オピニオン
2014.05.29
ロシアはそもそもウクライナ内の政変に問題があること、ロシア人の保護や意思尊重の必要性、クリミアの歴史などを主張したが、客観的に見てロシアの分が悪いことは覆いえない。このような中にあってロシアとしては国際場裡においてロシアと同様保守的な立場である中国の支持が欲しかったであろうが、ウクライナ問題について中国はロシアの主張に賛同できない面があり、安保理での決議案採択においてもロシアに賛成せず、棄権が精いっぱいであった。
5月20-21日、上海で開催されたアジア信頼醸成会議は中ロ両国が関係を再び緊密化する機会となった。この会議は1992年国連総会で設立が決定され、4年に1回首脳会議が開催される。今年は中国が主催する番であり、プーチン大統領は同地で習近平主席と首脳会談を行なった。
アジアの信頼醸成が目的ならば、日本も米国も当然加盟しているはずであるが、経緯的に中央アジア諸国のイニシャチブでこの会議が始められたこともあり(常設の事務局はカザフスタンのアラムトに置かれている)、両国ともにオブザーバーの地位にとどまっている。一歩距離を置いて見ているという感じである。一方、ロシアと中国は26の加盟国の中でもっとも影響力が大きい。
この会議は、ロシアと中国にとってウクライナ問題のような立場の違いはなく、両国が信頼醸成という共通の課題に向かって協力していく場である。また、中国は各国が中国に参集して国際会議を開くことをこよなく重視しており、その意味でも中国にとって信頼醸成会議は重要な機会であった。
習近平主席は、ウクライナ問題については全面的にロシアに賛成するわけにいかないが、中国がロシアとの関係を重視していることに変わりないことをプーチン大統領との会談で示したであろう。しかも、中ロ両国はこの会議開催と同時に合同の軍事演習を始め、習近平主席とプーチン大統領がそのオープニングに臨席した。演習場所は上海沖であり、これは尖閣諸島の西北にあたる。当然中ロ両国の合同演習は日本との関係で刺激要因になりうる。約1ヵ月前、オバマ大統領は日本を訪問し、尖閣諸島に日米安保条約が適用されることを明言した。中国が激しく反発したことは記憶に新しい。中国は、日本や米国に対して、この合同軍事演習によりロシアが中国の味方についていると気勢をあげたのであり、オバマ大統領の訪日にしっぺ返しをしようとしたのではないか。
合同軍事演習は中ロ両国が毎年行なっているが、ロシアとしては、アジア信頼醸成会議と同時期に、しかも尖閣諸島からさほど遠くない海域で挙行することには慎重な考えがあったはずである。ロシアはウクライナ問題では米国や日本の姿勢を不快視しながらも、さらなる摩擦要因を作り出すことがロシアの利益になるか自信を持てなかったと思われる。中国のメディアからそのようなロシアのためらいが伝わってきていた。それでもプーチン大統領は結局このおぜん立てに合意した。中国との関係を再び緊密化しておくことは今後の米欧諸国との関係で重要なことと判断を優先させたのであろう。
そしてロシアは現ナマも取った。ロシアのヨーロッパへの天然ガス輸出はウクライナ問題のため減少気味になっており、米国のオイル・シェール開発を考えれば今後もこのような傾向を逆転させるのは困難であろう。このような情勢を背景に、プーチン大統領は習近平主席と中国への天然ガス輸出に合意するという成果を上げたのである。ロシアの国営天然ガス大手ガスプロムはペトロチャイナ(中国石油天然ガス)に、2018年から30年間にわたり毎年380億立方メートルの天然ガスを供給することになる。これは2018年の中国の需要見通しの約12%にあたり、今回の契約の意義は大きい。
日米中ロ関係
ウクライナ情勢をめぐってロシアと米欧諸国の間に摩擦が生じている。ロシアはソチで予定していたG8の開催ができなくなり、一時的かもしれないが、G8から締め出される形になった。米欧は機会あるごとにロシアを非難し、また、制裁措置を加え、強化している。ロシアはそもそもウクライナ内の政変に問題があること、ロシア人の保護や意思尊重の必要性、クリミアの歴史などを主張したが、客観的に見てロシアの分が悪いことは覆いえない。このような中にあってロシアとしては国際場裡においてロシアと同様保守的な立場である中国の支持が欲しかったであろうが、ウクライナ問題について中国はロシアの主張に賛同できない面があり、安保理での決議案採択においてもロシアに賛成せず、棄権が精いっぱいであった。
