オピニオン
2016.03.22
この法律案は、2015年6月12日、古屋圭司議員らにより衆議院に提出され、さらに原発や防衛省なども防護の対象とする修正案が泉健太議員らによって提出された。最初の提案も修正提案も重要なものだ。
法律の正式名称は「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」である。
防護の対象は、国会、首相官邸、外国の大使館、それに原発など「原子力事業所」とその周囲おおむね300メートルの地域である。
これら地域は厳しい監視の下に置かれ、例えばその上空ではドローンを飛ばすことはできなくなった。
危険なドローンが防護施設内に侵入してきた場合、どうしても必要であればそのドローンを破壊することも可能になっている。同法第8条2項の「対象施設に対する危険を未然に防止するためやむを得ないと認められる限度において、同項の小型無人機の飛行の妨害又は破損その他の必要な措置をとることができる。」という規定であり、テロ攻撃の場合は、瞬時に判断し危険を防がなければならないので重要な規定だ。
共産党と社民党はこの法案に反対した。委員会での質問で塩川鉄也議員は、「飛行による危険や被害の内容を問わず、規制対象が不明瞭な「小型無人機」を飛ばしただけで直ちに懲役刑をふくむ刑罰を科すことは「刑罰法規としての合理性を欠く」と述べている。
ドローン規制は過剰にならないようにしなければならないのは当然だ。理想論を言えば、さらに議論が深められ、全党一致で承認されればよかったとも思われるが、主要国サミットが間近になっているのでそうも言っておれなかったのかもしれない。しかし、それならなぜ参議院で長い間継続審議となったのかという疑問もわいてくる。
ともかくドローンの規制法が成立したのは一歩前進だ。しかし、このような規制でテロ攻撃を防げるか、疑問が残る。この法律は、たいして早くない速度のドローンを警察官が発見するとそれを操縦している者に対して規制対象から離れるよう指示することなどを定めている。そのように丁寧に対応することは必要だろうが、仮定の話として高速のドローンにより爆発物が運ばれたら、とてもそのようなことをする時間的余裕はない。必要なら破壊できるといっても、その判断は瞬時に行う必要がある。
かつて、都内の某所から発射されたロケット弾が東宮御所近くに落下したことがあった。これは30年も前のことである。操縦可能なドローンの危険性はその比でない。
一方、規制を強くすると国民生活への影響が大きくなるのは問題だが、規制法ができたからと言って安心するのは早すぎる。
ドローンの規制に関する法律はできたが
首相官邸など重要施設を無人飛行機(ドローン)による攻撃から守るための規正法は3月17日、ようやく成立した。「ようやく」というのは、この法律案が衆議院で承認され参議院に送られた後、8カ月余り結論が出なかったからだ(継続審議になっていた)。参議院で修正・承認されたのが今年の3月16日、翌日に衆議院で可決され成立した。この法律案は、2015年6月12日、古屋圭司議員らにより衆議院に提出され、さらに原発や防衛省なども防護の対象とする修正案が泉健太議員らによって提出された。最初の提案も修正提案も重要なものだ。
法律の正式名称は「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」である。
防護の対象は、国会、首相官邸、外国の大使館、それに原発など「原子力事業所」とその周囲おおむね300メートルの地域である。
これら地域は厳しい監視の下に置かれ、例えばその上空ではドローンを飛ばすことはできなくなった。
危険なドローンが防護施設内に侵入してきた場合、どうしても必要であればそのドローンを破壊することも可能になっている。同法第8条2項の「対象施設に対する危険を未然に防止するためやむを得ないと認められる限度において、同項の小型無人機の飛行の妨害又は破損その他の必要な措置をとることができる。」という規定であり、テロ攻撃の場合は、瞬時に判断し危険を防がなければならないので重要な規定だ。
共産党と社民党はこの法案に反対した。委員会での質問で塩川鉄也議員は、「飛行による危険や被害の内容を問わず、規制対象が不明瞭な「小型無人機」を飛ばしただけで直ちに懲役刑をふくむ刑罰を科すことは「刑罰法規としての合理性を欠く」と述べている。
