オピニオン
2016.12.05
朴槿恵大統領は11月29日、任期途中で辞任するとともに、その時期は国会の意思にゆだねる意向を表明した。任期途中での辞任表明はもちろん初めてであり、そうせざるをえなくなったのは、連日のデモが収まらず、あまりに多数の国民が退陣を要求するようになったからであり、また、国会の状況も厳しくなり、与党のセヌリ党の中からも朴槿恵大統領と距離を置いている、いわゆる「非朴槿恵」派が野党の求める弾劾案に賛成する可能性が大きくなったからであろう。
しかし、朴槿恵大統領に即時辞任を要求してきた野党3党はあくまで弾劾の手続きを開始し、12月3日弾劾訴追案を国会に提出し、9日に採決することを目指している。これが今週(5日から始まる)初めの状況だ。
朴大統領は弾劾という不名誉なことを何としても避けたかったのだろうが、それだけでなく、あまりにも多数の国民が退陣を求めることに衝撃を受け辞任表明をせざるをえなかったものと思われる。政治の経験は豊かで、これまでさまざまな試練を乗り越えてきた朴大統領だが、国民を見るのに一種の誤算があったのかもしれない。
もちろん、韓国の政情や朴槿恵大統領の思惑などについて本当のことは部外者にはわからない。我々としては韓国民以上に慎重に今後の展開を見守るべきだが、今後の韓国政治は我々にも関係がある。とくに次の諸点が気になる。
第1に、訴追されているチェ・スンシルとの関係など朴大統領に一定の非があったことは大統領自身認めているが、デモに参加している人たちの不満はその問題に限らず、経済状況、格差、教育など多岐にわたっている。大統領としてすべての国政に責任があるのは当然だが、それらの不満は弾劾に値するようなことか。つまり、国民を見ても国会を見ても大統領が支持を失っていることは分かるが、弾劾しなければならない問題であるのかよく分からない。
第2に、特別検察官による調査との関係も問題だ。そもそも調査が必要なのは、事態が、朴大統領の犯した問題を含めて明確になっていないからだ。しかしながら、そのような状況であるにもかかわらず、大統領に対して辞任を要求し、弾劾もするとはどういうことか。調査の結果、もし朴大統領の責任は軽微であることが判明したならば、弾劾などすべきでなかったということになるのではないか。つまり、弾劾の断行と特別調査は矛盾しているのではないか。今回の辞任表明でこの矛盾は一層深まった気がする。
また、チェ・スンシルなどの裁判はこれから始まり、そのなかでいくつかのことが明確にされるだろう。そのことと大統領辞任の間にも一種ちぐはぐな状況がある。
第3に、外交面においても類似の状況が発生する恐れがある。つまり、韓国民が政府の外交施策に猛烈に反対するデモを起こした場合、その理由が明確でなくても韓国政府はデモの要求に応じるのか。たとえば、野党は慰安婦問題に関する日韓の合意に反対し、再交渉を求める考えであることを表明しており、もし政権を握った場合、現実の問題となる恐れがある。
第4に、韓国には東アジアの平和と安定にとって重要な役割があるが、韓国自身が不安定化すれば地域全体にも負の影響が及ぶのではないか。さしあたっては北朝鮮との関係でも影響がありうる。
(短評)朴槿恵大統領の辞任表明
朴槿恵大統領は11月29日、任期途中で辞任するとともに、その時期は国会の意思にゆだねる意向を表明した。任期途中での辞任表明はもちろん初めてであり、そうせざるをえなくなったのは、連日のデモが収まらず、あまりに多数の国民が退陣を要求するようになったからであり、また、国会の状況も厳しくなり、与党のセヌリ党の中からも朴槿恵大統領と距離を置いている、いわゆる「非朴槿恵」派が野党の求める弾劾案に賛成する可能性が大きくなったからであろう。
しかし、朴槿恵大統領に即時辞任を要求してきた野党3党はあくまで弾劾の手続きを開始し、12月3日弾劾訴追案を国会に提出し、9日に採決することを目指している。これが今週(5日から始まる)初めの状況だ。
朴大統領は弾劾という不名誉なことを何としても避けたかったのだろうが、それだけでなく、あまりにも多数の国民が退陣を求めることに衝撃を受け辞任表明をせざるをえなかったものと思われる。政治の経験は豊かで、これまでさまざまな試練を乗り越えてきた朴大統領だが、国民を見るのに一種の誤算があったのかもしれない。
もちろん、韓国の政情や朴槿恵大統領の思惑などについて本当のことは部外者にはわからない。我々としては韓国民以上に慎重に今後の展開を見守るべきだが、今後の韓国政治は我々にも関係がある。とくに次の諸点が気になる。