5月20-21日、上海で開催されたアジア信頼醸成会議は中ロ両国が関係を再び緊密化する機会となった。この会議は1992年国連総会で設立が決定され、4年に1回首脳会議が開催される。今年は中国が主催する番であり、プーチン大統領は同地で習近平主席と首脳会談を行なった。
アジアの信頼醸成が目的ならば、日本も米国も当然加盟しているはずであるが、経緯的に中央アジア諸国のイニシャチブでこの会議が始められたこともあり(常設の事務局はカザフスタンのアラムトに置かれている)、両国ともにオブザーバーの地位にとどまっている。一歩距離を置いて見ているという感じである。一方、ロシアと中国は26の加盟国の中でもっとも影響力が大きい。
この会議は、ロシアと中国にとってウクライナ問題のような立場の違いはなく、両国が信頼醸成という共通の課題に向かって協力していく場である。また、中国は各国が中国に参集して国際会議を開くことをこよなく重視しており、その意味でも中国にとって信頼醸成会議は重要な機会であった。
習近平主席は、ウクライナ問題については全面的にロシアに賛成するわけにいかないが、中国がロシアとの関係を重視していることに変わりないことをプーチン大統領との会談で示したであろう。しかも、中ロ両国はこの会議開催と同時に合同の軍事演習を始め、習近平主席とプーチン大統領がそのオープニングに臨席した。演習場所は上海沖であり、これは尖閣諸島の西北にあたる。当然中ロ両国の合同演習は日本との関係で刺激要因になりうる。約1ヵ月前、オバマ大統領は日本を訪問し、尖閣諸島に日米安保条約が適用されることを明言した。中国が激しく反発したことは記憶に新しい。中国は、日本や米国に対して、この合同軍事演習によりロシアが中国の味方についていると気勢をあげたのであり、オバマ大統領の訪日にしっぺ返しをしようとしたのではないか。
合同軍事演習は中ロ両国が毎年行なっているが、ロシアとしては、アジア信頼醸成会議と同時期に、しかも尖閣諸島からさほど遠くない海域で挙行することには慎重な考えがあったはずである。ロシアはウクライナ問題では米国や日本の姿勢を不快視しながらも、さらなる摩擦要因を作り出すことがロシアの利益になるか自信を持てなかったと思われる。中国のメディアからそのようなロシアのためらいが伝わってきていた。それでもプーチン大統領は結局このおぜん立てに合意した。中国との関係を再び緊密化しておくことは今後の米欧諸国との関係で重要なことと判断を優先させたのであろう。
そしてロシアは現ナマも取った。ロシアのヨーロッパへの天然ガス輸出はウクライナ問題のため減少気味になっており、米国のオイル・シェール開発を考えれば今後もこのような傾向を逆転させるのは困難であろう。このような情勢を背景に、プーチン大統領は習近平主席と中国への天然ガス輸出に合意するという成果を上げたのである。ロシアの国営天然ガス大手ガスプロムはペトロチャイナ(中国石油天然ガス)に、2018年から30年間にわたり毎年380億立方メートルの天然ガスを供給することになる。これは2018年の中国の需要見通しの約12%にあたり、今回の契約の意義は大きい。
2014.05.22
しかし、米国は領有権に関してどちらが正しいと言うのではないことも断っていた。これは第三国間の領土紛争に関して米国がかねてから取ってきた基本方針であるが、尖閣諸島については、米国は特殊な立場にあり、いわゆる第三国ではない。
戦後日本の領土を再画定したサンフランシスコ平和条約は、日本が放棄する領土を第2条で規定し、放棄しないが米国の統治下に置かれる「琉球諸島」を第3条で規定した。
尖閣諸島は、第2条の対象か、それとも第3条の問題か、どちらかで日本の領土でなくなるか、依然として領土であり続けるか決定的に変わってくる。