ドローン規制は過剰にならないようにしなければならないのは当然だ。理想論を言えば、さらに議論が深められ、全党一致で承認されればよかったとも思われるが、主要国サミットが間近になっているのでそうも言っておれなかったのかもしれない。しかし、それならなぜ参議院で長い間継続審議となったのかという疑問もわいてくる。
ともかくドローンの規制法が成立したのは一歩前進だ。しかし、このような規制でテロ攻撃を防げるか、疑問が残る。この法律は、たいして早くない速度のドローンを警察官が発見するとそれを操縦している者に対して規制対象から離れるよう指示することなどを定めている。そのように丁寧に対応することは必要だろうが、仮定の話として高速のドローンにより爆発物が運ばれたら、とてもそのようなことをする時間的余裕はない。必要なら破壊できるといっても、その判断は瞬時に行う必要がある。
かつて、都内の某所から発射されたロケット弾が東宮御所近くに落下したことがあった。これは30年も前のことである。操縦可能なドローンの危険性はその比でない。
一方、規制を強くすると国民生活への影響が大きくなるのは問題だが、規制法ができたからと言って安心するのは早すぎる。
2016.03.18
まず注目されるのは政府活動報告である。政治的にデリケートな問題はそれを聞いてもわからないが、経済情勢と今後の見通しについてはかなり率直に実情が語られる。李国強首相の政府活動報告には特徴的なことが3つあった。
第1に、今年の経済成長率の目標は6.5~7%と、かなり幅のある見通しが示された。昨年も「7.0%前後」と一定程度概数であったが、今年は昨年以上に予測困難な状況に立ち至っているのだろう。
第2に、財政赤字の対GDP比率は3%と、昨年実績の2.4%を大きく上回る過去最高の水準となった。楼継偉・財政部長(財務相)は記者会見で、状況次第では財政赤字が3%以上になることもあると説明している。
第3に、例年は明示されていた貿易総額(輸出入の合計)の目標数字が公表されなかった。ちなみに昨年は6.0%増という目標であった。
この政府活動報告は、国政全般にわたる大部の報告(A4判36ページ)であり、李首相はこれを読むのに2時間近くかかった。その間、何回も言い直し、鉄鋼生産の減少量に至っては、9千万トンと原稿に記載されていたが、「900万トン」と読み違え、これはそのままとなった。李首相の政府活動報告を聞いていた各国記者の中には、李首相は元気がないと漏らした人もいたそうだ。
全人代の終了に際して李首相は恒例の記者会見を開いたが、これがまた、大変だったらしい。香港の『大公報』紙3月16日付は、「もっとも厳しい(最先鋭)」記者会見だったと評し、「株式市場、養老年金、工場閉鎖と失業、国有企業、農民が受けた損失など経済社会の問題点を鋭く突く質問が相次いだ。中国経済は火山の噴火口の上にあるようなものだ。過去数十年間高成長の陰で隠れていた諸問題が噴出しかけている。記者会見が始まって間もなく、李首相は何回も無意識に姿勢を正していた。李首相は針の筵に座っているようだった」と報道している。
蛇足かもしれないが、李国強首相は中国内で、一部であろうが、「弱い指導者」と見られている(本HP3月16日「ある中国人実業家の率直な発言が暴露した中国の政治状況?」参照)。
その当否はともかく、中国内の政治状況には不安定な面があり、その中で李国強首相の立ち位置には注目が必要だ。
(短評)李国強首相の奮闘と人物像
中国の全国人民代表大会(全人代 国会に相当する)は3月16日、閉幕した。全人代は表舞台だから本当のことは分からないというのは半分間違いだ。30年前に中国で勤務した時でさえ、中国の本当の姿が、完全にではないが、漏れてくることがあった。今は、その時とは比較にならないくらい多くのことが見えるようになっている。まず注目されるのは政府活動報告である。政治的にデリケートな問題はそれを聞いてもわからないが、経済情勢と今後の見通しについてはかなり率直に実情が語られる。李国強首相の政府活動報告には特徴的なことが3つあった。
第1に、今年の経済成長率の目標は6.5~7%と、かなり幅のある見通しが示された。昨年も「7.0%前後」と一定程度概数であったが、今年は昨年以上に予測困難な状況に立ち至っているのだろう。
