2015 - 平和外交研究所 - Page 41
2015.05.19
しかるに、16日の香港紙『明報』は、やはり7日に発行された中国全国政治協商会議(注 共産党と共産党以外の諸団体を集めた会議で、いわゆる統一戦線の最大の母体である)の『人民政協報』と、2008年5月8日に新華社が発行した『国際先駆導報』は、いずれも毛岸英自身の言葉を引用しつつ、同人はソ連の対独戦争に参加したこともベルリンに攻め込んだこともないという記事を掲載していることを指摘した。
習近平は、中国は対独戦勝記念に参加する理由があると言いたいのであろう。しかし、中国は日本と戦争したが、ドイツとは戦っていない。一方、毛岸英はソ連に留学したことがあり、ロシア語が堪能で通訳を務めていたのは事実である。ここまでは周知のことであるが、そこからさらに、習近平は毛岸英が戦争に加わっていたと言い、明報が指摘する二つの記事はそのようなことはなかったと言っているのである。新華社は中国政府の公式の通信社であり、政府の意思や利益に反する記事を流すことはありえないことにかんがみれば、習近平の寄稿は奇妙なものである。
なぜこのようなことが起こったのか。習近平の寄稿文を起案した人の、あるいは中国政府の事務的なミスとは考えにくい。もしミスであったら非常に深刻な問題になるだろう。そうではなくて、中国の大国化願望を背景とする一種のプロパガンダだったのかもしれない。
『明報』の報道についても考えるべきことがある。同紙は中国本土の新聞ほどではないが、やはり中国政府による言論統制の影響を多かれ少なかれ受けているので、習近平を攻撃するためであったとは考えにくい。しかし、習近平の寄稿が大きな問題に発展しないよう、親切心で早めに手を打って片付けようとしたとも考えにくい。
もう少し時間をかけて観察を続ける必要がありそうだ。
(短文)中国は対独戦勝利記念に参加する立場にない?
5月9日のモスクワでの対独戦勝記念行事に出席するのに先立って、習近平主席は、「毛沢東の長男、毛岸英は白ロシアの第1方面軍戦車隊の指導員として転戦し、ベルリンに攻め込んだ」という趣旨を含む一文を、7日発行のロシア誌『Российская Газета(中国名は俄羅斯報)』に寄稿した。しかるに、16日の香港紙『明報』は、やはり7日に発行された中国全国政治協商会議(注 共産党と共産党以外の諸団体を集めた会議で、いわゆる統一戦線の最大の母体である)の『人民政協報』と、2008年5月8日に新華社が発行した『国際先駆導報』は、いずれも毛岸英自身の言葉を引用しつつ、同人はソ連の対独戦争に参加したこともベルリンに攻め込んだこともないという記事を掲載していることを指摘した。
習近平は、中国は対独戦勝記念に参加する理由があると言いたいのであろう。しかし、中国は日本と戦争したが、ドイツとは戦っていない。一方、毛岸英はソ連に留学したことがあり、ロシア語が堪能で通訳を務めていたのは事実である。ここまでは周知のことであるが、そこからさらに、習近平は毛岸英が戦争に加わっていたと言い、明報が指摘する二つの記事はそのようなことはなかったと言っているのである。新華社は中国政府の公式の通信社であり、政府の意思や利益に反する記事を流すことはありえないことにかんがみれば、習近平の寄稿は奇妙なものである。
なぜこのようなことが起こったのか。習近平の寄稿文を起案した人の、あるいは中国政府の事務的なミスとは考えにくい。もしミスであったら非常に深刻な問題になるだろう。そうではなくて、中国の大国化願望を背景とする一種のプロパガンダだったのかもしれない。
『明報』の報道についても考えるべきことがある。同紙は中国本土の新聞ほどではないが、やはり中国政府による言論統制の影響を多かれ少なかれ受けているので、習近平を攻撃するためであったとは考えにくい。しかし、習近平の寄稿が大きな問題に発展しないよう、親切心で早めに手を打って片付けようとしたとも考えにくい。
もう少し時間をかけて観察を続ける必要がありそうだ。
2015.05.17
「日米両国は4月27日、「防衛協力のための指針(以下「指針」。ガイドラインと呼ばれることもあります)」を改定しました。「指針」とは、平たく言えば、日米の防衛協力のための具体的な方法や分担などを定めたもので、情報収集、防空・ミサイルへの対応、訓練、施設の利用、避難民の保護、捜索・救難などの具体的な事態が想定されています。