第1に、訴追されているチェ・スンシルとの関係など朴大統領に一定の非があったことは大統領自身認めているが、デモに参加している人たちの不満はその問題に限らず、経済状況、格差、教育など多岐にわたっている。大統領としてすべての国政に責任があるのは当然だが、それらの不満は弾劾に値するようなことか。つまり、国民を見ても国会を見ても大統領が支持を失っていることは分かるが、弾劾しなければならない問題であるのかよく分からない。
第2に、特別検察官による調査との関係も問題だ。そもそも調査が必要なのは、事態が、朴大統領の犯した問題を含めて明確になっていないからだ。しかしながら、そのような状況であるにもかかわらず、大統領に対して辞任を要求し、弾劾もするとはどういうことか。調査の結果、もし朴大統領の責任は軽微であることが判明したならば、弾劾などすべきでなかったということになるのではないか。つまり、弾劾の断行と特別調査は矛盾しているのではないか。今回の辞任表明でこの矛盾は一層深まった気がする。
また、チェ・スンシルなどの裁判はこれから始まり、そのなかでいくつかのことが明確にされるだろう。そのことと大統領辞任の間にも一種ちぐはぐな状況がある。
第3に、外交面においても類似の状況が発生する恐れがある。つまり、韓国民が政府の外交施策に猛烈に反対するデモを起こした場合、その理由が明確でなくても韓国政府はデモの要求に応じるのか。たとえば、野党は慰安婦問題に関する日韓の合意に反対し、再交渉を求める考えであることを表明しており、もし政権を握った場合、現実の問題となる恐れがある。
第4に、韓国には東アジアの平和と安定にとって重要な役割があるが、韓国自身が不安定化すれば地域全体にも負の影響が及ぶのではないか。さしあたっては北朝鮮との関係でも影響がありうる。
2016.11.23
第1に、朴槿恵大統領は検察の聴取に応じると明言していたが、検察当局が11月20日、チェ・スンシル氏と2人の前大統領秘書官の起訴を発表した際、朴大統領について一定程度共謀関係にあったと説明したことに反発して、今後は検察当局に協力しないと大統領の弁護士が表明した。
最大の疑問は、検察がなぜ、朴槿恵大統領から直接話も聞かないで共謀関係を認定したかだ。大統領側が引き延ばしたと検察側はみなした可能性はある。引き延ばしたのが事実か、それとも理由があったか、それは我々にはわからない。しかし、引き延ばしたとしても数カ月も待たせたのではなく、せいぜい数日、あるいは1~2週間のことでないか。それなのに、検察がそのような発表をすることが許されるか。日本ではちょっと考えられないことだ。
携帯電話に残された通信などから検察は判断したそうだが、それにしても大統領の話を聞かないで共謀したと公表するのは解せない。
第2に、特別検察官の任命の手続きが進んでおり、これには朴大統領は協力するとあらためて表明している。特別検察官は野党が選んだ2人の候補から1人を大統領が任命する。野党の意見が色濃く反映されるのは当然だが、それでも大統領側は協力するとしているのだ。この特別検察官の調査を待たなければ、大統領の関与は明確にならないのではないか。
特別検察官による取り調べは、大統領側の延命策だと見る見方もあるようだ。そうかもしれないが、野党がそれに応じたことを見ると、そうでないかもしれないと思う。
また、野党は一部の与党議員とともに弾劾手続きを進めることにしたが、野党が認める特別検察官による調査が始まってもいないのに、どうして弾劾できるのかも腑に落ちない。
チェ・スンシルらの公判は近日中に始まるそうだ。公判では、関係の諸事実が明らかにされるだろう。そのなかで朴大統領の関与の可能性も審理されるだろう。それも待たないで、退陣だ、弾劾だ、ということには強い違和感を覚える。
第3に、国政の混乱を朴大統領も国民もどのように考えているのか。国民は朴大統領が退陣しないと韓国の政治はよくならないとみなしているのだろうが、朴大統領はどのように考えているのか。退陣しないことにかんがみれば、退陣するとかえって混乱が増す、あるいは新たな混乱が生じることを恐れているとも考えられる。
もっとも、大統領も国民も混乱は避けたいと言うだろうからこの3つ目の疑問は事の性質上なかなかはっきりしないかもしれない。それにしても、退陣するのとしないのではどちらが混乱が大きくなるかは、韓国の情勢に関心を持つ誰もが考える必要がある。
(短評)韓国の政情についての疑問
韓国は多数の国民が朴槿恵大統領の退陣を求めるという危機的状況にあるが、同大統領がはたして退陣するか。いくつか疑問点がある。第1に、朴槿恵大統領は検察の聴取に応じると明言していたが、検察当局が11月20日、チェ・スンシル氏と2人の前大統領秘書官の起訴を発表した際、朴大統領について一定程度共謀関係にあったと説明したことに反発して、今後は検察当局に協力しないと大統領の弁護士が表明した。