第2に、財政赤字の対GDP比率は3%と、昨年実績の2.4%を大きく上回る過去最高の水準となった。楼継偉・財政部長(財務相)は記者会見で、状況次第では財政赤字が3%以上になることもあると説明している。
第3に、例年は明示されていた貿易総額(輸出入の合計)の目標数字が公表されなかった。ちなみに昨年は6.0%増という目標であった。
この政府活動報告は、国政全般にわたる大部の報告(A4判36ページ)であり、李首相はこれを読むのに2時間近くかかった。その間、何回も言い直し、鉄鋼生産の減少量に至っては、9千万トンと原稿に記載されていたが、「900万トン」と読み違え、これはそのままとなった。李首相の政府活動報告を聞いていた各国記者の中には、李首相は元気がないと漏らした人もいたそうだ。
全人代の終了に際して李首相は恒例の記者会見を開いたが、これがまた、大変だったらしい。香港の『大公報』紙3月16日付は、「もっとも厳しい(最先鋭)」記者会見だったと評し、「株式市場、養老年金、工場閉鎖と失業、国有企業、農民が受けた損失など経済社会の問題点を鋭く突く質問が相次いだ。中国経済は火山の噴火口の上にあるようなものだ。過去数十年間高成長の陰で隠れていた諸問題が噴出しかけている。記者会見が始まって間もなく、李首相は何回も無意識に姿勢を正していた。李首相は針の筵に座っているようだった」と報道している。
蛇足かもしれないが、李国強首相は中国内で、一部であろうが、「弱い指導者」と見られている(本HP3月16日「ある中国人実業家の率直な発言が暴露した中国の政治状況?」参照)。
その当否はともかく、中国内の政治状況には不安定な面があり、その中で李国強首相の立ち位置には注目が必要だ。
2016.03.16
発端となったのは、2015年9月、任志強が、「共産主義青年団(共青団)は、共産主義の継承者であると言って十数年間我々をだましてきた」と批判したことだった。任志強は以前から、「習近平グループは車輪をひっくり返して転がした」「軍隊の銃口を内に向けた」「習近平は次々に下手な手(臭棋)を打った」「共産党の専制(極権)は非合法だ」「現体制は専制的な王権(皇権)であり、中央の専制だ」「憲法政治を支持する」「台湾の政権は合法だ」などの大胆な発言で知られていた人物だ。
任志強はまた、2016年2月に習近平主席が中国中央テレビ(CCTV)を視察した際、CCTV側は「我々は共産党が苗字であり(注 共産党政権の一部であるという意味)、絶対に忠誠です。どうぞ検閲してください」と言ったことも鋭く批判した。「中国のメディアは共産党が苗字だ」と言うのは習近平が最近好んで使っている、メディアは共産党に従えという意味の言葉であるが、任志強はCCTVを含めメディアが中共中央になびき、習近平にあからさまにおべっかを使うのを批判したのだ。
任志強のこれらの発言をめぐって起こった論争は、習近平体制に関係している。それはあまりにも大きな問題であり、裏付ける情報は少ないので公には報道しにくいだろうが、今後の中国を見ていく上で欠かせない視点だと思う。
以下の分析は、北米に本拠がある「万維読者網」に3月13日、掲載された「中国瞭望」の記事である。このようなサイトの性質上、中国に対して過度に批判的になりがちなことは斟酌する必要があるが、話半分としても興味深い内容だ。
なお同じく米国に本拠がある多維新聞3月5日付の論評も同趣旨の論評を行っているが、情報源など火元は同じかもしれない。
「今回の事件については「4つの勢力」が議論に加わり「混戦」になった。「4つの勢力」とは、劉雲山が率いる宣伝部系統、共青団派、習近平勢力および王岐山の規律検査委員会系統だ。
CCTVなどを批判されたことを問題視した宣伝部系統は任志強に強い批判で反撃しつつ、文化革命式の「大批判闘争」を展開しようとした。その目的は、習近平グループと王岐山系統を離間させることであり、習近平にとって面倒な問題を引き起こそうとしている(注 任志強のような人物が出てこないよう宣伝部がしっかりしなければならないことを印象付けることだろう)。
