平和外交研究所

2015 - 平和外交研究所 - Page 50

2015.04.02

(短文)最近の反腐敗運動

 本HPでは、最近反腐敗運動についてあまり書いていないが、この運動は引き続き盛んに行われており、とくに、本部が外国にある中国語の新聞(『多維新聞』など)や香港の新聞(『大公報』や『明報』など)ではあきれるほど報道されている。

○3月末に、中央規律検査委員会は7人の特別調査官を任命し、中央弁公庁、中央組織部、中央宣伝部など権力の中枢も調査対象とした。
○外国へ逃れた調査対象者(裸官)を中国へ連れ戻すために、米国政府に優先名簿を提出して協力を要請した。反腐敗運動のトップである王岐山が訪米する話もある。
○中国人民銀行(中国の中央銀行)の前行長の戴相龍も調査されている。同人は温家宝と近く、中国でも最大級の富豪の一人である。
○軍では海軍へ調査の手が伸びており、副司令員の杜景臣などが調査の対象となっており、呉勝利司令員も調査されることになると噂されている。陸軍では徐才厚元中央軍事委員会副主席の例にみられるように、海軍より以前から調査が進んでいた。一方、空軍はまだ手付かずであり、「羽があるので逃げやすいのか」などと揶揄されている。
○副省長クラスでは、四川省副書記の李春城、福建省副省長の徐鋼、浙江省の政治協商会議副主席の斯鑫良が調査対象になった。福建、浙江両省はかつて習近平が勤務したことがあり人脈が残っているので、徐鋼や斯鑫良の摘発は反腐敗運動に例外はないことを示す意味があると言われている。なお、1月16日付NY Times紙は習近平の反腐敗運動の対象者は選択的だという疑念を払しょくできないとする記事を掲載した(Murong Xuecun)経緯がある。
○国営企業での調査では、宝鋼集団(粗鋼生産では中国第2、世界第3)の崔健副総経理が調査対象となった。
2015.04.01

アジア・インフラ投資銀行(AIIB)-いくつかの疑問

 日本政府は事務レベルで疑問点を中国に提示し説明を求めているが、明確な回答は得られていないと報道されている。その内容は知る由もないが、素人としても疑問がある。
 
 まず、AIIBの本部は中国に置かれるそうであるが、それはいつ、どこで、どのようにして決定されたのか。中国が提案者だから本部を中国に置くのは当然というのはあまりに単純・安易な思考である。国際機関であれば、参加国は銀行の設立・運営に権利があるのは当然であり、本部の決定も一定の方式にしたがって行なわれなければならない。アイデアを出した国と本部が異なる例はいくらもある。
 少々古いが「一次産品共通基金」の本部はアムステルダムに置かれた。オランダはこの機関設立の発案者でなかったはずである。国連大学は日本にあるが、日本が発案したのではなく、アジア開発銀行(ADB)も、本部があるフィリピンは発案者でなかったのではないか。国際機関の本部を招致することは大きな意味があり、決定が行われるまでに競争となるのが常である。簡単に決まることでない。

 それとも、本部所在地の決定はまだ行われていないのか。

 中国は「創始メンバー国」として迎える期限を3月末としたが、そのことは中国が決定できるのか。どのような権限で。もし中国だけでなく、複数の国が決定したのであればどの国か。

 各国の出資比率はどうなるのか。これは国際金融機関としては決定的なことである。最大の問題点と言っても過言でない。

 それとも、中国は中国法人として新しい銀行をつくる、つまり、国際機関でなく国内機関を設立しようとしているのか。

 銀行に参加すればなぜメリットがあるか疑問であることは3月27日に書いたが、少し追加すると、参加国の企業だけがプロジェクトの請負で有利になることには普遍性の観点から問題がある。もし参加国だけがAIIBプロジェクトに入札できるというなら、それは昔の「講」のようなものではないか。

 中国がAIIBに熱心なのはよく分かるが、その一つの理由は「海上のシルクロード」建設にAIIBが役立つからであろう。しかし、他のAIIB参加国は必ずしもそのような目的を共有しないはずである。では、そのような諸国の利益をいかに守れるか。なお「海上のシルクロード」については2月16、18、19,23日に書いているので参照願いたい。

 IMF、世界銀行、ADBなど既存の国際機関の在り方に不満があるのは分からないでもないが、基本中の基本が分からないのに参加を決定する国にも、各国が次々に参加表明することを「雪崩」とか、「ドミノ現象」と表現するメディアの姿勢にも違和感を覚える。

 日本が参加しないのは米国が参加しないからだとよく聞く。それを否定はしないが、基本に立ち返って見つめ、分析を試みることが必要でないか。
2015.03.31

(短文)尖閣諸島と地図

 1969年に中国政府が作成し、「尖閣群島」という日本名表記を使用した(過去には「尖閣諸島」をこのように表記することもあった)地図を日本の外務省が最近公表した。 これに関する在米の台湾人研究者、黎蝸藤(ローマ字ではLi WotengともLi Wotenとも表記しているようだ)の評論、「中日どちらが地図戦争を勝つか」を3月24日付の明報が掲載している。
 同氏は最近、『釣魚台是誰的(尖閣諸島は誰のもの)』という本を出版し、尖閣諸島に関する問題の解決は国際司法裁判所に委ねるのがよいという意見を発表して注目された人物である。これについては改めて論じることとする。
 なお、中国語を読まれる方は次の評論も参照されることをお薦めする。
黎蝸藤﹕終戰70年 要認識不要仇恨
http://dddnibelungen.blogspot.com/2015/03/70.html
黎蝸藤﹕中國為什麼無法打贏 釣魚島的輿論戰
http://dddnibelungen.blogspot.com/2015/03/blog-post_14.html
 地図が国際法上主権の根拠となるかについて、黎蝸藤氏はつぎの諸点を述べている。
○日本の外務省が中国の地図を公表したことについて、中国側には劉江永のように、尖閣諸島が中国領であることを示す証拠となる地図は多数あり、地図戦で中国は負けないと言う者がいるが、まったく意味のない口先だけのことである。
○そもそも、主権をめぐる国際紛争において地図は効力を持たない。1928年のIsland of Palmas事件において、当事国である米国は多数の地図を提出したが、仲裁官はそれを主権主張の根拠とすることを拒否した。
○古い地図は、表示が不正確で、島の位置が違っていたり、名称が現在と異なっていたりする。南シナ海に関する古い地図でも島の位置表示は不正確で、たとえば「石塘」は厦門付近に表示されており、西沙諸島か南沙諸島かの区別さえ困難である。
○昔の地図に名前が記載されていてもその島に主権が及んでいたことを示す証拠などない場合が多い。また、たとえば、南シナ海の島として表示されていても、「世界地図」として、あるいは南シナ海の「夷国」の地図として作られていることがある。地図に表示があるだけで中国の領土であることを示しているとは言えない。
○国際法によれば、主権を認定するには主権の主張と有効支配が必要である。地図上中国の領土として表示されていれば主権の主張は認定されるだろうが、有効支配があるとは限らない。たとえば、中華民国の地図は長らく蒙古を中華民国領として表示していた。現在でもそのようなことを主張すれば笑いものになるだろう。

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