しかるに、「琉球諸島」の統治を始めるに際し、米国は「琉球諸島」の範囲を緯度・経度で明確に示し、他の条約締約国に異議がないか確かめた。異議はどの国からも提起されず、「琉球諸島」の範囲が確定した。かくして尖閣諸島は平和条約第3条の「琉球諸島」に属していることが確定した。米国は尖閣諸島の法的地位の確定に際し主導的な役割を果たしたのであり、いわゆる第三国でなく、当事者だったのである。
以上の趣旨の一文を本22日付の読売新聞に寄稿した。
尖閣諸島に関する米国の立場
オバマ大統領は訪日の際、尖閣諸島に関して日本に紛争解決のため行動するよう促しつつ、同諸島には日米安保条約が適用されることを明言した。そのことは米国の高官がすでに何回も述べてきたことであるが、大統領として初めての発言であり、その意義は大きい。しかし、米国は領有権に関してどちらが正しいと言うのではないことも断っていた。これは第三国間の領土紛争に関して米国がかねてから取ってきた基本方針であるが、尖閣諸島については、米国は特殊な立場にあり、いわゆる第三国ではない。
戦後日本の領土を再画定したサンフランシスコ平和条約は、日本が放棄する領土を第2条で規定し、放棄しないが米国の統治下に置かれる「琉球諸島」を第3条で規定した。
尖閣諸島は、第2条の対象か、それとも第3条の問題か、どちらかで日本の領土でなくなるか、依然として領土であり続けるか決定的に変わってくる。
しかるに、「琉球諸島」の統治を始めるに際し、米国は「琉球諸島」の範囲を緯度・経度で明確に示し、他の条約締約国に異議がないか確かめた。異議はどの国からも提起されず、「琉球諸島」の範囲が確定した。かくして尖閣諸島は平和条約第3条の「琉球諸島」に属していることが確定した。米国は尖閣諸島の法的地位の確定に際し主導的な役割を果たしたのであり、いわゆる第三国でなく、当事者だったのである。
以上の趣旨の一文を本22日付の読売新聞に寄稿した。
2014.05.16
具体的には、「我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず、徘徊を継続する場合」(事例5)と「海上保安庁等が速やかに対処することが困難な海域や離島等において、船舶や民間人に対し武装集団が不法行為を行なう場合」(事例6)であり、これらの場合においては従来の憲法解釈や法制度では十分に対応することができないことがあるとの考えに立ち、「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」と指摘されている。この表現はかなり慎重な文言になっているが、衣の下の鎧になっていないか。
このような問題については、大きく言って二つの側面から検討を加える必要がある。一つは、現存の関連法令はこれまで政治的対立の影響をあまりにも強く受け、現実の事態に対処できない内容になっていることであり、この観点からは法令を改正したり、整備したりすることが必要になる。
もう一つの側面は、この2つの事例が尖閣諸島に対する中国の無体な主張と行動を想定し、報告書が指摘している「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」とは自衛隊の行動を想定しているかである。
これは率直に言って大きな意味を持つ。事例5や6のようなことが日本の安全にとって問題であることに異論はないであろうが、そうだからと言って自衛隊が対処することは危険極まりない。中国側は、日本が先に軍事行動を起こすことを手ぐすね引いて待っている可能性がある。もちろん中国と言っても一枚岩でなく、そのような強硬論もあれば、あくまで話し合いで解決すべきだという意見もあろうが、日本が先に軍事行動を起こすのを待つということを方針としていることは当然ありうる。
