オピニオン
2014.12.10
「第2次安倍政権が成立してから約2年になります。この間の外交活動はきわめて活発でした。安倍首相が訪問した国の数は2014年9月の時点で49カ国にのぼり、歴代トップとなりました。しかも、外国訪問の頻度は1ヵ月あたり2・3ヵ国と歴代の首相に比べ抜群の高さでした。49番目となったスリランカ訪問の後も、ニューヨークの国連総会、ミラノのアジア欧州会合(ASEM)、北京のアジア太平洋経済協力会議(APEC)と続きましたので、安倍首相にとって文字通り席が温まる暇はありませんでした。
首脳外交は簡単でありません。日程の制約は大きく、また、首脳にかかる体力的な負担は非常に重いですが、数々の困難を克服してこれだけ活発に外交活動を展開してきたことは特筆してよいでしょう。
安倍首相の外交は「地球儀を俯瞰する外交」と言われています。「俯瞰」とは高いところから全体を見渡すという意味です。日本として米国やアジアの近隣諸国との関係を重視していくのは当然ですが、特定の国、地域に限定することなく地球規模で各国との友好関係増進に努めてきたからです。
日本が厳しい国際環境に置かれているなかで、安倍首相は積極的な安全保障政策を講じるとともに、日本としてはあくまで平和に徹し各国との協力関係を促進する「積極的平和主義」であることを強調しています。日本は、アジアのみならず世界において大きな責任を有しています。各国は日本が責任ある立場で、戦略的に積極的な施策を講じることを理解し、歓迎しています。Japan is back、つまり「日本が戻ってきた」という言葉で日本の姿勢を評価する研究者もいます。
日本外交にとって、米国との関係はこれまでも、また今後もきわめて重要であり、安倍政権は米国の信頼を取り戻すことを重点施策の一つと位置付け、国の内外でその方針を実行に移してきました。東シナ海での協力は一つの例です。2013年秋には、日米両国の外務・防衛相が安全保障面での協力のあり方を協議するいわゆる2+2が久しぶりに開催されました。今後日米両国は、厳しい国際環境に対応するために防衛協力のあり方を示す新しい指針(ガイドライン)の策定に向け協議を継続していくことになっています。
一方、アジア諸国との関係では、安倍首相はすでにすべての東南アジア諸国を訪問しており、またオーストラリアなどとも関係増進に努めていますが、日本のもっとも重要な隣国である中国および韓国との関係ではまだ問題があります。
第2次安倍政権の発足以来懸案であった首脳同士の会談については、中国の習近平主席とは先般のAPEC首脳会議の際に会談が実現しました。これは一つの大きな前進でした。安倍・習会談に先立って行なわれた事務レベル協議では、東シナ海において不測の事態の発生を回避するため危機管理メカニズムを構築することで意見が一致しました。一方、中国は尖閣諸島に対する主張を維持していますし、昨年には防空識別圏の恣意的な設定や中国軍機が自衛隊機に異常接近する事態が起きています。両国の首脳は共通の関心事について機動的に、緊密に協議し、問題の迅速な解決を図っていかなければなりません。
韓国との間では、米国大統領が仲介する形で、あるいはAPECなど多国間外交の場で安倍首相と朴槿恵大統領が短時間言葉を交わしただけで両首脳間の直接の会談は実現していません。韓国側は、慰安婦などいわゆる歴史問題に安倍首相が積極的に取り組むことを求め、その面での進展がないと首脳会談には応じないという姿勢です。歴史問題については韓国と中国の立場は共通しており、また、歴史問題の扱いを誤ると米国との関係を不必要に悪化させる危険もあります。それだけにこの問題の扱いは非常に困難ですが、日本としては中国および韓国との関係で加害者であったという歴史を軽視することなく、適切に対処していく必要があります。日韓関係は基本的にはまだ困難な状況にありますが、雰囲気が若干変化し、関係改善の兆しとも取れる面も出てきつつあるのでさらなる前進を図る必要があります。
日中関係も日韓関係もきわめて重要であることは言うまでもなく、関係を増進するためには双方の努力が必要です。国家間で利害関係が一致しないことは何ら不思議でなく、時に極端な考えや行動に走り、いたずらにナショナリスティックになる危険がありますが、双方ともそのような危険を回避し、必要であれば我慢強く関係を増進させていかなければなりません。」
安倍政権の外交安全保障
