平和外交研究所

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2015.01.16

グローバルな日米同盟?

共同通信からOP EDとして1月13日に配信されたもの。

「日米両政府は今年夏までに日米防衛協力指針(ガイドライン)を改定する。改定の方向性を示す中間報告が昨秋出されたが、そこでは「日米同盟のグローバルな性質」が複数回指摘されている。
 両国はさまざまな分野と地域で協力しているが、日米同盟とは安全保障の面で両国が同盟関係にあることを意味し、その性格は日米安全保障条約により規定されている。
 同条約締結は日本がサンフランシスコ講和条約で独立を回復したのと同時期だが、その目的は日本の安全を確保することにあった。日米はその後、日本の領土・領海に限らず「極東における国際の平和および安全の維持に共通の関心を有する」ことを確認。冷戦後はアジア太平洋地域の平和と安定の維持を共通の目的とみなすようになった。
 さらに1997年のガイドライン改定で「周辺事態」でも日米が協力することになった。そして今回の中間報告で「グローバルな性質」が明記された。それにしても、一体いつの間に日米同盟は「グローバルな性質」を帯びるに至ったのか。
 日米両政府は2005年「日米同盟 未来のための変革と再編」という合意文書を公表した。文書は「日米同盟は日本の安全とアジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎。緊密かつ協力的な関係は世界における課題に効果的に対処する上で重要」とした上で、重点協力分野として/(1)/日本の防衛、周辺事態への対応/(2)/国際的な安全保障環境改善のための取り組み―を挙げた。
 日米同盟に2国間関係以外の側面があることは広く知られていないが、具体的には欧州の安全保障問題に関する協議や装備面の協力などがある。
 ただしそこでは、紛争発生時に米国とともに自衛隊が多国籍軍として軍事行動することは想定していない。「国際的な安全保障環境改善のための取り組み」におのずと限界があるからだ。
 しかし、今回の中間報告は「グローバルな性質」を強調し、従来の政府説明より一歩も二歩も踏み込んだ。「グローバル」となると、日米協力の地理的限界が消滅し、米国の軍事作戦に加わることも不可能でなくなる。
 日本が世界の安定と平和のためにどこまで人的に貢献ができるかは、長年の懸案だった。政府も多くの制約の中で何ができるか、何をすべきかを懸命に検討してきた。
 その結果、国連平和維持活動(PKO)を中心に人的貢献の範囲を拡大する一方、憲法上できないことはできないと判断してきた。それは日米同盟の在り方に対する熟慮の帰結だった。
 だが中間報告で打ち出された「グローバルな性質」は、そうした過去に見られたプロセスを経た結論とは言い難い。「グローバルな性質」という“御旗”を掲げることで日米同盟に新たな機能を与える試みとみられるが、それは日本の国情や世論を無視していないか。
 米国は、日本が米軍の軍事行動に、より協力することを期待している。米国の国益を考えればもっともだろうが、日本自身にそれは当てはまらない。人的貢献は増大すべきだが、軍事面で協力できないことが厳然とある。
 なし崩し的に米国の要求を認めるのではなく、将来の日米同盟のあり方そのものを本質的に考えることがまず必要だ。」
2015.01.15

日韓首脳会談と局長級協議

韓国の朴槿恵大統領は1月12日の年頭記者会見で、今年が日韓関係正常化50周年になることに触れつつ、両国の関係を前に進めるために首脳会談を開催したいとの考えを表明した。その際、日本側の姿勢の転換、変化が重要だと述べ、また「過去には、会談をしてかえって関係が後退したこともあった」とも語っている。一国の指導者としてはもう少し幅の広い姿勢を示したほうがよかったのではないかという気がするが、一部に言われているように、これまでと同じ姿勢だと片づけることにはちょっと抵抗がある。首脳会談開催に条件を付けるべきか否かというのは重要な点であるが、その基準だけでは朴槿恵大統領が日韓関係改善のための糸口を探ろうとし、また工夫していることが見過ごされてしまう恐れがあるからである。

先般のAPEC首脳会議の際、安倍首相と朴槿恵大統領は、中断している局長級協議を進めるためそれぞれ事務方を督励する意向を示したと伝えられている。日韓関係が困難な状況の中にあってこの協議は関係改善の糸口を探る重要な場である。しかしながら、現実に何ができるか。具体論になればなるほど簡単でないことが見えてくる。日韓双方とも困難な状況があり、日本側では、日韓基本条約で決着がついたことを蒸し返すわけにはいかないという基本問題は残ったままである。本稿では日本側の事情には深入りせず、韓国側の問題を取り上げることとする。