日米間には安全保障条約(安保条約)がありますが、これは両国の法的な権利・義務を定めたもので、具体的事態において日米は「指針」にしたがって行動します。
「指針」は条約でないため国会の承認は必要でありませんが、両国間の約束であり、日本の安全保障にとって非常に重要です。
「指針」が初めて作られたのは1978年で、アフガニスタンへの侵攻などソ連の脅威が増大しており、日米両国は迅速に安全保障協力を行なうことが必要になっていました。
冷戦の終了後、グローバル化の進展とともに日米両国はアジア・太平洋の平和と安全に従来以上大きな責任を認識するようになり、1997年に「指針」が改定されました。
今回の改定は第2回目です。第1回目の改定から18年の年月が経過してアジアの安全保障環境は大きく変化し、とくに中国の急速な軍事力増強は日米両国にとって非常に懸念すべき問題となっています。米国は核の抑止力を堅持する一方、軍事戦略の見直し(リバランシング)を行ない、アジア太平洋を重視する姿勢を鮮明にしています。
日本は2013年12月に策定された「国家安全保障戦略」の下で、一方では、その翌年に決定された「防衛計画の大綱」に基づく防衛力を保持しつつ、他方で安全保障関係の法整備を進めており、安倍首相は「夏までに法整備を完了する」と公言しています。
このような状況下で日米両国が行なった今回の「指針」改定のポイントは、次のようにまとめることができます。
まず、大きく分けて「日本に対する攻撃あるいはその恐れがある場合」と「他国での平和実現・維持の場合」に分けるのが便宜です。細かいことには立ち入りませんが、前者は日米安保条約の運用の問題であり、後者は国連決議の履行が問題と言えます。もちろん、「指針」において扱われることは、多国間で国連決議を実行するなかで日米がどのように協力するかです。
日本に対する攻撃あるいは脅威の場合、従来の体制では十分に対応できないことがありました。たとえば、他国の潜水艦が我が国の領海を通過する場合海上を航行しなければなりませんが、中国の潜水艦がこの国際ルールを破って水中に潜ったまま通過していくことがありました。これに対して米艦が対応しようとして逆に相手方から攻撃を受けた場合、自衛隊は何もできませんでしたが、それは妥当でないとの考えが採用され、新「指針」では米艦を守ることが可能になりました。米艦を「アセット(装備品)」とみなして防護することにしています。この場合、現実に武力攻撃は行われていないので、「グレーゾーン」、つまり武力攻撃と平時の中間の事態と見られています。
また、たとえば、日本の離島に外国兵が侵入・上陸してきた場合、警察力(海上保安庁はこれに入ります)で排除するのが原則であり、大規模な侵入であっても自衛隊として対応できませんでした。しかし、新「指針」では、自衛隊は侵入者を「主体的に撃破」し、米軍は「自衛隊の作戦を支援しおよび補完するための作戦を実施する」ことになりました。自衛隊は警察や海上保安庁に代わってではなく、みずからの本務として対応するということです。このような事態は「不正規攻撃」と呼ばれています。
さらに、日本に対する攻撃や脅威に米軍が対処する場合、これまで自衛隊が米軍に協力する範囲は「周辺事態」に限定されていましたが、そのような限定は現在の状況に照らしてふさわしくないと考えられ、日米は「日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対処する」「当該事態(このような事態)については地理的に定めることはできない」と明記されました。自衛隊の行動範囲が「周辺事態」から「重要影響事態」に拡大したわけです。
具体的な対処については、前述の「アセット防護」の他、ミサイル防衛による対応能力の強化や後方支援、捜索・救難能力の強化を謳っています。
日本以外の地で紛争が発生し、邦人の救出中に米軍が第三国から攻撃されることもありえます。そのような場合に自衛隊は米軍に協力することなども新「方針」に記載されました。
以上のように、新「指針」は、法律や行動規範が不十分であった点(切れ目)を改め、あるいは補って適切な対応ができるようにしました。新「指針」は、この「切れ目のない」対応を強調しています。