THEPAGEに12月7日掲載された。「第2次安倍政権が成立してから約2年になります。この間の外交活動はきわめて活発でした。安倍首相が訪問した国の数は2014年9月の時点で49カ国にのぼり、歴代トップとなりました。しかも、外国訪問の頻度は1ヵ月あたり2・3ヵ国と歴代の首相に比べ抜群の高さでした。49番目となったスリランカ訪問の後も、ニューヨークの国連総会、ミラノのアジア欧州会合(ASEM)、北京のアジア太平洋経済協力会議(APEC)と続きましたので、安倍首相にとって文字通り席が温まる暇はありませんでした。
首脳外交は簡単でありません。日程の制約は大きく、また、首脳にかかる体力的な負担は非常に重いですが、数々の困難を克服してこれだけ活発に外交活動を展開してきたことは特筆してよいでしょう。
安倍首相の外交は「地球儀を俯瞰する外交」と言われています。「俯瞰」とは高いところから全体を見渡すという意味です。日本として米国やアジアの近隣諸国との関係を重視していくのは当然ですが、特定の国、地域に限定することなく地球規模で各国との友好関係増進に努めてきたからです。
日本が厳しい国際環境に置かれているなかで、安倍首相は積極的な安全保障政策を講じるとともに、日本としてはあくまで平和に徹し各国との協力関係を促進する「積極的平和主義」であることを強調しています。日本は、アジアのみならず世界において大きな責任を有しています。各国は日本が責任ある立場で、戦略的に積極的な施策を講じることを理解し、歓迎しています。Japan is back、つまり「日本が戻ってきた」という言葉で日本の姿勢を評価する研究者もいます。
日本外交にとって、米国との関係はこれまでも、また今後もきわめて重要であり、安倍政権は米国の信頼を取り戻すことを重点施策の一つと位置付け、国の内外でその方針を実行に移してきました。東シナ海での協力は一つの例です。2013年秋には、日米両国の外務・防衛相が安全保障面での協力のあり方を協議するいわゆる2+2が久しぶりに開催されました。今後日米両国は、厳しい国際環境に対応するために防衛協力のあり方を示す新しい指針(ガイドライン)の策定に向け協議を継続していくことになっています。
一方、アジア諸国との関係では、安倍首相はすでにすべての東南アジア諸国を訪問しており、またオーストラリアなどとも関係増進に努めていますが、日本のもっとも重要な隣国である中国および韓国との関係ではまだ問題があります。
第2次安倍政権の発足以来懸案であった首脳同士の会談については、中国の習近平主席とは先般のAPEC首脳会議の際に会談が実現しました。これは一つの大きな前進でした。安倍・習会談に先立って行なわれた事務レベル協議では、東シナ海において不測の事態の発生を回避するため危機管理メカニズムを構築することで意見が一致しました。一方、中国は尖閣諸島に対する主張を維持していますし、昨年には防空識別圏の恣意的な設定や中国軍機が自衛隊機に異常接近する事態が起きています。両国の首脳は共通の関心事について機動的に、緊密に協議し、問題の迅速な解決を図っていかなければなりません。
韓国との間では、米国大統領が仲介する形で、あるいはAPECなど多国間外交の場で安倍首相と朴槿恵大統領が短時間言葉を交わしただけで両首脳間の直接の会談は実現していません。韓国側は、慰安婦などいわゆる歴史問題に安倍首相が積極的に取り組むことを求め、その面での進展がないと首脳会談には応じないという姿勢です。歴史問題については韓国と中国の立場は共通しており、また、歴史問題の扱いを誤ると米国との関係を不必要に悪化させる危険もあります。それだけにこの問題の扱いは非常に困難ですが、日本としては中国および韓国との関係で加害者であったという歴史を軽視することなく、適切に対処していく必要があります。日韓関係は基本的にはまだ困難な状況にありますが、雰囲気が若干変化し、関係改善の兆しとも取れる面も出てきつつあるのでさらなる前進を図る必要があります。
日中関係も日韓関係もきわめて重要であることは言うまでもなく、関係を増進するためには双方の努力が必要です。国家間で利害関係が一致しないことは何ら不思議でなく、時に極端な考えや行動に走り、いたずらにナショナリスティックになる危険がありますが、双方ともそのような危険を回避し、必要であれば我慢強く関係を増進させていかなければなりません。」
2014.12.06
「北京でのAPEC首脳会議(11月10-11日)から始まり、オバマ大統領の中国訪問、オーストラリアのブリスベンでのG20首脳会議と続く間に、米中両国がたがいに期待していることは一致していないことがさらけ出された。
