シナ海および南シナ海の状況を観察しており、大規模な陸地造成のような一方的な行動に懸念を抱いている。それは現状を変更し、緊張を高める」「威嚇、強制、武力による領土主張に強く反対する」「すべての国が平和的方法、または、国際的な紛争解決手続きを含め国際法に従った紛争解決を求めることを呼びかける」「境界設定が完了していない未解決の地域において海洋環境に永続的変化を及ぼす一方的行動を控えるべきである」。
 この宣言が中国の行動を強く意識して書かれているのは明らかである。4月20日、新華網は「G7で海洋安全『宣言』ごり押し、日本の意図は何か」と題した記事を掲載し、憤懣をぶちまけたが、それだけ宣言は効き目があったと考えられる。おそらく、中国は会議出席者に取材し、日本が強く主張した結果であるとの心証を強くしたのであろう。
 かくして、4月中に南シナ海および東シナ海に関し集中的にいくつかの出来事が起こり、まさに海上の安全保障に注目が集まった。中国との関係では今後もこのような紛糾が繰り返されるだろうが、今回の一連の出来事を通じて日本外交は積極的な対応であったと評価できる。今後も緩まずに対応することが期待される。

2015.04.21

(短文)習近平主席の民主化革命への警戒

 以下は、2015年4月14日の香港紙『大公報』によった。

 2014年9月、中共中央文献研究室編纂の『第18回党大会以来の重要文献』が発行された。習近平の講話は8件収められており、その中の1つは、2013年6月の全国組織工作会議での講話である。習近平は次のような言葉を口にした。
「理想についての信念が動揺することが最も危険である。」
「私はつねに考えてきた。中国において、もしある日民主革命が起こったなら我々の幹部は決然と立ち上がって共産党の指導性を守るだろうかと。大多数の党員はそれができると信じている。」

 この習近平の言葉は形式的には共産党員を信頼していると言っているが、実際には疑問を抱いていることを示唆していると思われてならない。 
 大公報』紙は、「党中央の高級会議以外の場で民主革命が論じられることはきわめて少ない」「内容的にも、習近平が使った言葉は珍しい」「中共中央は早くから民主革命に警戒していたことがうかがわれる」「習近平の講話の直後に中国は国家安全委員会を設置した」とコメントしている。

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