次は他国において平和を実現し、維持する場合であり、通常国連決議に従い複数の国が参加します。これはさらに、国連平和維持活動(PKO)のように、紛争が終了あるいは停戦が成立している場合と、紛争が継続している場合に分けて見ていく必要があります。日本国憲法9条は「国際紛争を解決するために武力を行使してはならない(分かりやすい言葉で言い換えています)」と規定しているので、紛争が終わっておれば日本は行動しやすいですが、終わっていなければ憲法違反などさまざまな問題がありうるからです。
PKOにおいては、従来自衛隊の武器使用は非常に制限されており、国連としての義務を果たす上で障害となっていましたので、国連加盟国として通常の武器使用を自衛隊にも可能にする方向で法整備が進められています。新「指針」はこれに対応して、自衛隊は同じ任務に従事する、つまり同じPKOで活動する各国の部隊を保護できると明記しました。その中には米国の部隊ももちろん含まれます
一方、いわゆる多国籍軍の活動に自衛隊が何らかの形で協力する場合、PKOと異なり、紛争は終結しておらず、日本国憲法が固く禁止している、国際紛争に日本が巻き込まれる危険があります。それでも、日本はこれまで、アフガニスタンやイラクでの多国籍軍の行動に一定程度協力しました。しかし、戦争に直接参加するのでなく、戦闘が行われていないことが確かめられる地域(非戦闘地域)に限定して、給油、輸送、道路工事など可能な限りの協力を行ないました。
しかし、これらの場合のように問題が起こった後で特別法を作るのでは時間がかかりすぎて機動的に対応できないので、政府は、いつでも迅速に行動を開始できるように恒久法(期間を限定せずに施行される法律)として「国際平和支援法案」を制定しようとしています(14日閣議決定された法案の一つ)。
新「指針」では「三ヵ国間および多国間の安全保障及び防衛協力を推進・強化する」ことなど原則的な方針のみを記載しています。
他国が第三国から武力攻撃を受けた場合も、通常は国連が関与し、多国籍軍が派遣されますが、一定の期間に限って、たとえば朝鮮半島などで米軍だけが行動することがありえます。これに自衛隊の協力が求められる場合、新「指針」では、「自衛隊は、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に対処し、日本の存立を全うし、日本国民を守るため武力の行使を伴う適切な作戦を実施する」と定められました。これに該当する事態は「存立危機事態」と呼ばれています。
この種の国際協力については、国連が対応する前でも後でも、日本が紛争に巻き込まれないための保証をどのように確保するかが重要なポイントとなります。日本の閣議で決定された集団的自衛権行使のこの要件はそのための重要なカギとなるものであり、新「指針」もほとんどそのまま引用しました。
機雷の掃海は、紛争が継続中に行なわれると、米国と敵対している国から日本も敵対しているとみなされ、ひいては紛争に巻き込まれる危険がありますが、同じくこの要件にしたがって自衛艦派遣の有無が決定されると思われます。
「指針」の改定によって、切れ目のない対応ができるようになり、自衛隊の機動性は高まること、自衛隊の活動範囲が「周辺事態」に限られなくなり地球規模での活動が強化されることはすでに指摘しましたが、一方、米国にとっても日本の法整備と新「指針」は重要な意味合いがあります。
形式的にはともかく、実質的には日本が米国に一方的に依存していた安保条約体制において日本が米国に協力する範囲が拡大し、いわば日米安保体制の相互性が高まります。日米両国はグローバルなパートナーとして同盟関係を強化しました。
かねてから地球規模で活動し、重い負担を強いられている米国にとって日本は頼もしい援軍となります。安倍首相が訪米した際にオバマ大統領が見せた笑顔は米国がいかに喜んでいるかを象徴しています。
一方、韓国は警戒しつつも、日本が韓国に対し丁寧な説明を行なったことなどは評価しています。
中国は、今回の「指針」改定が中国を意識したものであることから、事前にしきりに警戒する姿勢を示していました。改定後公式のコメントはありませんが、中国は日本の安保法制と日米同盟の強化を強く警戒しています。中国政府のこのような姿勢を反映してか、中国のメディアには「日本の自衛隊の米軍支援の範囲が大幅に拡大した(環球網5月2日)」「日本の説明は防衛のためであることを強調しているが、行間に「攻め」の殺気が透けて見える(中国新聞網5月5日)」などの記載があります。
ガイドライン再改定で日米同盟はどう変わる?