これまでの局長級協議で、韓国側は、日本側が元慰安婦ら韓国内の期待にも応え、また、国際的にも受け入れられる解決策を取るよう求めているそうだ。そのような気持は理解できるが、韓国側が要求し、日本側はそれを聞いて何ができるかを検討するということだけでは協議は終わらないはずである。日本政府は韓国政府の指揮下になく、双方は平等の立場であり、協議では双方が受け入れ可能な方策を模索し、話し合い、合意するべきである。一般論として、合意しない協議、つまり、それぞれが関心事を述べ合うだけで済ませる協議もありうるが、そのような性格の協議は大して重要でない。
したがって局長級協議は何らかの合意を目指して行われることを期待したいが、そもそも韓国側は日本側と合意できるか疑問がある。そのようなことを言うのは常識的には失礼であろうが、私はどうしてもその点が引っ掛かる。なぜかと言うと、かりに何らかの内容で合意が達成されても、韓国側では、合意したことに対して元慰安婦の支援者や韓国の裁判所から政府と異なる要求や判断が出るとはたして責任を持って対処できるか疑問なのである。
韓国側を見下しているのではない。今まで、いろんな場で、韓国だけの問題をあげつらうのでなく我々自身の問題も客観的に見ていかなければならないと論じてきた。もし、局長級協議が合意に達し、韓国側がそれでよいと言える内容の合意が達成されれば、そのような疑念は根拠がなかったこと、韓国政府は当事者能力を持っていることがあらためて証明される。そうなれば潔く謝罪する覚悟を持ちつつ、あえて失礼なことを書いている。過去のことを持ち出して云々するためでない。これまでの経験にかんがみ、局長級協議では双方とも賢明に、しかも責任ある態度で臨んでもらいたいからである。
2015.01.12

安全保障に関する法律改正

THEPAGEに1月12日掲載されたもの。

「2014年7月に閣議決定された安全保障法制に関する新方針は、日本は個別的自衛権は行使できるが、集団的自衛権を行使することはできないという従来の憲法解釈を変更して、厳格な要件を満たす場合には行使も可能にしました。現在、その方針に従って関連の諸法律を改正する準備が進められています。
 第1に、いわゆる多国籍軍や米軍にどの程度、また、どのように協力するかという問題に関する改正です。2001年9月の米国における同時多発テロ事件の後、アフガニスタンにおいて米国をはじめ多数の国がテロ集団やそれを保護していたタリバン政権と戦いました。また2003年には大量破壊兵器を開発・保有しているとみられたイラクに対する戦争が行われました。日本は戦争に巻き込まれてはならないので、自衛隊の活動を「非戦闘地域」に限りながら輸送、医療、給油などの面で協力しました。
しかし、アフガニスタン、あるいはイラクというように個別のケースごとに法律を作るのでは時間的に後れを取ることとなる恐れがあり、また、日本として一貫した姿勢で臨む上でも問題があります。そこで新方針は、恒久法を制定して、「非戦闘地域」としてあらかじめ設定された安全な地域に限定するのでなく、「現に戦闘行為を行なっている現場では支援活動は実施しない」という原則により対処することにしました。平たく言えば、以前は自衛隊が活動できる地域をポジリスト的に指定していたのを、新方針は活動できない地域をネガリスト的に示した、と言えるでしょう。
第2に、自衛隊が米軍と協力して行動できる地理的範囲についての改正です。元来、日米安保条約の下で自衛隊が米軍と協力できるのは「日本の施政下にある領域」、つまり、日本の領域だけでしたが、冷戦終結後のアジア太平洋の状況にかんがみ、1999年の「周辺事態法」は、物品や役務の提供、あるいは捜索救難など限られた範囲の行動であれば日本周辺の公海上でも可能にしました。
閣議決定された新しい方針はこの問題にとくに言及していませんが、集団的自衛権の行使についての考えが変わった結果、日米の協力を「周辺事態」に限定する必要性はなくなるでしょう。したがって、日本周辺に限らず、どこでも米軍に協力できるようにする法律が周辺事態法に代わって制定される可能性があります。
また、集団的自衛権を行使するには、地理的範囲の拡大のみならず、自衛隊の行動基準を、「存立事態」など閣議決定された要件に見合ったものとする必要があり、自衛隊法など関連の法律の改正が行われる可能性があります。
第3に、平和維持活動(PKO)は紛争が終了した後に国連によって始められるものです。しかし、紛争が終了しているか否か判断が困難な場合があり、実際に終了していなければPKO部隊が紛争に巻き込まれる恐れがあります。国連はその判断のために、「紛争当事者間に停戦の合意があるか否か」ということと、「紛争当事者がPKOを受け入れることに合意しているか否か」を確かめることにしています。
日本は、この2つの基準を国連よりさらに厳しく運用してきました。日本のPKO参加のため1992年に制定されたPKO法とその運用方針である「PKO参加5原則」はそのような厳格な考えに立って武器の使用を厳しく制限しているため、自衛隊と同じ場所でPKOに参加している他国の部隊や民間人を危険から守ること、いわゆる「駆わけ付け警護」はできませんでした。
しかしこれではPKOとしての任務を十分に遂行することができません。新方針は、「駆けつけ警護」や邦人救出の際には必要な程度武器を使用できるようにすべきであるとしました。この考えに従い、PKO法と「PKO参加5原則」の他、自衛隊の権限と行動を定めている自衛隊法95条などが改正されることとなるでしょう。
第4に、いわゆるグレーゾーンの事態について、新方針は、離島の周辺地域等において外部から不法な侵入・侵害が発生し、警察力で直ちに対応できない場合には自衛隊が行動できるように必要な法整備を行なうとしています。
この他、他国の領海内を潜水艦が通過する場合海上を航行しなければならないという国際法の規則に違反して、外国潜水艦が潜没航行する場合にも自衛隊が対処できるよう法律を改正すべきだと言われています。この問題に関する政府の具体的な方針はまだ示されていませんが、やはり重要な問題として注目していく必要があります。
 なお、中期的な観点から定められる日米の防衛協力についてのガイドラインは以上の諸点と密接な関係があるので、日本での法案の準備状況を見ながら策定されるものと思われます。」

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