しかし、習近平は劉雲山から宣伝系統のコントロールを取り戻したい考えだ。党の宣伝系統は、公安系統を周永康が私物化したように、劉雲山の私的領域となっているからである。習近平がCCTVを視察し、「メディアは党の一部だ」と言った真意は、「劉」の手先であってはならないということを示すためだ。
一方、王岐山の規律検査委員会は、令計画の残党を一掃することを2016年の工作の重点としている。そのため、令計画の本拠地であった中央弁公庁のほか、中央宣伝部、中央の大メディア、特に新華社とCCTVが検査の対象となっている。劉雲山はこれに反発し、自己の「宣伝王国」を守るため、任志強事件を利用して習近平に面倒な問題を起こし、宣伝部系統を軽視する王岐山の力を制御しようと狙っているのだ(注 宣伝部系統が重要であることを習近平にアピールしようとしているという意味)。
任志強の共青団批判は「太子党」を助けることとなった。「太子党」は国有企業でうまい汁を吸っている人たちであり、それをイデオロギーに比較的忠実な共青団は批判しがちであった。その共青団を任志強が批判したので結果的にライバルである「太子党」を助けることになった。しかし、そのような人物が自由に発言するのは問題だと、共青団は逆に反撃に出た。国有企業を食い物にしている「太子党」は国有企業改革の障害となっており、これを助けたとなると任志強に報復する機会を狙っていた共青団としては任志強を攻撃する格好の材料となったのだ。
一方、共青団は王岐山には痛みつけられていた。反腐敗運動の中で多くの団員が失脚させられ、勢力をそがれていたのだ。挽回のため共青団は習近平に取り入ろうとした。
宣伝部系統と共青団は、習近平・李国強体制も習近平・王岐山体制も認めたくないのだ。王岐山には来年秋の第19回党大会で退くのを望んでいる。
習近平は現在、少し左寄りのことを発言すれば宣伝部系統が大いに持ち上げてくれる状況にある。そうでない発言、たとえば、胡耀邦をたたえる講話はあまり報道されなかった。数年後には、習近平は「第2の毛沢東」とか「人民の敵」にされてしまう可能性がある。
習近平はすでに誰が本当に忠実なのか分からなくなっている。
任志強事件は習近平を打倒しようとする勢力を結集する結果となっている。
習近平と王岐山が「文革」式の大批判闘争を阻止した後、内部のある政治勢力は習近平に対する公開状(本研究所HP3月7日)で習近平を批判した。
「明鏡博客」サイトの「外参」は、この公開状は第19回党大会へ向けて中共中央内の諸派の闘争の序幕であり、習近平打倒の最初の銃声だと言っている。
習近平の強権政治と権力集中は、各派をしていかに習近平を制約するかを考えさせるようになっている。
彼らは、習近平を下した後、弱いリーダーを担ごうとしている。その最適の人物は李国強だ。」
なお、中国語のウィキペディアによると、「3月に入って任志強批判は突然姿を消した。任志強は何ら処分を受けていない」そうである。宣伝部は任志強をめぐる混戦が継続するのは好ましくないと判断するに至ったためかと思われる。
ある中国人実業家の率直な発言が暴露した中国の政治状況?
華運集団の総裁として実業界でも、また中国のテレビ界でも有名な任志強の率直な発言をめぐって議論が沸き起こった。発端となったのは、2015年9月、任志強が、「共産主義青年団(共青団)は、共産主義の継承者であると言って十数年間我々をだましてきた」と批判したことだった。任志強は以前から、「習近平グループは車輪をひっくり返して転がした」「軍隊の銃口を内に向けた」「習近平は次々に下手な手(臭棋)を打った」「共産党の専制(極権)は非合法だ」「現体制は専制的な王権(皇権)であり、中央の専制だ」「憲法政治を支持する」「台湾の政権は合法だ」などの大胆な発言で知られていた人物だ。
任志強はまた、2016年2月に習近平主席が中国中央テレビ(CCTV)を視察した際、CCTV側は「我々は共産党が苗字であり(注 共産党政権の一部であるという意味)、絶対に忠誠です。どうぞ検閲してください」と言ったことも鋭く批判した。「中国のメディアは共産党が苗字だ」と言うのは習近平が最近好んで使っている、メディアは共産党に従えという意味の言葉であるが、任志強はCCTVを含めメディアが中共中央になびき、習近平にあからさまにおべっかを使うのを批判したのだ。