THE PAGEに5月17日掲載されたもの。「日米両国は4月27日、「防衛協力のための指針(以下「指針」。ガイドラインと呼ばれることもあります)」を改定しました。「指針」とは、平たく言えば、日米の防衛協力のための具体的な方法や分担などを定めたもので、情報収集、防空・ミサイルへの対応、訓練、施設の利用、避難民の保護、捜索・救難などの具体的な事態が想定されています。
日米間には安全保障条約(安保条約)がありますが、これは両国の法的な権利・義務を定めたもので、具体的事態において日米は「指針」にしたがって行動します。
「指針」は条約でないため国会の承認は必要でありませんが、両国間の約束であり、日本の安全保障にとって非常に重要です。
「指針」が初めて作られたのは1978年で、アフガニスタンへの侵攻などソ連の脅威が増大しており、日米両国は迅速に安全保障協力を行なうことが必要になっていました。
冷戦の終了後、グローバル化の進展とともに日米両国はアジア・太平洋の平和と安全に従来以上大きな責任を認識するようになり、1997年に「指針」が改定されました。
今回の改定は第2回目です。第1回目の改定から18年の年月が経過してアジアの安全保障環境は大きく変化し、とくに中国の急速な軍事力増強は日米両国にとって非常に懸念すべき問題となっています。米国は核の抑止力を堅持する一方、軍事戦略の見直し(リバランシング)を行ない、アジア太平洋を重視する姿勢を鮮明にしています。
日本は2013年12月に策定された「国家安全保障戦略」の下で、一方では、その翌年に決定された「防衛計画の大綱」に基づく防衛力を保持しつつ、他方で安全保障関係の法整備を進めており、安倍首相は「夏までに法整備を完了する」と公言しています。
このような状況下で日米両国が行なった今回の「指針」改定のポイントは、次のようにまとめることができます。
まず、大きく分けて「日本に対する攻撃あるいはその恐れがある場合」と「他国での平和実現・維持の場合」に分けるのが便宜です。細かいことには立ち入りませんが、前者は日米安保条約の運用の問題であり、後者は国連決議の履行が問題と言えます。もちろん、「指針」において扱われることは、多国間で国連決議を実行するなかで日米がどのように協力するかです。
日本に対する攻撃あるいは脅威の場合、従来の体制では十分に対応できないことがありました。たとえば、他国の潜水艦が我が国の領海を通過する場合海上を航行しなければなりませんが、中国の潜水艦がこの国際ルールを破って水中に潜ったまま通過していくことがありました。これに対して米艦が対応しようとして逆に相手方から攻撃を受けた場合、自衛隊は何もできませんでしたが、それは妥当でないとの考えが採用され、新「指針」では米艦を守ることが可能になりました。米艦を「アセット(装備品)」とみなして防護することにしています。この場合、現実に武力攻撃は行われていないので、「グレーゾーン」、つまり武力攻撃と平時の中間の事態と見られています。
また、たとえば、日本の離島に外国兵が侵入・上陸してきた場合、警察力(海上保安庁はこれに入ります)で排除するのが原則であり、大規模な侵入であっても自衛隊として対応できませんでした。しかし、新「指針」では、自衛隊は侵入者を「主体的に撃破」し、米軍は「自衛隊の作戦を支援しおよび補完するための作戦を実施する」ことになりました。自衛隊は警察や海上保安庁に代わってではなく、みずからの本務として対応するということです。このような事態は「不正規攻撃」と呼ばれています。
さらに、日本に対する攻撃や脅威に米軍が対処する場合、これまで自衛隊が米軍に協力する範囲は「周辺事態」に限定されていましたが、そのような限定は現在の状況に照らしてふさわしくないと考えられ、日米は「日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対処する」「当該事態(このような事態)については地理的に定めることはできない」と明記されました。自衛隊の行動範囲が「周辺事態」から「重要影響事態」に拡大したわけです。
具体的な対処については、前述の「アセット防護」の他、ミサイル防衛による対応能力の強化や後方支援、捜索・救難能力の強化を謳っています。
日本以外の地で紛争が発生し、邦人の救出中に米軍が第三国から攻撃されることもありえます。そのような場合に自衛隊は米軍に協力することなども新「方針」に記載されました。
以上のように、新「指針」は、法律や行動規範が不十分であった点(切れ目)を改め、あるいは補って適切な対応ができるようにしました。新「指針」は、この「切れ目のない」対応を強調しています。
