オピニオン
2014.12.14
この報告書自身は、「国家による海洋に関する主張や境界を精査(examine)し、国際法との整合性を評価(assess)することである」「この検討は、その中で取り上げられていることに関する米国政府の見解(view)を示すが、主張されていることを受け入れることを必ずしも反映しない」と記している。つまり、国際法に合致しているか否かの判断はするが、政治的に特定国の主張に加担するのではない、という意味であろう。ただし、この前置きにもかかわらず、国務省の記者ブリーフでは、これまでの米国政府の「第三国間の領土紛争においていずれかの国に加担することはしない」という方針と一貫していないのではないかという質問が出た。後述する。
この報告書は、これまで種々の機会に表明された中国の主張を綿密に調べ上げ、国連海洋法条約など国際海洋法に照らして適切な主張であるかを判断している。具体的には次のような指摘をしている。
○南シナ海全域、いわゆる「九段線」で囲まれる海域に対する中国の主張は国際海洋法に合致しない(does not accord with the international law of the sea)。
○中国による九段線の主張は、その範囲内の島嶼に対する領有権主張なのか、他国との境界線のことか、歴史的主張なのか明確でない。
○中国の法律、宣言、公告その他の声明で中国の歴史的理由に基づく九段線の主張を国際社会に提示したものは(describing and putting on notice of a historic claim to the waters within the dashed line)ない。(注 中国の文書には歴史的に中国のものだとする記述はあるが、これは国際法で必要な、他国に異議の機会を与える領土主張でないという趣旨の説明も行っている)
○中国で出版されている種々の地図は正確さ、明確さ、一貫性を欠き、中国の主張の性格と範囲(nature and scope)は不明確である。
○歴史的理由に基づく主張よりも、海洋法条約で定められた沿岸国の主権に基づく権利の方が優先すると同条約は明記している。
○中国の歴史的理由に基づく主張は、国際法で使われる、「公開の、周知の(notorious)、実効支配」の3基準に照らして成り立たない。
○主張する国(注 中国のこと)は、非公開の、あいまいな理由で、九段線に関係国が同意していると言うことはできない。
以上のような指摘を含む本報告書は、米国政府として中国以外の国に加担することを意味しないという前提を明記していても、中国の主張が国際法に合致しておらず、不当であることを指摘するという重大な判断を下しており、それだけでも看過できない。12月10日の国務省での記者ブリーフでその点を指摘、質問されたのに対し、Jen PSAKI報道官は「これはただの報告書である、80もおこなった法的な検討の一つである、、、」と苦しげに答え、さらに記者が「しかし、この報告書は東南アジア諸国の利益を支持(favor)している」とたたみかけたので、同報道官は「それは非常にテクニカルなものであり、政治的なものでない(they are very technical, they’re not political)」とだけ述べ、後は従来からの米国政府の方針は不変であることを繰り返した。
この報告書の前書き、あるいはPSAKI報道官の説明を受け入れるとしても、米国政府が公式の文書で中国の南シナ海に対する主張は国際法に合致しないと断言したことの意味は大きい。尖閣諸島についても米国は同様に中国の主張について法的な整合性を検討しているのだろうか。もししていないのであれば、日本政府はそうするよう米国政府に求めるべきではないか。日本政府はこの報告書をどのように受け止めているのだろうか。
南シナ海に対する中国の主張に対する米国政府の法的的見解
