平和外交研究所

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2016.02.19

米国による南シナ海での国際的連帯の形成

 オバマ大統領が2月15~16日、アセアン諸国の首脳をカリフォルニア州のサニーランズ別荘に迎えて開催した特別サミットで、南シナ海の問題について米国とアセアン諸国が共通の認識を表明したことの意義は大きい。

 3カ月前のクアラルンプールでの米・アセアン首脳会議では、一部の国が中国を刺激することを恐れたため共同声明を発出することができず、議長声明という軽い形式の総括になった。米国はこれが不満で、今回の特別サミットをホストしたのだった。

 共同声明は中国と名指しこそしていないが、中国が南シナ海で東南アジア諸国との対立を省みないで行っている拡張的行動を指していることは明らかだ。

 米国は中国に対抗して国際法順守の国際的連帯を形成しようとしている。中国との関係に強く縛られ参加できない国もあるが、国際的連帯形成の努力はサニーランズで一歩前進したと言えるだろう。

 日本は国際連帯の重要な一員であり、尖閣諸島の関係でも南シナ海の状況を密にフォローする必要がある。
 中国は日本にとって重要な国だが、東シナ海及び南シナ海での中国の拡張的行動に日本が毅然として反対し続けるのは当然だ。今回、米・アセアン諸国の特別サミットが開催されたこと自体、また発表された共同声明は日本にとっても積極的な意義がある。

 フィリピンが提訴していた国際仲裁裁判の決定が近日中に下る予定だ。領有権問題について結論が出るわけではないが、中国のいわゆる「九段線」主張、つまり、南シナ海のほぼ全域を中国の領域だとする主張の妥当性については判断が示される可能性がある。

 東洋経済オンラインに寄稿した「「反中同盟」の呼びかけに加わる国と逃げる国 南シナ海を巡る攻防が緊迫度を増している」を参照願いたい。

2016.02.17

(短評)慰安婦問題に関する日本政府の説明

 2月16日、ジュネーブの女子差別撤廃委員会で日本政府の代表は、慰安婦問題に関し、いわゆる朝日新聞による「吉田清治証言」や「慰安婦20万人」の報道はいずれも誤りであったことを朝日新聞自身が認めたことを説明したと報道されている。
 この説明自体は正しいが、懸念がある。
 1つは、日本政府の代表は「吉田証言は国際社会に大きな影響を与えた」と述べたそうだが、何を根拠にそのようなことを言えるのか。慰安婦問題について国連の要請を受け人権委員会(現在の人権理事会)の特別報告者となっていたクマラスワミ氏は、「個別の点で不正確なところがあっても、全体の趣旨は変わらない。吉田証言があったから報告を作成したのではない」と言っていた。
 当時、日本政府で慰安婦問題にかかわっていた者は、確かめたわけではないが、誰も吉田証言を重視していなかったと思う。
 第2に、朝日新聞の誤報を説明するのは結構だが、全体の説明とのバランスが問題だ。もし、クマラスワミ報告の誤りをついてその信憑性に疑問を呈しようとしたのであれば、そのような方法は誤りだ。国連の人権関係委員会であれ女子差別撤廃委員会であれ、裁判の場ではない。重要なことは日本が慰安婦問題にどのように取り組んでいるかを客観的に説明し理解してもらうことだ。
 ただし、日本政府代表による説明の全体が報道されているわけではないので、全体のバランスは分からない。
 第3に、もし、日本政府が今後も朝日新聞の誤りを国際的な場で説明し続けるならば、各国は、日本が慰安婦問題に真摯に向き合っていないと誤解する恐れがある。今回、求められて説明したことに目くじら立てる必要はないが、慰安婦問題について国連の場で説明を求められることは今後何回もあるだろう。日本政府が重箱の隅をつつくような議論を繰り返すこと国益を損なう恐れがあり、重大な懸念がある。
 第4に、先般の韓国政府との「今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」との合意とも関連がありうる。日本政府が正しいと思っていることを説明しても、韓国政府は違った認識を持っていることがありうる。今回の女子差別撤廃委員会での日本政府代表の説明はこの点で問題とならないか。また、逆に、韓国政府が、将来日本政府と考えの違うことを発言した場合、日本政府はどう対応するのか。日本政府は一貫した姿勢で臨めるか。

2016.02.16

(短評)ミュンヘン安全保障会議での尖閣諸島および北朝鮮・中国・米国関係についての議論

 毎年この季節にドイツのミュンヘンで「安全保障会議」(MSC)という民間主催の国際シンポジウムが開かれる。各国の閣僚級が出席することが多いが首相の場合もある。経済問題が主のスイス・ダボス会議のほうがより有名だが、MSCは安全保障に関する最高の意見交換の場である。かつては欧米とロシアの関係に関心が集まっていたが、最近は中国が注目されており、今年は「中国と国際秩序」について特別セッションが設けられた。中国からは全国人民代表大会(国会に相当する)外事委員会の傅瑩主任委員(元外務次官)が出席した。

 今年のMSC(第52回 2月13~14日)で特に注目されたのは次の3つの議論だ。
 第1は、南シナ海での中国の行動に関し、日本から出席した黄川田外務大臣政務官と傅瑩元外務次官との応酬である。報道では、黄川田政務官が「中国は口では平和を重視すると言いながら、南シナ海では軍事施設を違法に建設するなど、一方的に現状を変更している」との趣旨を述べ、これに対し、傅瑩元外務次官が「日本こそ尖閣諸島を国有化するなど一方的に現状を変更した。尖閣諸島は中国の領土であり、中国が苦境にあるときに盗み取られた」などと黄川田政務官に反撃し、黄川田政務官は「尖閣諸島は日本の固有の領土だ。解決すべき領有権の問題は存在しない。中国側が歴史の修正を試みていると考える」などと反論したと伝えられている。
 第2に、ロシアのメドベージェフ首相がロシアと西側は冷戦時代さながらの対立状況になっていると、シリア問題についての米欧の対応を批判し、これに対しケリー米国務長官が反論した。この議論はMSCとして伝統的な東西対立の議論であった。
 第3に、北朝鮮に対する中国の働きかけについて、コーカー米上院外交委員長は「中国は何の役割も果たしていない」などと中国を厳しく非難したのに対し、傅瑩元外務次官はそれは事実でないと反論した。

 以上3つの議論は、言葉の激しさはともかく、内容的には特に目新しいものではないが、今後のMSCについては注意すべきことがある。
 第1に、中国は今後も大きな話題となるだろう。日本からどのような議論を展開するか予めよく検討しておかなければならない。
 今年の黄川田政務官の発言は事前の準備をうかがわせる面もあったが、今後は、国際司法裁判所での解決を中国は拒否しているが、日本は受けて立つ用意があることを主張すべきだ。これは各国に理解されやすい議論だ。中国が今後も繰り返し主張するであろう「尖閣諸島は日清戦争中に日本が盗取した」との議論は誤りだが、各国からすれば分かりやすい。
 第2に、北朝鮮問題についての傅瑩元外務次官の、「米国は自国の対北朝鮮政策を中国に押し付けている。われわれは米国の役割を演じることはできない。北朝鮮の要求は明らかだ。なぜ米国は北朝鮮に対し、彼らを侵略することはないと言えないのか。米国と北朝鮮が朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換する必要がある。中国は喜んで交渉を手助けする」という趣旨の説明は、分かりやすく、明快に問題の本質を論じている。今後の対北朝鮮政策において米国が考慮すべきことだ。

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