最大の疑問は、検察がなぜ、朴槿恵大統領から直接話も聞かないで共謀関係を認定したかだ。大統領側が引き延ばしたと検察側はみなした可能性はある。引き延ばしたのが事実か、それとも理由があったか、それは我々にはわからない。しかし、引き延ばしたとしても数カ月も待たせたのではなく、せいぜい数日、あるいは1~2週間のことでないか。それなのに、検察がそのような発表をすることが許されるか。日本ではちょっと考えられないことだ。
携帯電話に残された通信などから検察は判断したそうだが、それにしても大統領の話を聞かないで共謀したと公表するのは解せない。
第2に、特別検察官の任命の手続きが進んでおり、これには朴大統領は協力するとあらためて表明している。特別検察官は野党が選んだ2人の候補から1人を大統領が任命する。野党の意見が色濃く反映されるのは当然だが、それでも大統領側は協力するとしているのだ。この特別検察官の調査を待たなければ、大統領の関与は明確にならないのではないか。
特別検察官による取り調べは、大統領側の延命策だと見る見方もあるようだ。そうかもしれないが、野党がそれに応じたことを見ると、そうでないかもしれないと思う。
また、野党は一部の与党議員とともに弾劾手続きを進めることにしたが、野党が認める特別検察官による調査が始まってもいないのに、どうして弾劾できるのかも腑に落ちない。
チェ・スンシルらの公判は近日中に始まるそうだ。公判では、関係の諸事実が明らかにされるだろう。そのなかで朴大統領の関与の可能性も審理されるだろう。それも待たないで、退陣だ、弾劾だ、ということには強い違和感を覚える。
第3に、国政の混乱を朴大統領も国民もどのように考えているのか。国民は朴大統領が退陣しないと韓国の政治はよくならないとみなしているのだろうが、朴大統領はどのように考えているのか。退陣しないことにかんがみれば、退陣するとかえって混乱が増す、あるいは新たな混乱が生じることを恐れているとも考えられる。
もっとも、大統領も国民も混乱は避けたいと言うだろうからこの3つ目の疑問は事の性質上なかなかはっきりしないかもしれない。それにしても、退陣するのとしないのではどちらが混乱が大きくなるかは、韓国の情勢に関心を持つ誰もが考える必要がある。
2016.11.14
朴槿恵大統領の犯した過ちは何か。朴大統領は10月25日発表した談話で、友人のチェ・ソンシル氏を信頼して公務についてもアドバイスを受けたことを認め、「就任後、一定期間、一部の資料について意見を聞いたことはあるが、青瓦台及び補佐体系が完備されてからはやめた」と語った。
韓国で問題になっているのはこれだけでない。「チェ・ソンシル氏は秘書官を大統領府に送り込み、彼らはほかの人が朴大統領に接近するのを困難にした。機密の文書がチェ・ソンシル氏に渡された。文化とスポーツに関する財団を作り、それに企業が拠出するよう圧力をかけた。チェ氏の娘の大学入学や馬術競技のためにサムスン電子にカネを出すよう働きかけた。「コリア体操」が採用されることに決まっていたのを「ヌルプム体操」に変更させた。朴大統領は人形のように操られている」などとも報道されている。文書のコピーや朴大統領が体操をしている映像もついている。セウォル号が沈没した際に大統領の所在が数時間不明であったことなどもあらためて蒸し返されている。
しかし、朴大統領がこれらについて実際指示、要請あるいは圧力をかけたかどうかは明確でない。他の人が言っていることは、朴大統領に関する限り「疑惑」に過ぎないようだ。
今回のデモは2008年の牛肉輸入の再開に対する抗議デモと比較されるが、その時、デモの対象は「牛肉の輸入再開」というのは明確な事実であった。しかし、今回、デモの対象である朴大統領の責任は明確になっていない。よく調査した結果、退陣を迫られるほどのことでないということになるかもしれない。
つまり、大統領の責任がはっきりしないのに最大126万ともいわれる数の人が、デモに参加していることに違和感を覚えるのだ。
実際にデモに参加している人たちが言っていることを聞くと、経済状況、財閥の支配、教育などへの不満が混じっている一方、朴槿恵大統領の犯した過ちについての指摘はあまりにも抽象的だと思う。
野党もこぞって朴槿恵大統領の退陣を要求しているが、政治的な駆け引きの感じがある。
韓国は日本にとって重要な国だ。だから本当の姿を知りたい。今回の朴大統領の退陣要求について、根拠があるか、ないか。韓国の特徴が出ていないか。あれこれ考えたのもそのためだ。