米国務省の海洋国際環境科学局は12月5日付で、南シナ海に対する中国の「九段線」の主張は根拠が乏しく、「国際海洋法に合致していない」とする報告書を発表した。この報告書は極めて重要であるが、日本ではその重要性が正しく伝えられているか疑問である。一部には、本報告書が中国にその主張の不十分な点を補うよう促しているように報道しているが、それはこの報告書の趣旨でない。この報告書自身は、「国家による海洋に関する主張や境界を精査(examine)し、国際法との整合性を評価(assess)することである」「この検討は、その中で取り上げられていることに関する米国政府の見解(view)を示すが、主張されていることを受け入れることを必ずしも反映しない」と記している。つまり、国際法に合致しているか否かの判断はするが、政治的に特定国の主張に加担するのではない、という意味であろう。ただし、この前置きにもかかわらず、国務省の記者ブリーフでは、これまでの米国政府の「第三国間の領土紛争においていずれかの国に加担することはしない」という方針と一貫していないのではないかという質問が出た。後述する。
この報告書は、これまで種々の機会に表明された中国の主張を綿密に調べ上げ、国連海洋法条約など国際海洋法に照らして適切な主張であるかを判断している。具体的には次のような指摘をしている。
○南シナ海全域、いわゆる「九段線」で囲まれる海域に対する中国の主張は国際海洋法に合致しない(does not accord with the international law of the sea)。
○中国による九段線の主張は、その範囲内の島嶼に対する領有権主張なのか、他国との境界線のことか、歴史的主張なのか明確でない。
○中国の法律、宣言、公告その他の声明で中国の歴史的理由に基づく九段線の主張を国際社会に提示したものは(describing and putting on notice of a historic claim to the waters within the dashed line)ない。(注 中国の文書には歴史的に中国のものだとする記述はあるが、これは国際法で必要な、他国に異議の機会を与える領土主張でないという趣旨の説明も行っている)
○中国で出版されている種々の地図は正確さ、明確さ、一貫性を欠き、中国の主張の性格と範囲(nature and scope)は不明確である。
○歴史的理由に基づく主張よりも、海洋法条約で定められた沿岸国の主権に基づく権利の方が優先すると同条約は明記している。
○中国の歴史的理由に基づく主張は、国際法で使われる、「公開の、周知の(notorious)、実効支配」の3基準に照らして成り立たない。
○主張する国(注 中国のこと)は、非公開の、あいまいな理由で、九段線に関係国が同意していると言うことはできない。
以上のような指摘を含む本報告書は、米国政府として中国以外の国に加担することを意味しないという前提を明記していても、中国の主張が国際法に合致しておらず、不当であることを指摘するという重大な判断を下しており、それだけでも看過できない。12月10日の国務省での記者ブリーフでその点を指摘、質問されたのに対し、Jen PSAKI報道官は「これはただの報告書である、80もおこなった法的な検討の一つである、、、」と苦しげに答え、さらに記者が「しかし、この報告書は東南アジア諸国の利益を支持(favor)している」とたたみかけたので、同報道官は「それは非常にテクニカルなものであり、政治的なものでない(they are very technical, they’re not political)」とだけ述べ、後は従来からの米国政府の方針は不変であることを繰り返した。
この報告書の前書き、あるいはPSAKI報道官の説明を受け入れるとしても、米国政府が公式の文書で中国の南シナ海に対する主張は国際法に合致しないと断言したことの意味は大きい。尖閣諸島についても米国は同様に中国の主張について法的な整合性を検討しているのだろうか。もししていないのであれば、日本政府はそうするよう米国政府に求めるべきではないか。日本政府はこの報告書をどのように受け止めているのだろうか。
2014.12.12
「安倍首相は、2012年末に就任して以来安全保障面で次々に積極的な施策を講じてきました。日本の防衛体制は不十分であり強化しなければならないという、首相のかねてからの信念を実行に移してきたわけです。
日本を取り巻く国際環境は厳しく、中国は過去20年以上にわたって国防費を毎年二桁で増加させ、武器のハイテク化を進めるなど著しく軍事力を強化させてきました。また、2013年秋には防空識別圏を尖閣諸島の上空を含める形で設置しました。2014年の春には中国軍の戦闘機が自衛隊機に異常接近する事態が続発しました。
