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2016.04.11

G7外相広島会議の意義

 主要国G7の外相会議が4月10~11日、広島で開かれた。

 広島で開催されるからにはG7の外相は核の廃絶を誓うべきだという意見が核軍縮の専門家の間にあったが、結局、「核兵器のない世界に向けた環境を醸成するとのコミットメントを再確認する」にとどまった。「核の廃絶を目指すが直ちに実行は困難だ」というのが核保有国の立場である限りやむを得ないことだったと思う。

 一方、今回の会合は核兵器の非人道性について非常に大きな意義があった。このことについては2つの角度から今次外相会合を見ておく必要がある。
 一つは、宣言に「非人道性」という言葉があるかないかであるが、それは宣言に盛り込まれず、「原子爆弾投下によるきわめて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末を経験」と記述されたにとどまった。
 この「原子爆弾投下による非人道的な苦難」は非常によく工夫された表現だと思う。この表現の焦点が人にあると考えれば、これは被爆者の苦難そのものであり、だれも反論できない。
 しかし、非人間的な苦難が核によって加えられたことが明記されているので、核兵器に焦点があると説明することも可能だ。そうすればこれは非人道性のこととなる。
 なぜこのような玉虫色の表現にする必要があったかと言えば、「非人道性」を明記することには一部の国(たぶん仏や米)がのめないからだ。

 もう一つの角度は、広島など被爆地を訪問すること自体が核兵器の非人道性を理解する最良の方法ということだ。今回の外相会議に出席した人たちは間違いなく核兵器の実相について理解を深めたと思う。
 したがって、末尾の段落において外相たちが、「他の人々」も広島および長崎を訪問することを希望したのは非常に重要なメッセージだ。これは当然オバマ米大統領を含め各国首脳に対して向けられている。
 広島宣言の重点は「核兵器の非人道性」という言葉を使うか否かの問題よりも、むしろこの点にあると考える。

 以上二つの角度から見て、今回の宣言を核兵器の非人道性に関して評価する場合には、最初の段落(言葉の問題)だけでなく、最後の段落(実際に体得する)を合わせて評価すべきである。

 おりしも、4月9日付の『ワシントン・ポスト』紙はオバマ大統領の被爆地訪問に肯定的な記事を掲載するなど、その実現の機運は高まりつつある。

2016.04.08

中国と日本はどのように付き合うのがよいか

 中国と日本はどのように付き合うのがよいか。この問題を「中国」と「中華人民共和国」を区別する視点にたって、タレントの木本武宏氏との対談で語った。
 東洋経済オンライン4月8日の「中国共産党が恐れる「和平演変」とは何なのか TKO木本が外交のプロに日中問題を直撃!」に掲載されています。
2016.03.31

(短評)北朝鮮で第4回目の「苦難の行軍」?

 北朝鮮で、また「苦難の行軍」という言葉が聞かれるようになった。北朝鮮労働党の機関紙『労働新聞』3月28日付の社説が「革命の道は遠く険しい。草の根を食(は)まねばならない苦難の行軍を再び行うこともありうる」と言ったのだ。そして、北朝鮮政府は平壌市民から毎月1キロずつ食料を徴収する「食料節約運動」を始めたという。
 「苦難の行軍」は過去3回あった。第1回目は1938年から39年にかけパルチザンとして日本軍と戦った抗争、いわゆる抗日遊撃戦のことであり、第2回目は、ソ連でスターリンの死後路線変更が起こった影響を受けて北朝鮮でも56年から57年にかけ内部闘争が発生し、スターリンに近かったソ連派、個人崇拝を批判する延安派および金日成らの満州派がみつどもえになって戦い、金日成が勝利を収めたときのことである。
 第3回目は、冷戦の終了からまだ日も浅い94年に金日成が急死し、翌年大洪水が発生し未曾有の経済困難に陥ったときのことだ。最も困難な時期は約3年続き、97年末には「峠を越した」という表現が現れるようになったが、「苦難の行軍」が終了したと宣言されたのは、2000年の秋であった。つまり、約5年にわたる「苦難の行軍」だった。

 北朝鮮が「苦難の行軍」をまた言い始めたのは、国連で決定された制裁措置に備えるためだろう。今回の強化された制裁措置は重くのしかかってくると北朝鮮自身も思っていることがうかがわれる。
 しかし、それに対応するために核やミサイルの開発を止めることはしないというのが北朝鮮を見る大方の見方であり、韓国最大の『朝鮮日報』3月30日付は、「たとえ多くの住民を苦難の行軍当時と同じく餓死させるようなことがあったとしても、核兵器開発だけは絶対に放棄しないことをあらかじめ宣言したようなものだ。」と指摘している。この見方は正しいと思う。
 朝鮮日報はさらに今後のことを詳しく分析して、「ただ現時点ではまだ市場なども開かれており、食料や日用品は流通しているようだが、今後5月以降になると制裁に伴う経済難が本格化する可能性が高い。さらに春窮期(前年秋に収穫された食料が尽きる晩春の時期)の食糧不足に加え、食料の買い占めや物価の高騰といった社会を混乱させる要因が立て続けに発生することも考えられる」と言っている。
 しかし、北朝鮮の経済事情は、20年前の1990年代中葉に起こった「苦難の行軍」当時とは比較にならないくらい改善しており、そう簡単に社会の混乱が発生するとは思えない。今回の食料節約措置は混乱を未然に防止するためであろう。

 現在、南北ともに軍事訓練に躍起になっている。もとはと言えば、北朝鮮による核実験が原因であり、北朝鮮に責任があるのは明らかだが、今後はどうするのがよいか。
 まず、南北双方が軍事的な突っ張りあいを早期に収め、話し合いによる緊張緩和に努めるべきである。
 北朝鮮は民生を犠牲にして軍事行動にリソースを投入すべきでない。国民が弱まれば、とりもなおさず国力が落ちる。
 韓国側でも軍事力を誇示することが賢明か、振り返ってみるべきである。そもそも軍事力を誇示することは国連決議で想定されていないのではないか。

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