任志強のこれらの発言をめぐって起こった論争は、習近平体制に関係している。それはあまりにも大きな問題であり、裏付ける情報は少ないので公には報道しにくいだろうが、今後の中国を見ていく上で欠かせない視点だと思う。
以下の分析は、北米に本拠がある「万維読者網」に3月13日、掲載された「中国瞭望」の記事である。このようなサイトの性質上、中国に対して過度に批判的になりがちなことは斟酌する必要があるが、話半分としても興味深い内容だ。
なお同じく米国に本拠がある多維新聞3月5日付の論評も同趣旨の論評を行っているが、情報源など火元は同じかもしれない。
「今回の事件については「4つの勢力」が議論に加わり「混戦」になった。「4つの勢力」とは、劉雲山が率いる宣伝部系統、共青団派、習近平勢力および王岐山の規律検査委員会系統だ。
CCTVなどを批判されたことを問題視した宣伝部系統は任志強に強い批判で反撃しつつ、文化革命式の「大批判闘争」を展開しようとした。その目的は、習近平グループと王岐山系統を離間させることであり、習近平にとって面倒な問題を引き起こそうとしている(注 任志強のような人物が出てこないよう宣伝部がしっかりしなければならないことを印象付けることだろう)。
しかし、習近平は劉雲山から宣伝系統のコントロールを取り戻したい考えだ。党の宣伝系統は、公安系統を周永康が私物化したように、劉雲山の私的領域となっているからである。習近平がCCTVを視察し、「メディアは党の一部だ」と言った真意は、「劉」の手先であってはならないということを示すためだ。
一方、王岐山の規律検査委員会は、令計画の残党を一掃することを2016年の工作の重点としている。そのため、令計画の本拠地であった中央弁公庁のほか、中央宣伝部、中央の大メディア、特に新華社とCCTVが検査の対象となっている。劉雲山はこれに反発し、自己の「宣伝王国」を守るため、任志強事件を利用して習近平に面倒な問題を起こし、宣伝部系統を軽視する王岐山の力を制御しようと狙っているのだ(注 宣伝部系統が重要であることを習近平にアピールしようとしているという意味)。
任志強の共青団批判は「太子党」を助けることとなった。「太子党」は国有企業でうまい汁を吸っている人たちであり、それをイデオロギーに比較的忠実な共青団は批判しがちであった。その共青団を任志強が批判したので結果的にライバルである「太子党」を助けることになった。しかし、そのような人物が自由に発言するのは問題だと、共青団は逆に反撃に出た。国有企業を食い物にしている「太子党」は国有企業改革の障害となっており、これを助けたとなると任志強に報復する機会を狙っていた共青団としては任志強を攻撃する格好の材料となったのだ。
一方、共青団は王岐山には痛みつけられていた。反腐敗運動の中で多くの団員が失脚させられ、勢力をそがれていたのだ。挽回のため共青団は習近平に取り入ろうとした。
宣伝部系統と共青団は、習近平・李国強体制も習近平・王岐山体制も認めたくないのだ。王岐山には来年秋の第19回党大会で退くのを望んでいる。
習近平は現在、少し左寄りのことを発言すれば宣伝部系統が大いに持ち上げてくれる状況にある。そうでない発言、たとえば、胡耀邦をたたえる講話はあまり報道されなかった。数年後には、習近平は「第2の毛沢東」とか「人民の敵」にされてしまう可能性がある。
習近平はすでに誰が本当に忠実なのか分からなくなっている。
任志強事件は習近平を打倒しようとする勢力を結集する結果となっている。
習近平と王岐山が「文革」式の大批判闘争を阻止した後、内部のある政治勢力は習近平に対する公開状(本研究所HP3月7日)で習近平を批判した。
「明鏡博客」サイトの「外参」は、この公開状は第19回党大会へ向けて中共中央内の諸派の闘争の序幕であり、習近平打倒の最初の銃声だと言っている。
習近平の強権政治と権力集中は、各派をしていかに習近平を制約するかを考えさせるようになっている。
彼らは、習近平を下した後、弱いリーダーを担ごうとしている。その最適の人物は李国強だ。」
なお、中国語のウィキペディアによると、「3月に入って任志強批判は突然姿を消した。任志強は何ら処分を受けていない」そうである。宣伝部は任志強をめぐる混戦が継続するのは好ましくないと判断するに至ったためかと思われる。
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