北朝鮮は極端な軍事優先主義(「先軍」と呼ばれる)を取っており、核実験はすでに3回実施し、中長距離のミサイルの発射実験は繰り返し行なっています。いずれの場合も国際社会の強い反対を無視しています。
日本とロシアとの間では、安全保障面で一定程度の協力が実現していますが、ロシア軍の行動については日本として依然警戒を緩めることはできません。
安倍首相は、第1次政権の際に設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」を、第2次政権発足直後の2013年2月に再開させました。この懇談会は日本の安全保障に関する法制度の在り方を再検討し、必要な施策に関する提言を取りまとめた報告書を2014年5月に提出しました。これを受けて政府・与党で検討が進められ、7月、政府は安全保障に関する新しい方針を閣議決定しました。従来、日本は集団的自衛権を持っているが行使できないと解されていましたが、この新決定により、「わが国の存立が脅かされる」ことなど厳格な3要件を満たせば集団的自衛権の行使が認められることになりました。また、平和維持活動(PKO)など国際的活動への自衛隊の協力・貢献の在り方についても積極的な施策を打ち出されました。政府は来年の通常国会に必要な関連法案を提出し、成立を図るべく準備中です。
防衛力の強化については、安倍首相は2013年12月に国家安全保障会議を設置しました。安全保障は外務省および防衛省を中心に複数の省庁にまたがるので、政府として一体性のある、機動的な対応が必要であり、この会議はそのための司令塔の役割を果たします。また、その運営のため数十名の職員を擁する国家安全保障局が設置されました。日本の安全保障のために関係大臣が協議するメカニズムは以前にも作られていましたが、このように本格的なサポート体制が設置されたのは初めてです。
日本は、中長期的な観点から日本の安全保障政策や防衛力の規模を定めた防衛計画の大綱(略して「防衛大綱」)を策定しています。安倍内閣は、2010年に定められた大綱が現在の状況に照らして不十分な点があるので、2013年に新しい防衛大綱を策定しました。
また、この計画に従い中期的な防衛力整備計画(中期防)を策定し、5年間で実施される政策や装備の調達量を定めました。具体的には、後方支援体制、情報・通信能力、ハードとソフト両面での即応性、持続性、強靭性そして連続性を重視した防衛力の整備です。
離島の防衛力を強化する必要性は以前から認識されていましたが、新中期防ではこの問題を特に重視しています。これはいわゆるグレーの事態、たとえばルールを無視した潜水艦の航行のように、大々的な攻撃ではありませんが放置すれば日本の国益が害される危険に発展する恐れのある問題であり、これまでの法律ではこのような事態に十分対応できなかったので必要な施策を講じることにしています。
防衛予算は過去数年間毎年減少してきましたが、安倍内閣は減少傾向をストップさせ、2013年に0.8%、翌年は3%それぞれ増加させました。一部の国は日本が防衛予算を増額していることをことさらに警戒していますが、増額幅はわずかであり、2014年の予算は2005年の防衛予算程度の水準に戻ったにすぎません。国際的に比較すると非常に低いと言えるでしょう。
一方、この程度の増額では現在の厳しい国際環境に対応できるのか疑問視する人もいますが、国防予算は安全保障のためにどのような政策で臨むかにかかっています。つまり、考え方次第で不足しているとも、足りているとも言える性格があります。また、財政面での制約も当然あります。
日本の防衛は日本だけでは成り立たず、米国との安全保障条約に依存しています。これは第二次大戦後もろもろの要素を勘案して決定されたことであり、今後も核の傘をはじめ米国の軍事力に依存して日本の安全を確保するという国防の基本方針は変わらないでしょう。
米国はアジア太平洋地域を重視していることを再確認しており、これは日本やその他の米国の同盟国にとって頼もしい抑止力となっています。日本としては自らの防衛能力を高めつつ、米国との防衛協力がいつ、いかなる事態においても揺らがないよう努めていくことが必要です。」
安倍政権の安全保障政策