次は他国において平和を実現し、維持する場合であり、通常国連決議に従い複数の国が参加します。これはさらに、国連平和維持活動(PKO)のように、紛争が終了あるいは停戦が成立している場合と、紛争が継続している場合に分けて見ていく必要があります。日本国憲法9条は「国際紛争を解決するために武力を行使してはならない(分かりやすい言葉で言い換えています)」と規定しているので、紛争が終わっておれば日本は行動しやすいですが、終わっていなければ憲法違反などさまざまな問題がありうるからです。
PKOにおいては、従来自衛隊の武器使用は非常に制限されており、国連としての義務を果たす上で障害となっていましたので、国連加盟国として通常の武器使用を自衛隊にも可能にする方向で法整備が進められています。新「指針」はこれに対応して、自衛隊は同じ任務に従事する、つまり同じPKOで活動する各国の部隊を保護できると明記しました。その中には米国の部隊ももちろん含まれます
一方、いわゆる多国籍軍の活動に自衛隊が何らかの形で協力する場合、PKOと異なり、紛争は終結しておらず、日本国憲法が固く禁止している、国際紛争に日本が巻き込まれる危険があります。それでも、日本はこれまで、アフガニスタンやイラクでの多国籍軍の行動に一定程度協力しました。しかし、戦争に直接参加するのでなく、戦闘が行われていないことが確かめられる地域(非戦闘地域)に限定して、給油、輸送、道路工事など可能な限りの協力を行ないました。
しかし、これらの場合のように問題が起こった後で特別法を作るのでは時間がかかりすぎて機動的に対応できないので、政府は、いつでも迅速に行動を開始できるように恒久法(期間を限定せずに施行される法律)として「国際平和支援法案」を制定しようとしています(14日閣議決定された法案の一つ)。
新「指針」では「三ヵ国間および多国間の安全保障及び防衛協力を推進・強化する」ことなど原則的な方針のみを記載しています。
他国が第三国から武力攻撃を受けた場合も、通常は国連が関与し、多国籍軍が派遣されますが、一定の期間に限って、たとえば朝鮮半島などで米軍だけが行動することがありえます。これに自衛隊の協力が求められる場合、新「指針」では、「自衛隊は、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に対処し、日本の存立を全うし、日本国民を守るため武力の行使を伴う適切な作戦を実施する」と定められました。これに該当する事態は「存立危機事態」と呼ばれています。
この種の国際協力については、国連が対応する前でも後でも、日本が紛争に巻き込まれないための保証をどのように確保するかが重要なポイントとなります。日本の閣議で決定された集団的自衛権行使のこの要件はそのための重要なカギとなるものであり、新「指針」もほとんどそのまま引用しました。
機雷の掃海は、紛争が継続中に行なわれると、米国と敵対している国から日本も敵対しているとみなされ、ひいては紛争に巻き込まれる危険がありますが、同じくこの要件にしたがって自衛艦派遣の有無が決定されると思われます。
「指針」の改定によって、切れ目のない対応ができるようになり、自衛隊の機動性は高まること、自衛隊の活動範囲が「周辺事態」に限られなくなり地球規模での活動が強化されることはすでに指摘しましたが、一方、米国にとっても日本の法整備と新「指針」は重要な意味合いがあります。
形式的にはともかく、実質的には日本が米国に一方的に依存していた安保条約体制において日本が米国に協力する範囲が拡大し、いわば日米安保体制の相互性が高まります。日米両国はグローバルなパートナーとして同盟関係を強化しました。
かねてから地球規模で活動し、重い負担を強いられている米国にとって日本は頼もしい援軍となります。安倍首相が訪米した際にオバマ大統領が見せた笑顔は米国がいかに喜んでいるかを象徴しています。
一方、韓国は警戒しつつも、日本が韓国に対し丁寧な説明を行なったことなどは評価しています。
中国は、今回の「指針」改定が中国を意識したものであることから、事前にしきりに警戒する姿勢を示していました。改定後公式のコメントはありませんが、中国は日本の安保法制と日米同盟の強化を強く警戒しています。中国政府のこのような姿勢を反映してか、中国のメディアには「日本の自衛隊の米軍支援の範囲が大幅に拡大した(環球網5月2日)」「日本の説明は防衛のためであることを強調しているが、行間に「攻め」の殺気が透けて見える(中国新聞網5月5日)」などの記載があります。
2015.05.15