習近平主席はインド訪問の時もそうであったが、外国首脳との会談の舞台演出に非常に気を使う。オバマ大統領に対しては、中国の権力機構の中枢である中南海に案内し、歴史の重みを背景に親しく語りかけ、中米両国は「新しい大国関係」を築いていくべきだと力説した。これに対し、オバマ大統領は歴史について学んだと述べるなど、中南海における友好的雰囲気の盛り上げは成功したかに見えた。
一方、習近平主席は日本の安倍首相を冷たくあしらった。「仏頂面」とはまさに両首脳が握手した時の習近平の表情を言う。習近平主席がそのような表情で臨んだのは国内向けの考慮からであったのは誰の目にも明らかであっただろうが、それはともかくとして、習近平主席の安倍首相とオバマ大統領に対する態度は対照的であった。
しかし、中国にとって肝心の「中国は大国である」ことについては、オバマ大統領は肯定しなかった。習近平主席の外交成果を盛り上げる役割の人民日報もオバマ大統領がこの点に関しどのような発言をしたか、あいまいな記述しかしていない。
中南海会談から4日後の15日、G20首脳会議に出席したオバマ大統領がクイーンズランド大学で行なった講演は、北京でははっきりしなかった米国の姿勢を浮き彫りにした。オバマの演説を貫いていたのは、アジア太平洋地域の重視と民主的な政治と自由な経済システムに対する米国の信念である。
オバマはまず、「世界の唯一の超大国として」米国が特別の責任を有していることを論じた。「超大国」と「大国」の違いはあるが、この発言によってオバマは中国を大国と認めていないことを間接的に示したのではないか。
オバマは続いて、米国はアジア太平洋地域において「すべての同盟国の主権、独立および安全保障に鉄のコミットメント(ironclad commitment)をしており、また、われわれは同盟諸国間の協力を拡大する考えである」「米国は持てる力をすべて駆使して関与を深める」として同盟の重要性を強調するどころか、さらに強化する考えを示したので各方面から注目をあびた。
同盟国としてオバマが真っ先にあげたのは日本である。また、民主主義は欧米に限られたものでないことを強調する下りでも日本、台湾、韓国という順番で成功例を指摘するなどオバマは日本に対し、習近平の冷たい態度とは対照的な温かい配慮を示した。
それだけではない。オバマはさらに、「領土、離島、岩礁などに関する紛争は国際的な対立を惹起する恐れがある」「どの国も人々も安全で平和に暮らす権利がある。アジアの安全保障は力(influence)や強制や大国による小国のいじめ(big nations bully the small)の上に立てられてはならない。相互の安全保障、国際法と確立されている国際規範、および紛争の平和的解決原則に基づかなければならない」「われわれは中国に、他の諸国と同じルールを尊重するよう促している」と胸のすくような指摘をした。オバマが中国の恣意的、国際法に基づかない行動をけん制していることは明らかである。
では米国は中国に対し何を期待しているか。オバマは「平和で、繁栄し、安定し、かつ世界において責任ある役割を演じる中国を歓迎する」と北京でもクイーンズランド大学でも繰り返し述べている。これが米国の率直な考えであろう。
オバマ演説はここまででも中国の指導者にとって耳が痛いだろうが、さらにオバマは香港での民主化要求デモに言及し、「香港の人々は普遍的な権利を求めて声をあげている。このアジアでも、世界のどこでも米国は自由で公正な選挙を支持している」「われわれは、タイでもそうしているが、民主的な統治(civilian rule)に早く戻るべきだと促している(注 どの国に対して促しているかは明示しなかったが、言わずとも明らかであろう)。われわれは集会の自由、言論の自由、プレスの自由、自由でオープンなインターネットを支持している」と断言した。
香港のデモは扱いを誤ると中国内の民主化要求に火をつける危険があり、中国は非常に神経をとがらせている。北京での米中首脳会談後の記者会見で、米国が関与しているのではないかと疑う質問が出て一瞬緊張が走ったそうである。その時オバマは「米国は香港のデモに関与していない。ただ、米国は表現の自由については主張し続ける。香港の行政長官を選ぶ選挙は透明、公平かつ人々の考えを反映したものであることを促す」と述べてその場を収めた。この発言とブリスベン演説は、我々が聞くと趣旨はそう変わらないようにも思われるが、中国は、ブリスベン演説は我慢がならないと思っている可能性がある。
中国外交部のスポークスマンは香港に関するオバマ発言に直接触れず、「新型大国関係の建設を進めることに合意している」とだけコメントしたが、これは中国にとって都合のよい点だけを強調したに過ぎない。
