平和外交研究所

2015 - 平和外交研究所 - Page 42

2015.05.13

中国の「一帯一路」構想、狙いや背景

 5月13日の新華網は、「「シルクロード経済ベルト」および「21世紀の海上シルクロード」の建設(以下「一帯一路」)は、党中央と国務院が世界情勢の深刻な変化に基づき、国内および国際の二つの大局について統一的に計画を立てるために打ち出した重要な戦略構想であり、その意義は重大である。「一帯一路」をめぐって世論の中には誤った認識が不断に生まれ、伝達拡散されており、注意し、是正しなければならない」とする論評を掲げた。中国は神経質になっているようだ。
 
 以下は、5月11日にTHE PAGEに掲載されたものである。

 「中国の「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」設立準備の関連で、「一帯一路」構想に注目が集まっています。
 「一帯」とは、中国から中央アジアさらには西アジアにつながる地域で「シルクロード経済ベルト」とも呼ばれています。東南アジアと南アジアも含まれると見ておいたほうがよいでしょう。この地域では、中国と中央アジア諸国、パキスタン、アフガニスタン、イラクなどとの協力関係が顕著に進展しており、また、海洋政策を巡って対立するインドとの関係改善も始まり、昨年9月には中国の習近平主席がインドを訪問し、またインドのモディ首相も近々(5月中旬)中国を訪問する予定です。

 「一路」は中国から南シナ海、インド洋、アラビア海を経て地中海に至る海上交通ルートのことで、「海上のシルクロード」あるいは「真珠の首飾り」とも呼ばれています。中国から中央アジアを経て欧州へ通じる古代の「シルクロード」を海上でイメージしたものでしょう。
この関係ではミャンマー、スリランカ、パキスタン、さらにはギリシャなどの重要港湾の機能を向上させ、中国の船舶が自由に利用できる体制作りが行われています。

 中国が「一帯一路」を語り始めたのは2013年の秋であり、この構想と相前後して「アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備が始まり、「一帯一路」とAIIBはペアの形で進められてきました。
 AIIBについては2015年末までに設立するという目標が掲げられている一方、「一帯一路」にはそのような期限設定はありませんが、中国政府は張高麗政治局常務委員兼国務院副総理の下に指導小組(我が国の関係省庁会議のようなもの)を設置し、AIIBと同様猛烈な勢いで推進しています。どちらの構想についても考えが固まっていない面があるようですが、中国と周辺の諸国でインフラ建設を急ぎ、貿易をさらに振興しようとしていることは明らかです。また、このような構想を通じて人民元の国際的流通にも役立たせたいという狙いも込められているものと思われます。
習近平主席は、先のバンドン会議(アジア・アフリカ会議)60周年記念式典の際に、安倍首相を含む各国首脳に対し「一帯一路」構想が国際社会の支持を受けていると強調するなど首脳自らがそのアピールに懸命です。安倍首相はこれに対し「「一帯一路」については,今後どのように具体化されるか注目している」と応じました(外務省資料)。
 
 中国が「一帯一路」構想を掲げる意図は何でしょうか。
 実は、この構想は既存の二国間・多国間協力を基礎に、さらに広範囲の地域協力を総合的に進めるものであり、特定の目標達成を目指すのではなく、同構想の推進を通じて中国を中心とする広範な地域の一体性を高めるところにその狙いがあるようです。習近平主席は去る3月のボアオ・アジア・フォーラムで、中国と周辺の諸国が「運命共同体」の意識を樹立することを強調し、「一帯一路」はそのための重要な牽引力であるとまで発言したと報道されました(シンガポールの聯合早報網2015年04月13日付)。
 「一帯一路」、とくに「一路」は直接的には海上交通網の整備、すなわちオイルルートの確保や港湾の整備およびそれに付随する投資が主たる内容ですが、海上交通は安全保障と密接に関連しており、南シナ海、インド洋などの海上安全保障への影響も大きいでしょう。「一帯一路」の「一路」は、太平洋、インド洋から地中海などへも進出し、同時に米国の影響力を減殺することを目論む中国の海洋大国化戦略の一部であると言って過言でないと思われます。
 またこれは表で語られることではありませんが、中国が「一帯一路」やAIIB構想の大風呂敷を広げた背景には、経済成長がひところのような勢いでなくなっていることや、内陸部と沿岸部などの経済格差が増大しているため強い経済刺激策を必要としているという事情や、中国の大国化への願望とそれを実現するための、いわば日本の列島改造計画の国際版とでも呼ぶべき大胆な思惑が見え隠れしているように感じられます。

 しかしながら、「一帯一路」はあまりにも急速に計画が進められたためでしょうが、検討は十分でなく、走りながら対策を考えているような感じがあります。
 今年の2月初めに開かれた国務院の会議で、「一帯」は順調であるが、「一路」については障害が生じていることが指摘されました。具体的には、スリランカ、ギリシャなどでの政権交代が原因で中国との関係推進にブレーキがかかっています。これらの問題は中国だけの努力では解決できないことなので、中国にとっては頭の痛いところです。
 流動的な側面が少なくないので今後について明確な見通しを立てることは困難ですが、「一帯一路」、とくに「一路」上の重要拠点ごとに状況の違いが大きくなり、中国は「一帯一路」という総合的な取り組みを実現させるよりも個別の問題の対応に追われる恐れがあります。
 このような現状にかんがみると、「一帯一路」が国際社会の支持を受けているというのは宣伝的傾向の強い働きかけであると言わざるをえません。
 AIIBの設立準備に57カ国もの国が参加したことは注目すべきことですが、前述したような中国の全体的戦略を各国がどの程度理解しているか疑問です。東南アジア諸国は南シナ海での中国の行動の危険性を肌で感じているでしょうが、政治的な影響力を考慮すれば表立って反対することは困難だという事情があります。
 またインドは、かねてから中国の軍用艦船の通航に神経をとがらせており、スリランカやパキスタンの中国への協力強化を強く警戒しています。
 日米韓、さらに欧州諸国などは直接「一路」上に位置しているのではありませんが、海上交通を含め海上の安全保障には強い関心があります。日本が、中国の「一帯一路」への支持を呼びかけるのに対し、AIIBに対するのと同様慎重な姿勢で対応しているのは適切だと思われます。」
2015.05.12