THEPAGEに掲載されたもの。「安倍首相は、2012年末に就任して以来安全保障面で次々に積極的な施策を講じてきました。日本の防衛体制は不十分であり強化しなければならないという、首相のかねてからの信念を実行に移してきたわけです。
日本を取り巻く国際環境は厳しく、中国は過去20年以上にわたって国防費を毎年二桁で増加させ、武器のハイテク化を進めるなど著しく軍事力を強化させてきました。また、2013年秋には防空識別圏を尖閣諸島の上空を含める形で設置しました。2014年の春には中国軍の戦闘機が自衛隊機に異常接近する事態が続発しました。
北朝鮮は極端な軍事優先主義(「先軍」と呼ばれる)を取っており、核実験はすでに3回実施し、中長距離のミサイルの発射実験は繰り返し行なっています。いずれの場合も国際社会の強い反対を無視しています。
日本とロシアとの間では、安全保障面で一定程度の協力が実現していますが、ロシア軍の行動については日本として依然警戒を緩めることはできません。
安倍首相は、第1次政権の際に設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」を、第2次政権発足直後の2013年2月に再開させました。この懇談会は日本の安全保障に関する法制度の在り方を再検討し、必要な施策に関する提言を取りまとめた報告書を2014年5月に提出しました。これを受けて政府・与党で検討が進められ、7月、政府は安全保障に関する新しい方針を閣議決定しました。従来、日本は集団的自衛権を持っているが行使できないと解されていましたが、この新決定により、「わが国の存立が脅かされる」ことなど厳格な3要件を満たせば集団的自衛権の行使が認められることになりました。また、平和維持活動(PKO)など国際的活動への自衛隊の協力・貢献の在り方についても積極的な施策を打ち出されました。政府は来年の通常国会に必要な関連法案を提出し、成立を図るべく準備中です。
防衛力の強化については、安倍首相は2013年12月に国家安全保障会議を設置しました。安全保障は外務省および防衛省を中心に複数の省庁にまたがるので、政府として一体性のある、機動的な対応が必要であり、この会議はそのための司令塔の役割を果たします。また、その運営のため数十名の職員を擁する国家安全保障局が設置されました。日本の安全保障のために関係大臣が協議するメカニズムは以前にも作られていましたが、このように本格的なサポート体制が設置されたのは初めてです。
日本は、中長期的な観点から日本の安全保障政策や防衛力の規模を定めた防衛計画の大綱(略して「防衛大綱」)を策定しています。安倍内閣は、2010年に定められた大綱が現在の状況に照らして不十分な点があるので、2013年に新しい防衛大綱を策定しました。
また、この計画に従い中期的な防衛力整備計画(中期防)を策定し、5年間で実施される政策や装備の調達量を定めました。具体的には、後方支援体制、情報・通信能力、ハードとソフト両面での即応性、持続性、強靭性そして連続性を重視した防衛力の整備です。
離島の防衛力を強化する必要性は以前から認識されていましたが、新中期防ではこの問題を特に重視しています。これはいわゆるグレーの事態、たとえばルールを無視した潜水艦の航行のように、大々的な攻撃ではありませんが放置すれば日本の国益が害される危険に発展する恐れのある問題であり、これまでの法律ではこのような事態に十分対応できなかったので必要な施策を講じることにしています。
防衛予算は過去数年間毎年減少してきましたが、安倍内閣は減少傾向をストップさせ、2013年に0.8%、翌年は3%それぞれ増加させました。一部の国は日本が防衛予算を増額していることをことさらに警戒していますが、増額幅はわずかであり、2014年の予算は2005年の防衛予算程度の水準に戻ったにすぎません。国際的に比較すると非常に低いと言えるでしょう。
一方、この程度の増額では現在の厳しい国際環境に対応できるのか疑問視する人もいますが、国防予算は安全保障のためにどのような政策で臨むかにかかっています。つまり、考え方次第で不足しているとも、足りているとも言える性格があります。また、財政面での制約も当然あります。
