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2016.04.15

パナマ文書が示す中国における信頼の欠如

 パナマ文書による暴露で、中国の習近平主席、英国のキャメロン首相、ロシアのプーチン大統領など世界的指導者が脱税工作に直接的、あるいは間接的に関与したのではないかと議論を呼んでいる。
 中国政府は神経をとがらせ、関連の報道を遮断したり(英ガーディアン紙によれば一昨年ころから何回か起こっている)、記者会見などでは一切ノーコメントで、話題にしないという厳しい反応を示したりしている。
 習近平を擁護する意見も出ている。習近平の義理の兄が以前オフショア法人に関係していたがもう終わっていることだから習近平には問題ないとする擁護論で、ネットに流れている。
 世界的な指導者の問題だから関心が集まるのはごく自然なことだが、中国についてはそれだけで済まない。もっと全体的な、現在の体制にかかわってくる問題があるように思われる。

 パナマ文書を作成したMossack Fonseca法律事務所に対し、パナマに法人設立を依頼した(目的は脱税)全世界の企業・個人のなかで、中国人と香港人(個人と法人を含め。以下単に中国人)が最も多くて16300あり、これは、2015年末の時点で、この事務所に来た依頼全体の約3分の1を占めており、ほかのどの国より断然多い。つまり、中国人は世界のどの国の人よりも多くオフショア法人を利用しているのだ。
 日本はいまのところまだほとんど出ていない。一説によると約400の個人・法人がかかわっているとも言われているが、仮にこの数字だとしても中国の40分の1だ。相対的には、あまりに少ないので物足りない気持ちがしないではないが、世界を股にかけて活躍するのは良いことなら別だが、脱税のためであれば喜べない。

 ともかく、これほど多くの中国人がオフショア法人を作りたがるのはなぜか。
 第1は、脱税が目的だ。
 第2に、中国の法と司法に信頼がないからだ。
 第3に、中国内では資本、カネの保護、移動が制限されており、金持ちには何かと不便だ。だから、特権階級はため込んだカネをオフショアで運用したがる。
 さらに、人民元のレートが低下するに伴い、この傾向が激しくなっている。

 これら3つの理由は相互に関係がある。とくに、第2と第3は密接に関連しあっているが、第2の方が広い。

 このような現象は不正行為を働いている中国人の個人的問題と見るのは皮相的な観察だ。中国には権力とつながり、また、権力によって保護され、利益をむさぼっている人が多数いることが問題だ。党と政府の官僚だけでなく、その親族も特権階級の一部を構成している。一種の社会現象と言えるだろう。
 しかも、彼らは、そのような不正行為がまかり通る状況は長続きしないと思っている。つまり、彼ら自身もよくないことだという認識を多かれ少なかれ抱きつつ、今のうちにできるだけ儲けておこうと考えている。彼らは結局、自分自身たち、自分たちの体制に信頼を持っていないのではないか。
 これはいわゆる「裸官」、すなわち、家族を外国で住まわせ、自分ひとり国内で悪事、あるいはすれすれのことをして蓄財し、発覚しそうになると家族のいる海外へ逃亡しようとする人たちに共通の考えだが、それに限らない。法律に触れないで利益をむさぼる特権階級も同様の考えであり、親族を何とか外国で勉強させ、勤務させ、金儲けさせようとしている。
 大多数の特権を享受できない人たちはこのような特権階級を怨嗟の目で見ている。もちろん信頼していない。つまり、中国では特権階級もそうでない人も現在のあり方に信頼を置いていないのではないか。
 中国人をすべて悪人で片づけるべきでないのはもちろんだ。古来より立派な人もいたし、今でも清廉潔白な人に会う。しかし、それより何倍、何十倍もの比率で不心得な中国人が表れてくる。
 ここに述べたことは推測がかなり混じっているが、少なくとも仮説としてその妥当性を確認していくべきことと思われる。

2016.04.12

(短評)ケリー長官の被爆地訪問の印象

 G7外相会合について昨日もコメントしたが、それは「核軍縮および不拡散に関する広島宣言」、つまり、外相会合での議論の結論についてであった。

 ケリー長官は、原爆資料館や原爆ドームなどを訪問した印象として、「感極まるものだったことを個人レベルで表明したい」「驚異的」で「人間としてのすべての感受性を揺さぶられる衝撃的な展示だった」と語ったと伝えられている。メディアによって報道内容に若干の相違はあるが、感極まったこと、驚いたこと、それに極度に強い衝撃であったことなどの点ではほぼ共通している。
 各国の報道を丹念に調べていく余裕はないが、他の外相も同様だったと思われる。そして、外相たちがこのような経験をしたことが今次会合の最大の成果だ。
 
 もちろん、その衝撃から核兵器の非人道性についての確信へ、さらには廃絶に進んでもらいたいと思う。しかし、そのためには、政治的な問題も絡んでくる。そのレベルになると、各国の考えは一致していない。

 実は、今回の会合で外相たちが体験したことも他の人には共有されていない。外相たちは広島へ来る前から核兵器についての知識を持っていたが、その知識は原体験がないうえで得た知識に過ぎず、核爆発の実相を知っておれば知識もおのずと違ってきたはずだ。
 だから、外相たちが被爆体験を多少なりとも共有したことは大きな前進だったと思う。
 次はもちろん世界の指導者たちによる被爆地訪問だ。
2016.04.11

G7外相広島会議の意義

 主要国G7の外相会議が4月10~11日、広島で開かれた。

 広島で開催されるからにはG7の外相は核の廃絶を誓うべきだという意見が核軍縮の専門家の間にあったが、結局、「核兵器のない世界に向けた環境を醸成するとのコミットメントを再確認する」にとどまった。「核の廃絶を目指すが直ちに実行は困難だ」というのが核保有国の立場である限りやむを得ないことだったと思う。

 一方、今回の会合は核兵器の非人道性について非常に大きな意義があった。このことについては2つの角度から今次外相会合を見ておく必要がある。
 一つは、宣言に「非人道性」という言葉があるかないかであるが、それは宣言に盛り込まれず、「原子爆弾投下によるきわめて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末を経験」と記述されたにとどまった。
 この「原子爆弾投下による非人道的な苦難」は非常によく工夫された表現だと思う。この表現の焦点が人にあると考えれば、これは被爆者の苦難そのものであり、だれも反論できない。
 しかし、非人間的な苦難が核によって加えられたことが明記されているので、核兵器に焦点があると説明することも可能だ。そうすればこれは非人道性のこととなる。
 なぜこのような玉虫色の表現にする必要があったかと言えば、「非人道性」を明記することには一部の国(たぶん仏や米)がのめないからだ。

 もう一つの角度は、広島など被爆地を訪問すること自体が核兵器の非人道性を理解する最良の方法ということだ。今回の外相会議に出席した人たちは間違いなく核兵器の実相について理解を深めたと思う。
 したがって、末尾の段落において外相たちが、「他の人々」も広島および長崎を訪問することを希望したのは非常に重要なメッセージだ。これは当然オバマ米大統領を含め各国首脳に対して向けられている。
 広島宣言の重点は「核兵器の非人道性」という言葉を使うか否かの問題よりも、むしろこの点にあると考える。

 以上二つの角度から見て、今回の宣言を核兵器の非人道性に関して評価する場合には、最初の段落(言葉の問題)だけでなく、最後の段落(実際に体得する)を合わせて評価すべきである。

 おりしも、4月9日付の『ワシントン・ポスト』紙はオバマ大統領の被爆地訪問に肯定的な記事を掲載するなど、その実現の機運は高まりつつある。

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