多維新聞(米国に本拠がある中国語の新聞であり、中国内部に人脈を持ち中国の政治によく通じている。中共中央宣伝部の統制下にはなく比較的自由に報道できるので、中国でも台湾でも読まれている)は、香港での民主化要求に関するオバマ発言についてあからさまに不快感を示し、「オバマ大統領はAPECの際に約束(原文は「承諾」)したことをがらりと変え、香港の中心地の占拠について勝手な議論を展開した」という刺激的な見出しをつけた。オバマが二枚舌を使っていると言わんばかりである。
ともかく、オバマ大統領としては、日本、中国、オーストラリアの関心事について語る貴重な機会であったので、中国の問題点を自然な形で、率直に論じた。日本を始め同盟国の信頼を揺るがせるようなことはしない、今後一層強化するという米国の断固とした姿勢は実に頼もしいが、日本としても米国の対日重視姿勢が揺らがないよう、日米関係を大切にし、そのために努力していかなくてはならない。」
米中両国はたがいに何を期待しているか
キヤノングローバル戦略研究所のホームページに12月5日掲載されたもの。「北京でのAPEC首脳会議(11月10-11日)から始まり、オバマ大統領の中国訪問、オーストラリアのブリスベンでのG20首脳会議と続く間に、米中両国がたがいに期待していることは一致していないことがさらけ出された。
習近平主席はインド訪問の時もそうであったが、外国首脳との会談の舞台演出に非常に気を使う。オバマ大統領に対しては、中国の権力機構の中枢である中南海に案内し、歴史の重みを背景に親しく語りかけ、中米両国は「新しい大国関係」を築いていくべきだと力説した。これに対し、オバマ大統領は歴史について学んだと述べるなど、中南海における友好的雰囲気の盛り上げは成功したかに見えた。
一方、習近平主席は日本の安倍首相を冷たくあしらった。「仏頂面」とはまさに両首脳が握手した時の習近平の表情を言う。習近平主席がそのような表情で臨んだのは国内向けの考慮からであったのは誰の目にも明らかであっただろうが、それはともかくとして、習近平主席の安倍首相とオバマ大統領に対する態度は対照的であった。
しかし、中国にとって肝心の「中国は大国である」ことについては、オバマ大統領は肯定しなかった。習近平主席の外交成果を盛り上げる役割の人民日報もオバマ大統領がこの点に関しどのような発言をしたか、あいまいな記述しかしていない。
中南海会談から4日後の15日、G20首脳会議に出席したオバマ大統領がクイーンズランド大学で行なった講演は、北京でははっきりしなかった米国の姿勢を浮き彫りにした。オバマの演説を貫いていたのは、アジア太平洋地域の重視と民主的な政治と自由な経済システムに対する米国の信念である。
オバマはまず、「世界の唯一の超大国として」米国が特別の責任を有していることを論じた。「超大国」と「大国」の違いはあるが、この発言によってオバマは中国を大国と認めていないことを間接的に示したのではないか。
オバマは続いて、米国はアジア太平洋地域において「すべての同盟国の主権、独立および安全保障に鉄のコミットメント(ironclad commitment)をしており、また、われわれは同盟諸国間の協力を拡大する考えである」「米国は持てる力をすべて駆使して関与を深める」として同盟の重要性を強調するどころか、さらに強化する考えを示したので各方面から注目をあびた。
同盟国としてオバマが真っ先にあげたのは日本である。また、民主主義は欧米に限られたものでないことを強調する下りでも日本、台湾、韓国という順番で成功例を指摘するなどオバマは日本に対し、習近平の冷たい態度とは対照的な温かい配慮を示した。
それだけではない。オバマはさらに、「領土、離島、岩礁などに関する紛争は国際的な対立を惹起する恐れがある」「どの国も人々も安全で平和に暮らす権利がある。アジアの安全保障は力(influence)や強制や大国による小国のいじめ(big nations bully the small)の上に立てられてはならない。相互の安全保障、国際法と確立されている国際規範、および紛争の平和的解決原則に基づかなければならない」「われわれは中国に、他の諸国と同じルールを尊重するよう促している」と胸のすくような指摘をした。オバマが中国の恣意的、国際法に基づかない行動をけん制していることは明らかである。