日本の防衛は日本だけでは成り立たず、米国との安全保障条約に依存しています。これは第二次大戦後もろもろの要素を勘案して決定されたことであり、今後も核の傘をはじめ米国の軍事力に依存して日本の安全を確保するという国防の基本方針は変わらないでしょう。
米国はアジア太平洋地域を重視していることを再確認しており、これは日本やその他の米国の同盟国にとって頼もしい抑止力となっています。日本としては自らの防衛能力を高めつつ、米国との防衛協力がいつ、いかなる事態においても揺らがないよう努めていくことが必要です。」
2014.12.11
核兵器国は従来この運動の会議に出席しなかったが、今回は米英が初めて参加し、発言した。ロシア、中国およびフランスは不参加であったようだ。フランスはある意味では5つの核兵器国の中で、核兵器の非人道性を認めるのにもっとも消極的である。
事実上の核兵器国の中ではインドとパキスタンが参加し、北朝鮮は不参加であった。同じ「事実上の核兵器国」の中でもインド・パキスタンと北朝鮮を同じ類型に入れることには専門家の間で抵抗があろうが、細かい議論はしない。
核兵器の廃絶はなかなか進展しないので各国には強い不満がある。今回のウィーン会議でもそのような不満は底流となって流れていたが、核の廃絶が進まないからと言ってこの運動を無視してはならない。今次会議を締めくくるに際し、ホスト国として議長を務めたオーストリアは、会議全体でなく、オーストリアだけの責任であるとの前提で今次会議の議論を総括した。この種の会議では合意文書を作ることはきわめて困難なことが多いので、議長だけの責任で総括を行なうのは現実的なテクニックである。オーストリアによる議長サマリーのなかではいくつか新鮮な指摘があった。初めて聞いた議論だという意味でない。以前から繰り返し指摘されていることでも、新鮮に響くものも、そうでないものもある。
核兵器をいつでも使用できる状態にしておくことが問題であるという認識がある。冷戦中は米ソ両国をはじめ核兵器国はいざというときのために核搭載のミサイルをいつでも発射できる状態にしていた。いわゆるアラートの状態にしていたのである。しかし、冷戦が終わった今でも相変わらずそうしている。それは危険なことだという問題意識であり、だから今は、核兵器の危険性を低くするために、アラート状態を維持すべきでないと議論されている。このことは今回のウィーン会議でも指摘されていた。
議長サマリーは、核の使用は健康にかかわる国際法規に違反する疑いが大きいことを示す証拠が過去2年の間に明るみに出てきた、と指摘した。放射能被害のことであり、核兵器に限らず放射能被害が広範囲に、かつ人の健康に重大な影響を及ぼすこと、それは国際社会の法規に違反するという観点から重視していこうと呼びかけたのである。
議長サマリーは、その上で、核兵器の非人道性について各国の関心が高まっていることを指摘し、その文脈で今次会議に今まで出てこなかった核兵器国が参加したことを歓迎した。また、今次会議で核の非人道性に関し行われた議論が2015年に開かれる核兵器拡散禁止条約(NPT)の再検討会議(5年に1回の重要会議)を有意義なものとするのに貢献するであろうと期待感を表明した。
一方、議長サマリーは、一部の国では核兵器の使用が軍事ドクトリンで肯定的に見なされていることに警告を発した。核兵器の有用性を高めるようなこと、単純化して言えば、核兵器を使うことを想定した軍事戦略を唱えるべきでないということであり、これも昔から言われている議論であるが、今日の状況下ではこのような指摘が特に必要である。どの核兵器国も核兵器を使用する可能性があるから保有しているのであるが、軍事戦略において核兵器の使用を肯定することは安易な使用につながる恐れがあるからである。また、議長サマリーは、「核兵器はいかなる状況においても再び使用されてはならない」という、核兵器の非人道性に関する国際運動が唱えてきたことを再度明言した。核兵器国は、核の抑止力に依存している国を含め、その命題に賛同することに困難を覚えているが、あえて言及したのであり、「多くの国がこの命題を肯定した」とも論じた。
さらに、議長サマリーは、核兵器を禁止する条約について、やはり「多くの国が賛同した」と指摘した。この条約を締結する問題をどのように扱うかも、来年のNPT再検討会議での重要な議題となるであろう。
核の非人道性に関するウィーン会議