与党は今後、安保法制懇がいう「具体的な行動」を検討するのであろうが、このことを軽視してはならない。中国側の行動は事例5のように軍事行動の一環であっても、日本への攻撃でなく、日本の秩序や主張の無視で止まっている。分かりやすく言えば、中国は嫌がらせをしているのであり、日本はそれに相応した対応をするべきであり、相手が、こちらの軍事行動を誘発しようと挑発してきてもそれに乗ってはならない。嫌がらせや、挑発に乗ってこちらから軍事行動を起こすと、世界の世論は中国に就くであろう。米国は安保条約を適用できなくなるのではないか。
冷戦時、米ソ両国軍はおたがいにすさまじい嫌がらせを行なった。しかし、その域から出ることはなく、嫌がらせにふさわしい対処でとどめた。それは過去のことであり、現在の日本の法令でどのような嫌がらせが可能か、これは難問であるが、少なくとも自衛隊が行動するのは愚の骨頂であり、これらの事例においてはあくまで海上保安庁を強化することにより対処すべきである。
安保法制懇の報告ーグレーゾーン
5月15日、安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の報告書が提出された。取り上げられている問題は集団的自衛権に限らない。いくつかの論点があるが、報道では今後与党での検討はいわゆるグレーゾーンに関する問題から始められるそうである。具体的には、「我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず、徘徊を継続する場合」(事例5)と「海上保安庁等が速やかに対処することが困難な海域や離島等において、船舶や民間人に対し武装集団が不法行為を行なう場合」(事例6)であり、これらの場合においては従来の憲法解釈や法制度では十分に対応することができないことがあるとの考えに立ち、「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」と指摘されている。この表現はかなり慎重な文言になっているが、衣の下の鎧になっていないか。
このような問題については、大きく言って二つの側面から検討を加える必要がある。一つは、現存の関連法令はこれまで政治的対立の影響をあまりにも強く受け、現実の事態に対処できない内容になっていることであり、この観点からは法令を改正したり、整備したりすることが必要になる。
もう一つの側面は、この2つの事例が尖閣諸島に対する中国の無体な主張と行動を想定し、報告書が指摘している「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」とは自衛隊の行動を想定しているかである。
これは率直に言って大きな意味を持つ。事例5や6のようなことが日本の安全にとって問題であることに異論はないであろうが、そうだからと言って自衛隊が対処することは危険極まりない。中国側は、日本が先に軍事行動を起こすことを手ぐすね引いて待っている可能性がある。もちろん中国と言っても一枚岩でなく、そのような強硬論もあれば、あくまで話し合いで解決すべきだという意見もあろうが、日本が先に軍事行動を起こすのを待つということを方針としていることは当然ありうる。
与党は今後、安保法制懇がいう「具体的な行動」を検討するのであろうが、このことを軽視してはならない。中国側の行動は事例5のように軍事行動の一環であっても、日本への攻撃でなく、日本の秩序や主張の無視で止まっている。分かりやすく言えば、中国は嫌がらせをしているのであり、日本はそれに相応した対応をするべきであり、相手が、こちらの軍事行動を誘発しようと挑発してきてもそれに乗ってはならない。嫌がらせや、挑発に乗ってこちらから軍事行動を起こすと、世界の世論は中国に就くであろう。米国は安保条約を適用できなくなるのではないか。
冷戦時、米ソ両国軍はおたがいにすさまじい嫌がらせを行なった。しかし、その域から出ることはなく、嫌がらせにふさわしい対処でとどめた。それは過去のことであり、現在の日本の法令でどのような嫌がらせが可能か、これは難問であるが、少なくとも自衛隊が行動するのは愚の骨頂であり、これらの事例においてはあくまで海上保安庁を強化することにより対処すべきである。
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