では米国は中国に対し何を期待しているか。オバマは「平和で、繁栄し、安定し、かつ世界において責任ある役割を演じる中国を歓迎する」と北京でもクイーンズランド大学でも繰り返し述べている。これが米国の率直な考えであろう。
オバマ演説はここまででも中国の指導者にとって耳が痛いだろうが、さらにオバマは香港での民主化要求デモに言及し、「香港の人々は普遍的な権利を求めて声をあげている。このアジアでも、世界のどこでも米国は自由で公正な選挙を支持している」「われわれは、タイでもそうしているが、民主的な統治(civilian rule)に早く戻るべきだと促している(注 どの国に対して促しているかは明示しなかったが、言わずとも明らかであろう)。われわれは集会の自由、言論の自由、プレスの自由、自由でオープンなインターネットを支持している」と断言した。
香港のデモは扱いを誤ると中国内の民主化要求に火をつける危険があり、中国は非常に神経をとがらせている。北京での米中首脳会談後の記者会見で、米国が関与しているのではないかと疑う質問が出て一瞬緊張が走ったそうである。その時オバマは「米国は香港のデモに関与していない。ただ、米国は表現の自由については主張し続ける。香港の行政長官を選ぶ選挙は透明、公平かつ人々の考えを反映したものであることを促す」と述べてその場を収めた。この発言とブリスベン演説は、我々が聞くと趣旨はそう変わらないようにも思われるが、中国は、ブリスベン演説は我慢がならないと思っている可能性がある。
中国外交部のスポークスマンは香港に関するオバマ発言に直接触れず、「新型大国関係の建設を進めることに合意している」とだけコメントしたが、これは中国にとって都合のよい点だけを強調したに過ぎない。
多維新聞(米国に本拠がある中国語の新聞であり、中国内部に人脈を持ち中国の政治によく通じている。中共中央宣伝部の統制下にはなく比較的自由に報道できるので、中国でも台湾でも読まれている)は、香港での民主化要求に関するオバマ発言についてあからさまに不快感を示し、「オバマ大統領はAPECの際に約束(原文は「承諾」)したことをがらりと変え、香港の中心地の占拠について勝手な議論を展開した」という刺激的な見出しをつけた。オバマが二枚舌を使っていると言わんばかりである。
ともかく、オバマ大統領としては、日本、中国、オーストラリアの関心事について語る貴重な機会であったので、中国の問題点を自然な形で、率直に論じた。日本を始め同盟国の信頼を揺るがせるようなことはしない、今後一層強化するという米国の断固とした姿勢は実に頼もしいが、日本としても米国の対日重視姿勢が揺らがないよう、日米関係を大切にし、そのために努力していかなくてはならない。」
2014.11.30
今回の選挙で馬英九政権が国民の支持を失ったのは、中国とのサービス貿易協定、今年3月の学生による
立法院での座り込み(ひまわり学生運動)、食品安全問題、腐敗、格差などが理由であると指摘されている。
これらは決して容易な問題でないが、比較的技術的なことであり、台湾人の意見に耳を傾け、中国との関係促進にもっと慎重になれば、国民党として国民の支持を回復することは可能かもしれない。
台湾で中国との関係を安定的に維持してきたのは国民党である。民進党が1990年に政権を獲得し、一時期台湾独立の機運が盛り上がったかに見られたが、同党は政治的に未熟であったこと、また、台湾と中国との経済関係が急速に深まり、台湾としては感情的には中国との接近を欲しないが現実的には中国との関係を良好に維持していくことが必要であるという認識が広範囲に共有されるに至ったことなどから、国民党は政権を取り戻していた。国民党には歴史、伝統、組織力、特に中国との関係で安定感があり、1回の選挙でそのすべてがなくなるわけではない。
一方、台北市長に当選したコーウェンチェーは、台湾に新しい政治状況が生じたことを強調している。今回の選挙においては政党の役割よりむしろ市民の活動が目立たったことも事実である。台湾では本当に根本的な状況変化が生じつつあるのか。今後の台湾の動向を見るには次のような諸点から情勢をフォローし、分析していく必要があると考える。
第1は、馬英九が問題なのか、それとも国民党が問題か、それとも台湾人はいずれにもノーをつきつけたのか。現象的にはもっともつよく拒否されたのは馬英九であり、次いで国民党であった。
第2に、民進党は2000年から8年間の稚拙な政治から立ち直って民心を回復したと言えるか。選挙結果を見ると、国民党への投票率が40・70%であったのに対し、民進党は47・55%であり、両者の獲得票の数の差はさほど大きくない。民進党は相対的に有利になっただけである。