朴大統領自身はどのように受け止め、また、どのように乗り切ろうとしているのか。朴大統領は事件が明るみに出て以来、韓国民が知りたいと思うことにすべて答えているわけではないが、過ちを起こしたことは率直に認め、検察の調査にも応じると言った。対応は速く、丁寧であった。低姿勢の印象もあった。
朴大統領は首相の人事についても野党の要求に応じる姿勢であり、与野党が一致する人物であれば受け入れる、権限も広く認めると言っている。これに対し野党は、大統領から移譲される権限の範囲が明確でないという理由で首を縦に振っていないが、全体的に朴大統領はかなり譲歩しているのではないか。
大統領自身は退陣するのか、これだけ国民の支持を失えば政権の維持は困難だとする声もよく聞くが、はたしてそうか。大統領の責任が明確になっていない以上辞職しないで何らかの妥協策を見出すべく頑張るのが筋だと思うが、いずれにしても今回の事件が終息するにはまだ時間が必要なようだ。
(短評)朴槿恵大統領に対する退陣要求
11月12日、ソウル市で朴槿恵大統領の退陣を要求する大規模なデモが起こった。主催者側は100万人が参加したと言い、警察側の発表は26万人だったが、その後ソウル市は126万人と発表した。警察とソウル市の発表数字が大きく異なるのは不可解だが、それはさておくこととしよう。朴槿恵大統領の犯した過ちは何か。朴大統領は10月25日発表した談話で、友人のチェ・ソンシル氏を信頼して公務についてもアドバイスを受けたことを認め、「就任後、一定期間、一部の資料について意見を聞いたことはあるが、青瓦台及び補佐体系が完備されてからはやめた」と語った。
韓国で問題になっているのはこれだけでない。「チェ・ソンシル氏は秘書官を大統領府に送り込み、彼らはほかの人が朴大統領に接近するのを困難にした。機密の文書がチェ・ソンシル氏に渡された。文化とスポーツに関する財団を作り、それに企業が拠出するよう圧力をかけた。チェ氏の娘の大学入学や馬術競技のためにサムスン電子にカネを出すよう働きかけた。「コリア体操」が採用されることに決まっていたのを「ヌルプム体操」に変更させた。朴大統領は人形のように操られている」などとも報道されている。文書のコピーや朴大統領が体操をしている映像もついている。セウォル号が沈没した際に大統領の所在が数時間不明であったことなどもあらためて蒸し返されている。
しかし、朴大統領がこれらについて実際指示、要請あるいは圧力をかけたかどうかは明確でない。他の人が言っていることは、朴大統領に関する限り「疑惑」に過ぎないようだ。
今回のデモは2008年の牛肉輸入の再開に対する抗議デモと比較されるが、その時、デモの対象は「牛肉の輸入再開」というのは明確な事実であった。しかし、今回、デモの対象である朴大統領の責任は明確になっていない。よく調査した結果、退陣を迫られるほどのことでないということになるかもしれない。
つまり、大統領の責任がはっきりしないのに最大126万ともいわれる数の人が、デモに参加していることに違和感を覚えるのだ。
実際にデモに参加している人たちが言っていることを聞くと、経済状況、財閥の支配、教育などへの不満が混じっている一方、朴槿恵大統領の犯した過ちについての指摘はあまりにも抽象的だと思う。
野党もこぞって朴槿恵大統領の退陣を要求しているが、政治的な駆け引きの感じがある。
韓国は日本にとって重要な国だ。だから本当の姿を知りたい。今回の朴大統領の退陣要求について、根拠があるか、ないか。韓国の特徴が出ていないか。あれこれ考えたのもそのためだ。
朴大統領自身はどのように受け止め、また、どのように乗り切ろうとしているのか。朴大統領は事件が明るみに出て以来、韓国民が知りたいと思うことにすべて答えているわけではないが、過ちを起こしたことは率直に認め、検察の調査にも応じると言った。対応は速く、丁寧であった。低姿勢の印象もあった。
朴大統領は首相の人事についても野党の要求に応じる姿勢であり、与野党が一致する人物であれば受け入れる、権限も広く認めると言っている。これに対し野党は、大統領から移譲される権限の範囲が明確でないという理由で首を縦に振っていないが、全体的に朴大統領はかなり譲歩しているのではないか。
大統領自身は退陣するのか、これだけ国民の支持を失えば政権の維持は困難だとする声もよく聞くが、はたしてそうか。大統領の責任が明確になっていない以上辞職しないで何らかの妥協策を見出すべく頑張るのが筋だと思うが、いずれにしても今回の事件が終息するにはまだ時間が必要なようだ。
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