(短文)イスラム過激派のリクルート‐香港など

米国の『VICE』誌の記事を4月14日付の『大公報』紙が報道している。その要旨。

 「過激派組織ISのリクルート目標の一つは多数のイスラム教徒がいる新疆である。この他、アフガニスタン、パキスタン、タジキスタンなども標的になっている。

 香港に住んでいる東南アジア出身のイスラム教徒はリクルートの格好の対象になっており、ISのリクルート担当者はインドネシア人メイドにビラを配り、アラーをたたえ、彼女たちに黒っぽく地味な服装をするよう勧めるとともに、志のある者は新疆へ行って言葉で使命を聞くよう呼びかけている。
 2014年7月、ISの指導者バグダディは、「兄弟であるあなたたちを我々は待っている」とビデオ声明で呼びかけた。その当時はあまり注目されなかったが、最近、香港やその他の地で起こっている事件にかんがみると、バグダディの呼び掛けには注意が必要である。

 シンガポールの国防戦略研究所の報告では、アジアから少なくとも千名のイスラム教徒がシリアおよびイラクの戦闘に参加しており、その大部分はインドネシアとマレーシアからである。8月にシリアで死亡したマレーシアから来たMat Sohの生前のプロフィールと葬儀の際のビデオが過激派の中で出回っている。」
2015.05.11

対独勝利70周年記念式典と日本、ロシア、中国

 10年前の対独勝利60周年の際には、戦争に敗れたドイツも含め西側主要国の首脳がロシアで行われた記念行事に参加した。日本の小泉首相も参加した。記念したことはドイツに対する勝利であるが、戦争が終わって60年もたち、冷戦も終結し、戦勝国側とドイツが和解に向けて前進していることを象徴するという積極的な意義があったからである。第2次大戦で敗れた日独伊三国の首脳は式典で端に近い場所を割り当てられたが、この積極的意義の前にはそれもたいした問題にならなかった。
 ロシアにとって対独勝利記念式典は非常に重要であり、今年も多数の参加を確保したかったが、現実には20カ国程度にとどまった。60年の際の50カ国以上と比べれば大幅な減少である。こうなったのはウクライナ問題をきっかけにロシアと西側の関係が悪化し、ドイツとの和解をロシアと米欧諸国がともに祝う状況でなくなったからである。
 今回、ロシアがとくに重視したのは中国の習近平主席の出席であり、それは奏効した。しかも、中国を含め数カ国の外国軍隊がパレードへ参加し、記念式典を盛り上げた。

 しかし、広い目で見ると、今年の記念式典は2つのことを際立たせる結果になった。1つは、10年前の和解がロシアと西側諸国との対立に代わったことである。
 にぎにぎしい軍事パレードはそれをいっそう強調した。さらにロシアと中国の艦隊が初めて地中海で合同演習を行なうという、欧州にとって刺激的なおまけまでついた。
 プーチン大統領としては、対立は欧米諸国に原因がある、今回の式典から和解の意義をなくしたのは西側だと言いたいのかもしれないが、対立傾向をことさらに強調することはロシアにとって利益にならないはずである。
 もう1つ際立ったのは、中国の大国化である。一部の報道では、記念式典の主役は(ドイツとの戦争に関係のない)中国の習近平主席であったと言われている。まさに赤の広場はそういう雰囲気になったのであろう。

 来る9月3日には、中国で対日戦勝記念式典が開催される。中国が第2次世界大戦の2つの記念行事を戦略的に利用しようとしていることは、1月31日の当研究所HPを見ていただきたい。
 中国としては大国であることを諸外国に誇示すると同時に、国内的な考慮、つまり、体制維持に役立たせようという意図もあったのではないか。国内的なことは透明性が低いが、長い目で見ていかなければならない。

 日本にとって、ロシアをめぐる状況はウクライナ問題の発生以来非常に困難になっているところへ、さらに中国との関係が新たな角度から加わってきたわけである。日本政府は日ロ関係を早急に改善させ、北方領土問題の解決を図りたいであろうが、日本も含む西側とロシアおよび中国の間の対立を先鋭化させず、協力関係を強化していくことと並行して進める必要がある。
 日本として二国間関係より多国間関係を重視すべきだと言うのではない。プーチン大統領は習近平主席の招待に応じ。9月の対日戦勝記念行事に出席すると回答したと伝えられている。しかるに、70年前の9月には、ソ連は対日宣戦していたが、そもそも日ソ中立条約に違反していた。条約違反を犯しておきながら戦争を始めたロシアが中国と対日戦争勝利を記念する行事に出席するのは勝手だが、日本として喜んで認めるべき筋合いのことではない。かといって、このことを声高に叫ぶのは賢明でないだろうが、日本としてはロシアとの関係改善を望むと同時に、ロシアが対日戦争をにぎにぎしく記念することは承服できないことを何らかの形で示すべきでないか。ロシアにも中国にも戦略的な考慮があるのは結構であるが、歴史がかき消されてはならない。

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