第3に、台湾人が国民党政権を拒否したのは、中国経済がかつての高度成長から停滞期に入り、将来的には問題があると思っているためか。つまり、台湾人は中国との経済関係に以前ほど左右されなくなっているのか。これは問題点として記しておこう。
第4に、今回の選挙は国民党支持でも民進党支持でもない浮動票に左右されたことが大きな要因であり、そうであれば、今回の選挙に示された世論は数年後にはまったく異なる結果をもたらす可能性があるのではないか。国民党にとっても、また民進党にとっても、今後の努力次第で浮動票を取り込み、党勢を拡大するチャンスがあるのではないか。
第5に、台湾における最近の世論調査では、「台湾人である」こと、すなわち、「中国人でなく台湾人であること」を好む傾向が強くなっているという結果が表れていた。民進党の政権時代に台湾人の意識が高揚したが、その失敗により、国民党政権に対する支持が回復したが、その後、台湾人としての意識が再度強くなっていたのである。今回の選挙はこのような台湾人の政治意識の変化と関連しているとみるのが自然であろう。
台湾の市長選挙
台湾の市長選挙では台北市、台中市を含め国民党候補が相次いで落選するなど、国民党は惨敗を喫した。台北市は台湾の首都であり、政府はこれまであらゆる方法で支持層を固める努力を払ってきが、今回の選挙ではほとんど効果がなかったのである。今回の選挙で馬英九政権が国民の支持を失ったのは、中国とのサービス貿易協定、今年3月の学生による
立法院での座り込み(ひまわり学生運動)、食品安全問題、腐敗、格差などが理由であると指摘されている。
これらは決して容易な問題でないが、比較的技術的なことであり、台湾人の意見に耳を傾け、中国との関係促進にもっと慎重になれば、国民党として国民の支持を回復することは可能かもしれない。
台湾で中国との関係を安定的に維持してきたのは国民党である。民進党が1990年に政権を獲得し、一時期台湾独立の機運が盛り上がったかに見られたが、同党は政治的に未熟であったこと、また、台湾と中国との経済関係が急速に深まり、台湾としては感情的には中国との接近を欲しないが現実的には中国との関係を良好に維持していくことが必要であるという認識が広範囲に共有されるに至ったことなどから、国民党は政権を取り戻していた。国民党には歴史、伝統、組織力、特に中国との関係で安定感があり、1回の選挙でそのすべてがなくなるわけではない。
一方、台北市長に当選したコーウェンチェーは、台湾に新しい政治状況が生じたことを強調している。今回の選挙においては政党の役割よりむしろ市民の活動が目立たったことも事実である。台湾では本当に根本的な状況変化が生じつつあるのか。今後の台湾の動向を見るには次のような諸点から情勢をフォローし、分析していく必要があると考える。
第1は、馬英九が問題なのか、それとも国民党が問題か、それとも台湾人はいずれにもノーをつきつけたのか。現象的にはもっともつよく拒否されたのは馬英九であり、次いで国民党であった。
第2に、民進党は2000年から8年間の稚拙な政治から立ち直って民心を回復したと言えるか。選挙結果を見ると、国民党への投票率が40・70%であったのに対し、民進党は47・55%であり、両者の獲得票の数の差はさほど大きくない。民進党は相対的に有利になっただけである。
第3に、台湾人が国民党政権を拒否したのは、中国経済がかつての高度成長から停滞期に入り、将来的には問題があると思っているためか。つまり、台湾人は中国との経済関係に以前ほど左右されなくなっているのか。これは問題点として記しておこう。
第4に、今回の選挙は国民党支持でも民進党支持でもない浮動票に左右されたことが大きな要因であり、そうであれば、今回の選挙に示された世論は数年後にはまったく異なる結果をもたらす可能性があるのではないか。国民党にとっても、また民進党にとっても、今後の努力次第で浮動票を取り込み、党勢を拡大するチャンスがあるのではないか。
第5に、台湾における最近の世論調査では、「台湾人である」こと、すなわち、「中国人でなく台湾人であること」を好む傾向が強くなっているという結果が表れていた。民進党の政権時代に台湾人の意識が高揚したが、その失敗により、国民党政権に対する支持が回復したが、その後、台湾人としての意識が再度強くなっていたのである。今回の選挙はこのような台湾人の政治意識の変化と関連しているとみるのが自然であろう。
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