今回の再検討会議はまだ終了していないが、漏れ聞くところでは、また失敗に終わる公算が大きいそうである。しかし、「中央アジア非核地帯」については進展がみられるので一つの救いとなる。
この条約は中央アジアのカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5カ国を非核地帯とするもので、同条約は2009年に発効した。「非核地帯」とは、一言で言えば、核兵器のない地帯であり、それに該当する条約は世界にいくつかあるが、ただ「ない」と言うだけでなく、使用しない、製造しない、取得しないなども同時に内容とするのが常であり、具体的には条約ごとに異なっている。中央アジア非核地帯条約は、核兵器若しくは核爆発装置の研究、開発、製造、貯蔵、取得、所有、管理の禁止および他国の放射性廃棄物の廃棄許可をすべて禁止している。
このような非核地帯条約は、その地域内の国家が約束しただけではほとんど意味がなく、核兵器を持っている国が、その条約内容を承認し、核兵器の使用や核による威嚇をしない義務を受け入れることが必要である。具体的には、その条約に何らかの形で参加し、批准する。条約成立以来、条約当事国は核兵器保有国の承認を求めて働きかけてきたが、この地域を非核地帯とすることは核兵器国のオペレーションを妨げる恐れがあり、なかなか進まなかった。
しかし、問題点はすでにクリアされ、2014年には、米国、ロシア、英国、フランス、中国の核兵器保有国がこの条約に参加した(同条約の議定書に署名するという形式で)。
そして、ごく最近中国が議定書を批准した(新華社4月28日)。米国も批准案件を上院に提出している。ロシアは部分的に批准した。「部分的に」というのはウクライナ問題の影響らしい。
順調にいけば、中央アジア非核地帯条約はめでたく発効しそうである。その他の類似の条約の中で核保有国がすべて批准しているのはラテン・アメリカ非核兵器地帯条約(通称「トラテロルコ条約」)だけである。中央アジア非核地帯条約は、核保有国の批准が進まない他の条約を追い越して、世界で2番目の完成した非核地帯条約となりそうである。
(短文)中央アジア非核地帯
5月22日まで、核不拡散条約(NPT)の再検討会議がNYの国連本部で開催されている。再検討会議は5年ごとに開催される、同条約最大の会議であるが、失敗に終わることが多い。「失敗」と言うと反論が出るだろうが、1995年と2000年の再検討会議以外は失敗であったと思っている。今回の再検討会議はまだ終了していないが、漏れ聞くところでは、また失敗に終わる公算が大きいそうである。しかし、「中央アジア非核地帯」については進展がみられるので一つの救いとなる。
この条約は中央アジアのカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5カ国を非核地帯とするもので、同条約は2009年に発効した。「非核地帯」とは、一言で言えば、核兵器のない地帯であり、それに該当する条約は世界にいくつかあるが、ただ「ない」と言うだけでなく、使用しない、製造しない、取得しないなども同時に内容とするのが常であり、具体的には条約ごとに異なっている。中央アジア非核地帯条約は、核兵器若しくは核爆発装置の研究、開発、製造、貯蔵、取得、所有、管理の禁止および他国の放射性廃棄物の廃棄許可をすべて禁止している。
このような非核地帯条約は、その地域内の国家が約束しただけではほとんど意味がなく、核兵器を持っている国が、その条約内容を承認し、核兵器の使用や核による威嚇をしない義務を受け入れることが必要である。具体的には、その条約に何らかの形で参加し、批准する。条約成立以来、条約当事国は核兵器保有国の承認を求めて働きかけてきたが、この地域を非核地帯とすることは核兵器国のオペレーションを妨げる恐れがあり、なかなか進まなかった。
しかし、問題点はすでにクリアされ、2014年には、米国、ロシア、英国、フランス、中国の核兵器保有国がこの条約に参加した(同条約の議定書に署名するという形式で)。
そして、ごく最近中国が議定書を批准した(新華社4月28日)。米国も批准案件を上院に提出している。ロシアは部分的に批准した。「部分的に」というのはウクライナ問題の影響らしい。
順調にいけば、中央アジア非核地帯条約はめでたく発効しそうである。その他の類似の条約の中で核保有国がすべて批准しているのはラテン・アメリカ非核兵器地帯条約(通称「トラテロルコ条約」)だけである。中央アジア非核地帯条約は、核保有国の批准が進まない他の条約を追い越して、世界で2番目の完成した非核地帯条約となりそうである。
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