核兵器の非人道性に関する国際会議が12月8~9日、ウィーンで開催された。この会議は約2年前から始まった国際的運動を進めることが目的であり、運動の主たる議題は「核兵器の非人道性」とも「核兵器の違法性」とも言われてきた。両者は同じでないが、違法性の根拠は核兵器の非人道性にあるので密接な関係にある。運動が始まった当初は「核兵器の違法性」が強調されていたが、最近は「非人道性」に焦点があたっている。参加国は今回158ヵ国に上り、さらに国際機関が加わった。核兵器国は従来この運動の会議に出席しなかったが、今回は米英が初めて参加し、発言した。ロシア、中国およびフランスは不参加であったようだ。フランスはある意味では5つの核兵器国の中で、核兵器の非人道性を認めるのにもっとも消極的である。
事実上の核兵器国の中ではインドとパキスタンが参加し、北朝鮮は不参加であった。同じ「事実上の核兵器国」の中でもインド・パキスタンと北朝鮮を同じ類型に入れることには専門家の間で抵抗があろうが、細かい議論はしない。
核兵器の廃絶はなかなか進展しないので各国には強い不満がある。今回のウィーン会議でもそのような不満は底流となって流れていたが、核の廃絶が進まないからと言ってこの運動を無視してはならない。今次会議を締めくくるに際し、ホスト国として議長を務めたオーストリアは、会議全体でなく、オーストリアだけの責任であるとの前提で今次会議の議論を総括した。この種の会議では合意文書を作ることはきわめて困難なことが多いので、議長だけの責任で総括を行なうのは現実的なテクニックである。オーストリアによる議長サマリーのなかではいくつか新鮮な指摘があった。初めて聞いた議論だという意味でない。以前から繰り返し指摘されていることでも、新鮮に響くものも、そうでないものもある。
核兵器をいつでも使用できる状態にしておくことが問題であるという認識がある。冷戦中は米ソ両国をはじめ核兵器国はいざというときのために核搭載のミサイルをいつでも発射できる状態にしていた。いわゆるアラートの状態にしていたのである。しかし、冷戦が終わった今でも相変わらずそうしている。それは危険なことだという問題意識であり、だから今は、核兵器の危険性を低くするために、アラート状態を維持すべきでないと議論されている。このことは今回のウィーン会議でも指摘されていた。
議長サマリーは、核の使用は健康にかかわる国際法規に違反する疑いが大きいことを示す証拠が過去2年の間に明るみに出てきた、と指摘した。放射能被害のことであり、核兵器に限らず放射能被害が広範囲に、かつ人の健康に重大な影響を及ぼすこと、それは国際社会の法規に違反するという観点から重視していこうと呼びかけたのである。
議長サマリーは、その上で、核兵器の非人道性について各国の関心が高まっていることを指摘し、その文脈で今次会議に今まで出てこなかった核兵器国が参加したことを歓迎した。また、今次会議で核の非人道性に関し行われた議論が2015年に開かれる核兵器拡散禁止条約(NPT)の再検討会議(5年に1回の重要会議)を有意義なものとするのに貢献するであろうと期待感を表明した。
一方、議長サマリーは、一部の国では核兵器の使用が軍事ドクトリンで肯定的に見なされていることに警告を発した。核兵器の有用性を高めるようなこと、単純化して言えば、核兵器を使うことを想定した軍事戦略を唱えるべきでないということであり、これも昔から言われている議論であるが、今日の状況下ではこのような指摘が特に必要である。どの核兵器国も核兵器を使用する可能性があるから保有しているのであるが、軍事戦略において核兵器の使用を肯定することは安易な使用につながる恐れがあるからである。また、議長サマリーは、「核兵器はいかなる状況においても再び使用されてはならない」という、核兵器の非人道性に関する国際運動が唱えてきたことを再度明言した。核兵器国は、核の抑止力に依存している国を含め、その命題に賛同することに困難を覚えているが、あえて言及したのであり、「多くの国がこの命題を肯定した」とも論じた。
さらに、議長サマリーは、核兵器を禁止する条約について、やはり「多くの国が賛同した」と指摘した。この条約を締結する問題をどのように扱うかも、来年のNPT再検討会議での重要な議題となるであろう。
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